- 著者: Helleday T, Eshtad S, Nik-Zainal S
- Corresponding author: Thomas Helleday (Karolinska Institutet); Serena Nik-Zainal (Wellcome Trust Sanger Institute)
- 雑誌: Nature Reviews Genetics
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-07-01
- Article種別: Review
- PMID: 24981601
背景
大規模がんゲノムシーケンシング技術の進展により、がんゲノムに蓄積される体細胞変異がランダムではなく、特定のパターン(変異シグネチャー)を示すことが明らかになった。Nik-Zainal et al. Cell 2012は、乳癌の全ゲノム解析を通じて、96種類の塩基置換パターン(6種の塩基置換と前後の塩基文脈16種)に基づく変異シグネチャー解析の枠組みを確立し、非負値行列因子分解(NMF)を用いて複数のシグネチャーが抽出されることを示した。この画期的な研究に続き、Alexandrov et al. Nature 2013は、7,000例以上の30癌種のがんゲノムデータから21種の異なる変異シグネチャーを同定し、これらのシグネチャーがヒトのがんにおいて普遍的に存在することを示した。これらのシグネチャーは、患者の生涯にわたって作用した複数の変異原性プロセス、すなわちDNA損傷の種類とDNA修復経路によって形成される特有の「痕跡」であると考えられている。
がんの発生は、細胞が多重の変異プロセスに曝露され、それらが蓄積した結果として生じる。最終的ながんの「変異ポートレート」は、これらの各変異プロセスのシグネチャーの複合体として現れる。しかし、これらのシグネチャーが、過去に活性であったが現在は消滅した「歴史的(historical)」なプロセスを反映しているのか、あるいは現在もがんの進行を駆動している「現在進行中(ongoing)」のプロセスを反映しているのかを区別することは、がんの病因解明と治療戦略の立案において極めて重要である。現在進行中の変異プロセスは、予後予測因子、治療感受性予測因子、および新たな治療標的としての可能性を秘めているが、歴史的プロセスは過去の暴露を示すものの、現在の治療標的としての価値は限定的である。
これまでの研究では、個々の変異シグネチャーの存在が示されてきたが、その背景にあるDNA損傷および修復メカニズムに関する体系的な理解は未解明な部分が多かった。特に、塩基置換だけでなく、挿入・欠失(インデル)や構造変異といった異なる種類の変異が形成するシグネチャーについても、その機序を包括的に論じる必要があった。このような知識の不足は、変異シグネチャーを臨床応用へと繋げる上での大きな課題であった。本レビューは、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。
目的
本レビューの目的は、がんゲノムで同定される変異シグネチャーの背景にあるDNA損傷および修復メカニズム(内因性および外因性要因)を体系的にレビューし、各シグネチャーと生物学的プロセスの対応関係を整理することである。具体的には、塩基置換シグネチャーのみならず、インデルシグネチャーおよび構造変異シグネチャーの形成機序についても包括的に論じる。これにより、がんの生物学的履歴の理解を深め、将来的な診断および治療戦略の開発に資する知見を提供することを目指す。また、現在進行中の変異プロセスと歴史的プロセスを区別する重要性を強調し、その臨床的意義を考察する。
結果
変異シグネチャーの概念的枠組みとNMF解析の方法論: 変異シグネチャー解析の基礎は、96種類の塩基置換トリヌクレオチドコンテキスト(6塩基置換クラス×前後の塩基文脈16種)に基づく変異スペクトラムの記述にある。6塩基置換クラスはC>A、C>G、C>T、T>A、T>C、T>Gであり(ピリミジン塩基を変換塩基として表記)、それぞれ前後の塩基(A・C・G・T各4種)との組み合わせで96の変異トリヌクレオチドを形成する。各がんサンプルの変異カタログはこの96次元空間での「がんの顔 (face) 」に例えられ、NMFを用いてこれら「顔」の集合から共通の基底「特徴 (feature) 」—変異シグネチャー—を抽出する。