• 著者: Meiling Su, Chaofei Chen, Shaoying Li, Musheng Li, Zhi Zeng, Yuan Zhang, Luoxing Xia, Xiuli Li, Dezhong Zheng, Qiqi Lin, Xuejiao Fan, Ying Wen, Yingying Liu, Feiyan Chen, Wei Luo, Yun Bu, Jinhong Qin, Manli Guo, Miaoyun Qiu, Lei Sun, Renjing Liu, Ping Wang, John Hwa, Wai Ho Tang
  • Corresponding author: Wai Ho Tang (Guangzhou Women and Children’s Medical Center, Guangzhou Medical University, Guangzhou, China; tangwh@gwcmc.org)
  • 雑誌: Nature Cardiovascular Research
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-08-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35967457

背景

敗血症は、世界中の小児における罹患率、死亡率、および医療資源利用の主要な原因であり、感染に対する宿主の調節不全な炎症反応を特徴とする。その発生率は年齢によって大きく異なり、幼児期にピークを迎えることが報告されている。敗血症の経過中における炎症関連血小板障害の発症は、病態の重症度増加と密接に関連し、高い死亡率につながる極めて重要なイベントとして認識されている。血小板は敗血症の病態生理に関与する主要な炎症細胞として浮上しているが、重症敗血症の急速な悪化におけるその具体的な寄与は明確に定義されていなかった。

パイロプトーシスは、炎症または感染によって誘発されるプログラム細胞死の一形態であり、生体防御および免疫応答に不可欠である。血小板は、NOD様受容体含有ドメインピリン3 (NLRP3) インフラマソーム、アダプターアポトーシス関連スペック様タンパク質 (ASC)、カスパーゼ1、インターロイキン-1β (IL-1β) など、パイロプトーシスに必要なシグナル構成要素を有している。パイロプトーシス中、NLRP3インフラマソームの活性化は、GSDMD (Gasdermin D) 孔形成、細胞膨潤、および炎症性サイトカインや細胞質内容物のバースト放出を引き起こす。近年、活性酸素種 (ROS) およびミトコンドリアDNA (mtDNA) の供給源であるミトコンドリアが炎症反応に関与していることが示唆されている。酸化mtDNA (ox-mtDNA) は強力な炎症誘発性分子であり、自己免疫疾患における多形核好中球 (PMN) のNET (Neutrophil extracellular traps) 形成に関与することが知られている。NETは自然免疫における両刃の剣として機能し、細菌感染に対する防御に役立つ一方で、炎症反応を過剰に増幅する。しかし、敗血症において血小板パイロプトーシスが実際に発生するという直接的な証拠はこれまで報告されておらず、もし存在する場合、それが好中球のNET形成および重症敗血症における免疫宿主応答にどのように関与するかは未解明であった。この領域には知識のギャップが残されており、血小板のパイロプトーシスが敗血症の病態にどのように関与するのかという点が不足していた。

先行研究である Fuchs et al. JCellBiol 2007 では、好中球がNETを形成する新規の細胞死プログラムが示され、さらに Vogl et al. (2007) は、S100A8/A9 (カルプロテクチン) タンパク質が、炎症部位で好中球やNETから大量に放出されることを報告している。S100A8/A9ヘテロダイマーは、ストレスまたは細胞/組織損傷時に骨髄系細胞から急速に放出されるアラミン損傷関連分子パターンであり、炎症の二次増幅因子として機能する。また、Clark et al. (2007) は血小板のTLR4 (Toll-like receptor 4) が好中球のNET形成を誘導することを明らかにした。しかし、敗血症中の炎症発症におけるS100A8/A9と血小板の間の相互作用は未解明であり、重症敗血症の急速な増悪における血小板パイロプトーシスの直接的な寄与を示す知見は不足していた。本研究は、GSDMDを介した血小板パイロプトーシスがNET形成を介した敗血症悪化の未開拓なドライバーであるという仮説を検証した。

目的

本研究の目的は、重症敗血症におけるGSDMD依存性血小板パイロプトーシスの役割と、それがNET形成および炎症を増悪させるメカニズムを解明することである。具体的には、以下の点を検証した。

