- 著者: Jordan L. Doman, Alexander A. Sousa, Peyton B. Randolph, Peter J. Chen, David R. Liu
- Corresponding author: David R. Liu (The Broad Institute of MIT and Harvard; Harvard University)
- 雑誌: Nature Protocols
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-09-26
- Article種別: Protocol
- PMID: 35941224
背景
CRISPR-Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats-associated protein 9) システムをはじめとするゲノム編集技術は、基礎研究から臨床応用に至るまで生命科学分野に革命をもたらした。例えば、CRISPR-Cas9を用いて遺伝子編集を施したT細胞は、難治性のがん患者に対する治療法として応用され、その臨床的な可能性が示されている Stadtmauer et al. Science 2020。しかし、初期のゲノム編集技術は標的DNAの二本鎖切断 (DSB) に依存しており、非相同末端結合 (NHEJ) 修復経路を介した遺伝子破壊や欠失の導入に主として利用されていた。DSBの誘発は、標的部位における意図しない挿入・欠失 (インデル) の混在、染色体転座、大規模欠失、異数性、クロモスリプシス、さらにはp53経路の活性化に伴う発がん性細胞の選択的濃縮といった重篤な副作用を引き起こすリスクを常にはらんでいる。相同組換え修復 (HDR) を利用したドナーDNAによる精密な遺伝子修正も可能であるが、HDRの活性は細胞周期 (特にS/G2期) に依存するため、神経細胞などの非分裂細胞や多くの治療標的となる幹細胞においてはその効率が著しく低いという課題が存在した。
このような背景から、DSBを伴わずに精密な遺伝子修正を可能にする技術の開発が強く求められていた。その解決策の一つとして、DSBを誘発せずにC・GからT・A、あるいはA・TからG・Cへの点変異を導入できる塩基編集 (Base editing) 技術が開発され、様々な疾患モデルで治療効果が実証された。しかし、塩基編集は主に特定の遷移変異 (トランジション) に限定されるという技術的不足があり、任意の挿入、欠失、およびトランスバージョン変異を含む多様な編集要求に包括的に応えることは困難であった。
この限界を克服するため、2019年にLiu研究室はDSBや外来ドナーDNAを必要とせず、プログラム可能な置換、挿入、欠失、またはそれらの組み合わせを可能にするプライム編集 (Prime editing, PE) 技術を開発した Anzalone et al. Nature 2019。PEは、Cas9(H840A)ニッカーゼと逆転写酵素 (RT) の融合タンパク質、および逆転写テンプレート (RTT) とプライマー結合部位 (PBS) を3’末端に付加したプライム編集ガイドRNA (pegRNA) を用いる。初期のPE1システムから始まり、RTの変異導入によるPE2、非編集鎖への第2ニック導入によるPE3、ミスマッチ修復 (MMR) 経路の一時的阻害を可能にするPE4/PE5、高安定性epegRNA、高発現型PEmax、およびtwinPEに至るまで、多様な改良技術が急速に開発された。しかし、これら複数のPEシステムから最適な構成を選択する基準、pegRNAの緻密な設計パラメータ、および実験の最適化手順を体系化した包括的なガイドラインはこれまで未確立であり、研究者が本技術を効率的に導入する上での大きな障壁となっていた。本プロトコルは、これらの課題を解決し、哺乳類細胞におけるPE実験の設計、最適化、実行に関する現行のベストプラクティスを体系的に提供することを目的とする。
目的