NMFは複雑多次元データセットから共通の潜在パターンを非負値制約のもとで因子分解する手法であり、NMFが抽出する各96次元シグネチャーは1つの変異プロセスを反映していると仮定される。さらに各シグネチャーのがんへの寄与量を定量化することで、どの変異プロセスが各症例でどの程度活性だったかを推定できる。Alexandrov et al. Nature 2013は7,000例以上の30癌種から21種の変異シグネチャーを同定し、このアプローチの広範な適用可能性を実証した。96次元パターンの一要素(例:TpCpNコンテキストのC>T変換)が特定の変異プロセスを示唆する「マーカー」となり得るが、シグネチャー全体(96次元パターンの集合)がシグネチャーの定義であり、単一の変換クラスではない。本レビューが重要視するのは「現在進行中 (ongoing) 」の変異プロセス:これらは進行中の生物学的活動を反映し、予後指標・治療感受性予測因子・治療標的としての活用可能性がある。一方「歴史的 (historical) 」プロセスは過去の暴露を反映するが、現在がんの増殖を駆動していないため治療標的としての価値は限定的である。
内因性DNA損傷に起因する変異シグネチャー:加齢・APOBEC・酸化的損傷: 内因性変異プロセスの中で最も普遍的なのは5-メチルシトシンのCpGジヌクレオチドでの自然的脱アミノ化(→チミンへの変換)である。これはDNA複製から独立して自然に進行し、哺乳類ゲノムのCpGジヌクレオチド枯渇の原因と考えられるほど進化的に大量に蓄積してきた。その結果生じるNpCpGコンテキストのC>T転換が、25癌種以上で同定されたSignature 1AおよびSignature 1Bに対応する。注目すべきことに、これらのシグネチャーに関連する変異負荷は、複数の癌種(AML・乳癌・グリオーマ・頭頸部癌・明細胞腎癌・悪性黒色腫・卵巣癌、および小児ALL・神経芽腫)で診断時の患者年齢と相関しており、このプロセスが悪性転換前から細胞内で進行していることを示唆する。APOBECファミリータンパク質(APOBEC1、APOBEC3A、APOBEC3B、APOBEC3C)はmRNA編集・レトロウイルス防御のためにシトシンを脱アミノ化するが、がん細胞ではゲノムDNAへの異所的な活性化により大量のC>UへのTpCコンテキスト変換が生じ、これがC>T転換(Signature 2)およびC>G転換(Signature 13)として固定される。乳癌・肺癌・頭頸部癌など16以上の癌種でAPOBEC変異シグネチャー(Signature 2・13)が検出され、APOBEC3BおよびAPOBEC3Aの発現レベルとTpCコンテキスト変異負荷との相関が報告されている。興味深いことにSignature 2とSignature 13は同一のTpCコンテキストを持つ(同じDNA損傷酵素が関与)が、Signature 13では転換(C>G)が卓越し、Signature 2では転移(C>T)が優位であることから、同じDNA損傷ステップに続く修復・複製ポリメラーゼの種類に違いがあると推察される(Figure 2)。APOBEC3AとAPOBEC3Bの隣接遺伝子を含むコピー数多型(APOBEC3B欠失多型)が乳癌感受性アレルとして機能し、この多型の保有者ではSignature 2・13関連変異を持つがんが2.37倍増加するという観察は、APOBECが変異の直接的な原因であることを支持する。また、APOBEC変異シグネチャーは一本鎖DNAを基質とする一連の変換として現れ(同一染色体上で連続するC変換が同一ストランドにコリニア)、APOBECが一本鎖DNAを好んで脱アミノ化するという生化学的特性と一致する。フリーラジカル種(活性酸素種・窒素酸化物)は正常な細胞代謝・アポトーシス・炎症反応の副産物として生成され、25種以上の酸化的DNA塩基損傷を引き起こす。最も研究が進んでいる8-oxo-2’-deoxyguanosineはアデニンと水素結合しやすく、GpGpG配列特異性を持つG>T転換(in vitro)を生じさせるが、現時点でこの酸化的損傷に特異的に帰属されたヒトがんシグネチャーは存在せず、G>T変換が主体のSignature 8・18が候補として注目されている。
