• 著者: Hexiu Su, Juncheng Hu, Liang Huang, Yang Yang, Morgan Thenoz, Anna Kuchmiy, Yufeng Hu, Peng Li, Hui Feng, Yu Zhou, Tom Taghon, Pieter Van Vlierberghe, Guoliang Qing, Zhichao Chen, Hudan Liu
  • Corresponding author: Zhichao Chen (Institute of Hematology, Union Hospital, Huazhong University of Science and Technology, Wuhan, China) / Hudan Liu (Medical Research Institute, Wuhan University, Wuhan, China)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-10-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30323192

背景

T-cell acute lymphoblastic leukemia (T-ALL) は小児 ALL 全体の約 10〜15% を占める侵襲性血液悪性腫瘍で、完全寛解率は約 90% に達する一方、再発・難治例の治癒率は 40% 未満と不良である。分子病態として NOTCH1 機能獲得変異 (>50% 症例) と FBW7 (NOTCH1 E3 ligase 遺伝子) 不活化変異 (12%) が中心的役割を担い、NOTCH1→MYC という転写活性化軸が確立されていた (NOTCH1 が MYC を直接活性化する feed-forward loop が報告済み)。

一方、pseudouridine (Ψ) は細胞 RNA で最も豊富な転写後修飾であり、rRNA・snRNA の偽ウリジル化はリボソーム・スプライソソームの正確な機能に必須である (Chen et al. CurrBiol 2015 / Wilkinson et al. AnnuRevBiochem 2020 に相当)。スプライソソームの異常はがん・免疫病態に関与することが報告されつつあった (Yang et al. ProteinCell 2022 に相当)。高等真核生物では box H/ACA small nucleolar ribonucleoprotein (snoRNP) がこの修飾を司り、SHQ1 はこの複合体の組み立て chaperone として Cbf5 を非特異的 RNA 結合・凝集から保護する因子として同定されていた。しかし SHQ1 の生理機能、特にがんにおける役割・調節機序・下流エフェクターはほとんど解明されておらず、T-ALL での意義は手薄なままで、先行研究が不足していた。

このギャップに対し、本研究は (1) T-ALL における SHQ1 高発現の有無、(2) その発現を制御する上流因子、(3) SHQ1 が T-ALL 細胞生存・白血病発生に必須か、(4) 機能的な下流標的、という未解明の問いに取り組んだ。

目的

T-ALL における SHQ1 の発現調節機序 (NOTCH1 との関係)、T-ALL 細胞生存・in vivo 白血病発生への影響、RNA splicing と MYC を介した機能的作用機序を解明し、NOTCH1→SHQ1→MYC という新規白血病発生軸を確立することを目的とした。

結果

T-ALL における SHQ1 の高発現:117 例小児 T-ALL を 7 例正常 BM と比較すると、1.5 倍以上上昇する 97 遺伝子クラスター (p<0.01) 内に SHQ1 が含まれた (Fig. 1a)。CCLE の 1,036 細胞株中、SHQ1 は T-ALL 細胞株で最高レベルの発現を示した (Fig. 1b)。複数の白血病データベースで T-ALL の SHQ1 高発現が確認され (Fig. 1c,d)、一次 T-ALL (n=64) は正常 CD4+CD8+ 胸腺細胞より有意に高発現した (p=8.42×10⁻¹⁶、Fig. 1e)。NOTCH1 活性化変異を持つ一次 T-ALL・マウス T-ALL は野生型 NOTCH1 検体より高い SHQ1 タンパク質を示した (Fig. 1f,g)。

