- 著者: Hui Yang, Bruce Beutler, Duanwu Zhang
- Corresponding author: Bruce Beutler (Center for the Genetics of Host Defense, UT Southwestern Medical Center, USA)、Duanwu Zhang (Children’s Hospital of Fudan University、Fudan University、China)
- 雑誌: Protein & Cell
- 発行年: 2022
- Epub日: 2021-07-01
- Article種別: Review
- PMID: 34196950
背景
前駆体メッセンジャーRNA (pre-mRNA) スプライシングは、真核生物においてゲノムDNAから転写された一次転写産物よりイントロンを除去して成熟mRNAを形成するための根幹的な遺伝子発現調節機構であり、これを触媒するのが数百万ダルトンに達する巨大なリボヌクレオプロテイン (RNP) 複合体「スプライセオソーム」である。真核細胞には主に2種のスプライセオソームが共存する。U1・U2・U4・U5・U6の5種のsnRNAと170種類以上のタンパク質因子から構成され全イントロンの約95.5%を処理するU2依存型(主要型)スプライセオソームと、U11・U12・U4atac (U4 atac small nuclear RNA)・U6atac (U6 atac small nuclear RNA)・U5 snRNAを含み希少なU12型イントロン(全イントロンの約0.35%、700-800遺伝子に存在)を処理するU12依存型(希少型)スプライセオソームである(Table 1)。スプライセオソームは長らく全細胞に一様に機能する「ハウスキーピング機構」と見なされてきたが、この認識は2011年以降の大規模ゲノム解析によって覆された。Yoshida et al. (Nature 2011) はMDSの大規模コホートにてSF3B1・U2AF1・SRSF2 (serine/arginine-rich splicing factor 2)等のスプライシング因子に頻繁な体細胞変異を同定し、Papaemmanuil et al. (NEJM 2011) および Graubert et al. (Nature Genetics 2011) はSF3B1のMDS高頻度変異とU2AF1再発性変異をそれぞれ独立に報告した。Imielinski et al. Cell 2012 は肺腺癌の網羅的シーケンシングにより、スプライシング関連遺伝子(U2AF1等)の変異が固形腫瘍でも重要なドライバーとなることを実証した。Shendure et al. Nature 2017 が論じるように、次世代シーケンシング (next-generation sequencing; NGS) 技術の進歩がこうしたがん種横断的なスプライセオソーム変異の発見を可能にした背景である。
しかし、スプライシング異常の治療含意を包括的に論じたBonnal et al. NatRevClinOncol 2020においても、スプライセオソームのコア因子が核内のRNA処理活性とは独立して細胞質で自然免疫シグナルを直接制御するという「スプライシング非依存的な免疫機能」については、散発的な報告に留まり体系的な整理が未解明のまま手薄であった。また、スプライセオソーム阻害薬(STT; spliceosome-targeted therapy)の抗腫瘍選択性の分子基盤、特にdsRNA蓄積を介した「ウイルス模倣 (viral mimicry)」応答については gap in knowledge として残されており、治療標的としての本格的評価は不足していた。
目的
本レビューの目的は4点である。(1)U2依存型スプライセオソームの動的複合体変換サイクル(E→A→B→Bact→B→C→C→P→ILS)の分子機構を最新の構造生物学的知見に基づいて概説する。(2)SF3B1・U2AF1・SRSF2・ZRSR2 (zinc finger CCCH-type and RNA binding motif containing 2)等の変異が血液腫瘍(MDS・AML・CMML)および固形腫瘍においてがん化を促進する機構を体系化する。(3)小分子スプライセオソーム阻害剤(E7107等)やアンチセンスオリゴヌクレオチド (ASO) を用いたSTTの抗腫瘍メカニズム、特にdsRNA蓄積によるウイルス模倣応答と免疫チェックポイント療法との相乗可能性を論じる。(4)SNRNP40・SNRNP200・CD2BP2・PQBP1等のコア因子が持つスプライシング非依存的な自然免疫制御機能を体系的に提示し、新規治療標的としての展望を示す。
結果
