- 著者: Qiu Peng, Yujuan Zhou, Linda Oyang, Nayiyuan Wu, Yanyan Tang, Min Su, Xia Luo, Ying Wang, Xiaowu Sheng, Jian Ma, Qianjin Liao
- Corresponding author: Jian Ma; Qianjin Liao (Hunan Cancer Hospital, Central South University, Changsha, China)
- 雑誌: Molecular Therapy
- 発行年: 2022
- Epub日: 2021-11-15
- Article種別: Review
- PMID: 34793975
背景
選択的プレmRNAスプライシング (AS: Alternative pre-mRNA Splicing) は、ヒト遺伝子の95%以上で発生し、単一の遺伝子から複数のタンパク質アイソフォームを産生することで、トランスクリプトームとプロテオームの多様性を生み出す重要なメカニズムである。これにより、細胞は多様な機能を発揮することが可能となる。しかし、がん細胞においては、スプライシング因子 (SRSF1-10、hnRNPsなど) の発現異常や変異、あるいはcis作用配列の変異によって、腫瘍の増殖、転移、薬剤耐性に関わる異常なアイソフォームが産生されることが知られている。Kahles et al. CancerCell 2018によるTCGAデータベースの包括的解析では、ほぼ全てのがん種でスプライシング因子の遺伝子変化(増幅、欠失、変異)が検出されており、スプライシング異常はがんの普遍的な分子特徴であることが示されている。
がんの主要な特徴である代謝リプログラミングと免疫応答は、腫瘍の発生と維持に不可欠な要素である。例えば、Warburg効果として知られるがん細胞の好気性解糖への代謝シフトは、急速な増殖を支える重要なメカニズムである。また、がん細胞は免疫システムからの監視を回避するために、様々な戦略を進化させてきた。これらの代謝異常や免疫回避機構に、ASがどのように関与しているかについては、個別の研究は存在するものの、これらを統合的に論じた包括的な総説は不足していた。特に、ASが代謝リプログラミングと抗腫瘍免疫応答という二大がんホールマークに与える寄与を、分子機序から治療戦略まで一貫して整理したレビューは、未開拓な領域であった。先行研究では、ASががんの様々な側面に影響を与えることが示されているが (Du et al. 2021; Zhang et al. 2021)、代謝と免疫応答の具体的な分子メカニズムにおけるASの役割については、詳細な統合的理解が不足しており、この知識ギャップが残された課題であった。本総説は、これらの知識ギャップを埋め、がんにおけるASの多面的な役割を包括的に整理することを目的としている。
目的
本総説の目的は、がんにおける選択的スプライシングの分子機序(スプライソソームの構成、cis/trans作用因子、およびそれらの制御経路)を詳細に整理することである。さらに、異常スプライシングがWarburg効果に代表される代謝リプログラミング、および免疫チェックポイントやT細胞活性化を含む抗腫瘍免疫応答に与える影響を包括的に論じる。最終的に、アンチセンス核酸(ASO: Antisense Oligonucleotide)やスプライシングモジュレーターなどのスプライシング経路を標的とした治療戦略、および異常スプライシングによって生成されるネオアンチゲンを用いた新規免疫療法の可能性について議論し、がん治療におけるASの新たな治療標的としての潜在的価値を提示することを目指す。
結果
スプライシング機序の分子基盤: 選択的スプライシングは、U1、U2、U4、U5、U6 snRNP (small nuclear ribonucleoprotein) と数百のタンパク質から構成されるスプライソソームによって実行される (Figure 1)。cis作用配列(ESE、ESS、ISE、ISS)は、transスプライシング因子を動員し、スプライシングパターンを決定する。主要なtrans因子として、SRタンパク質(SRSF1-10、ESRP1/2など)とhnRNPs(hnRNPA1、hnRNPA2、hnRNPD、hnRNPE1、hnRNPF、hnRNPK、hnRNPMなど)の2種が整理された。SRタンパク質はエクソンのESEに結合してスプライシングを活性化する一方、hnRNPsはESSに結合してスプライシングを抑制する。SRタンパク質は結合位置(エクソン:活性化、イントロン:抑制)に応じてスプライシングへの作用が逆転するという複雑な制御特性を持つ。スプライシングはRNA Pol II伸長速度のco-transcriptional制御と連動し、H3K36me3ヒストン修飾が構成的エクソンでより高く蓄積することが確認された。PI3K/AKT、Wnt、NFκB、Hippoシグナルがスプライシング因子のリン酸化やクロマチンリモデリングを通じてがん関連遺伝子のスプライシングを調節することが示された。特に、ERα(エストロゲン受容体α)が非古典的RNA結合タンパク質としてXBP1スプライシングやeIF4G2、MCL1 mRNA翻訳を調節し、タモキシフェン耐性と乳がん進行に寄与するという新規知見も示された。
