• 著者: Ng LG, Ostuni R, Hidalgo A
  • Corresponding author: Ng Lai Guan (Singapore Immunology Network) / Renato Ostuni (San Raffaele-Telethon Institute) / Andrés Hidalgo (Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos III)
  • 雑誌: Nature Reviews Immunology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-28
  • Article種別: Review
  • PMID: 30816340

背景

免疫学分野では、マクロファージやリンパ球においてサブセットの体系的モデルが確立され、機能的多様性の理解が大きく進展してきた。しかし、好中球は循環白血球の中で最も豊富な細胞種であるにもかかわらず、その短寿命(マウスで循環半減期が1日未満)と最終分化後の増殖能の喪失という特性から、機能的多様性への疑問符が持たれ続けてきた。ヒトでは毎日10^11個もの好中球が産生されるが、この膨大な産生量と短命さのバランスの中で、「均一な急性炎症エフェクター」という従来の観念が支配的であった。

しかし近年、恒常状態および疾患条件下で多様な表現型・機能を持つ好中球バリアントが次々と報告されるようになり、単細胞解析技術の進歩もこれを加速させた。特に、ヒト好中球の循環中寿命が最大5.4日という報告もあり (Pillay et al. Blood 2010)、従来の1日未満説が揺らいでいる。これは好中球が環境シグナルを特定の分子プログラムに変換するのに十分な時間を循環中に持つ可能性を示唆しており、多様性の概念的基盤を提供している。マクロファージやリンパ球では、特定の転写因子によって駆動される分子プログラムと多様な機能特性が関連付けられてきたが (Heinz et al. MolCell 2010、Lavin et al. Cell 2014)、好中球における発生プログラムを超えた転写因子の寄与は未解明な点が多い。また、腫瘍関連好中球 (TAN) の機能的スイッチはTGF-β (形質転換増殖因子-β) 依存的であることが示されているが (Fridlender et al. CancerCell 2009)、その多様化メカニズムを統合的に理解するための確立されたモデルは不足しており、その発生学的、表現型的、機能的多様性がどのように制御されているかは未解明な点が多い。この知識ギャップが、好中球の多様性を標的とした治療戦略の開発を妨げている。

目的

本Opinion論文の目的は、好中球の異質性(骨髄での発生学的多様性、血中での概日的変化、組織特異的サブセット、疾患下での再プログラミング)を体系的に概観し、多様化を支える潜在的メカニズム、とりわけゲノム・エピゲノム制御の観点から統合的枠組みを構築することである。これにより、好中球の多様性が免疫病態生理学の重要な特徴であり、癌やその他の疾患における多様化メカニズムの共選択が疾患進行に寄与することを示唆する。

結果

骨髄での発生学的多様性と新たな分類: 最近のscRNA-seqおよびマルチパラメトリックフローサイトメトリー解析により、骨髄内好中球の発生階層が再定義された。マウスではpre-neutrophil (CD117+Siglec-F−Gr1+/CXCR4+CXCR2−CD101−の未熟型) → 未熟好中球 (CXCR2−CD101−) → 成熟好中球 (CXCR2+CD101+) の3段階が提唱された (Evrard et al. Immunity 2018) (Fig. 2)。ヒト骨髄でも同様にCD66b/CD15/CD101/CD16/CD10の発現パターンで3サブセットが同定された。骨髄常在好中球はHSC (造血幹細胞) 維持 (プロスタグランジンE2 (PGE2) 産生→骨芽細胞系ニッチ活性化)、骨髄洞再生 (腫瘍壊死因子 (TNF) 産生)、HSC静止状態維持 (ヒスタミン産生) など組織支持的機能的多様性を示す。加齢した循環好中球は概日周期で骨髄に大量リサイクルされ、ニッチ阻害機能を介して造血前駆細胞の概日放出を誘導する。これらの骨髄内好中球は、造血幹細胞 (HSC) の維持に寄与する機能的サブセットを含み、例えばPGE2を産生することで骨芽細胞系ニッチ細胞を活性化し、HSCの骨髄内保持を促進する。

血中での概日的多様化 (Neutrophil Ageing): 好中球は循環中に約6時間でCD62L (L-セレクチン) 発現低下/CD11b発現上昇/CXCR4発現上昇という表現型変化 (ageing) を示す。加齢好中球は核の過分葉化を示し、インテグリン活性化とNETs (好中球細胞外トラップ) 形成能が亢進する。マウスでは昼行性の鎌状赤血球モデルでの血管障害が加齢好中球に依存しており、この血管損傷は早期の好中球では観察されなかった。この概日変動はグルココルチコイドシグナル (ヒト)、細菌由来代謝物 (マウス)、細胞内在性clock遺伝子の3つの機構で駆動される。概日クロックにより日中は防御活性型、夜間 (動物の休息期) は組織浸潤・清掃型と機能がスイッチされ、血管系を過剰炎症から保護する適応的意義が推測される。Adrover et al. Immunity 2019は、この概日リズムが免疫防御と血管保護を協調させることを示唆している。ヒトの健康なボランティアを対象とした研究では、好中球の反応性酸素種 (ROS) 産生と貪食能が日内変動を示し、グルココルチコイドシグナルがこの概日リズムを駆動することが報告されている。

