• 著者: Tomer Cooks, Ioannis S. Pateras, Lisa M. Jenkins, Keval M. Patel, Ana I. Robles, James Morris, Tim Forshew, Ettore Appella, Vassilis G. Gorgoulis, Curtis C. Harris
  • Corresponding author: Curtis C. Harris (Laboratory of Human Carcinogenesis, NCI-CCR, National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Nature communications
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-02-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29472616

背景

TP53遺伝子の変異は、ヒトの悪性腫瘍において最も頻度の高い遺伝子異常の一つである。野生型p53の腫瘍抑制機能が失われるだけでなく、特定のミスセンス変異によって獲得される機能獲得型 (gain-of-function: GOF) 変異は、がん細胞自律的な増殖や生存、転移能の亢進に寄与することが知られている。一方で、腫瘍微小環境におけるがん細胞と周囲のストローマ細胞や免疫細胞との相互作用も、がんの進展において極めて重要な役割を果たしている。特に、腫瘍関連マクロファージ (tumor-associated macrophage: TAM) は、固形がんの主要な構成成分であり、一般に免疫抑制的な微小環境を形成し、患者の不良な予後と相関することが多くの先行研究で示されてきた。

がん細胞とマクロファージの間の相互作用を媒介する重要な手段として、細胞外小胞の一種であるエクソソームが注目されている。エクソソームは30~150 nmの微小な小胞であり、タンパク質やmicroRNA (miRNA) などの核酸カーゴを内包して標的細胞へと伝達する。野生型p53がストレス応答時にTSAP6 (tumor suppressor activated pathway 6) を介してエクソソームの分泌を制御することは既報の通りであるが ( Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006 )、機能獲得型変異を持つ変異型p53 (mutp53) がん細胞が、特異的なエクソソームカーゴを介して周囲の免疫細胞を非細胞自律的に再プログラムする詳細な分子機序は、これまで十分に解明されていなかった。

特に、どのような分子メカニズムによって特定のmiRNAが選択的にエクソソームに積載され、それがどのようにマクロファージの表現型シフトを誘導するのかという点については、研究が不足しており、大きなgapが残されていた。がん細胞とストローマ細胞の相互作用が転移ニッチ形成に寄与するとした既報 ( Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015 ) は存在するものの、mutp53による特異的なエクソソーム選別輸送と免疫抑制誘導の連関は不明であった。さらに、エクソソーム内へのmiRNAの選別輸送に関与するRNA結合タンパク質の翻訳後修飾機構、特にSUMO (small ubiquitin-like modifier) 化の役割についても、詳細な機序が未解明のままであった。本研究は、この未解明な課題に焦点を当て、mutp53がん細胞が放出するエクソソームを介した新しい非細胞自律的な腫瘍支持微小環境の形成機序を明らかにすることを試みた。

目的

本研究の目的は、機能獲得型の変異型p53 (mutp53) を保持するヒト大腸がん (colorectal cancer: CRC) 細胞が、特異的なmiRNAカーゴを濃縮したエクソソームを放出することにより、周囲の未分化マクロファージ (M0) や代替活性化マクロファージ (M2) を腫瘍支持的かつ抗炎症的な表現型 (TAM様表現型) へと非細胞自律的に再プログラムする詳細な分子メカニズムを解明することである。さらに、エクソソームへのmiRNAの選択的積載に関与するRNA結合タンパク質の翻訳後修飾機序を特定し、大腸がん患者の臨床検体および血漿サンプルを用いて、このmutp53-エクソソーム-TAM軸の臨床的意義と予後への影響を検証し、新たな治療標的や非侵襲的バイオマーカーとしての有用性を確立することを目指す。具体的には、mutp53がん細胞由来のエクソソームに濃縮されるmiRNAの同定、その選別輸送機構の解明、マクロファージ内での標的遺伝子の同定、および in vivo腫瘍形成・転移促進能の検証を通じて、GOF変異p53による非細胞自律的な発がん機序を明らかにすることを目指す。

