• 著者: M. Ghosh, S. Saha, J. Bettke, R. Nagar, A. Parrales, T. Iwakuma, A.W.M. van der Velden, L.A. Martinez
  • Corresponding author: Luis A. Martinez (Stony Brook University, New York)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33545063

背景

TP53はヒト全癌種の約50%で変異する最頻変異腫瘍抑制遺伝子であり、その大多数がDNA結合ドメインへのミスセンス変異である。これらの変異はwild-type (WT) p53の腫瘍抑制活性を喪失させるだけでなく、新たながん促進活性 (gain-of-function: GOF) を持つ変異型p53 (mtp53) タンパク質を生じさせる。GOF-mtp53は染色体不安定性 (chromosomal instability: CIN) を促進し、微小核形成・破裂を通じて細胞質に大量のDNAを漏出させることが知られている (Donehower et al. CellRep 2019)。細胞質DNAはcGAS (cyclic GMP-AMP synthase) によって認識されcGAMPが産生され、STING (stimulator of interferon genes) が活性化される。STINGはTBK1 (TANK-binding protein kinase 1) とIRF3を動員してSTING-TBK1-IRF3三量体複合体を形成し、IRF3のリン酸化・二量体化・核移行を経てIFNβ (IFNB1) を産生する。このI型インターフェロンは抗腫瘍免疫細胞 (CD8陽性T細胞・NK細胞・M1型マクロファージ) の活性化と腫瘍浸潤を促進し、自然免疫監視機構の要を担うことが報告されている (Ablasser and Chen, 2019; Barber, 2015)。

しかし、mtp53を高発現する腫瘍細胞は大量の細胞質DNAを有するにもかかわらず、IRF3が活性化されず免疫回避することが知られていた (Jiang et al., 2018; Lyu et al., 2019; Siemers et al., 2017)。その分子メカニズムは未解明であり、cGAS/STING下流でどのようにシグナルが遮断されるかが疑問であった。先行研究では、CINが細胞質DNAを増加させSTINGを活性化するが転移を促進するという逆説的結果が示されており (Bakhoum et al. Nature 2018)、mtp53はこのシグナル分断の鍵機序である可能性が示唆されていた。また、STING経路の活性化は細胞自律的なアポトーシスも誘導するが、mtp53腫瘍ではこのアポトーシスも抑制されることが示唆されていた (Chattopadhyay et al., 2010; Gulen et al., 2017)。これらの観察から、mtp53が細胞質DNA応答を抑制する詳細なメカニズムの解明が不足しており、腫瘍の免疫回避におけるmtp53の役割を包括的に理解するための知識ギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、mtp53がcGAS/STING-TBK1-IRF3自然免疫経路を抑制する分子メカニズムを解明し、mtp53が引き起こす免疫回避機序と腫瘍形成への寄与を in vitro および in vivo で実証することである。具体的には、mtp53がTBK1と直接結合し、STING-TBK1-IRF3三量体複合体の形成を阻害することでIRF3の活性化とI型インターフェロン産生を抑制する機序を明らかにすることを目指した。さらに、mtp53が細胞自律的なアポトーシスと非自律的な免疫監視の両方を損なうことを検証し、腫瘍の成長促進におけるmtp53の役割を確立する。最終的に、TBK1シグナル回復による免疫回避解除の治療的実現可能性を検討し、mtp53発現腫瘍に対する新たな治療戦略の基盤を構築することを目的とした。