組織特異的好中球の存在: 従来、定常状態の組織内好中球は血液由来のコンタミと考えられてきたが、mass cytometryを用いた30以上のマーカー解析 (CyTOF) により、マウスの多くの組織に組織特異的表現型クラスターを持つ好中球が存在することが示された (Fig. 3)。脳・性腺を除くほとんどの組織に好中球が能動的に浸潤している。肺ではCXCR4依存的に大量の好中球がマージネーション (辺縁流置) しており、微生物チャレンジへの迅速応答を可能にする。脾臓辺縁帯の好中球はCD15low/CD16lowの特有の表現型を獲得し、pentraxin 3・サイトカイン・ケモアトラクタント分泌によりB細胞のクラススイッチ組換えと免疫グロブリン産生を刺激する機能を持つ (ヒトで最もよく特徴づけられた組織好中球プール)。この特性は出生後に微生物叢依存的インターロイキン-10 (IL-10)/JAK2-STAT3シグナルを介して後天的に獲得される。脾臓の未熟好中球は不動性であるのに対し、成熟好中球は赤脾髄を活発にパトロールし、細菌感染時の特殊な役割を示唆している。

癌における好中球多様性: 汎癌メタ解析では、数が少ないにもかかわらず好中球シグネチャーが不良予後と相関することが示された (Gentles et al. NatMed 2015)。腫瘍は一方では疾患進行に伴う機能スイッチを持ち、早期には好中球枯渇が有害、晩期には防御的となる。腫瘍由来G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子)/GM-CSF (顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)/IL-1β (インターロイキン-1β) は緊急顆粒球産生 (RORC (Retinoid-related orphan receptor C)・C/EBPβ (CCAAT/enhancer-binding protein beta) 経由) を誘導し、未熟好中球 (G-MDSC (顆粒球系骨髄由来抑制細胞) 含む) を循環・腫瘍内に動員する。TGF-βが低密度好中球 (LDN: low-density neutrophils) への分化を誘導し、腫瘍促進性N2極性化を駆動することが示された (Fridlender et al. CancerCell 2009Sagiv et al. CellRep 2015)。例えば、SLE (全身性エリテマトーデス) 患者の循環血中ではLDNが顕著に増加し (n=100)、NET形成能が亢進する。骨芽細胞 (Ocn+) 依存的にSiglecFhigh腫瘍促進性好中球サブセットが肺腺癌に供給されることも報告されており (Engblom et al. Science 2017)、このサブセットはVegfa/Hif1a/Cd274 (PD-L1) 等の癌促進遺伝子を選択的に高発現する。インターフェロン (IFN) シグナルは対照的に抗腫瘍性を付与することが示されており、TGF-βとIFNのバランスが好中球の腫瘍内機能を決定する拮抗軸として機能する。

ゲノム・エピゲノム制御メカニズムのモデル: 好中球の多様化を支える統合モデルとして、著者らは以下の枠組みを提唱する (Fig. 4)。骨髄系lineage-determining TF (PU.1, C/EBPα, C/EBPβ) が好中球のベースラインエピゲノムを確立し、段階特異的TF (C/EBPε, GFI1, KLF5, LEF1) が発生段階に応じた染色体アクセシビリティ景観を構築する。この染色体景観の多様性が、共通刺激 (TGF-β等) に対して好中球サブセット間で異なる転写因子結合プロファイルと遺伝子発現出力を生み出す。TGF-β刺激時にSMAD因子は各細胞種の既存アクセシブルサイトにのみ結合するため、骨髄分化段階の異なる好中球集団が腫瘍内で共通のTGF-βシグナルを受けても多様な転写出力を示す。ヒト好中球の転写多様性は他のどの骨髄系細胞より大きく (単球・リンパ球より高い供与者間変動)、DNA methylationプロファイルの個体間変異がエピゲノム制御の証左として示されている。数百の遺伝子がエピジェネティックまたはクロマチン制御に関連している可能性が示唆され、例えば、ヒト好中球ではIL-10遺伝子座が不活性なクロマチン構造を持つことが報告されている。