本プロトコルの目的は、哺乳類細胞におけるプライム編集 (PE) およびtwinPE実験の設計、最適化、および実行に関する現行の推奨プロトコルを体系化し、高精度な遺伝子編集の効率を最大化するための実践的ガイドラインを提供することである。具体的には、PE1からPE5、およびtwinPEシステムの適切な選択指針を提示し、pegRNA/epegRNA (engineered pegRNA) の設計パラメータ (PBS長、RTT長、サイレント変異の導入) を最適化する手順を詳細に解説する。さらに、プラスミドトランスフェクションやin vitro転写 (IVT) mRNAのエレクトロポレーションによる哺乳類細胞への効率的な導入方法、およびハイスループットシーケンス (HTS) を用いた編集効率とインデル頻度の定量的評価フローを網羅することで、研究者が2〜4週間の迅速なワークフローで高精度かつ多用途なゲノム編集を達成できるように支援することを目指す。
結果
プライム編集システムの進化と編集効率の劇的向上: プライム編集 (PE) は、Cas9(H840A)ニッカーゼと逆転写酵素の融合タンパク質、およびpegRNAを用いて、標的ゲノムに二本鎖切断 (DSB) を導入することなく精密な変異を導入する技術である (Fig 1)。初期のPE1から、逆転写酵素に5つの変異を導入して耐熱性とプロセッシビティを向上させたPE2への移行により、編集効率は大幅に改善した。さらに、非編集鎖に第2のニックを導入してミスマッチ修復 (MMR) 経路を編集鎖側にバイアスさせるPE3システムでは、PE2と比較して編集効率がさらに向上するが、インデル頻度の上昇を伴う。これに対し、MMR経路の主要因子であるMLH1のドミナントネガティブ変異体 (MLH1dn) を一過性に共発現させるPE4 (PE2 + MLH1dn) およびPE5 (PE3 + MLH1dn) システムでは、インデル頻度を最小限に抑えつつ、編集効率を劇的に向上させることが可能となった。これらの改良技術 (PEmaxアーキテクチャ、epegRNA、およびMLH1dnの併用) を統合することにより、編集効率は従来のPEシステムと比較して、HEK293T細胞において平均3.5-fold、PEが困難とされていたHeLa細胞においては最大72-fold向上した。
epegRNAおよびPEmaxアーキテクチャによる最適化: pegRNAの3’末端は細胞内のエキソヌクレアーゼによる分解を受けやすく、不完全なpegRNAが標的サイトを占拠することが編集効率低下の原因となっていた。3’末端にtevopreQ1などの高度に構造化されたRNAモチーフを付加したepegRNA (Fig 2) は、RNAの安定性を高め、従来のpegRNAと比較して編集効率を平均1.5-foldから4-fold向上させることが実証された (Fig 7e, f)。また、コドン最適化、核移行シグナル (NLS) の配置改善、リンカー配列の最適化、およびCas9ドメインへの活性向上変異の導入を施したPEmax (engineered PE architecture with optimized expression) アーキテクチャは、元のPE2アーキテクチャと比較して、ほぼ全ての標的遺伝子座および細胞種において優れた編集効率を示した (Table 1)。
pegRNA設計パラメータのスクリーニングとサイレント変異の効果: PEの編集効率は、PBS長およびRTT長に極めて強く依存する。CXCR4遺伝子座におけるP191A変異導入 (Fig 7a) およびIL2RB遺伝子座におけるH134D + Y135F変異導入 (Fig 7b) のスクリーニング結果が示すように、最適なPBS長 (8〜15 nt) およびRTT長 (10〜74 nt) は標的部位によって大きく異なるため、初期スクリーニングとしてPBS長 10, 13, 15 ntと複数のRTT長を組み合わせたマトリックス検証が必須である。また、RTT内にPAM配列またはシード領域を破壊するサイレント変異を導入することで、編集完了後の再ニッキングを抑制し、インデル頻度を大幅に低減できる。さらに、MMR活性が高い細胞においては、所望の変異の近傍に複数のサイレント変異をクラスター化して導入することで、MMRタンパク質によるヘテロデュプレックスの認識を回避し、PE2システム単独でも編集効率を向上させることが可能である。PE3b/PE5bシステムのように、編集完了後にのみ非編集鎖をニックするように設計されたsgRNA (Fig 5) を用いることで、インデルを極めて低く抑えつつ高効率な編集が達成される (Fig 7c, d)。
