• 著者: Cassandra J. McGill, Ryan J. Lu, Bérénice A. Benayoun
  • Corresponding author: Bérénice A. Benayoun (Leonard Davis School of Gerontology, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA); berenice.benayoun@usc.edu
  • 雑誌: STAR Protocols (Cell Press)
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-12-17
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 34820637

背景

Neutrophil extracellular traps (NETs) は、好中球がDNA、ヒストン、および顆粒タンパク質(ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、エラスターゼなど)を細胞外に放出する制御された細胞死であるNETosisによって形成される。NETosisは、感染防御、慢性炎症、自己免疫疾患、癌の進展、血栓形成など、多様な病態生理学的プロセスに関与することが近年明らかになり、好中球研究が急速に増加している。例えば、Gupta et al. (2014) はNETosis誘導に細胞内および細胞外カルシウムプールが関与することを示し、Kenny et al. (2017) は多様な刺激が異なるNETosis経路を活性化することを報告している。しかし、NETosisのin vitro定量法は、免疫蛍光顕微鏡法、プレートリーダーベースのアッセイ、フローサイトメトリーベースのアッセイなど、様々な手法が存在し、それぞれサンプル処理能力 (throughput)、定量性、再現性に差がある。

特に、10匹を超える大規模な動物コホートを並行して処理し、性別、年齢、遺伝子型、および様々な処置間のNETosisを比較する需要が高まっているが、既存のプロトコルではこの要求に十分に対応することが不足していた。例えば、免疫蛍光顕微鏡法はNETsの形態学的特徴を詳細に評価できるものの、多数のサンプルを定量的に比較するには時間と労力がかかり、ハイスループットな解析には不向きである。プレートリーダーベースのアッセイはハイスループットだが、細胞の形態情報が失われ、非特異的なDNA放出とNETosisを区別することが困難な場合がある (Carmona-Rivera and Kaplan 2016)。フローサイトメトリーベースのアッセイは、細胞レベルでの定量性とハイスループットを両立できる可能性を秘めているが、マウス骨髄からの初代好中球の単離からNETosis定量までを一貫して、かつ大規模コホートで安定して実施できる標準化されたプロトコルは未確立であった。Masuda et al. (2017) はフローサイトメトリーによるNETosis測定法を報告しているが、大規模コホートでの好中球単離とアッセイの統合的プロトコルは未解明な点が残されていた。

本STAR Protocolsは、Lu et al. (2021) がNature Aging誌で報告した性別および年齢依存的な好中球マルチオミクス研究の基盤となるプロトコルとして開発された。このプロトコルは、マウス骨髄からの初代好中球の高効率かつ高純度な単離と、フローサイトメトリーを用いたNETosis定量を統合したものであり、これまでの方法論におけるギャップを埋めることを目的としている。これにより、好中球生物学研究における大規模な比較研究が可能となり、老化や疾患におけるNETosisの役割に関する未解明な側面を体系的に解明するための強力なツールとなることが期待される。

目的

本研究の目的は、マウス骨髄から初代好中球を高い回収率と純度で単離し、PMA (Phorbol 12-myristate 13-acetate) 誘導NETosisをSYTOX Green染色とフローサイトメトリーを用いて定量するための、10匹以上のコホートを1日で並行処理可能な標準化されたプロトコルを確立し、詳細に記述することである。このプロトコルは、性別、年齢、遺伝子型、および様々な処置など、複数の生物学的変数間でのNETosis定量比較を可能にすることを意図している。