NOTCH1 が SHQ1 プロモーターを直接転写活性化:7 例の T-ALL 細胞株と 4 例の一次 T-ALL 細胞で GSI (Compound E) は SHQ1 mRNA・タンパク質を有意に低下させ (p<0.05、Fig. 2a)、ICN1 強制発現で回復、DNMAML で低下した。Compound E 除去は cycloheximide 存在下でも SHQ1 発現を即時回復させ、直接転写活性化を示唆した。ChIP-Seq・ChIP で NOTCH1 転写複合体 (NOTCH1・RBPJ) が SHQ1 転写開始点近傍に直接結合し、GSI でこの結合は消失した (Fig. 2d,e)。luciferase reporter assay では野生型 (RBPJ 結合部位保持) プロモーターのみ ICN1 共発現時に活性化された (Fig. 2f)。174 例一次 T-ALL で SHQ1 と NOTCH1 発現は有意相関した (Pearson R=0.481、p<0.001、Fig. 2b)。

SHQ1 欠失による T-ALL 細胞死と in vivo 白血病抑制:SHQ1 shRNA は HPB-ALL・KOPTK1・一次 T-ALL 細胞で増殖を著明抑制しアポトーシスを誘導したが (p<0.01、Fig. 3)、正常 BM 細胞への影響は最小限であった。JURKAT 異種移植 (n=5/群) では doxycycline 誘導 SHQ1 KO が sgGFP 対照より生存を有意延長し (p<0.001、Fig. 4b)、CD45+ 白血病浸潤を著明減少させた (Fig. 4e,f)。ICN1/shmSHQ1 胎児肝細胞移植 T-ALL モデルでは ICN1/shCtrl が約 2 か月で発症する一方、ICN1/shmSHQ1 マウスの多くは生存し、GFP+ 細胞蓄積 (34.5% vs 83%) と CD4+CD8+ リンパ芽球 (24.9% vs 81.5%) が顕著に減少した (Fig. 5)。これら定量は各群 n=3 biological replicates (in triplicate) で得られ、効果量は GFP+ 比率で約 2.4 fold 差と大きかった。なお B-ALL・AML・CML 細胞も SHQ1 不活化に感受性だが肺がん A549 は非感受性で、腫瘍文脈依存性が示された。

SHQ1 欠失による広範な RNA splicing 障害:SHQ1 欠失 HPB-ALL で U2 snRNA 偽ウリジル化を担う H/ACA snoRNA scaU93 が低下し、CMC-primer extension で U2 snRNA 偽ウリジル化の減少が確認された (Fig. 6a)。RNA-Seq の IR 解析 (HPB-ALL:6,809 遺伝子 61,456 junction;KOPTK1:7,905 遺伝子 78,976 junction) で、SHQ1 欠失により HPB-ALL 遺伝子の 81%、KOPTK1 遺伝子の 73% で IR ratio が増加した (IR ratio ≥1.15、Fig. 6c,d)。最も成熟 mRNA 低下が著明な上位遺伝子に RPAP2・ACLY・CHEK1・MYC・CDK6 が含まれた。T-ALL 関連がん遺伝子 (AKT1・NOTCH1・TAL1・LMO2) 中で MYC のみが有意に低下し (Fig. 6g)、SHQ1→MYC の選択的制御が示された。

NOTCH1→SHQ1→MYC 軸の機能的検証:MYC minigene 解析と内因性 MYC primer (pre-mRNA E1-I1/E2-I2 vs 成熟 E1-E2/E2-E3) で、SHQ1 欠失は MYC 成熟 mRNA を有意低下させる一方 pre-mRNA は不変で、スプライシング障害による MYC 低下が確認された (Fig. 7a,b)。MYC イントロン 2 は非標準ブランチサイトを持ち偽ウリジル化 U2 snRNA への依存性が高いことが機序として示された。MYC 強制発現は SHQ1 欠失による細胞死を有意に救済し (JURKAT・HPB-ALL・KOPTK1・マウス T6E、p<0.05)、SHQ1 欠失で低下したグルコース取り込み・乳酸産生・MYC 標的糖解系遺伝子 (GLUT1・LDHA・HK2) も MYC 過発現で回復した。