結果

mutp53がん細胞によるマクロファージの免疫抑制的表現型への再プログラム: R248W変異型p53を保持するHCT116細胞と共培養したM2マクロファージでは、野生型p53 (WT) またはp53欠損 (null) 細胞と共培養した群と比較して、抗炎症性および腫瘍支持性サイトカインであるIL-10、CCL2、VEGFの発現が著明に増加し、プロ炎症性サイトカインであるTNFαの発現が有意に減少した (p<0.01, n=3 replicates) (Fig. 1a)。また、HT29細胞においてshRNA (short hairpin RNA) を用いてmutp53をノックダウンすると、この表現型シフトは消失した (Fig. 1b)。フローサイトメトリー解析により、mutp53と共培養したマクロファージ表面において、TAMの代表的なマーカーであるCD206およびCD163の陽性率が著しく上昇することが示された (Fig. 1d)。さらに、これらの再プログラムされたマクロファージは、蛍光ザイモサン粒子を用いた貪食能アッセイにおいて貪食活性の低下を示し (Fig. 1e)、ゼラチン分解アッセイにおいて細胞外マトリックス (ECM) の分解能の亢進を示した (Fig. 1c)。xCELLigenceシステムを用いたリアルタイム解析では、遊走能および浸潤能の有意な亢進が確認された (Fig. 1f, g)。H358細胞を用いた変異特異的検証では、R273HやR249SなどのGOF変異体において同様のTAM様シフトが誘導されたが、V157FやR175H変異体では誘導されず、この再プログラム能が特定のGOF変異に依存することが示された。

mutp53由来エクソソームにおけるmiR-1246の選択的濃縮と直接転送: NanoStringアレイ解析により、mutp53を保持するがん細胞から放出されたエクソソームにおいて、複数のmiRNAが特異的に濃縮されていることが判明した。その中で最も顕著な増加を示したのがmiR-1246であり、HCT116 mutp53細胞由来エクソソームで9.11倍、HT29細胞由来エクソソームで16.56倍の発現上昇を示した (Fig. 2g)。絶対定量RT-PCRにより、mutp53由来エクソソーム中には平均8.8 ± 1.92コピー/エクソソームのmiR-1246が存在することが算出された。エクソソーム内RNAの約60%がmiRNAであり、1.386×10^12~1.386×10^6コピーの範囲で標準曲線を作成して絶対定量を行った。スクロース密度勾配遠心法による画分解析では、miR-1246はAlixおよびCD9陽性のエクソソーム画分 (分画5~7) に一致して検出され、RNase処理に対しても保護されていた。サイズ排除クロマトグラフィーを用いてエクソソーム画分と遊離タンパク質画分を分離してマクロファージに添加した実験では、マクロファージの再プログラム (TNFαの低下、IL-10の上昇) はエクソソーム画分でのみ誘導され、遊離タンパク質画分では誘導されなかった (Fig. 3e)。さらに、エクソソーム添加後のマクロファージにおいて、成熟型miR-1246は著明に増加したものの (Fig. 3b)、前駆体であるpre-miR-1246の発現には変化がなく (Fig. 3f)、マクロファージ内のmiR-1246の上昇が内因性の転写活性化ではなく、エクソソームを介した外因性の直接転送によるものであることが証明された。

SUMO化hnRNPa2b1によるmiR-1246のエクソソーム選別輸送機構: miR-1246のエクソソームへの選択的積載メカニズムを解明するため、ビオチン化miR-1246を用いたRNAプルダウンアッセイを実施したところ、RNA結合タンパク質であるhnRNPa2b1が特異的に結合することが質量分析により同定された。hnRNPa2b1は、特定の「exo-motif」配列を認識してmiRNAをエクソソームへ選別輸送することが知られている ( Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013 )。miR-1246の配列内にはこのexo-motifが存在することが確認された。さらに、hnRNPa2b1のエクソソーム選別活性はSUMOylation (SUMO化) 修飾によって制御される。共免疫沈降アッセイの結果、総hnRNPa2b1タンパク質量はWT細胞で高かったものの、SUMO1と結合したSUMO化hnRNPa2b1の量は、mutp53細胞においてWT細胞と比較して約3.0倍に有意に増加していた。この結果は、mutp53がん細胞内において、SUMO化されたhnRNPa2b1がmiR-1246に結合し、エクソソーム内腔への選択的な濃縮を促進していることを示唆している。

再プログラムされたマクロファージによるin vivo腫瘍進展および転移の促進: mutp53がん細胞またはmiR-1246によって再プログラムされたマクロファージの腫瘍支持能をin vivoで検証した。mutp53 HCT116細胞と共培養したM2マクロファージ (n=10 mice) を、新鮮なルシフェラーゼ標識HCT116 WT細胞と混合してNOD/SCIDマウスの皮下に共注射したところ、WT p53細胞と共培養したマクロファージを共注射した群と比較して、腫瘍体積が有意に増大した (p<0.01) (Fig. 4a, b)。また、肺および肝臓への転移巣の数も著明に増加した (p<0.01) (Fig. 4c, d)。同様に、LNA (locked nucleic acid) 化されたmiR-1246模倣体 (mimic) をトランスフェクションして人工的に再プログラムしたM2マクロファージを共注射した群 (n=5 mice) でも、対照群と比較して腫瘍の著しい増大 (Fig. 4e, f) と、脾臓内注射モデルにおける肝転移負荷の有意な増加 (p<0.01) が観察された。