具体的には、以下の点を達成することを目指す。

  1. マウス骨髄からMiltenyi MACS negative selection法を用いて、高純度(CD11b+ Ly6G+ >90%)​かつ高収率(5-10×10⁶細胞/匹)​で初代好中球を単離する手順を最適化する。
  2. SYTOX Greenを用いたフローサイトメトリーにより、PMA誘導NETosisを定量的に評価する標準化されたアッセイ条件(PMA濃度、インキュベーション時間など)を確立する。
  3. 大規模コホート(例: n=10匹以上)を1日で処理できる効率的なワークフローを構築し、処理時間の変動による好中球機能への影響(例: 概日リズムや転写変化)を最小限に抑える。
  4. 好中球単離およびNETosisアッセイにおける潜在的な問題点(例: 低収率、低生存率、PMA応答の欠如、高バックグラウンド)に対する詳細なトラブルシューティングガイドを提供し、プロトコルの再現性と信頼性を向上させる。
  5. Stemcell EasySepキットなどの代替単離法との比較を行い、Miltenyi MACS法の優位性を示すことで、研究者が最適な単離法を選択するための根拠を提供する。

結果

好中球の単離収率と純度: Miltenyi MACS negative selection法を用いることで、マウス1匹あたり5-10×10⁶個の好中球が回収可能であった。CD11b+ Ly6G+細胞として定義される好中球の純度は、再現性よく90%以上を達成した (Figures 1B, 1C)。3ヶ月齢のC57BL/6Jマウス(雄雌)を用いた評価では、生物学的グループ間での純度に有意な差は認められなかった。好中球の生存率は80%以上を目標とし、これ未満ではNETosisアッセイの信頼性が損なわれることが示された。

EasySep法とMiltenyi MACS法の比較: 5ヶ月齢のC57BL/6 floxed Foxl2雌マウス (n=2) を用いたパイロット比較では、Stemcell EasySep Mouse Neutrophil Enrichment KitはMiltenyi MACS法と比較して、明らかに低い好中球純度をもたらすことが示された (Figures 1D, 1E)。例えば、Miltenyi MACS法では90%以上の純度が得られたのに対し、EasySep法では純度が70%を下回る場合があった。著者は、単一のプロジェクト内では好中球単離方法を統一することを強く推奨しており、異なる単離方法で得られた結果は直接比較できないと強調している。

NETosis誘導の定量と典型値: DMSOビヒクル処理群ではSYTOX Green陽性細胞の割合が低値(例: 10.65%)であったが、PMA処理によりSYTOX Green陽性細胞の割合は明確に上昇した (Figures 3A, 3B)。4ヶ月齢のC57BL/6Niaマウス (n=10、雄5匹、雌5匹) を用いた例では、NETosis誘導比が安定して測定可能であることが示された (Figures 3C, 3D)。PMA誘導によるSYTOX Green陽性細胞の割合は、DMSO対照群と比較して約2.5-foldから4-foldの増加を示した。標準的な解析ワークフローは、シングレットゲーティング、SSC/FSC散乱光によるデブリやダブルットの除外、SYTOX Green陽性細胞のゲーティングを含んでいた。

偶発的な活性化の検出: 不適切なピペッティングや気泡形成により好中球が早期に活性化すると、DMSO群のSYTOX Green陽性細胞の割合が異常に高くなり、PMAとDMSO間の差が消失することが示された (Figure 3E)。この偶発的な活性化は、NETosis誘導比の算出において偽陽性結果をもたらし、実験失敗の主要な原因の一つとして挙げられている。

スループットと時間配分: 本プロトコルでは、好中球単離に約3時間(10匹)、純度確認に約1.5時間(オプション)、NETosisアッセイに約3時間を要し、単離からフローサイトメトリー測定までを1日で完結できる。フローサイトメトリーベースの細胞ソーティング(FACS)と比較して、本プロトコルは高スループット(10サンプル以上を並行処理可能)​であり、処理時間の延長によって生じる概日リズム変動による転写変化の影響を最小限に抑えることができる。これにより、大規模コホート研究における実験間の変動要因を低減することが可能となる。

インキュベーション時間の根拠: PMAによるNETosis誘導のための2時間のインキュベーション時間は最適化された値であるが、1~4時間の範囲でもロバストなNETosis検出が可能であることが、Gupta et al. (2014) や Masuda et al. (2017) などの先行研究によって支持されている。この柔軟性により、研究者は特定の実験目的に応じてインキュベーション時間を調整できる。例えば、NETosisの初期動態を評価したい場合は1時間、より広範な誘導を観察したい場合は4時間まで延長することが可能である。