結果

mtp53は複数細胞株でcGAS/STING-TBK1-IRF3経路を抑制する: ヒト乳癌細胞株BT549 (p53R249S) とMDA-MB-231 (p53R280K)、ヒト膵癌株MIA PaCa-2 (p53R248W)、マウスKPC株 (p53R172H) の全4細胞株において、mtp53 shRNAノックダウンによりTBK1、IRF3、STINGのリン酸化が増加した (p<0.01)。逆に、p53ヌルである4T1細胞にp53R249Sを強制発現させるとTBK1基質リン酸化が低下した。p53ヌルMEFとp53R172H/R172H MEFの比較実験でも、mtp53発現MEFではTBK1、IRF3、STINGのリン酸化が低値であった。野生型p53はIFI16誘導を介してSTING-TBK1-IRF3のリン酸化を促進した一方、mtp53はこれを抑制した。2種類の独立したp53 shRNAで同様の結果が得られ、shRNAのオフターゲット効果が否定された (Fig 1A-D, S1A-G)。TCGAの三重陰性乳癌データ解析では、IFNB1 mRNAはWT p53と正の相関を示し、mtp53とは負の相関を示した (Pearson相関、Fig S1I)。また、mtp53ノックダウンによりHT-DNA刺激に応答したIFNB1 mRNAの誘導が大幅に増加した (Fig 1I)。ELISAによるIFNB1分泌量測定では、mtp53ノックダウンBT549およびKPC細胞でIFNB1分泌が増加し、mtp53発現MEFでは減少した (Fig 1J)。cGASまたはSTINGのノックダウンはmtp53ノックダウンによるTBK1、STING、IRF3のリン酸化を大幅に減少させた (Fig 1K)。さらに、mtp53はdsDNA、cGAMP、poly(I:C)、LPSなどのPRRリガンドによるIRF3リン酸化応答を抑制した (Fig S1Q, S1R)。

IRF3核移行と細胞自律的アポトーシスを抑制する: H1299誘導性mtp53R248W細胞において、HT-DNA (2 μg/mL、3時間) 刺激後のGFP-IRF3核移行を評価した。非誘導細胞では約90%の細胞に核内GFP-IRF3が認められたが、mtp53誘導細胞では20%未満に抑制された (Fig 2A)。mtp53はHT-DNA刺激によるアポトーシスも抑制した。H1299細胞ではHT-DNA処理 (24時間) で約40%がアポトーシスに陥ったが、mtp53発現によりほぼ完全に抑制された (Fig 2D)。このアポトーシス応答はIRF3依存的であり、IRF3ノックダウンにより抑制された (Fig 2C)。mtp53ノックダウンBT549細胞ではアポトーシス率が10%から60%へ増加したが、IRF3 CRISPR KOとの組み合わせで約20%に低下し、mtp53抑制がIRF3依存的であることが示された (Fig 2E)。これらの結果は、mtp53が細胞自律的なcGAS/STING/TBK1/IRF3経路の活性化に対する応答を阻害することを示唆している。

mtp53がTBK1と直接物理的に結合してSTING-TBK1-IRF3三量体複合体を阻害する: 免疫沈降実験により、mtp53はTBK1と直接結合するが、野生型p53は結合しないことが確認された (Fig 3A, 3B)。mtp53はSTINGやIRF3とは直接結合しなかった。mtp53発現下ではTBK1-STINGおよびTBK1-IRF3の共免疫沈降が減少し、三量体複合体形成が阻害された (Fig 3D)。IRF3ホモ二量体形成もmtp53によって阻害された (Fig 3E)。9種類のmtp53アレル (P142L、P152Q、A161V、C174Y、R175H、R248W、R249S、R273H、R280K) がTBK1と結合し、いずれもTBK1基質リン酸化を低下させた (Fig 3F, 3G)。特にR249S、R273H、R280KはTBK1リン酸化をほぼ完全に抑制した。mtp53のTBK1結合部位はDNA結合ドメイン (アミノ酸 123-173) および四量体化ドメイン (アミノ酸 327-377) に依存し、両領域の欠失でTBK1結合が大幅に減弱した (Fig 3H)。これらのデータは、mtp53がTBK1との直接結合を介してSTING-TBK1-IRF3複合体形成を阻害し、TBK1およびIRF3の活性化を妨げることを示す。