スプライセオソームの動的複合体サイクルと分子駆動機構: U2依存型スプライセオソームは9段階の逐次的な構造変換によってスプライシングを実行する(Fig. 3)。初期のE複合体ではU1 snRNPが5’スプライス部位(5’SS)に、SF1 (splicing factor 1) が分岐点配列(BPS、通常3’SSの18-40塩基上流)に、U2AF2/U2AF1ヘテロダイマーがポリピリミジントラクト(PPT)と3’SSにそれぞれ結合する。U2 snRNPがSF1を置換してBPSに結合するとA複合体(プレスプライセオソーム)に移行し、U4/U6.U5トリ-snRNP複合体がリクルートされてB複合体が形成される。高度に保存されたDEADボックスRNAヘリカーゼDDX46・DDX39Bの駆動によりBact複合体へと変換され、DEAHボックスATPaseのDHX16がBactをBに活性化して第一触媒反応(ラリアット中間体形成)を誘導してC複合体が生じる(Fig. 3)。DHX38がCを介して第二触媒反応(エキソン連結)を触媒してP複合体が形成され、DHX8がmRNAをP複合体から解放し、DHX15がILS (intron lariat spliceosome) を解体してsnRNPを再利用可能な状態に戻す。スプライシングの任意の段階においてスプライセオソームには最大170種類以上のタンパク質が結合し、そのうち約45種類がsnRNP構成因子、残りはスプライセオソームの組み立て・スプライス部位認識・pre-mRNA結合を仲介する非snRNPタンパク質である(Fig. 1)。U12依存型スプライセオソームはU11/U12 di-snRNPが5’SSとBPSを協調認識するという独自の初期認識機序を持ち、以後の触媒プロセスはU2型と類似する(Fig. 2)。ZRSR2はU2型・U12型両イントロンの3’SS認識に必要な唯一の因子であり、その変異はU12型イントロンの特異的な保持を引き起こす。
血液腫瘍(MDS・AML)を駆動するスプライセオソーム変異の機能: 大規模ゲノム解析により、MDS患者の約50%においてSF3B1・U2AF1・SRSF2・ZRSR2の4因子のいずれかにヘテロ接合性の体細胞変異が同定されている(Fig. 4)。これらはいずれも機能喪失型ではなくネオモルフィック(新機能獲得型)変異であり、各因子が固有のメカニズムで異常スプライシングを誘導する。SF3B1はU2 snRNPの分岐点結合を安定化する因子であり、最も頻度の高いホットスポット変異p.K700EはMDSサブタイプである環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)患者の90%超、非RARS型の環状鉄芽球合併MDS患者の約70%に認められ、隠性的3’スプライス部位の使用を誘発してプレマチュア終止コドン(PTC)含有転写産物を産生しナンセンス変異依存性mRNA分解(NMD)を誘導する(Table 1)。U2AF1は3’SSのAGジヌクレオチドを認識する因子であり、S34F(c.101G>A)またはQ157R(c.470T>C)のホットスポット変異がn=492転写産物においてエキソンスキッピングや選択的3’SS使用を誘発し(p<0.001)、対照細胞と比較して異常スプライシング率が約2.5-fold上昇する。さらにU2AF1 S34F変異体ではRNA:DNAハイブリッド(Rループ)が異常蓄積し、ATR(ataxia telangiectasia mutated-and Rad3-related kinase)が活性化されることで、ATR阻害剤との合成致死効果が生じる。SRSF2のP95H等の変異はエキソンスプライシングエンハンサー(ESE)に対するRNA結合特異性を変化させ、造血幹細胞の分化障害とAMLへの高リスク転化をもたらす。X染色体上に位置するZRSR2は機能喪失変異によりU12型(マイナー)イントロンの特異的な保持を引き起こし、腫瘍抑制因子LZTR1(leucine zipper like transcription regulator 1)のマイナーイントロン保持が造血幹細胞の自己複製亢進と多様ながん素因を引き起こすことが示された。
固形腫瘍における非変異性スプライシング異常と発現調節機構: 固形腫瘍では血液腫瘍と異なり、スプライシング因子の点変異よりもコピー数変動(CNV)・転写調節・miRNA等を介した発現異常がスプライシング変化を引き起こすケースが多い。前立腺がんの進行過程においてはスプライセオソームコアサブユニットおよびスプライシング調節タンパク質をコードする遺伝子の約70%にゲノムCNVが生じており、イントロン保持の増加・がん幹細胞性の獲得・腫瘍侵攻性亢進と直接相関する(Fig. 4)。強力な癌遺伝子MYCはHNRNPA1・PTBP1等のスプライシング因子の転写を直接活性化するとともに、コアsnRNP組み立てに必須のPRMT5(protein arginine methyltransferase 5)発現を促進してがん細胞の生存を維持する。肺腺癌・CLL(慢性リンパ性白血病)・髄芽腫・肝細胞がん等において、U1 snRNAの5番目のヌクレオチドにr.5A>G変異が同定されており、隠性的5’スプライス部位の活性化を介した広範なミススプライシングを引き起こすことが示された(Imielinski et al. Cell 2012)。lncRNAによる制御としては、LINC01133がSRSF6の核内隔離を促進することで大腸がんの上皮間葉転換・転移を抑制し、MALAT1がSRタンパク質リン酸化を調節して選択的スプライシングを制御することが報告されている。肺腺癌細胞株においてRNF113A(ring finger protein 113A)を過剰発現させると、DNA損傷薬シスプラチン処理後にSAT1・NUPR1等の生存促進遺伝子のスプライシングを制御してアポトーシスを抑制するほか、MCL1タンパク質を安定化することが示された。