  1. 小児敗血症患者コホート (n=93) における血小板のGSDMDおよびカスパーゼ1発現レベルと重症度との相関を評価し、パイロプトーシスが敗血症血小板死の主要な様式であることを確認する。
  2. 血小板特異的Gsdmd欠損 (Gsdmd fl/fl PF4-Cre) マウスを用いて、GSDMD依存性血小板パイロプトーシスが敗血症の生存率、臓器障害、およびNET形成に与える因果的役割をin vivoで評価する。
  3. S100A8/A9-TLR4-NLRP3-カスパーゼ1-GSDMDシグナルカスケードの分子メカニズムをin vitroおよびin vivoで詳細に解析する。
  4. パイロプトーシスを起こした血小板から放出される酸化ミトコンドリアDNA (ox-mtDNA) が好中球のNET形成を誘導するメカニズムを解明する。
  5. NETがS100A8/A9を放出し、血小板パイロプトーシスをさらに加速させるという正のフィードバックループの存在を確立する。
  6. S100A8/A9阻害剤であるPaquinimodが、CLP (Cecal Ligation and Puncture) 誘発敗血症マウスモデルにおいて血小板パイロプトーシス、NET形成、炎症を抑制し、生存率を改善する治療効果を検証する。

これらの目的を達成することで、重症敗血症における血小板パイロプトーシスとNET形成の間の新たな病態生理学的パラダイムを確立し、S100A8/A9-TLR4経路を標的とした治療戦略の可能性を探ることを目指した。

結果

小児敗血症コホートにおける血小板GSDMDの上方制御: 小児敗血症患者コホート解析 (n=93 patients) において、重症敗血症および敗血症性ショックの小児患者は、末梢血管、脳血管、肺、肝臓、腎臓、心臓などの合併症の発生率が高く、入院時死亡率はそれぞれ14%および50%であった。これらの患者では、IL-1β、TNFα、IL-6などの炎症性サイトカインの血漿レベルが健常対照群と比較して有意に増加していた (Fig 1b)。血小板プロテオミクス解析 (DIA-MS) の結果、重症敗血症患者の血小板では3,892個のタンパク質が同定され、185個の差次的に発現するタンパク質のうち160個が有意に上方制御されていた (Fig 1e)。特に、パイロプトーシス関連タンパク質であるGSDMDの発現が有意に増加していた (p=0.007)。フローサイトメトリー解析により、敗血症性血小板の51.2%がカスパーゼ1活性化陽性 (パイロプトーシス) であり、アポトーシス指標であるカスパーゼ3/7陽性の30.5%を大きく上回ることが示され、パイロプトーシスが重症敗血症における血小板死の主要な形態であることが患者検体で直接的に検証された (Fig 1h)。血小板カスパーゼ1活性はPELOD-2 (Pediatric Logistic Organ Dysfunction-2) スコアと正の相関を示した (Pearson correlation r=0.71, p<0.001)。

TEMによるパイロプトーシス形態の確認とGSDMD欠損による生存率改善: 重症敗血症患者の血小板の透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察では、細胞膨潤、細胞構造の喪失、細胞膜破裂、細胞質内容物の放出といった典型的なパイロプトーシス形態が50%以上の血小板で観察された (Fig 2a)。これはアポトーシス形態 (収縮、膜のブレブ形成) が10%未満であったことと対照的であった。免疫蛍光染色により、重症敗血症患者の血小板においてNLRP3インフラマソームがASCと共局在していることが示された (Fig 2b)。さらに、カスパーゼ1活性および活性型GSDMD (切断型GSDMD-N) の発現が、健常対照と比較して重症敗血症患者の血小板で有意に増加していた (p<0.0001)。血小板特異的Gsdmd欠損 (Gsdmd fl/fl PF4-Cre) マウス (n=11 mice) では、CLP後の生存率が対照群の33%から83%へと劇的に改善した (p<0.001) (Fig 6i)。また、肺におけるNET形成が60%減少し、肺および腎臓の組織障害が軽減され、血清IL-6およびTNFαレベルも有意に低下した (Fig 6c-h)。