大腸がん患者コホートにおけるmutp53-miR-1246-TAM軸の臨床的相関: 大腸がん患者43例の臨床検体解析 (n=43 patients) において、Tagged Amplicon Deep SequencingによりGOF (gain-of-function) ミスセンス変異を有する「mutp53」群 (n=29) と、野生型またはインデル変異を有する「WT+indels」群 (n=14) に分類した。IHC解析の結果、mutp53群では、腫瘍間質 (特に浸潤先端部) におけるCD163陽性およびCD206陽性のTAMの浸潤密度が、WT+indels群と比較して有意に高かった (p<0.01) (Fig. 5a-d)。CD206陽性マクロファージの浸潤とmutp53ステータスの間に正の相関 (Pearson r=0.68, p<0.01) が認められた。また、55例の腫瘍組織を用いたmiRNAアレイ解析 (n=55 patients) では、miR-1246がmutp53腫瘍において最も強く相関するmiRNAとして同定され (log2FC 2.29, p=0.045) (Fig. 6a)、ISH解析でもmutp53腫瘍の上皮および間質細胞においてmiR-1246の強いシグナルが検出された (Fig. 6b)。FISH-IFダブル染色により、浸潤先端部においてmiR-1246シグナルとCD206陽性マクロファージが共局在していることが確認された (Fig. 6c)。さらに、患者血漿から単離した循環エクソソーム中のmiR-1246レベルは、mutp53群 (n=25 patients) においてWT+indels群 (n=11 patients) と比較して有意に高値を示した (p<0.05) (Fig. 6d)。予後解析において、GOF (gain-of-function) 変異を有する大腸がん患者は、非GOF変異または野生型患者と比較して、全生存期間が有意に短縮していた (p=0.03, log-rank検定) (Fig. 5f)。GSEA (gene set enrichment analysis: 遺伝子セット濃縮解析) では、GOF mutp53群において、IL-10やTGFβシグナル経路 (TGFB1、THBS1、LTBP2 (latent transforming growth factor beta binding protein 2)) 、およびEMT (epithelial-mesenchymal transition: 上皮間葉移行) 関連遺伝子群が選択的に活性化していることが示された (Fig. 7c, d)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、野生型p53がストレス応答時にエクソソーム分泌を制御するという従来の知見や、がん細胞自律的なゲノム不安定性・増殖能亢進に焦点を当ててきた多くの先行研究と異なり、機能獲得型変異p53がエクソソームを介して腫瘍微小環境を非細胞自律的に制御し、免疫抑制的なTAMを誘導するという全く新しい発がん機序を実証した。特に、がん細胞から放出されるエクソソームが、単なる細胞廃棄物ではなく、特異的なmiRNAカーゴを搭載した能動的な通信媒体として機能し、隣接するマクロファージの表現型を直接書き換えることを明確に示した。これは、がん細胞とストローマ細胞の相互作用が転移ニッチ形成に寄与するとした既報 ( Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015 ) の概念を、mutp53による免疫逃避機構へと拡張したものである。

新規性: 本研究で初めて、mutp53がん細胞においてSUMOylation (SUMO化) されたhnRNPa2b1が選択的に増加し、これがmiR-1246の「exo-motif」を認識してエクソソーム内へ特異的に濃縮・積載する分子選別システムを新規に同定した。この発見は、細胞外小胞への核酸カーゴの選別輸送における翻訳後修飾の重要性を示す極めて先駆的な成果である。また、転送されたmiR-1246がマクロファージ内で標的遺伝子群 (IL17A (interleukin-17A)、IL7R (interleukin-7 receptor)、LEF1 (lymphoid enhancer binding factor 1) など) を抑制し、TGFβやIL-10の分泌亢進を伴う抗炎症性・腫瘍支持性表現型への再プログラムを直接トリガーすることを明らかにした。さらに、この機構が特定のGOF (gain-of-function) 変異 (R248W、R273H、R249S) に限定されることを示し、mutp53の変異特異的な機能を初めて実証した。

