• 著者: Anzalone AV, Randolph PB, Davis JR, Sousa AA, Koblan LW, Levy JM, Chen PJ, Wilson C, Newby GA, Raguram A, Liu DR
  • Corresponding author: Liu DR (Broad Institute / Harvard University)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-10-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31634902

背景

ヒトで知られる75,122件の疾患関連遺伝的バリアント、ClinVar (Clinical Variation database、2019年7月時点) のうち、大部分は特定の挿入・欠失・塩基置換であり、ゲノム編集による修正が期待されている。しかし従来のCRISPR-Cas9 (CRISPR: Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats; Cas9: CRISPR-associated protein 9) ヌクレアーゼは二本鎖DNA切断 (DSB: double-strand break) を生じさせ、indel (insertion/deletion変異) 形成・染色体転座・p53活性化といった望ましくない副作用を伴う (Jinek et al. 2012; Cong et al. 2013; Mali et al. 2013)。相同組換え修復 (HDR: homology-directed repair) はドナーDNA鋳型を必要とし、非分裂細胞では効率が特に低く、余剰indelが常に問題となる。先行研究において、DSBがp53を介するDNA損傷応答を活性化することが報告されており (Haapaniemi et al. 2018; Ihry et al. 2018)、ゲノム編集の治療応用に対する重大な安全上の懸念となっていた。Kosicki et al. 2018 も、CRISPR-Cas9による二本鎖切断が大規模な欠失・複雑な再配列を引き起こすリスクを報告し、HDR非依存の精密編集技術への需要を高めていた。

先行する塩基編集 (base editing) 技術はシトシン塩基編集 (CBE: cytidine base editor) とアデニン塩基編集 (ABE: adenine base editor) の2種が開発され、4種の転移変異 (C→T、G→A、A→G、T→C) のみをカバーしていた (Komor et al. 2016; Gaudelli et al. 2017)。8種のトランスバージョン変異・標的挿入・標的欠失には依然として対応できず、ClinVarの疾患バリアントの多くを占めるこれらのカテゴリへの精密対応が未解明のままであった。Rees and Liu 2018 はbase editingの限界を包括的に論じたが、トランスバージョン変異や挿入欠失への解決策は提示できなかった。この問題は「何が足りなかったか」として明確であり、DSBもドナーDNAも必要としない包括的な精密編集技術が不足していた。

目的

二本鎖切断もドナーDNA鋳型も必要とせず、12種全ての塩基置換・標的挿入・標的欠失 (およびその組み合わせ) をヒト細胞のゲノムに正確に導入できる新規ゲノム編集技術 (prime editing: プライム編集) を開発し、その効率・精度・オフターゲット性を既存技術 (CRISPR-Cas9 HDR・base editing) と体系的に比較すること。

結果

PE1からPE3への段階的改良と編集効率の向上:PE1は野生型M-MLV RTを使用し、HEK293T細胞で最大編集効率0.7〜5.5%、平均indel 0.2±0.1% (n=3 biological replicates、5部位) を達成した (Fig. 2a)。PE2ではRT5変異 (D200N、L603W、T306K、W313F、T330P) により点変異編集効率が1.6-fold〜5.1-fold 向上した (Fig. 2a)。PE3では未編集鎖に追加ニックを導入し、5部位のうち4部位で効率が1.5-fold〜4.2-fold 向上、典型的な編集効率20〜50%・indel 1〜10% (最高部位の平均indel 6.8%、n=3 biological replicates) を達成した (Fig. 3b)。PE3bではニックsgRNAを編集済み鎖特異的に設計し、indelをPE3比で13-fold 削減 (0.74% vs 6.0〜8.5%) しつつ編集効率は維持された (Fig. 3c、n=3 biological replicates)。

12種全塩基置換および多様な編集の網羅的実証:HEK3座位において+1〜+8位の全24通りの一塩基置換をPE3で実施し、平均編集効率33±7.9%・平均indel 7.5±1.8% (n=3、全12種塩基置換を網羅) を達成した (Fig. 4a)。34 nt RT鋳型を用いた長距離編集では+12〜+33位の点変異を36±8.7%の効率で導入した (Fig. 4b)。1 bp挿入は平均32±9.8%・3 bp挿入は平均39±16%、1 bp欠失は平均29±14%・3 bp欠失は平均32±11% (beyond-target indel 6.8±5.4%) であった (Fig. 4f)。5〜80 bpの精密欠失はHEK3にて52〜78%の高効率で達成された (Fig. 4g)。複合編集 (挿入+欠失+点変異の組み合わせ) 12種を平均55%の効率・6.4% indelで実施できた (Fig. 4h)。合計175以上の編集が12座位・4細胞株で系統的に実施されており、全塩基置換種の網羅的実証として前例のない規模である。