in vivo での免疫回避と腫瘍増殖促進: syngeneic BALB/cマウスモデル (n=10 mice) では、4T1 p53R249S腫瘍はPLVX腫瘍と比較してday 14以降から腫瘍成長が加速し、day 21には約2倍の腫瘍体積となった (p<0.01) (Fig 4A-4C)。一方、免疫不全NOD/SCIDマウス (n=4 mice) では両群間に有意差は認められなかった (Fig 4D, 4E)。p53R249S腫瘍ではIRF3・STINGのリン酸化が低下し、IFNB1 mRNAが有意に減少した (Fig 5A-5C)。IHCにより、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、NK細胞 (NKp46+) の腫瘍浸潤が有意に減少し (各p<0.001)、F4/80+/CD206+ M2型TAMの割合が増加していた (Fig 5D-5G)。BALB/cマウスのp53R249S腫瘍はNOD/SCIDマウスと比較してCD31 MFIが有意に高く (p<0.01)、免疫正常環境でのみ血管新生が亢進することが示された (Fig 4F, 4G)。これらの結果は、mtp53が免疫系が機能する環境でのみ腫瘍成長と血管新生を促進することを示す。

KPC syngeneicモデルでmtp53除去が免疫監視を回復: KPC-shp53腫瘍はday 21にEV腫瘍より有意に小さく、IFNB1 mRNAが高値であった (Fig 6A-6C, S6B)。CD4+・CD8+ T細胞とNK細胞の浸潤が増加し、M2マクロファージが減少した (Fig 6E-6H)。shTBK1との共ノックダウンにより、shp53による腫瘍縮小効果が部分的に解除され (n=5 mice)、TBK1依存的メカニズムが確認された (Fig 6I, S6L-S6O)。mtp53ノックダウンの血管新生抑制もTBK1ノックダウンで回復した (Fig 6J, S6P)。これらの結果は、mtp53がTBK1を介して非細胞自律的な自然免疫シグナル伝達を抑制することを示唆する。

TBK1過発現によるmtp53効果の逆転: ドキシサイクリン誘導性TBK1によりTBK1発現量が約2倍に増加し、PLVX細胞で4倍、p53R249S細胞で2倍のIFNB1 mRNA増加が認められた (Fig S7G)。ELISAでp53R249S細胞のIFNB1分泌量がPLVX細胞と同等レベルまで回復した (Fig S7H)。in vivoモデル (n=5 mice) でTBK1発現によりp53R249S腫瘍の成長がPLVX腫瘍以下に抑制され、CD31低下 (血管新生抑制)、CD8+ T細胞/NK細胞増加、M2マクロファージ減少が認められた (各p<0.01〜p<0.001) (Fig 7A-7I)。これは、mtp53がTBK1機能を抑制する効果が、TBK1の相対量に依存することを示唆する。

考察/結論

本研究は、変異型p53 (mtp53) のGOF活性として、cGAS/STING-TBK1-IRF3自然免疫経路の直接的抑制による免疫回避という全く新規の機序を解明した重要な研究である。mtp53がTBK1と直接結合することで三量体複合体形成を阻害し、IRF3活性化、IFNβ産生、抗腫瘍免疫細胞の浸潤を抑制するという精緻な分子機序を、多細胞株、MEF、複数のsyngeneicマウスモデル、TCGAデータセットにわたって多面的に実証した点でその科学的価値は高い。

先行研究との違い: これまで、mtp53が高レベルの細胞質DNAを有する腫瘍細胞でIRF3が活性化されない理由や、Bakhoum et al. Nature 2018が示したCINがSTINGを介して転移を促進する一方でIRF3を活性化しないという逆説的な現象の分子メカニズムは不明であった。本研究は、mtp53がTBK1と直接結合することでSTING-TBK1-IRF3複合体形成を阻害するという、これまで報告されていない直接的な分子メカニズムを明らかにした点で、先行研究とは異なる知見を提供する。

新規性: 本研究で初めて、mtp53がTBK1と直接結合し、STING-TBK1-IRF3三量体複合体の形成を阻害することで、cGAS/STING経路からのI型インターフェロン産生を抑制するという新規のgain-of-function機序を同定した。この抑制は細胞自律的なアポトーシスと非自律的な免疫監視の両方を損ない、腫瘍の成長を促進する。また、mtp53がTBK1結合を介して免疫コールドな腫瘍微小環境を形成するという知見も新規である。

