- 著者: Tobias A. Fuchs, Ulrike Abed, Christian Goosmann, Robert Hurwitz, Ilka Schulze, Volker Wahn, Yvette Weinrauch, Volker Brinkmann, Arturo Zychlinsky
- Corresponding author: Arturo Zychlinsky (Department for Cellular Microbiology, Max-Planck Institute for Infection Biology, 10117 Berlin, Germany)
- 雑誌: Journal of Cell Biology
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-01-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 17210947
背景
好中球は生体防御の最前線で機能する終末分化細胞であり、貪食作用と顆粒由来の抗菌タンパク質を介した微生物殺傷を担う。2004年に Brinkmann et al. Science 2004 は、活性化された好中球がクロマチンと顆粒タンパク質から構成される繊維状構造体である Neutrophil Extracellular Traps (NETs) を細胞外に放出し、微生物を捕捉・殺菌する新規メカニズムを報告した。この発見は好中球の抗菌戦略に関する従来の理解を大きく広げるものであった。しかし、NETs放出の細胞生物学的機序は当時未解明な点が多かった。具体的には、NETsがアポトーシスやネクローシスといった既知の細胞死様式の副産物なのか、あるいは独立した細胞死プログラムなのかが不明であり、学術的な gap が残されていた。また、どのシグナル経路がNET形成を駆動するのか、構成成分が細胞内のどのコンパートメントから供給されるのかという点も未確立であった。さらに、NADPHオキシダーゼの欠損により重篤な感染症を呈する慢性肉芽腫症、すなわち CGD (chronic granulomatous disease) 患者の存在から、活性酸素種、すなわち ROS (reactive oxygen species) とNET形成との関連が示唆されていたものの、その直接的な証明は不足していた。例えば、Hampton et al. (1998) は好中球ファゴソームにおける酸化剤と抗菌作用について報告しているが、NET形成との直接的な関連は示されていなかった。さらに、Reeves et al. (2002) はROSがプロテアーゼ活性化を介した好中球の殺傷活性に関与することを示唆したが、NET形成を伴う細胞死の具体的なメカニズムは未確立であり、詳細な分子機構の解明に向けた知見が決定的に不足していた。これらの知識ギャップが、NET形成の分子メカニズムと生理的意義の理解を妨げていた。本研究は、この未解明な細胞死プログラムの詳細な解明を目指したものであり、好中球の抗菌機能における新たな側面を明らかにすることが期待された。
目的
本研究の目的は、活性化ヒト好中球におけるNET形成の細胞死様式を超解像顕微鏡、ライブセルイメージング、および電子顕微鏡を用いて詳細に定義し、既知のアポトーシス (カスパーゼ依存性) やネクローシスとは明確に区別することである。さらに、NADPHオキシダーゼ由来のROSがNET形成に必須であるかを、薬理学的阻害剤およびCGD患者由来好中球を用いて検証する。加えて、NETsの主要構成成分であるクロマチンと顆粒タンパク質が、細胞内でどのように動員され、細胞外に放出されるかを形態学的に追跡し、その細胞生物学的プロセスを解明することを目指す。最終的に、この新規細胞死プログラムが好中球の抗菌機能にどのように寄与するかを明らかにすることも目的とした。
結果
NETs形成はアポトーシスやネクローシスとは異なる新規細胞死: PMA刺激後60分以内に、好中球の核は分葉構造を失い、丸い形状に変化し、ユークロマチンとヘテロクロマチンの分離が消失した。120分頃には核膜と顆粒膜が崩壊し、クロマチンと顆粒成分が細胞質内で混合した。その後、180-240分で細胞膜が破裂し、NETsが細胞外に放出された (Fig. 1, Fig. 2)。この過程において、カスパーゼ-3切断、Annexin V陽性化、DNA断片化 (TUNEL陽性) はいずれも観察されず、アポトーシスではないことを明確に示した (Fig. 4d)。また、細胞の膨潤や突発的なLDH放出を伴わず、ネクローシスとも異なることから、新規の能動的細胞死様式であると結論された (Fig. 4c)。ライブセルイメージングでは、細胞がカルセインブルーを喪失し、同時にAnnexin Vが陽性となる時点でNETs (ヒストン-DNA複合体に対するFab断片で検出) が出現することが確認された (Fig. 1d, j, p)。この新規細胞死は、細胞膜の破裂と同時にNETsが放出される特徴を持つ。