考察/結論

本研究は NOTCH1 が SHQ1 プロモーターを直接活性化してスプライシング機能を強化し、MYC mRNA プロセシングを最適化するという新たな白血病発生機序 (NOTCH1→SHQ1→MYC 軸) を確立した。これは NOTCH1 が MYC を直接転写活性化するという既知の調節 (Balaj et al. NatCommun 2011 等で MYC が腫瘍駆動因子として扱われてきた文脈) とは異なり、転写後の RNA 修飾・スプライシングレベルでの MYC 制御という付加的な調節層を初めて明示した点で対照的である。MYC イントロン 2 の非標準ブランチサイトが偽ウリジル化 U2 snRNA への依存性を高めるという観察は、スプライソソームの一般的な触媒機構 (Wilkinson et al. AnnuRevBiochem 2020 に相当) に照らしても、これまで報告されていない novel な分子機序である。

臨床応用の観点では、97/117 例小児 T-ALL での SHQ1 高発現と T-ALL 細胞特異的依存性 (正常 BM への影響最小、肺がんでは非感受性) は、SHQ1 が選択的治療標的となりうる可能性を示唆する。スプライソソーム機能阻害が一部の MYC 駆動がんで治療効果を持つという先行知見とも整合し、スプライソソームを標的とするアプローチの T-ALL 治療への bench-to-bedside 橋渡しの根拠を提供する。本軸は EV を介した細胞間 RNA 伝達 (Skog et al. NatCellBiol 2008 に相当) とは作用層が異なる核内 RNA 修飾機構である点も明確にした。

残された課題として、SHQ1 が腫瘍文脈により可変的・相反的役割を持つ機序 (肺がんで予後良好因子となる理由)、MYC 以外の SHQ1 依存スプライシング標的の機能的寄与、SHQ1/スプライソソーム阻害剤の前臨床有効性・安全性は今後の検討課題である。本研究は SHQ1 の RNA splicing・腫瘍形成における役割と、がん遺伝子 MYC の転写後制御という二つの観点で重要な知見を提供した。

方法

デザイン・対象: ヒト/マウス T-ALL 細胞株 + 一次患者検体 + 異種移植・遺伝子改変マウスモデルによる機能的解析。発現スクリーニングは 117 例小児 T-ALL (GSE26713) vs 7 例正常骨髄 (bone marrow; BM)、CCLE (Cancer Cell Line Encyclopedia、1,036 ヒトがん細胞株)、複数白血病データベース (GSE28497・GSE7186・GSE13159) を使用。

転写調節: γ-secretase inhibitor (GSI) Compound E (1 μM) / dominant-negative MAML (DNMAML) / intracellular NOTCH1 (ICN1) 過発現による調節確認 (qPCR・immunoblot)。NOTCH1 結合は chromatin immunoprecipitation-sequencing (ChIP-Seq、GSE58406・GSE51800) + conventional ChIP + luciferase reporter assay (SHQ1 プロモーター野生型/RBPJ 結合部位変異体) で評価。

機能喪失実験: SHQ1 shRNA (pLKO.1 ベース、GFP マーカー) + doxycycline 誘導 CRISPR/Cas9 SHQ1 ノックアウト。細胞増殖・アポトーシス (Annexin V-PI)・競合増殖 (GFP+ 比率)・MTT viability。

in vivo モデル: JURKAT 異種移植 (免疫不全 NPG マウス、n=5/群、doxycycline 誘導 SHQ1 KO) と ICN1/shmSHQ1 胎児肝細胞移植 NOTCH1 誘導 T-ALL モデル (照射 C57BL/6 レシピエント、n=5/群)。

スプライシング解析: HPB-ALL・KOPTK1 の RNA-Seq (Illumina HiSeq 2000)。exon-intron / exon-exon reads 比 (intron retention; IR ratio) でイントロン保持を定量。CMC-primer extension で U2 snRNA 偽ウリジル化測定、MYC minigene splicing assay、MYC 強制発現救済実験、グルコース取り込み・乳酸産生測定。

統計手法: unpaired/paired Student’s t-test、生存は log-rank test、IR 分布は Kolmogorov-Smirnov test。臨床試験ではないため NCT 番号なし (公開データセット GSE 番号を使用)。