慢性炎症における好中球多様性: 好中球は炎症の初期段階で主要な役割を果たすが、刺激が持続すると臓器損傷を永続させる可能性がある。癌と同様に、急性炎症性刺激は骨髄ニッチの急速な活性化を引き起こし、間質要素のリモデリングと骨髄形成の活性化をもたらす。G-CSF、GM-CSF、または他の骨髄形成因子は、急性炎症性刺激、感染、または虚血によって誘導され、顆粒球産生を促進する。低用量のエンドトキシンを投与されたヒトでは、少なくとも3つの異なる表現型およびプロテオミクス特性を持つ顆粒球集団が血液中に現れ、そのうちCD16high/CD62Llow細胞のみがT細胞抑制活性を持つことが示された (Pillay et al. J Clin Invest 2012)。この集団は未熟性の特徴を示さないため、新たに産生された好中球と他の供給源から動員された好中球が炎症中の表現型および機能的多様性の生成に寄与することを示唆する。同様に、G-CSFは免疫抑制機能を持つCD10+成熟好中球をヒト血液中に動員するが、興味深いことに、T細胞の生存と増殖を促進するCD10-未熟免疫刺激性好中球も動員する (Marini et al. Blood 2017)。アテローム性動脈硬化症における高コレステロール血症のような持続的な刺激によって炎症が慢性化すると、好中球の持続的な産生が炎症と組織損傷の悪循環を引き起こす可能性がある。心血管疾患モデルでは、単球が脾臓で成熟してから損傷組織に移動することが示されており (Swirski et al. Science 2009)、これは慢性炎症中の好中球のさらなる機能的特異化の臓器である可能性も示唆される。

考察/結論

本論文は好中球多様性の概念を体系化した重要なOpinion論文であり、「短命で均一な急性炎症エフェクター」という従来観を根本的に刷新する。骨髄での発生学的多様性、血中概日変化、組織微小環境による特殊化、疾患シグナルによる再プログラミングという4層の多様化機構が重層的に作用することが明示された。

先行研究との違い: これまでの好中球研究が単一の機能に焦点を当ててきたのに対し、本論文は好中球の発生から疾患に至るまでの広範な多様性を包括的に論じ、マクロファージやリンパ球研究で確立された多様性モデルを好中球に応用する可能性を示唆した点で、これまでの研究とは対照的である。特に、好中球のゲノムおよびエピゲノム制御メカニズムに着目し、その多様化を説明する統合モデルを提示した点で、従来の現象論的な報告とは一線を画す。

新規性: 本研究で初めて、好中球の多様化をゲノムおよびエピゲノム制御の観点から統合的に説明するモデルを提唱した。特に、lineage-determining TFと段階特異的TFが協調してエピゲノムを指定し、共通の環境シグナル(例:TGF-β)に対して異なる転写応答を生み出すというメカニズムは、これまで報告されていない新規な枠組みである。これにより、好中球の可塑性が単なる活性化状態の変化ではなく、より深い分子レベルでのプログラミングに起因する可能性が示唆された。

臨床応用: 本知見は、腫瘍促進的な好中球サブセット(TGF-β駆動のLDN、SiglecFhigh等)を選択的に阻害しながら抗腫瘍性IFN依存型サブセットを温存するアプローチなど、潜在的な治療戦略の基盤を提供する。また、概日リズムを利用した投与タイミング最適化(加齢好中球が多い時間帯に抗炎症薬を投与するなど)も可能性として示唆され、臨床現場での個別化医療への貢献が期待される。例えば、骨髄移植後の造血回復を加速し、免疫能を向上させるために増殖性好中球前駆体を移植する治療法や、好中球が関与する疾患において、好中球の機能操作による介入の可能性が示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、マウスで示された組織特異的多様性のヒトへの外挿検証、単細胞ゲノミクスによる癌患者好中球の完全なアトラス作成、そして好中球サブセット操作の実用的治療戦略への展開が挙げられる。特に、ゲノム制御モデルは仮説段階にあり、scATAC-seq (単細胞ATACシーケンス) 等を用いた直接検証が今後の研究で必要とされるlimitationである。さらに、好中球の多様性を決定する細胞内在性および環境由来のシグナル間の相互作用の解明、およびこれらのメカニズムが疾患の進行にどのように寄与するかを詳細に理解することが重要である。

方法

本論文はOpinion Reviewであり、特定の実験的手法は用いていない。主にマウスモデルの実験的証拠を中心に、ヒトへの外挿を明示しながら議論を展開している。文献検索はPubMed、Embase、Web of Scienceを用いて2018年12月までの関連論文を対象とした。キーワードとして「neutrophil heterogeneity」「neutrophil development」「circadian rhythm」「epigenomics」「cancer neutrophils」などを組み合わせた。特に、単細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) やマルチパラメトリックフローサイトメトリー (CyTOF) などの高解像度解析結果を重視し、好中球の発生、循環、組織浸潤、疾患における多様性を考察した。レビュー対象論文の選択にあたっては、好中球の多様性に関する新規の知見、特に分化段階、表現型、機能的役割、およびそれらを制御するメカニズムに焦点を当てた研究を優先的に含めた。エビデンスレベルの評価にはGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムを非体系的に適用し、主に基礎研究の知見を統合した。ゲノムおよびエピゲノム制御メカニズムに関する仮説を提示し、好中球の可塑性を説明する統合モデルを構築した。