考察/結論

本プロトコルは、大規模なマウスコホート(>10匹)​においてNETosis定量を効率的かつ高純度で実現可能にした点で、好中球生物学研究における重要な方法論的貢献である。これにより、性別、年齢、遺伝子型、および処置に依存するNETosisの変動を体系的に調査するための基盤となるツールが提供される。

主要な強み:

  1. 高純度と高スループット: Miltenyi MACS negative selection法により、90%以上の好中球純度を再現性よく達成しつつ、FACSと比較してサンプルあたりの処理時間を大幅に削減する。これにより、大規模コホート処理で生じる概日リズムや転写レベルでの変動を回避できる。
  2. 簡便な検出: SYTOX Green単染色のみでNETosisを定量できるため、多数の変数を比較するスクリーニング実験に最適である。必要に応じてH3-Cit (citrullinated histone H3)、MPO、ELANEなどの多重染色でNETosis状態を確認することも可能だが、SYTOX Green染色との相関は高い。
  3. 誘導比による定量: PMA処理群とDMSO対照群のSYTOX Green陽性細胞率の中央値の比率としてNETosis誘導を定量することで、サンプル間の基礎的なNETosisレベルの変動を正規化し、性別や年齢間のベースラインの差を制御できる。
  4. 詳細なトラブルシューティング: 低収率、低生存率、PMA応答の欠如、SYTOXシグナルの低下、DMSOバックグラウンドの高さという5つの問題カテゴリーに対し、具体的な解決策が提示されており、プロトコルの信頼性と再現性を高める。

限界と注意点:

  • 実験者依存性の変動: 好中球は気泡形成、激しいピペッティング、振盪などのわずかな刺激でも偶発的に活性化しやすいため、実験者の熟練度によって結果に変動が生じる可能性がある。
  • 死細胞によるアーティファクト: 調製された好中球の生存率が低い場合、NETosisを起こしていない死細胞もSYTOX Green陽性となり、偽陽性結果をもたらす可能性がある。
  • 加齢雌マウスの骨脆弱性: 加齢した雌マウスは骨密度が低下しているため、脛骨や大腿骨の解剖中に骨が破損しやすく、骨髄の損失につながる可能性がある (Somerville et al. 2004)。
  • PMAの特異性: PMAはプロテインキナーゼC (PKC) 依存性の活性酸素種 (ROS) を介したNETosisを誘導するが、カルシウム依存性NETosis (A23187) やTLR介在性NETosis (LPS) など、他の経路によるNETosisの機構には対応しない。研究目的に応じて適切な刺激を選択する必要がある。
  • インキュベーションの動態: 2時間のインキュベーション期間は最適化されているが、NETosisの動態に関する時間経過情報は得られない。0-4時間のタイムコース解析を行うことで、より詳細な動態情報を得ることが可能である。

先行研究との違い: 本プロトコルは、これまでのNETosis定量プロトコルと異なり、大規模な動物コホートを1日で処理できる効率的なワークフローを確立した点に特徴がある。これにより、Lu et al. Nature Aging 2021 で報告されたような、性別や年齢に依存する好中球機能のマルチオミクス解析を可能にした。

新規性: 本研究で初めて、マウス骨髄好中球のMACs分離からフローサイトメトリーによるNETosis定量までを一貫して、かつ高スループットで実施できる標準化されたプロトコルを新規に確立した。これは、従来の単一サンプル解析に限定されがちな手法と比較して、大規模な比較研究を可能にする点で画期的である。

臨床応用: 本プロトコルは、COVID-19、敗血症、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、血管炎)、癌関連血栓症など、NETosisが病原性ドライバーとして標的化される疾患において、遺伝子改変モデル(ノックアウト、トランスジェニック)を用いたメカニズム解明に直接応用可能である。また、PAD4阻害剤、DNase I、エラスターゼ阻害剤などのNETosis阻害剤の非臨床評価プラットフォームとしても活用でき、臨床的意義は大きい。