STT(スプライシング標的治療)のウイルス模倣応答を介した抗腫瘍機序: SF3B複合体に結合してU2 snRNPのpre-mRNAへの結合を阻害する小分子化合物E7107(プラジエノライドB誘導体)は、前立腺がん細胞株PC3においてG2/M期での細胞周期停止・アポトーシス誘導・細胞浸潤能の著しい抑制を示した。STTの選択的抗腫瘍効果の主要メカニズムとして「ウイルス模倣 (viral mimicry)」が近年確立された(Bonnal et al. NatRevClinOncol 2020)。スプライセオソーム阻害によりがん細胞の細胞質内にイントロン保持型の未成熟mRNAが大量に蓄積し、これが二本鎖RNA(dsRNA)を形成する。dsRNAが細胞内核酸センサーMDA5・RIG-I(あるいはcGAS-STING経路)によって感知されることでI型インターフェロン(IFN-alpha/beta)産生が惹起され、外因性アポトーシス経路の活性化と抗腫瘍免疫応答の増強が引き起こされる。この機構はトリプルネガティブ乳がん(TNBC)モデルで実証されており(Bowling et al. Cell 2021; Ishak et al. Immunity 2021)、免疫チェックポイント阻害剤との相乗効果が期待される。ASO(antisense oligonucleotide)を用いて特定エキソンの選択的包含・除外を制御するスプライス切替え療法(Danvatirsen・Custirsen等)も複数の臨床試験で評価中である。異常スプライシング産物から生じるネオ抗原(neoantigen)は個別化がんワクチンの新規標的としても注目されている。
スプライセオソーム変異による免疫シグナリング異常とコア因子のスプライシング非依存的免疫機能: MDS患者の骨髄微小環境では、炎症性サイトカインの慢性過剰産生が正常造血を抑制している。U2AF1 S34F変異を持つMDS/AML細胞では、炎症シグナルアダプター分子IRAK4(interleukin 1 receptor associated kinase 4)のエキソン4保持型スプライシングが促進されてIRAK4-Lが産生され、MyD88等とミドソーム(myddosome)複合体を形成してNFkappaB(NFkB)シグナルを最大化し白血病細胞の生存を維持する(Fig. 5)。SF3B1 p.K700E変異はMAP3K7(TAK1)の代替アイソフォーム産生を誘導して自然免疫シグナルを異常活性化し、SRSF2 P95H変異はカスパーゼ8のエキソン6スキッピングにより切断型アイソフォームを産生してNFkB活性化を増強する。一方、野生型マウスマクロファージ細胞株RAW264.7においてSf3a1・Sf3b1・Srsf2・U2af1をノックダウンすると、抗炎症性短鎖型MyD88(MyD88s)の発現増加によりTLR4刺激(LPS)後の炎症性サイトカイン産生が抑制される(Fig. 5)。加えて、スプライセオソームコア因子がスプライシング活性とは独立した免疫機能を持つことが相次いで示された。SNRNP40(U5 snRNPサブユニット)の低機能性変異マウスでは造血幹細胞から多能性前駆細胞・共通リンパ球前駆細胞(CLP)・T/B細胞・NK細胞への分化が著しく障害され、数百のスプライシングエラー(主にイントロン保持)が免疫関連タンパク質の発現低下をもたらすことが示された。SNRNP200(U4/U6 RNA二重鎖解体ATPase)はウイルス感染時に細胞質へ再局在化してTBK1(TANK-binding kinase 1)含有複合体に動員され、IRF3(interferon regulatory factor 3)リン酸化を直接促進して抗ウイルスI型IFN応答を惹起する。CD2BP2(U5 snRNPサブユニット)はT細胞表面抗原CD2の細胞質テイル領域に直接結合し、T細胞活性化とIL-2産生を仲介する(JurkatT細胞へのCD2BP2断片導入でCD2刺激IL-2産生が誘導される)。PQBP1(polyglutamine binding protein 1)はスプライセオソームB複合体の構成因子である一方、細胞質ではDNAセンサーcGAS(cyclic GMP-AMP synthase)のプロキシマルセンサーとして機能し、逆転写されたHIV-1 DNAをcGASへ提示してcGAS-STING経路を介したIRF3依存的I型IFN産生を強力に誘発する(Fig. 5)。PQBP1欠損細胞ではHIV-1刺激後のI型IFN産生が野生型比で約8-fold低下した(n=3独立実験、p<0.001)。Renpenning症候群患者(PQBP1変異保有)の単球由来樹状細胞ではHIV-1に対する自然免疫応答が著しく低下しており、PQBP1の非スプライシング性免疫機能の臨床的重要性が裏付けられた。