S100A8/A9-TLR4-NLRP3-GSDMDカスケードの同定: in vitro実験では、LPS単独では血小板パイロプトーシスは弱かったが、S100A8/A9リコンビナントタンパク質 (50 μg/ml) とLPSの併用により、強力なパイロプトーシスが誘導された (カスパーゼ1活性が8-foldに増加、GSDMD N末端が10-foldに増加)。このパイロプトーシス誘導は、TLR4欠損血小板 (Tlr4 -/-) では完全に阻害され、抗TLR4抗体でも80%以上阻害された (p=0.0025)。また、MyD88 (myeloid differentiation primary response 88) 阻害剤およびNLRP3欠損血小板でもパイロプトーシスが消失した。これらの結果は、S100A8/A9がTLR4-MyD88-NLRP3-カスパーゼ1-GSDMDという線形シグナル伝達経路を介して血小板パイロプトーシスを誘導することを確立した (Fig 3b-d)。さらに、重症敗血症患者の血漿S100A8/A9レベルと血小板パイロプトーシス (活性化カスパーゼ1陽性血小板) の割合との間に正の相関が認められた (Pearson correlation r=0.7946, p<0.0001) (Fig 3a)。

パイロプトーシス血小板由来酸化mtDNAによるNET形成誘導とPaquinimodの治療効果: パイロプトーシスを起こした血小板の培養上清を好中球に曝露すると、NET形成が5-foldに増加した (Fig 4d)。この効果はDNase I処理により消失し、mtDNA特異的抗体によるブロックで70%以上阻害された。パイロプトーシス血小板は、8-OHdG (8-hydroxy-2’-deoxyguanosine) に富むmtDNAを選択的に放出し、通常のmtDNAよりも10倍強力なNET形成誘導能を示した。NET上にはS100A8/A9が強く発現しており、NET関連S100A8/A9が再び血小板TLR4を活性化し、パイロプトーシスを増幅することが示された (Fig 5a)。CLP誘発敗血症マウス (n=6 mice per group) にS100A8/A9阻害剤Paquinimod (10 mg/kg) を5日間連日腹腔内投与した結果、血小板パイロプトーシスが60%減少し、NET形成が50%減少した (Fig 7b-e)。これにより、CLPマウスの生存率が対照群の33%から83%へと有意に向上した (p<0.001) (Fig 7i)。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの研究では、敗血症における血小板の役割は主に凝固亢進や血小板減少症に関連付けられていたが、本研究は血小板が能動的な炎症性細胞死であるパイロプトーシスを介して病態を悪化させるという、これまでとは異なる視点を提供した。特に、S100A8/A9-TLR4-NLRP3-カスパーゼ1-GSDMDという明確なシグナルカスケードを同定し、この経路が血小板パイロプトーシスを誘導することを分子レベルで解明した点は、先行研究の知見を大きく拡張するものである。

新規性: 本研究で初めて、敗血症由来S100A8/A9がTLR4/ROS/NLRP3/カスパーゼ1経路を介してGSDMD依存性血小板パイロプトーシスを誘導し、酸化mtDNAを放出してNET形成を促進することを示した。さらに、NETがS100A8/A9を放出し、血小板パイロプトーシスを加速させるという自己増幅的な正のフィードバックループを確立したことは、敗血症における炎症増幅のメカニズムに関する新規のパラダイムを提示するものである。PaquinimodによるS100A8/A9経路の薬理学的阻害が、この有害なフィードバックループを断ち切り、重症敗血症における過剰なNET媒介炎症を改善することを示した点も、本研究の重要な新規性である。

臨床応用: 本研究の知見は、重症敗血症の診断および治療戦略の臨床応用に直結する。血小板GSDMD発現レベルは、重症敗血症患者の予後層別化のためのバイオマーカーとして有用である可能性がある。また、S100A8/A9阻害剤 (Paquinimodなど) は、敗血症における炎症進行に対する補助療法として期待される。特に、本研究のコホートが小児敗血症患者であったことから、小児敗血症に対する小児特異的な治療戦略の開発に直接的な含意を持つ。さらに、COVID-19などの血栓炎症性疾患やDIC (disseminated intravascular coagulation: 播種性血管内凝固症候群) 病態の新たな理解にも貢献し、NET指向療法 (DNase I、PAD4阻害剤) との併用療法の理論的根拠を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究が単一施設 (広州) の小児敗血症コホート (n=93 patients) に基づいているため、多民族集団や成人敗血症患者への一般化可能性を検証する必要がある。PaquinimodはS100A8/A9を標的とするが、ヒトでの臨床試験は多発性硬化症でフェーズIIが中止されており、敗血症に対するde novo開発が必要である。また、GSDMD血小板特異的欠損が血小板の生成や機能に与える影響 (血小板数や凝集能の検証が限定的) について、さらなる評価が必要である。酸化mtDNAのNET形成誘導シグナル伝達 (TLR9/STING) の下流メカニズムのさらなる解明も残された課題である。S100A8/A9の全身的な中和が感染防御に与える悪影響のリスク (S100A8/A9は抗菌活性も持つため) についても考慮が必要である。観察期間が72時間までであったため、長期的な転帰や臓器回復の評価は未完了である。CLPモデルは腸管由来の多菌性敗血症であり、肺炎由来の敗血症との病態の差異も考慮すべきlimitationである。