臨床応用: 本知見は、大腸がんにおける精密医療および診断技術の臨床応用に直結する。特に、患者血漿から単離した循環エクソソーム中のmiR-1246レベルが、組織中のmutp53ステータスおよび浸潤先端部におけるCD206陽性TAMの密度と正に相関し、予後不良と関連するという結果は、非侵襲的な液体生検 (liquid biopsy) バイオマーカーとしての臨床的有用性が極めて高いことを示している。また、mutp53の野生型への構造復元薬、エクソソーム分泌阻害剤、あるいはmiR-1246を標的とするLNA阻害剤と、TAMをM1型へ再分極させる免疫療法の併用など、微小環境を標的とした新規治療戦略の創出が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、mutp53がどのような上流シグナルを介してhnRNPa2b1のSUMOylation (SUMO化) 酵素活性を亢進させているのか、その具体的な中間分子経路の解明が残されている。また、本研究のlimitationとして、検証した患者コホートが43例と比較的少数であるため、より大規模な多施設共同コホートによるmutp53変異種ごとの詳細な臨床相関の検証が必要である。さらに、miR-1246含有エクソソームがマクロファージ以外の微小環境構成成分 (線維芽細胞やT細胞など) に及ぼす影響についても、今後の研究においてさらなる解明が求められる。加えて、本研究で同定されたmiR-1246の標的遺伝子 (IL17A (interleukin-17A)、IL7R (interleukin-7 receptor)、LEF1 (lymphoid enhancer binding factor 1)、S1PR1、BCL2、CD96) の機能的検証と、それらの下流シグナル経路の詳細な解析も重要な課題として残されている。

方法

細胞株として、野生型、p53欠損、およびR248W変異型p53を保持するHCT116細胞、R273H変異型p53を保持するHT29 (ヒト大腸がん細胞株) 細胞、およびp53誘導発現系を持つH358細胞を用いた。初代ヒトCD14陽性単球を健康なドナーの末梢血単核球から分離し、M0、M1、M2マクロファージへと分化誘導した。がん細胞とマクロファージの共培養には、細胞間接触を防ぐ0.4 μmポアサイズのトランズウェルシステムを使用した。

エクソソームの単離は、超遠心法 (100,000×g) と0.22 μmフィルター精製を組み合わせた標準的なプロトコル ( Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006 ) に従って実施した。単離したエクソソームのキャラクタライズには、NTA (nanoparticle tracking analysis: ナノ粒子トラッキング解析)、TEM (transmission electron microscopy: 透過型電子顕微鏡)、およびAlix、TSG-101、CD9、Calnexinに対する抗体を用いたウェスタンブロット (WB) 解析 ( Baietti et al. NatCellBiol 2012 ) を適用した。

エクソソーム内のmiRNAプロファイリングには、800種類のヒトmiRNAを検出可能なNanoString nCounterシステムを使用し、定量的リアルタイムPCR (qPCR) によって検証した。miRNAのエクソソームへの選択的積載機構を解明するため、ビオチン化miR-1246を用いたRNAプルダウンアッセイと液相クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS/MS) を行い、結合タンパク質としてhnRNPa2b1 (heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A2/B1) を同定した。さらに、hnRNPa2b1のSUMOylation (SUMO化) 状態を評価するため、SUMO1とhnRNPa2b1の共免疫沈降 (co-IP) アッセイを実施した。

in vivoでの腫瘍形成能および転移能の評価には、NOD/SCID (non-obese diabetic/severe combined immunodeficiency) マウスを用い、mCherry-ルシフェラーゼ標識HCT116細胞と再プログラムされたマクロファージを皮下または脾臓内に共注射した。臨床的検証として、43例の大腸がん患者のFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded: ホルマリン固定パラフィン包埋) 組織からDNAを抽出し、TP53の全エキソンを対象としたTagged Amplicon Deep Sequencing (平均深度15,000倍、アライメントには Li et al. Bioinformatics 2009 を使用) を実施した。免疫組織化学 (IHC) 染色、in situハイブリダイゼーション (ISH)、およびFISH-IF (fluorescence in situ hybridization-immunofluorescence: 蛍光in situハイブリダイゼーション-免疫蛍光染色) を用いて、組織内のp53、CD206、CD163、FOXP3、およびmiR-1246の局在と発現強度を定量評価した。統計解析には、2群間比較のためのStudent’s t-test、生存率解析のためのKaplan-Meier法およびlog-rank検定を用いた。