がんにおけるスプライシング因子の異常発現と変異: SRSF1は結腸、乳、膠芽腫、肺がんで過剰発現し、RON、MNK2、S6K1の腫瘍促進性アイソフォーム発現増加、抗アポトーシスタンパク質Bcl-xL、MCL-1Lの産生増加、腫瘍抑制タンパク質BIN1のアイソフォーム産生抑制をもたらす。SRSF1はMYCと協調して乳腺上皮細胞を形質転換することが示された。SRSF3、SRSF6も特定がん種で過剰発現して腫瘍促進に機能する。hnRNP Kは血液悪性腫瘍で発現低下して腫瘍抑制因子として機能し予後と相関する一方、hnRNP A2はBIN1、CASP9の抗アポトーシスバリアントを増強しBcl-xSの発現を抑制する。PTBP1の発現増加はRAC1、NUMB、PKMの腫瘍関連スプライシングアイソフォームを誘導する。スプライシング因子の変異では、SF3B1(U2 snRNPサブユニット)が乳がんで最大81%の変異頻度を示し、E622、R625、K700、H662、K666などのホットスポット変異がポリピリミジントラクトに近接した残基に集中し、異常ブランチポイント選択を引き起こす (Figure 2)。SRSF2変異(P95残基集中、CMML患者の28-47%)はRNA結合選択性をG-rich ESEからC-rich CCNGシーケンスへ変更し、数百のmRNAのスプライシングを変化させる。IDH2とSRSF2の共変異は単独変異よりも強力な白血病誘発性スプライシング変化をもたらす(982例のAML患者トランスクリプトーム解析より)。U2AF1のS34またはQ157のホットスポット変異が3’スプライシングサイト認識を障害し骨髄悪性腫瘍に関与し、ZRSR2の機能喪失変異がU12スプライソソーム経路に作用する。
代謝リプログラミングとASの統合: Warburg効果の中枢機序としてPKM遺伝子のAS調節が重要である。PKMのエクソン9(PKM1)とエクソン10(PKM2)の相互排他的選択はhnRNPA1、hnRNPA2、PTBタンパク質、SRSF3によって制御され、c-Mycの転写活性化によるhnRNPA1、hnRNPA2、PTBP1の誘導ががん細胞でのPKM2優位発現を確立する (Figure 4)。Christofkらはがん細胞内のPKM2をPKM1に置換することで乳酸産生と腫瘍サイズが有意に減少することを実証した。グルタミン代謝ではグルタミナーゼC(GLS-C)と腎型グルタミナーゼ(KGA)の選択的スプライシングが調節されており、腺腫、神経膠腫、結腸直腸がん、乳腺腫瘍でGLS-Cアイソフォームが優位に発現し、特異的阻害薬が腫瘍進行を抑制する。CFIm25(クレアベージ因子)のノックダウンがグルタミナーゼの代替ポリアデニル化に影響し、KGAアイソフォーム発現が有意に増加する。果糖代謝ではKHK-AとKHK-Cの相互排他的エクソン選択をhnRNP H1/H2が制御し、KHK-Aは肝癌細胞でPPAT(プリン合成)をリン酸化するタンパク質キナーゼとして機能する。脂肪酸代謝ではACSL4が肝癌、乳癌で過剰発現してcAMP、p38 MAPKシグナルを通じた腫瘍増殖に関与する。低酸素誘導性ASはHIF-1α安定化とPKM2発現促進→解糖優位代謝シフト、LDH-A異常スプライシング(LDH-001↑、LDH-201ナンセンス変異依存的分解)を含む多面的な腫瘍代謝適応機構を構成する (Figure 3)。hnRNPA1、hnRNP M、SRSF1、SRSF3、SAM68、HuR、CLK1、SRPK1(低酸素下で活性・発現増加)等のスプライシング因子が腫瘍低酸素応答性遺伝子のASを制御する。
免疫応答とASの統合: 免疫細胞の分化・活性化における選択的スプライシングの役割が体系化された (Figure 5)。マクロファージではMyD88の短型サブタイプ(MyD88s)がEftud2スプライシング因子により制御されTLRシグナル下流の炎症因子産生を制限する。SF3A1/SF3A2/SF3A3/SF3B1のノックアウトはMyD88 long型の生成を阻害し、TLR4の可溶性アイソフォーム(エクソン2-3間144 bp挿入→早期終止コドン)はTNF-α産生とNFκB活性化を抑制する負のフィードバック機構として機能する。樹状細胞ではhnRNP C発現増加がNFκB p65、CD80、CD40発現を調節してDC成熟を制御し、PTBP1の選択的欠失がPkm ASを通じてMHC II発現増加と抗腫瘍免疫強化をもたらす。T細胞ではCD45スプライシングアイソフォームパターンがナイーブ(CD45RA+/RB+)と記憶(CD45RO+)T細胞の分化マーカーとなり、hnRNP LL(活性化T細胞特異的発現)がエクソン4、6の除去を促進してCD45の低分子量型への変換を制御する。MALT1のエクソン7含有アイソフォームMALT1AはTRAF6リクルートを促進しMALT1スカフォールド機能を増強する一方プロテアーゼ活性を持たず、hnRNP UのサイレンシングがMALT1A発現とCD4+ T細胞活性化を促進する。B細胞ではHuRによるIgEスプライシング制御が免疫グロブリンクラス転換に必要であり、HuR喪失はB細胞死をもたらす。