臨床応用: TBK1シグナル回復によりmtp53腫瘍の免疫回避が解除されることは、STINGアゴニストやTBK1活性化薬が特にmtp53保有腫瘍において免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との相乗効果を発揮しうることを示唆する。TP53ミスセンス変異は肺癌、乳癌、膵癌、大腸癌など多数のがん種で高頻度に観察されることから、本研究の成果は広範な臨床的意義を持つ。現在STINGアゴニストが単独または化学療法・免疫療法との併用で臨床試験中であり、TP53変異ステータスがSTINGアゴニストへの応答予測バイオマーカーとなりうるという本研究の提案は、患者選択戦略の観点から特に重要である。これは、Sahin et al. Science 2018が提唱する個別化医療の実現に向けた重要な一歩となる。

残された課題: 今後の検討課題として、特定のmtp53アレル (R249S、R280K、R248W、R172H等) ごとのTBK1結合能の差異と腫瘍免疫回避能の違いの系統的評価が残されている。また、異なる癌種でのmtp53-TBK1軸の普遍性検証、ICIとSTINGアゴニストの併用によるmtp53腫瘍への治療効果の定量的評価も重要である。本研究は乳癌・膵癌モデルが中心であり、肺癌など他のmtp53高頻度がん種への応用可能性の検証も今後の研究方向性として挙げられる。さらに、mtp53がTBK1以外の経路を介して免疫微小環境に影響を与える可能性も考慮する必要がある (Cooks et al. NatCommun 2018)。

方法

使用モデル系:ヒト乳癌細胞株BT549 (p53R249S)・MDA-MB-231 (p53R280K)、ヒト膵癌株MIA PaCa-2 (p53R248W)、マウスKPC株 (p53R172H) をmtp53発現細胞として使用した。対照として、H1299 (p53ヌル) およびA549 (WT p53) 細胞株を用いた。p53ヌルMEFとp53R172H/R172H MEFの比較実験も実施した。mtp53のノックダウン・ノックアウトにはshRNA/CRISPR法を、mtp53の誘導発現にはドキシサイクリン誘導性mtp53発現系 (H1299 inducible p53R248W) を構築した。

in vitro 解析:TBK1・STING・IRF3のリン酸化を指標としたWestern blot、免疫沈降、pull-down実験によりmtp53-TBK1の物理的相互作用を検証した。GFP-IRF3を用いた共焦点顕微鏡解析および細胞分画実験によりIRF3の細胞内局在と核移行を評価した。アポトーシスはAnnexin V/PI染色とFACSにより定量した。IFNB1のmRNAと分泌タンパクはRT-PCRとELISAにより定量した。cGAMP・HT-DNA・poly(I:C)・LPS等の各種PAMPリガンドで細胞を刺激し、mtp53の抑制が複数のPRR (pattern recognition receptor) 経路に及ぶかを確認した。

in vivo 実験:syngeneicマウスモデルを2種類使用した。(1) 4T1細胞 (PLVX vs. p53R249S発現) を免疫正常BALB/cマウス (n=10 mice) および免疫不全NOD/SCIDマウス (n=4 mice) の乳腺脂肪体に5×10^4個注射し、day 21まで腫瘍体積・重量を追跡した。(2) KPC細胞 (誘導性EV vs. shp53) をC57BL/6マウスに1×10^5個皮下注射し、ドキシサイクリン (20 mg/kg) を連日経口投与してshp53を誘導しday 21まで追跡した (n=5 mice)。免疫細胞浸潤 (CD3+CD4+・CD3+CD8+・NKp46+NK細胞・F4/80+/CD206+ M2マクロファージ) はIHCにより定量し、CD31染色による血管新生評価、TUNEL染色によるアポトーシス評価を実施した。

TBK1過発現実験:4T1 PLVX/p53R249S細胞にドキシサイクリン誘導性TBK1発現ベクターを導入し、in vitroでIFNB1産生・マクロファージ分極への影響を評価後、BALB/cマウスin vivoモデル (n=5 mice) でTBK1発現が腫瘍成長・免疫浸潤に与える影響を検討した。TCGAの三重陰性乳癌 (TNBC) データでIFNB1とp53変異ステータスの相関 (Pearson相関) を解析した。統計解析にはStudent’s t検定およびPearson相関分析を用いた。