twinPEによる大規模ゲノム編集とリコンビナーゼの協調: twinPEシステムは、対向するDNA鎖を標的とする2つのepegRNAを用いて、それぞれ相補的な3’フラップを合成させることで、中間領域の欠失と同時に新規配列の挿入を可能にする (Fig 4)。twinPEは、従来のPEでは困難であった大規模なゲノム編集を可能にし、単独で780 bp以上の欠失や108 bp以上の精密な挿入を効率的に誘導できる。さらに、twinPEを用いて部位特異的リコンビナーゼ (BxbIなど) の認識配列であるattBおよびattPサイトをゲノム上に正確にインストールし、リコンビナーゼを作用させることで、5 kbを超える遺伝子サイズ (>5 kb) のドナーDNAのノックインや、39 kbに及ぶ大規模なゲノム逆位の修正を達成した。具体的には、CCR5遺伝子座にattBサイトを挿入し、BxbIリコンビナーゼと5.6 kbのattPドナープラスミドを共導入することで、最大17%のドナーノックイン効率を達成した。
デリバリー方法の最適化とオフターゲット評価: PEコンポーネントのデリバリー方法は編集効率を左右する極めて重要な要因である。患者由来iPSCにおいて、プラスミドエレクトロポレーションや脂質トランスフェクションと比較して、IVT mRNAと化学修飾された合成epegRNAを共エレクトロポレーションする手法は、細胞毒性を抑えつつ最大40%の極めて高い編集効率を達成した (Fig 7h)。また、初代ヒトT細胞においては最大60%の編集効率が確認された。全ゲノムシーケンス (WGS) を用いたオフターゲット解析において、PEは従来のCas9ヌクレアーゼと比較してオフターゲット変異が極めて低く、Cas9非依存性のオフターゲット編集は検出限界以下であることが確認され、高い安全性が示された。
考察/結論
本プロトコルは、2019年のプライム編集 (PE) の初報告 Anzalone et al. Nature 2019 以降、急速に蓄積された改良技術 (epegRNA、PEmax、PE4/PE5、twinPE) を統合し、哺乳類細胞における高精度ゲノム編集のための統一された実験設計フレームワークを体系化したものである。
先行研究との違い: 従来のPEプロトコルが初期のPE2/PE3システムや個別の最適化手法に限定されていたのに対し、本プロトコルは2021年末までに開発されたすべての主要な改良コンポーネントを網羅し、それらを組み合わせた多段階の最適化フローを提示している点で大きく異なる。特に、細胞内のミスマッチ修復 (MMR) 経路がPEの中間体を排除し効率を低下させる阻害要因であることを突き止め、MLH1dnの一過性発現によってこのボトルネックを解消するPE4/PE5システムを標準プロトコルに組み込んだ点は、これまでのゲノム編集マニュアルにはない極めて実用的な相違点である。
新規性: 本研究は、epegRNAの3’構造モチーフ (tevopreQ1) の付加によるRNA分解抑制効果と、PEmaxによる核移行効率の改善が、多様な細胞種において相乗的に編集効率を向上させることを本研究で初めて体系的に実証した。また、twinPEと部位特異的リコンビナーゼ (BxbI) を組み合わせることで、従来のHDR (homology-directed repair) 経路に依存することなく、非分裂細胞においても5 kb以上の巨大な遺伝子断片を精密にインテグレーションできる新規なアプローチを詳細な手順とともに開示した。
臨床応用: DSBを誘発しないPE技術は、インデルや染色体転座などのゲノム毒性を劇的に低減できるため、安全性の高い遺伝子治療の実現に向けた臨床応用に直結する。特に、鎌状赤血球病、β-サラセミア、トランスチレチンアミロイドーシス、あるいはリンチ症候群や家族性乳がん (BRCA1/2変異) などの遺伝性疾患の原因となる点変異や微小欠失の精密な修正において、本プロトコルが提示する患者由来iPSC (効率最大40%) や初代ヒトT細胞 (効率最大60%) での高効率な編集実績は、臨床現場へのトランスレーショナルな展開を強力に後押しするものである。
残された課題: しかしながら、今後のlimitationおよび解決すべき課題として、PEコンポーネント (特に巨大なPEmaxタンパク質) のin vivo送達効率の改善が挙げられる。腺随伴ウイルス (AAV) ベクターへの搭載にはサイズ制限があるため、スプリット型ベクターや、より小型のCas9オーソログを用いたPEシステムの開発が求められる。また、MLH1dnの一過性発現は短期的には安全であるとされているが、長期的なMMR阻害がゲノム全体の変異率に与える影響については未評価の部分があり、臨床応用に向けてさらなる大規模な安全性検証が必要である。さらに、pegRNA依存性のオフターゲット作用の網羅的なプロファイリング手法の標準化も、今後の重要な検討課題である。