スプライシング異常由来ネオアンチゲンと免疫療法: 腫瘍特異的ASによって生成された新抗原ペプチドがT細胞応答を誘発する可能性が論じられた。CD20のスプライシングバリアント(エクソン3-7の168 nt挿入)がB細胞リンパ腫細胞株特異的にHLA-DR1結合エピトープを産生し、transgenic mouseでCD4+、CD8+特異的免疫応答を誘導することが示された。CD19エクソン2スキッピングによって生じるCAR-T (Chimeric Antigen Receptor T-cell) 認識回避バリアントがB細胞ALLでのCD19 CAR-T耐性機序として同定された(Sotillo et al. CancerDiscov 2015)。PD-L1 (Programmed Death-Ligand 1) の2種の分泌型スプライシングバリアントがNSCLC (Non-Small Cell Lung Cancer) でのPD-L1ブロッケード耐性を誘発することが判明した。スプライシング制御薬の投与が腫瘍型を超えた定型的スプライシング変化を誘導し、MHC I提示免疫ペプチドームを改変してスプライシング由来ネオエピトープを生成し、in vivoでT細胞依存的・ペプチド提示依存的に抗腫瘍免疫とチェックポイント阻害効果を増強することがLuらによって示された。Sahin et al. Nature 2017は、個別化RNAミュータノームワクチンががんに対する多特異的治療免疫を動員することを示しており、スプライシング由来ネオアンチゲンも同様の戦略に応用可能である。
治療戦略の体系化: ①コアスプライソソーム阻害薬(SF3B1標的のE7107、FR901464、GEX1、Spliceostatin A、Meayamycin B、H3B-8800など;固形腫瘍・血液腫瘍の前臨床・Phase I試験)、②スプライシング制御因子阻害(PRMT5阻害薬GSK3326595、PF06939999、JNJ-64619178;SRPK1/2阻害SRPIN340;インディスラム等のSRSF1・RBM39標的分子接着剤)、③ASOによるスプライシング部位遮断(BCL-X:Bcl-xL→Bcl-xS切り替えで化学療法感受性増強;MDM4エクソン6スキッピングでメラノーマ増殖抑制;STAT3 ASO AZD9150でリンパ腫・肺癌モデル有効性)、④CRISPR-Cas9システムを用いたスプライシング部位編集技術が整理された(Anzalone et al. Nature 2019)。H3B-8800はSF3B1変異を有するがん細胞に対してより強力な阻害効果を示し、Phase I臨床試験 (NCT02841540) が進行中である。Table 1には計17の腫瘍種×治療戦略組み合わせが収録されている。
考察/結論
本総説は、選択的mRNAスプライシング(AS)の異常が、がん細胞の代謝リプログラミング(PKM2、GLS-C、KHK-A、VEGF経路など)と免疫抑制(MyD88s、PD-L1バリアント、CD19スプライシング回避など)を統合的に制御するという重要な視点を提供した。Hanahan et al. Cell 2011が提唱した「がんのホールマーク」のほぼ全てが、異常スプライシングによって脱制御されうることが示唆される。
先行研究との違い: これまでの研究は、ASの個々の側面(例えば、特定の遺伝子のスプライシング異常や特定の治療標的)に焦点を当てることが多かった。しかし、本総説は、ASが代謝と免疫というがんの二大ホールマークにどのように統合的に影響を与えるかを詳細に整理した点で、従来の総説とは対照的である。特に、PKM2スプライシング制御とWarburg効果の関連は古典的な知見であるが、本総説がグルタミン、果糖、脂肪酸代謝へのASの寄与を整理し、代謝ターゲティングの設計に新たな視座を提供した点は独自の貢献である。
新規性: 本研究で初めて、スプライシング因子変異(SF3B1、SRSF2、U2AF1など)が、がん細胞の代謝経路や免疫応答に直接的かつ広範な影響を与える分子メカニズムを詳細に解説した。また、腫瘍特異的なスプライシングバリアントが、正常細胞には存在しない新規な腫瘍特異的抗原(ネオアンチゲン)として、次世代がん免疫療法の抗原源となりうる可能性を強調した点は新規性が高い。Zhang et al. SignalTransductTargetTher 2021もASとがんの関連をレビューしているが、本総説は代謝と免疫の統合的視点に特化している。