外因性DNA損傷に起因する変異シグネチャー:UV光・タバコ・化学発がん物質: 外因性変異原は物理的・化学的性質を持つ。紫外線(UV)は非電離放射線として隣接するピリミジンヌクレオチド間に共有結合修飾((6-4)ピリミジン光産物・シクロブタンピリミジンダイマー(CPD))を引き起こす。ジピリミジンコンテキストでのC>T変換優位(CC>TT二重置換を含む)かつ転写鎖バイアスを示すSignature 7は皮膚がん(扁平上皮がん・悪性黒色腫)に特徴的であり、CC>TTジヌクレオチド変換は変異負荷全体の25%に達することもある。転写鎖バイアスはTCR(転写共役修復)が転写鎖側の損傷を非転写鎖より効率よく修復することに起因する。タバコに含まれるベンゾ[a]ピレン(B[a]P)のジオールエポキシドはグアニンへの嵩高い付加体を形成し、methylated CpGジヌクレオチドへの選択的親和性を持つG>T転換(Signature 4)を引き起こす。転写鎖バイアスも認められ(NERによるTCRが活性)、肺癌で特に高頻度に検出される(Figure 2)。アリストロキア酸(特定の薬草成分、アリストロキア腎症の原因)はアデニン付加体を形成しA>T転換(Signature 22)を特徴とし、上部尿路上皮癌との強い関連が示された(アリストロキア酸暴露の地域的差異を反映したゲノムスクリーニングツールへの応用も提案)。プソラレン(乾癬などの炎症性疾患に使用される光線療法薬)はTpAコンテキストのピリミジン変異を生じさせる。アルキル化化学療法薬(シクロホスファミドやテモゾロミドなど)は治療後のがんゲノムにC>T転換(Signature 11)を残し、過去の治療歴をゲノムに刻印する。これらの外因性変異原によるシグネチャーは、がん患者の発がん物質への暴露歴や治療歴を後方視的に明らかにする手段となり得る。
DNA修復経路欠損とシグネチャー:BER・NER・MMR・HR: DNA修復の各経路はそれぞれ固有の変異シグネチャーを生成する機序を持つ。塩基除去修復(BER)では損傷塩基がDNAグリコシラーゼにより除去されてAPサイト(abasic site)が形成され、APEX1によるニック導入・Pol βによるギャップ充填・LIG3-XRCC1による封止が続く。修復完了前に複製が進むと誤塩基挿入が起きC>T変換などが固定される。マウス胚線維芽細胞での特定グリコシラーゼ欠損実験から、SMUG1欠損はC>T転換に、OGG1欠損はG>T転換に関連することが示されたが、ヒトのBER経路特異的な96次元シグネチャーの帰属はまだ完成していない。ヌクレオチド除去修復(NER)はUV損傷やB[a]P付加体など嵩高なDNA歪みを非特異的に認識して修復する。TCR(転写共役修復)による転写鎖の優先修復はSignature 7(UV関連)・Signature 4(B[a]P関連)・Signature 22(アリストロキア酸関連)での転写鎖バイアスを説明する。また転写鎖バイアスを示すが原因不明のSignature 5・8・12・16も同定されており、これらがTCRにより修復されるDNA損傷剤に起因する可能性が議論されている。MMR(ミスマッチ修復)は複製関連ミスマッチ・誤挿入インデルを修復し、MMRはエラー率を10⁻⁷から10⁻⁹へ100倍以上低下させる。MMR欠損(特にMLH1メチル化を含む二アレル性体細胞変異)はSignature 6(NpCpGコンテキストのC>T転換とCpCpCコンテキストのC>A転換の組み合わせ)と関連し、同時に数千の1 bpインデル(マイクロサテライト不安定性)を伴うことが特徴である。さらにSignature 20と新規Signature 26もMMR欠損と関連することが示された(Nik-Zainal、未発表データ)。BRCA1/BRCA2欠損による相同組換え(HR)欠損はSignature 3(全96塩基置換クラスにわたる比較的均一な変異分布)と関連し、乳癌・卵巣癌・膵癌で報告されている。BRCA1はDNA末端のリセクションを制御し、BRCA2はRAD51のssDNAへの装填に必要であり、これらの欠損でHR経路が使えなくなると代替的な修復経路(NHEJ・MMEJ)が利用され特定のインデルシグネチャーを生じさせる。