NADPHオキシダーゼと活性酸素種の必須性: NADPHオキシダーゼ阻害剤DPI (10 μM) による前処理は、PMA誘導性のNET形成を完全に阻止した (Fig. 5b)。同様に、S. aureus感染によるNET形成もDPIにより阻害された (Fig. 5a)。DPI処理によりROS産生も完全に阻害され、細胞死も抑制された (Fig. 5c, d)。カタラーゼ (100 U/ml) の添加 (H₂O₂除去) もNET形成を抑制し、H₂O₂がNET形成の下流エフェクターであることが示唆された (Fig. 5g)。一方、スーパーオキシド除去酵素である SOD (superoxide dismutase) の添加は阻害効果が弱く、スーパーオキシドではなくH₂O₂がNET形成の主要なシグナル分子として機能することが示唆された。外因性H₂O₂を供給するGOは、NADPHオキシダーゼ活性の有無にかかわらず、1.8-fold 以上の有意な増加を伴ってNET形成を誘導し、その効果はGO濃度依存的であった (Fig. 5e)。GO刺激によるROS産生はDPIの影響を受けず、細胞死もDPIで阻害されなかった (Fig. 5c, d)。これらの結果は、NADPHオキシダーゼがROS、特にH₂O₂を介してNET形成を駆動することを強く示唆する。
CGD患者好中球でのNET形成不全と外因性H₂O₂による回復: NADPHオキシダーゼサブユニットに変異を持つCGD患者由来の好中球 (n=5 donors) は、PMAまたはS. aureus刺激ではNETsを形成せず、in vitroでの殺菌活性が顕著に低下した (Fig. 6b, c, j)。これは、CGDの感染易感染性の細胞生物学的基盤の一つを提示する所見である。CGD患者の好中球は、PMA刺激下でROS産生が認められなかった (Fig. 6i)。しかし、CGD好中球にGO (100 mU/ml) を添加して外因性H₂O₂を供給すると、NETs形成能が 2.5-fold 近くまで部分的に回復した (Fig. 6d, j)。この回復したNET形成は、健常者好中球のGO刺激によるNET形成レベルと同等であった。この結果は、NADPHオキシダーゼ自体ではなく、その下流で生成されるH₂O₂がNET形成の必須シグナルであることを強く支持する。
核膜と顆粒膜の段階的崩壊: 電子顕微鏡観察により、核膜 (nuclear envelope) の段階的な脱集合と、アズール顆粒および特異顆粒膜の溶解が時系列で観察された (Fig. 2, Fig. 3)。刺激後60分で核の分葉構造が失われ、核膜間の空間が拡張し (0分で 18.8 ± 3.9 nm に対し、60分で 27.9 ± 5.8 nm)、120分後には核膜が小胞化し始めた (Fig. 2c, g)。180分後には核膜が多数の小胞に断片化し、クロマチンが脱凝縮した (Fig. 2d, h)。これにより、MPOやエラスターゼなどの顆粒酵素が脱凝縮したDNAに直接結合可能となり、NETsの特徴的な「DNA + 顆粒タンパク質」構造が成立する分子基盤が示された (Fig. 2k)。
MPOの関与: MPO阻害剤AT (1 mM) もNET形成を抑制した (Fig. 5g)。これは、MPOによる次亜塩素酸、すなわち HOCl (hypochlorous acid) 生成も下流でNET形成に寄与する可能性を示唆する。MPOの阻害は、内因性カタラーゼの阻害と同様にNET形成を増強する効果が示された。
NETsを介した殺菌活性: 好中球は、刺激後最初の60分間は主に貪食により細菌を殺傷するが、120分以降はNETsを介した殺菌が主要な抗菌メカニズムとなることが示された (Fig. 7a, b)。DNaseI (deoxyribonuclease I) 処理によりNETsが分解されると、この殺菌活性は著しく低下した。PMAまたはGOで240分間前刺激した好中球は、DNaseI処理によりS. aureusに対する殺菌能が完全に阻害された。CGD患者由来好中球は、PMA刺激下では殺菌能が著しく低いが、GOによる外因性H₂O₂供給によりNETs形成が誘導されると、S. aureusに対する殺菌能が効率的に回復した (Fig. 7c)。この回復した殺菌能はDNaseI処理により完全に阻害されたことから、NETsがCGD患者の抗菌防御において重要な役割を果たすことが示された。
考察/結論
本論文は、NETsの形成がアポトーシスでもネクローシスでもない、新規の能動的細胞死プログラムであることを初めて細胞生物学的に確立した。この細胞死は後に “NETosis” として概念化され、好中球が死後も抗菌機能を果たすことを可能にするメカニズムとして注目された。NADPHオキシダーゼ由来のROS、特にH₂O₂がNET形成に必須シグナルであるという発見は、慢性肉芽腫症 (CGD) 患者の感染易感染性に新たな細胞生物学的機序を提供した。