臨床応用: 本知見は、がん治療における「スプライシング療法」の臨床応用に直結する。特定のスプライシング因子変異を標的とした薬剤や、異常スプライシングによって生成されるネオアンチゲンを利用した免疫療法は、化学療法や既存の免疫療法との組み合わせで相乗効果が期待される。例えば、ASOによるBcl-xLからBcl-xSへのスプライシングスイッチ誘導は、化学療法感受性を増強し、臨床的意義は大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、スプライシング標的薬の毒性プロファイルの最適化が挙げられる。ASは多くの遺伝子に影響を与えるため、オフターゲット効果による副作用のリスクがある。また、バイオマーカーによる患者選択基準の確立も重要である。さらに、免疫療法との組み合わせ効果をin vivoモデルや臨床試験で検証し、最適な併用戦略を開発する必要がある。次世代シーケンシング技術の進展により、より正確で高スループットなスプライシングイベントの解析が可能になることで、これらの課題解決に貢献することが期待される。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法や患者コホートを用いた研究は実施されていない。代わりに、広範な文献検索と既存の科学的知見の統合が行われた。
文献検索戦略: PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて、関連する先行研究が検索された。検索キーワードには、「alternative splicing」、「cancer metabolism」、「immune response」、「Warburg effect」、「splicing factor」、「antisense oligonucleotide」、「immunotherapy」、「neoantigen」などが含まれた。検索は2021年9月までに行われた論文を対象とし、英語で書かれた論文に限定された。特に、がんにおける選択的スプライシングの分子機序、代謝リプログラミングへの影響、免疫応答への関与、およびスプライシングを標的とした治療戦略に関する論文が重点的に収集された。
情報収集と整理: 収集された論文は、その内容に基づいて以下の主要なテーマに分類・整理された。
- スプライシングの分子メカニズム: スプライソソームの構成要素(U1、U2、U4、U5、U6 snRNP)、cis作用配列(ESE: Exon Splicing Enhancer、ESS: Exon Splicing Silencer、ISE: Intron Splicing Enhancer、ISS: Intron Splicing Silencer)、およびtransスプライシング因子(SRタンパク質、hnRNPs: Heterogeneous Nuclear Ribonucleoproteins)の機能と相互作用に関する情報。
- がんにおけるスプライシング異常: スプライシング因子の異常発現(SRSF1、SRSF3、SRSF6、hnRNP K、hnRNP A2、PTBP1など)と、それらが腫瘍増殖、転移、アポトーシス、薬剤耐性に与える影響。また、SF3B1、SRSF2、U2AF1、ZRSR2などのスプライシング因子における体細胞変異とその病態生理学的意義。
- 代謝リプログラミングとAS: Warburg効果の中心的な酵素であるPKMのAS調節、グルタミン代謝におけるグルタミナーゼC(GLS-C)と腎型グルタミナーゼ(KGA)のAS、果糖代謝におけるKHK-AとKHK-CのAS、脂肪酸代謝におけるACSL4の役割、および低酸素誘導性ASによる代謝適応機構。
- 免疫応答とAS: マクロファージ、樹状細胞、T細胞、B細胞におけるASの役割。特に、MyD88、TLR4、NFκB、CD45、MALT1、IgEなどの免疫関連遺伝子のスプライシング制御と、それが免疫細胞の分化、活性化、機能に与える影響。
- スプライシング異常由来ネオアンチゲンと免疫療法: 腫瘍特異的ASによって生成される新抗原ペプチドの同定と、それらがT細胞応答を誘発する可能性。CD20、CD19、PD-L1のスプライシングバリアントと免疫回避、およびスプライシング制御薬によるネオエピトーム生成と免疫チェックポイント阻害効果の増強。
- スプライシング標的治療戦略: コアスプライソソーム阻害薬(E7107、FR901464、H3B-8800など)、スプライシング制御因子阻害薬(PRMT5阻害薬、SRPK1/2阻害薬)、ASOによるスプライシング部位遮断(BCL-X、MDM4、STAT3など)、およびCRISPR-Cas9システムを用いたスプライシング部位編集技術。
これらの情報を基に、がんにおけるASの多岐にわたる役割と、それらを標的とした治療戦略の現状と将来性が体系的にまとめられた。本レビューでは、各研究の質を評価するために、研究デザイン、サンプルサイズ、結果の再現性などの要素を考慮し、エビデンスレベルのグレーディングも行われた。