残された課題: 今後の研究課題としては、PAD4、好中球エラスターゼ (NE)、MPO、ガスダーミンDなどの遺伝子ノックアウトマウスと本プロトコルを組み合わせたNETosisのメカニズム解明が挙げられる。また、in vivoでのNETosis(生体イメージング、血清中のシトルリン化ヒストンH3 (citH3) 測定など)との相関を評価することも重要である。老化介入(カロリー制限、セノリティクス、ラパマイシンなど)がNETosisに与える影響の評価や、ヒト末梢血好中球へのプロトコル適応も今後の方向性である。さらに、シングルセル解析技術(scRNA-seqとNETosisマーカーの同時プロファイリング)への拡張も期待される。

方法

試験デザイン: 本研究は、STAR Protocolsフォーマットに準拠したMethods/Protocol論文であり、マウス骨髄からの初代好中球単離とフローサイトメトリーによるNETosis定量に関する詳細な手順を記述している。プロトコルは「Before you begin」「Step-by-step」「Expected outcomes」「Limitations」「Troubleshooting」のセクションで構成される。対象動物はC57BL/6JまたはC57BL/6Niaマウスで、3~24ヶ月齢の雄雌が使用された。

主要手技:

  1. 骨髄採取: マウスはCO2吸入と頸椎脱臼により安楽死させられた。大腿骨と脛骨を剖出し、筋肉や腱を完全に除去した後、骨端を切断した。骨髄は、0.5mLマイクロ遠心チューブに穴を開け、1.5mLチューブにセットして遠心分離(10,000g、30秒、20-25℃)することでフラッシュアウトされた。この工程は10匹の動物に対して約3時間で完了可能であった。
  2. 赤血球溶解とシングルセル化: 骨髄細胞は赤血球溶解バッファー(2分間、室温)で処理され、その後70 µm MACS SmartStrainerを用いてシングルセル懸濁液が調製された。この際、好中球の偶発的な活性化を避けるため、ボルテックス処理は行わず、穏やかな混合が推奨された。
  3. 好中球単離: Miltenyi Biotec Neutrophil Isolation Kit(ネガティブセレクション、LSカラムとQuadroMACSマグネットを使用)を用いて好中球が単離された。このキットは、CD11b+ Ly6G+細胞として定義される好中球を90%以上の純度で回収できることが示された。代替法として、Stemcell EasySep Mouse Neutrophil Enrichment Kitも記述されたが、Miltenyi MACS法の方が高純度であることが示唆された。
  4. 純度評価(オプション): 単離された好中球の純度は、Ly6G-APCおよびCD11b-Vioblue抗体で染色後、MACSQuant10フローサイトメーターを用いてCD11b+ Ly6G+集団の割合を定量することで評価された。このステップは10サンプルに対して約1.5時間で完了可能であった。
  5. NETosisアッセイ: 単離された好中球は2×10⁶細胞/mLに調整され、1.5mLチューブに500 µL(1×10⁶細胞)ずつ分注された。SYTOX Green(1:250希釈の5 µL)、50 nM PMA(最終濃度)、またはDMSOビヒクルが添加された。細胞懸濁液は、96ウェル黒色サスペンションプレートに200 µL(2×10⁵細胞)ずつ4連で播種され、5% CO2、37℃で2時間インキュベーションされた。その後、MACSQuant10フローサイトメーターを用いてSYTOX Green陽性細胞の割合が測定された(最大10,000イベントをゲート)。
  6. 定量と統計解析: NETosis誘導は、PMA処理群のSYTOX Green陽性シングレット細胞率の中央値と、DMSO対照群のSYTOX Green陽性シングレット細胞率の中央値の比率として定量された。データ解析にはFlowlogic v8ソフトウェアが使用された。統計解析には、群間の比較にMann-Whitney U検定、t検定などの適切な統計手法が用いられることが示唆された。 Endpoints: 主要な評価項目は、好中球の回収率、純度(CD11b+ Ly6G+細胞の割合)、生存率(トリパンブルー染色)、およびNETosis誘導比であった。