疾患バリアント修正の実証:HBB (hemoglobin β: ヘモグロビンβ鎖遺伝子) E6V (鎌状赤血球症原因変異: A·T-to-T·A transversion) をPE3で58%の効率・1.4% indelで野生型HBBに修正し、単一実験から6クローンのホモ接合体 (三倍体) を樹立した (Fig. 5a、n=3 biological replicates)。14 pegRNA系統解析では野生型HBB修正効率26〜52% (mean indel 2.8±0.70%、n=14 pegRNA) を達成し、HDRと比べて編集/indel比が平均270-fold 高かった。HEXA (hexosaminidase A: ヘキソサミニダーゼA遺伝子) 1278+TATC (テイ-サックス病原因: 4 bp挿入) の欠失修正をPE3bで33%の効率・0.32% indelで実施 (43 pegRNA中19種で編集効率≥20%、最良pegRNA使用; Fig. 5b)。PRNP (prion protein: プリオンタンパク質遺伝子) G127V (プリオン病耐性保護変異: G·C-to-T·A transversion) の単一塩基変換をPE3で53%・1.7% indelで達成し、2ホモ接合体クローンを樹立した (n=4 biological replicates; Fig. 5c)。

オフターゲット編集の著明な低減:4座位 (HEK3・HEK4・EMX1・FANCF)・各4個の既知Cas9オフターゲット部位 (計16部位) を解析した結果、PE3/PE2では16部位中3部位のみに検出可能なオフターゲット編集が確認され、1部位のみ≥1% (他は<0.1%) であった (Extended Data Fig. 6h)。Cas9+sgRNAの平均オフターゲット効率が各座位16±16%〜60±26%に達したのに対し、PE3のオフターゲットはHEK3: <0.1%、HEK4: <2.2±5.2%、EMX1: <0.1%、FANCF: <0.13±0.11% と著明に低かった。HEK4オフターゲット3では、Cas9+pegRNAが97%で編集したのに対しPE2+pegRNAでは0.2%のみで、約485倍の特異性向上を示した。pegRNAの設計上、3段階のDNAハイブリダイゼーション (スペーサー-標的・PBS-標的・RT産物-標的) がオフターゲット部位でいずれかのステップで不適合となるため、精密塩基変換が生じないことがこの選択性の分子的根拠となっている。

多細胞種への適用可能性と非分裂細胞での機能実証:HEK3座位の編集効率はK562細胞 (慢性骨髄性白血病) で15〜30%・indel 0.85〜2.2%、U2OS細胞 (骨肉腫) で7.9〜22%・indel 0.13〜2.2%、HeLa細胞で12%・indel 1.3% を達成した (Fig. 5e、各条件n=3)。初代マウス皮質神経細胞 (E18.5 C57BL/6、非分裂細胞、100,000細胞/well播種) では分割インテインPE3レンチウイルスシステムを用いてDNMT1 (DNA methyltransferase 1) の平均7.1%の編集・0.58% indelを達成 (ソートGFP陽性核)、同システムのCas9は平均31% indelを誘発した (Fig. 5d)。His6タグ (18 bp、65%)・Flagエピトープタグ (24 bp、18%)・loxPサイト (44 bp、23%) の精密挿入も達成され (Fig. 5g)、任意配列の精密挿入能力が示された。

ClinVar疾患バリアントへの理論的適用範囲:ClinVar 75,122件の疾患関連バリアントについて解析した結果、85〜99%の挿入・欠失・複製は30 bp以内であることから、prime editingは原理的に75,122件の約89%を修正可能であると推計された。残り11%の大部分は染色体スケールの再配列や複雑な変異型であり、ゲノム編集一般の技術的限界に相当する。

考察/結論

先行研究との比較・差異と本論文の新規性:Prime editingはゲノム編集の「第三世代」として位置づけられ、第一世代のCRISPR-Cas9 (DSB依存、Jinek et al. Science 2012; Cong et al. Science 2013; Mali et al. Science 2013) および第二世代の塩基編集 (4転移変異のみ対応、Komor et al. Nature 2016; Gaudelli et al. Nature 2017) の双方の限界を克服した。先行の塩基編集が活性ウィンドウ・PAM依存性・転移変異のみという制約を持つのと異なり、prime editingはpegRNA設計の変更だけで標的部位・変異種類・挿入長 (最大44 bp実証) を自由に設定でき、設計の自由度が根本的に異なる。本研究で初めて、逆転写酵素をCas9ニッカーゼに融合させることで「pegRNAがゲノム上の標的を指定しながら同時に編集情報の鋳型としても機能する」という全く新しい機能統合概念が実証された。この「search-and-replace」パラダイムはDNAのワードプロセッサー的な精密書き換えを初めて可能にした画期的な新規アプローチである。三段階のDNAハイブリダイゼーション (標的-スペーサー相補性・標的-PBS相補性・フラップ-RT産物相補性) がオフターゲット特異性の著しい向上をもたらす分子的根拠となっており、Cas9ヌクレアーゼ比で最大485倍の部位特異性が実証された。