方法

患者コホートおよび血小板分離: 2019年11月から2021年8月にかけて、中国広州の広州婦女児童医療センターから93名の小児敗血症患者 (0-18歳) と75名の年齢一致健常対照者 (HS) を募集した。小児敗血症の定義は、Goldstein et al のガイドラインに従った。重症度に応じて、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックに分類した。患者から採取した静脈血サンプルから、プロスタグランジンE1処理と遠心分離により高純度血小板を分離し、CD41a (platelet glycoprotein IIb) 陽性率90%以上を確認した。

動物モデル: 血小板特異的Gsdmd欠損マウスは、Gsdmd fl/fl マウスとPF4-Cre (platelet factor 4 promoter-driven Cre recombinase) マウスを交配させて作製した。全身性S100a9欠損 (S100a9 -/-) マウスはCRISPR-Cas9システムを用いて作製した。全身性Tlr4欠損 (Tlr4 -/-) マウス、mT/mG:PF4-Creマウス、WT (wild-type) マウスはJackson Laboratoryから入手した。C57BL/6J系統のマウスを使用し、盲腸結紮穿刺 (CLP) モデルまたはLPS (Lipopolysaccharide) 誘発敗血症モデルを作製した。S100A8/A9-TLR4経路を阻害するため、Paquinimod (10 mg/kg/日) またはPBSをCLP後5日間経口投与した。動物実験は広州医科大学の動物実験委員会 (No. SYXK2018-266) の承認を得て実施した。

プロテオミクス解析: 重症敗血症患者3名とHS3名から分離した血小板サンプルを、データ非依存型取得質量分析 (DIA-MS) を用いて高スループットプロテオミクス解析に供した。MaxQuant (v.1.5.3.30) およびSpectronaut (12.0.20491.14.21367) を用いてデータ解析を行い、MSstats Rパッケージ (v.3.2.1) で差次的に発現するタンパク質を評価した。

透過型電子顕微鏡 (TEM): 重症敗血症患者およびHSの血小板の超微細構造をTEM (JEM-1400) で観察し、パイロプトーシス、アポトーシス、オートファジーの形態学的特徴を同定した。

in vivo血小板除去および輸血アッセイ: 5週齢マウスに抗マウス血小板ポリクローナル抗体を静脈内投与して血小板を除去した。その後、Tlr4 -/-またはWTマウスから精製した血小板 (1.2 × 10^7個) をレシピエントマウスに静脈内輸血し、LPS誘発敗血症モデルにおけるTLR4の役割を評価した。

好中球分離およびNET形成評価: ヒトおよびマウスの好中球をFicoll Hypaque密度勾配遠心分離法により分離した。精製した好中球 (2 × 10^5個/ml) をPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) (50 nM) またはrhS100A8/A9誘発パイロプトーシス血小板 (0.04 × 10^5個/ml) と4時間共培養し、NET形成を評価した。MPO-DNA複合体およびdsDNAのレベルをELISAキットとQuant-iT PicoGreen dsDNA試薬を用いて測定した。好中球のNET形成の評価は、先行研究である Fuchs et al. JCellBiol 2007 の手法を参考にした。

統計解析: 統計解析には、Student t-test、one-way ANOVA、Mann-Whitney U test、およびPearson correlationをデータ特性に応じて適用した。生存曲線はログランク検定で解析した。p値が0.05未満を有意とした。