方法
本論文は、哺乳類細胞におけるプライム編集 (PE) 実験の最適化と実行手順を体系化したプロトコルであり、推奨事項の根拠は既存の知見および検証データに基づいている。
PEシステムの選択と構成: 実験目的に応じてPE2、PE3/PE3b、PE4、PE5/PE5b、およびtwinPEシステムを選択する。PE2はCas9(H840A)ニッカーゼと変異型M-MLV (Moloney murine leukemia virus) 逆転写酵素の融合体を用い、最もシンプルな構成である。PE3は非編集鎖をニックするsgRNAを追加し、PE4はドミナントネガティブ型MLH1変異体 (MLH1dn) を共発現させてミスマッチ修復 (MMR) 経路を一時的に阻害する。PE5はPE3とMLH1dnを組み合わせたシステムである。twinPEは、2つのpegRNAを逆向きに配置し、相補的な3’フラップを合成させることで大規模な挿入・欠失を誘導する。
epegRNAおよびsgRNAの設計: pegRNAの3’末端にtevopreQ1などの構造モチーフを付加したepegRNA (engineered pegRNA) を標準として設計する。PBS (primer-binding site) 長は10, 13, 15 nt、RTT (reverse transcription template) 長は所望の変異導入部位から下流に少なくとも7 nt以上の相同領域を確保した長さを基本設計とする。非編集鎖をニックするsgRNA (PE3/PE5用) は、epegRNAによるニック部位から下流50-90 bpの位置に設計する。編集完了後の再ニッキングを防ぐため、PAM (protospacer-adjacent motif) 領域またはシード領域にサイレント変異を導入する設計を行う。
構築物の作製方法: epegRNAおよびsgRNAのクローニングには、BsaI-HFv2、NcoI-HF、PvuII-HFを用いたゴールデンゲートアセンブリ (Golden Gate cloning)、またはNEBuilder HiFi DNA Assemblyを用いた等温アセンブリ (Isothermal assembly) を適用する。宿主大腸菌にはOne Shot Mach1 T1などのコンピテントセルを用い、ローリングサークル増幅 (RCA) およびサンガーシーケンスにより配列を検証する。
mRNAの調製: mRNAデリバリーを行う場合、pT7-PEmaxやpT7-hMLH1dnプラスミドをテンプレートとし、T7プロモーターを付加したプライマーを用いてPCR増幅を行う。HiScribe T7 High Yield RNA Synthesis Kitを用い、コ・トランスクリプショナルキャップアナログとしてCleanCap Reagent AGを、ウリジン三リン酸の代わりにN1-Methylpseudouridine-5’-triphosphateを用いてIVT (in vitro transcription) を行い、DNase I処理後にLiCl沈殿法で精製する。
細胞培養およびデリバリー: ヒト胚性腎細胞株 HEK293T (ATCC CRL-3216) および患者由来一次線維芽細胞 (Coriell GM00221) をモデル細胞として使用する。HEK293T細胞へのプラスミド導入にはLipofectamine 2000を用いた脂質トランスフェクションを適用し、一次線維芽細胞やiPSC (induced pluripotent stem cell) へのmRNA導入にはLonza 4D-Nucleofectorを用いたエレクトロポレーションを適用する。
統計解析および編集評価: ゲノムDNAを抽出し、標的領域をPCR増幅してHTS (high-throughput sequencing) 用ライブラリを調製する。MiSeqシステムを用いてシーケンスを行い、得られたファストQデータをCRISPResso2ソフトウェアで解析して、編集効率 (%) およびインデル頻度 (%) を定量化する。編集効率の比較にはStudent’s t-testなどの統計手法を適用する。