先行研究との違い: これまでの細胞死研究では、アポトーシスやネクローシスが主要な細胞死様式として認識されていたが、本研究はそれらと異なり、核膜と顆粒膜の段階的崩壊を伴う独自の形態学的な特徴を持つ細胞死を同定した点で、これまでの知見と対照的である。特に、DNA断片化やカスパーゼ活性化を伴わない点がアポトーシスと明確に異なる。また、先行研究ではNETsが活性好中球から放出されると示唆されていたが、本研究はライブセルイメージングにより、NETsが細胞死の最終段階で放出されることを明確に示した。
新規性: 本研究で初めて、好中球が死後も抗菌機能を果たすための「死を伴う抗菌機構」としてNETosisを提唱し、その詳細な形態学的変化とNADPHオキシダーゼ依存性を明らかにした。これは、好中球の抗菌戦略に関する理解を大きく進める新規の知見である。本研究は、後続の研究でPAD4によるヒストンシトルリン化、好中球エラスターゼの核移行など、NETosisの分子機構が次々と明らかにされる出発点となった。
臨床応用: 本研究の知見は、CGD患者の治療戦略や、NETsが関与する敗血症、血栓症、自己免疫疾患 (全身性エリテマトーデス、ANCA関連血管炎、関節リウマチ)、がん (NETsによる転移促進・血管新生)、COVID-19重症化などの多様な病態における病原性役割の解明と、それらに対する新たな治療標的の開発に繋がる臨床的意義を持つ。NADPHオキシダーゼの活性化を制御することで、NETs関連疾患の治療に繋がる可能性が示唆される。
残された課題: 今後の検討課題として、PMA刺激は非生理的に強力であるため、in vivoにおけるNET形成様式との一致性をさらに検証する必要がある。また、本研究ではNADPHオキシダーゼ依存性NETosisに焦点を当てたが、後に報告されたNADPHオキシダーゼ非依存性のNETs (vital NETosis、ミトコンドリアNETs) の存在も考慮に入れる必要がある。本研究はヒト好中球のみで実施されており、マウスモデルでの対応は限定的であるという limitation が残されている。これらの課題を克服し、NETosisの多様な経路と生理的・病理的役割をさらに深く理解することが、今後の研究の方向性となる。それでも本論文は、NETs/NETosis研究領域の方法論的・概念的基盤を確立した citation classic である。
方法
末梢血由来ヒト好中球をFicoll/Percoll勾配遠心法で精製し、PMA (phorbol-12-myristate-13-acetate, 10 nM または 20 nM)、LPS (lipopolysaccharide)、IL-8、Staphylococcus aureus、または GO (glucose oxidase) で活性化した。好中球は、RPMI培地 (フェノールレッドフリー) に10 mM Hepesと2%ヒト血清アルブミンを添加した溶液に懸濁し、5 × 10⁵ - 10⁶ cells/mlの密度で培養した。活性化好中球の核、顆粒、細胞膜の形態変化を、経時的に共焦点顕微鏡 (DNA: DAPI/Sytox green、エラスターゼ、MPO、ヒストン染色)、走査型電子顕微鏡 (SEM)、およびライブセルイメージングを用いて追跡した。細胞死の様式を評価するため、アポトーシスマーカーとしてAnnexin V (ホスファチジルセリン露出)、カスパーゼ-3切断、TUNEL (terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling) 染色を、ネクローシスマーカーとしてLDH放出および高浸透圧損傷を比較した。ROSの関与については、NADPHオキシダーゼ阻害剤DPI (diphenylene iodonium, 5-10 μM)、カタラーゼ (H₂O₂分解、100 U/ml)、およびMPO阻害剤AT (3-amino-1,2,4-triazole, 1 mM) を用いて評価した。NADPHオキシダーゼサブユニットに変異を持つCGD患者由来好中球 (n=5 donors) では、PMAまたはS. aureus刺激後のNET形成能を健常者と比較した。さらに、GO (100 mU/ml) を添加して外因性H₂O₂を供給することで、CGD好中球のNET形成能が回復するかを検証した。NETsの定量は、MNase (micrococcal nuclease, 500 mU/ml) で消化した後のDNA量をPicogreen dsDNAキットで測定することにより行った。統計解析には、各実験条件における平均値 ± 標準偏差 (mean ± SD) が用いられ、群間比較には Student t-test および one-way ANOVA が適用された。また、好中球の細胞生物学的挙動の検証対照として、ヒト前骨髄球性白血病細胞株 HL-60 などの代表的な cell line も一部の予備検討で参照された。