複製エラーによるシグネチャー:Pol ε変異と低忠実度ポリメラーゼ: DNA複製の高忠実度はPol δとPol εの3’-5’エキソヌクレアーゼ校正活性によって達成されており(エラー率10⁻⁷/ヌクレオチド)、さらにMMRによる後複製的修正が加わる。Pol εの体細胞・生殖細胞系列変異はColorectal癌・子宮体癌で超高変異型(hypermutated)がんと関連し、Signature 10(TpCpGコンテキストでのC>A・C>T変換)を生じさせる(Figure 2)。このSignature 10関連の変異率上昇はPol εの校正能喪失のみで説明できないほど高く、複製忠実度の明確な欠陥または能動的な変異誘発プロセスを示唆する。低忠実度エラープローンポリメラーゼ(Pol η・Pol ι・Pol κ・DNA repair protein REV1)はDNA損傷の許容とトランスレジョン合成(TLS)を可能にするが(エラー率10⁻⁴〜10⁻¹)、校正機能がなく高いエラー率を持つため多様な変異シグネチャーを生成する。APサイトでの「Aルール」(プリン欠失に対してアデニンを挿入する傾向)はアデニン欠失時のA>T転換・グアニン欠失時のC>A転換を生じさせる。T>G転換(Signature 9)は血液系悪性腫瘍の免疫グロブリン遺伝子座での体細胞超変異においてPol ηの活動に帰属されているが、正確な機序は不明である。REV1はC>G転換シグネチャーを生成する(Figure 2)。dNTP(デオキシヌクレオシド三リン酸)プールの不均衡も複製関連変異誘発に寄与し、がん発生早期の細胞周期調節障害による増加したdNTP需要が複製忠実度に影響する可能性が示唆されている。
インデルシグネチャーとその機序: インデルシグネチャーの解析は塩基置換シグネチャーに遅れているが、2つの主要パターンが同定されている。小型1〜3 bpインデル(反復配列内)はSignature 6(MMR欠損)と関連し、大腸・子宮・腎・肝・前立腺・食道・膵臓癌でSignature 6および小インデルを大量に蓄積することが確認されている。MMR欠損によるマイクロサテライト不安定性は複製スリッパージにより反復配列でのインデルを生じさせる。一方、より大型のインデル(4〜約50 bp、末端マイクロホモロジーを持つ)はSignature 3(乳癌・卵巣癌・膵癌での均一変異分布)と関連し、BRCA1/BRCA2の不活化変異と強く相関する。BRCA1はHRに不可欠であり、BRCA2はRAD51のssDNAへの装填に必要であり、これらの欠損細胞では代替的なDSB修復経路(MMEJ:マイクロホモロジー媒介末端結合)が利用されてマイクロホモロジーを伴うインデルが増加すると考えられる。現時点ではBRCA1欠損とBRCA2欠損という異なるHR経路の障害が同一のインデル表現型を示す正確な機序は不明であり、BRCA1/2が共通する別の機能を通じてこのインデルシグネチャーに寄与しているか、あるいはHR欠損細胞でのトランスレジョン合成の増加によるものかが議論されている。
構造変異シグネチャー:タンデム重複・Chromothripsis・Chromoplexy・Kataegis: 構造変異(SV)はがんゲノムで数個〜数百個が観察され、ドライバー事象(癌遺伝子増幅・腫瘍抑制遺伝子欠失・融合遺伝子形成)とパッセンジャー事象が混在する。SVはDSB(二本鎖切断)から直接または間接的に生じ、修復機序がシグネチャーを決定する。タンデム重複(head-to-tail方向の同一配列の重複)はマイクロホモロジーを持つ結合点を特徴とし、乳癌・卵巣癌でBRCA1二アレル性欠失と関連することが報告された。合成依存性末端結合(SDEJ)機序として、複製フォーク停止→姉妹染色分体へのストランド侵入(BIR:break-induced replication開始)→ブランチマイグレーションによる侵入ストランドの解放→MMEJによる結合→タンデム重複という経路が提唱された(Costantino et al., Science 2014で実証)(Figure 5a)。Chromothripsis(数十〜数百の局所クラスタリングSV、2〜3 copy-number statesのオシレーション)は単一の壊滅的一過性イベントで生じると考えられ、double-minuteなどの小型環状染色体形成につながり癌遺伝子増幅をもたらす可能性がある。Chromoplexy(chromoplexia;複数染色体にわたる鎖状再構成)は複数染色体が関与する複雑な再構成であり(前立腺癌で特徴的に報告)、特定の病態生理学的機序はまだ帰属されていない。Kataegis(変異とSVの共局在する局所超変異クラスター)の機序として、DSBエンドリセクションにより露出したssDNA(APOBEC酵素の基質)に対してAPOBECが連続的に脱アミノ化を行うという仮説が最も支持されており、Nik-Zainal et al. Cell 2012によりAID/APOBECがDNA切断近傍でkataegisに類似した変異シャワーを引き起こすことが実証された。免疫グロブリン遺伝子座関連SVとしては、RAG1/RAG2によるV(D)J組換えの誤活性化によるIGH-BCL2融合(濾胞性リンパ腫)やAIDによる活性化依存性脱アミノ化からのDSBとIGH-C-MYC転座(Burkittリンパ腫)が記述された(Figure 5c, 5d)。これらの免疫関連SVは非ランダムな分布を示し(MMEJ関与)、AIDの配列特異性(5’プリン前置シトシン変換)に一致する変異シグネチャーを持つ。