塩基編集との相補的関係:塩基編集との比較では、活性ウィンドウ内に単一の標的塩基が存在する場合やbystander編集が許容される場合には塩基編集が依然として効率・indel抑制で優位な場面がある。一方で複数塩基が存在しbystander編集が不可な場合・適切なPAM (protospacer-adjacent motif) が存在しない場合・転換変異/挿入/欠失が必要な場合には、prime editingが顕著な優位性を持つ。両技術は相補的な強みと弱みを持ち、編集の性質に応じた使い分けが実際的である。

臨床的含意と残された課題:鎌状赤血球症・テイ-サックス病・プリオン病保護変異という独立した3遺伝子疾患モデルでの原理実証は、将来の遺伝子治療への道筋を示す。特にClinVar 75,122件の89%への原理的対応可能性は、prime editingが遺伝子療法の基盤技術として持つポテンシャルの大きさを示している。逆転写酵素の免疫原性・非分裂幹細胞での in vivo 効率・ゲノムワイドオフターゲットの包括的評価・最適化されたデリバリーシステムの開発が残された主要課題である。pegRNA設計の複雑さ (PBS長・RT鋳型長・ニックsgRNA位置の最適化) は実用化に向けた障壁であり、今後の設計自動化ツール開発が求められる。

総括:本論文はprime editingという全く新しいゲノム編集パラダイムを確立し、精密な挿入・欠失・全12種の塩基置換をDSBおよびドナーDNAなしに達成できることを175以上の独立した編集実験で実証した。HDRに対して平均270倍高い編集/indel比、Cas9に対して著明に低いオフターゲット性、非分裂細胞への適用可能性という三つの優位性が、従来技術の主要な制限を同時に克服するものであり、ゲノム編集と遺伝子治療の分野に根本的な変革をもたらした画期的論文である。

方法

プライム編集システムの構成要素として、PE1 (prime editor 1) はCas9 (H840A) ニッカーゼ (PAM含有鎖のみをニックする改変Cas9) に野生型M-MLV (Moloney murine leukemia virus) 逆転写酵素 (RT: reverse transcriptase) をC末端に融合したタンパク質と、スペーサー配列・RT鋳型・プライマー結合サイト (PBS: primer binding site) を含む3’延長型pegRNA (prime editing guide RNA) から構成される。PE2ではRT酵素に5変異 (D200N、L603W、T306K、W313F、T330P) を導入して熱安定性・プロセッシビティ・鋳型結合性を向上させた。PE3では未編集鎖に追加のsgRNA (single guide RNA) でニックを入れてDNA修復を偏向させることでさらに効率を向上。PE3bはニックsgRNAのスペーサーを編集済み鎖のみと一致するよう設計し、indel低減を図った。

HEK293T・K562・U2OS・HeLa細胞 (各n=3独立生物学的複製) および初代マウス皮質神経細胞 (E18.5 C57BL/6、非分裂細胞モデル) において175以上の編集を12個の内在性ゲノム座位 (HEK3・HEK4・EMX1・FANCF・RNF2・RUNX1・VEGFA・HBB・HEXA・PRNP・DNMT1ほか) で実施した。対象編集種別は19種挿入・23種欠失・119種点変異・18種複合編集 (計175以上)。鎌状赤血球症 (HBB: hemoglobin β; E6V変異)・テイ-サックス病 (HEXA: hexosaminidase A; 1278+TATC 4 bp挿入)・プリオン病保護変異 (PRNP: prion protein; G127V) の疾患バリアント修正実験を実施。HDRとの比較ではCas9 (H840A) ニッカーゼ+ssODN (single-stranded oligodeoxynucleotide) ドナー鋳型の標準的条件を採用。オフターゲット解析では4座位各4の既知Cas9オフターゲット部位 (計16部位) のアンプリコンシーケンシングを実施。Illumina MiSeqを用いたアンプリコンハイスループットシーケンシング (CRISPResso2解析) で編集効率・indel頻度を定量した (各条件n=3独立生物学的複製、平均±SD)。統計的比較はunpaired t-testおよびpaired t-testを使用した (one-tailed、α=0.05)。オフターゲット解析での変異頻度比較にはt-testを適用し、n=3条件での平均±SDを報告した。CRISPResso2でのアンプリコンシーケンシング解析ではBonferroni補正を考慮しつつ、各部位でのindel頻度を定量した。