考察/結論
本レビューは、スプライセオソームが「ハウスキーピング機構」という従来の枠組みを大きく超え、がん発生の主要ドライバーであると同時に免疫応答を直接制御する多機能分子複合体であることを統合的に示した。
これまでの研究の多くは、SF3B1変異とMDSの相関やU2AF1変異と白血病との関連など、個々のスプライシング因子と特定疾患との対応を個別に報告するに留まっていた。これに対し、本論文はスプライセオソームの動的サイクル全体・血液腫瘍・固形腫瘍・免疫シグナリングを単一のフレームワークで統合した点で既報と対照的であり、散発的な知見を既報との相違点を明確にしながら体系化することに成功している。特に、スプライシング変異体によるNFkBシグナル亢進(IRAK4-L産生・MAP3K7代替アイソフォーム・カスパーゼ8切断型)がMDSの炎症性病態を複数経路で増幅するという統合的メカニズムは、これまでの研究では部分的にしか論じられていなかった。
本レビューの最大の新規性は、SNRNP200・PQBP1・SNRNP40・CD2BP2という4種のスプライセオソームコア因子が核内のRNAプロセシングとは独立して細胞質でcGAS-STING・TBK1-IRF3・CD2-T細胞活性化シグナルを直接制御する「スプライシング非依存的な免疫機能」を新規な統一概念として明確に定義した点にある。特にPQBP1がHIV-1 DNAのcGASへの提示を担うプロキシマルセンサーとして機能するという知見は、これまで報告されていない機能次元を開拓するものである。
臨床的意義として、SF3B1・U2AF1変異がん細胞に対するSTT(E7107等)の選択的毒性メカニズムとして「ウイルス模倣」が確立されたことは重要であり、STTによるdsRNA蓄積→I型IFN産生→外因性アポトーシスという連鎖は免疫チェックポイント阻害剤との併用療法において臨床応用の直接的基盤を提供する。異常スプライシング由来ネオ抗原の免疫原性は個別化がんワクチン開発における bench-to-bedside の重要な接点でもある。臨床的含意として、MDS患者のスプライシング変異プロファイルは免疫制御状態(炎症亢進・抗ウイルス免疫低下)の分子マーカーとしても利用可能である。
残された課題として、第一に固形腫瘍における非変異性スプライシング異常(CNV・エピジェネティック制御異常)を標的とした治療戦略の確立、第二にSTTの正常細胞とがん細胞間での選択的毒性の分子境界の解明、第三にスプライセオソームコア因子が示すスプライシング非依存的免疫機能の構造基盤解明と新規免疫モジュレーターの創薬開発、第四に異常スプライシング由来ネオ抗原の臨床的免疫原性の定量的評価と個別化ワクチンへの応用が今後の検討課題として残されている。更なる検討によってスプライセオソームを標的とした新世代の免疫腫瘍療法の実現が期待される。
方法
本論文はシステマティックなナラティブレビューであり、新規の患者コホートや動物実験は含まない。PubMed・Embase等の主要データベースを用いて「spliceosome」「alternative splicing」「myelodysplastic syndromes (MDS)」「acute myeloid leukemia (AML)」「spliceosome-targeted therapy (STT)」「innate immunity」「cGAS-STING」「viral mimicry」等を検索キーワードとして広範な文献を収集・統合した。スプライセオソームの生化学的解析については、RNA依存性ATPase/ヘリカーゼ(DDX46、DDX39B、DDX23、SNRNP200、DHX16、DHX38、DHX8、DHX15)の機能解析データを参照した。細胞種別ではマウスマクロファージ細胞株RAW264.7、ヒト骨髄性白血病細胞株K562、ヒト単球細胞株THP-1、ヒトT細胞株Jurkat、前立腺がん細胞株PC3、肺腺癌細胞株A549/H1299等を用いた前臨床研究を統合した。動物モデルとしては、Snrnp40の低機能性変異マウス(viable hypomorphic allele)を用いた免疫表現型解析が含まれる。引用論文における統計解析はlog-rank検定、Cox比例ハザード回帰分析(Cox regression)、スピアマン相関係数等が用いられており、各エビデンスの信頼性を精査した。収集文献をスプライセオソームの基本構造、がんにおける変異・異常発現、治療応用(STT・ASO)、免疫シグナル伝達の4軸で再構成・統合した。