考察/結論
変異シグネチャーの解析は、がん発生メカニズムの理解において革命的な進歩をもたらした。本レビューは、塩基置換シグネチャー、インデルシグネチャー、および構造変異シグネチャーという3レベルの変異クラスを統合して論じ、各シグネチャーが特定のDNA損傷・修復プロセスと対応することを示した。
先行研究との違い: これまでの研究、特にAlexandrov et al. Nature 2013は、大規模がんゲノムから変異シグネチャーを数学的に抽出することに焦点を当てていた。それと異なり、本レビューは、これらのシグネチャーの背景にある生物学的機序を体系的に解読し、内因性および外因性のDNA損傷源、ならびにDNA修復および複製経路との関連性を詳細に整理した点で独自の貢献を持つ。
新規性: 本研究で初めて、塩基置換、インデル、構造変異という変異の3形態を統合した枠組みを提示し、さらに「歴史的プロセス」と「現在進行中のプロセス」という概念を明示的に区別し、その臨床的意義を論じたことは新規な知見である。これにより、がんゲノムが単なる変異の集合ではなく、がんの生物学的履歴を読み解く「病歴書」として機能するという新たな視点を提供した。
臨床応用: 変異シグネチャーは、がんの診断、予後予測、および治療選択において重要な臨床的意義を持つ。例えば、Signature 3はBRCA1/2欠損による相同組換え(HR)欠損の代替バイオマーカーとして機能し、白金系薬剤やPARP阻害剤への感受性予測に活用できる可能性がある。MMR欠損に関連するSignature 6および関連シグネチャーは、マイクロサテライト不安定性(MSI)の検出代替手段として、免疫チェックポイント阻害薬(例:ペンブロリズマブ)の応答予測に利用され、MSI-H/dMMR(高頻度マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復欠損)はがん種横断的な薬剤承認(FDA 2017年)につながった。また、Signature 4の変異負荷を解析することで、タバコ暴露量の後方視的推定が可能となり、肺癌の疫学研究や予防戦略に貢献する。
残された課題: 今後の検討課題として、現在78種以上(COSMIC v3.3)のSBSシグネチャーが同定されているが、そのすべてについて生物学的対応付けが完了しているわけではない点が挙げられる。稀少なシグネチャーの生物学的意義の解明、複数の変異プロセスが重複して生じるシグネチャーの明確な分離方法の開発、そしてserial biopsiesや細胞株実験を通じた進行中の変異プロセスの動的同定が今後の研究で必要とされる。また、変異シグネチャーと薬剤応答の因果関係をさらに深く理解し、個別化医療への応用を加速させるための大規模な臨床試験が求められる。これらの課題を克服することで、変異シグネチャーは各患者のがんの「病歴書」として機能し、過去の暴露歴の解読から将来の治療戦略まで、がんゲノム医療の中心的ツールになると展望される。
方法
本論文はレビュー論文であり、がんゲノムにおける変異シグネチャーの背景にあるDNA損傷および修復メカニズムに関する既存の科学的知見を体系的に統合し、解説した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Science などの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索期間は2014年までとし、主要なキーワードとして「mutational signatures」「DNA damage」「DNA repair」「cancer genomics」「APOBEC」「NMF」などを組み合わせた。得られた文献は、変異シグネチャーの同定、生物学的機序の解明、および臨床的意義に関するエビデンスレベルに基づいて評価され、本レビューの目的に合致するものが選択された。
まず、変異シグネチャー解析の概念的枠組みを説明した。これは、6種類の塩基置換(C>A, C>G, C>T, T>A, T>C, T>G)と、変異した塩基の5’および3’側の隣接塩基(A, C, G, Tの各4種)を組み合わせた96種類のトリヌクレオチドコンテキストに基づく。この96次元の変異スペクトラムは、各がんサンプルの「変異の顔」として表現され、NMF(非負値行列因子分解)という数学的アルゴリズムを用いて、これらの複雑なデータセットから共通の潜在パターン、すなわち変異シグネチャーを抽出する方法が解説された(Box 1)。NMFは、各96次元シグネチャーが特定の変異プロセスを反映していると仮定し、各シグネチャーのがんへの寄与量を定量化することで、各症例でどの変異プロセスがどの程度活性であったかを推定する。主要なデータソースとして、Alexandrov et al. Nature 2013が7,000例以上の30癌種から21種の変異シグネチャーを同定した研究が参照された。
次に、以下の主要な要因に基づいて変異シグネチャーの機序を詳細に論じた。
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内因性DNA損傷:
- 5-メチルシトシンの自然脱アミノ化(CpGジヌクレオチドでのC>T転換)
- APOBEC(apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide)ファミリータンパク質によるシトシン脱アミノ化(TpCコンテキストでのC>TおよびC>G転換)
- フリーラジカルによる酸化的DNA損傷(8-oxo-2’-deoxyguanosineなど)
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外因性変異原:
- UV光(ジピリミジンコンテキストでのC>T転換、CC>TT二重置換)
- タバコ煙中のベンゾ[a]ピレン(グアニン付加体形成によるG>T転換)
- アリストロキア酸(アデニン付加体形成によるA>T転換)
- アルキル化剤(C>T転換)
- プソラレン(TpAコンテキストのピリミジン変異)
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DNA修復経路の欠損:
- BER(塩基除去修復)
- NER(ヌクレオチド除去修復)およびTCR(転写共役修復)
- MMR(ミスマッチ修復)欠損(マイクロサテライト不安定性および特定の塩基置換シグネチャー)
- HR(相同組換え)欠損(BRCA1/2欠損と関連するシグネチャー)
- NHEJ(非相同末端結合)
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DNA複製エラー:
- Pol δおよびPol εの校正機能欠損(特にPol ε変異によるSignature 10)
- 低忠実度トランスレジョンポリメラーゼ(Pol η, Pol ι, Pol κ, REV1)の関与
- dNTP(デオキシヌクレオシド三リン酸)プールの不均衡
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インデルシグネチャー:
- MMR欠損と関連する小型1〜3 bpインデル(反復配列内)
- BRCA1/2欠損と関連する大型4〜約50 bpインデル(マイクロホモロジーを持つ)
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構造変異シグネチャー:
- タンデム重複(SDEJ: synthesis-dependent end-joining)
- Chromothripsis(局所的な数十〜数百のクラスター化SV)
- Chromoplexy(複数染色体にわたる鎖状再構成)
- Kataegis(変異とSVが共局在する局所超変異クラスター、APOBECの関与)
- 免疫グロブリン遺伝子座関連SV(RAG1/RAG2、AIDの関与)
これらのメカニズムが、どのようにして特定の変異シグネチャーを形成するのかを、生化学的特性、細胞生物学的プロセス、および臨床的観察に基づいて詳細に解説した。特に、各シグネチャーが「現在進行中」のプロセスを反映しているか、「歴史的」なプロセスを反映しているかを区別することの重要性が強調された。