• 著者: Jiadi Gan, Qian Zheng, Deng Liu, Ruichao Nie, Menglin Yao, et al. (Guiyi Ji を corresponding とする計 6 部門の共同研究)
  • Corresponding author: Guiyi Ji (Department of Pulmonary and Critical Care Medicine, West China Hospital, Sichuan University, Chengdu, China)
  • 雑誌: Advanced Science
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42318657

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は世界で年間約 180 万人の死亡を生む癌死の最大要因であり、PD-1/PD-L1 を標的とする免疫チェックポイント阻害 (ICB) は治療を一変させたものの、持続的な benefit を得るのは少数にとどまる。一次不応答と二次再発がいずれも主要な臨床的障壁として認識されており、抗原提示欠陥・癌遺伝子シグナル・代謝再配線・免疫抑制的な腫瘍微小環境 (TME) が免疫逃避に寄与することが先行研究で示されてきたが、免疫逃避を決定づける根源的な分子決定因子は依然として不完全にしか定義されていない。

フェロトーシスは鉄依存的で脂質過酸化に駆動される制御性細胞死であり、ACSL4 (acyl-CoA synthetase long-chain family member 4)・GPX4 (glutathione peroxidase 4)・cystine/glutamate antiporter (system Xc-, SLC7A11/SLC3A2) によって制御される。フェロトーシス能の喪失は複数の悪性腫瘍で腫瘍進展と治療耐性に関与することが報告されてきた (Kang et al. NatRevClinOncol 2026)。さらに近年の研究はフェロトーシスと免疫景観の双方向クロストークを明らかにし、活性化 CD8+ T 細胞が IFN-γ 介在性の SLC7A11 抑制を通じて腫瘍細胞のフェロトーシスを誘導すること、フェロトーシス腫瘍細胞が酸化脂質と DAMP を放出して樹状細胞成熟と抗原提示を促進しうることが示されている。一方で過剰な脂質過酸化は T 細胞の fitness を損ない、細胞傷害性と酸化ストレスの間に精緻な平衡が存在することも示唆されてきた (Li et al. Nature 2026)。

しかし、NSCLC においてフェロトーシスがどのように制御され、その制御がどのように ICB 応答と交差するかは未解明のまま残されていた。すなわち、フェロトーシス制御因子という観点から ICB 耐性を駆動する腫瘍内在性決定因子が何かという問いには「答えが足りなかった」。本研究はこの gap in knowledge を埋めるため、免疫療法を受けた NSCLC コホートから単一細胞・バルク・空間トランスクリプトームを統合し、フェロトーシス関連の耐性決定因子として糖転移酵素 GALNT7 (polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase 7) を同定することを着想した。鉄代謝の文脈で腫瘍が免疫細胞の資源を hijack する報告 (Han et al. Cell 2025) と同様、本研究は鉄依存的細胞死そのものを免疫応答性のレバーとして位置づける。

目的

本研究の目的は、ICB 治療を受けた NSCLC における免疫療法不応答 (NR) と応答 (R) を分かつフェロトーシス関連の腫瘍内在性決定因子を、単一細胞・バルク・空間マルチオミクス統合解析によって同定し、機能検証することである。具体的には、(1) ICB 治療 NSCLC 腫瘍の統合単一細胞アトラスを構築して NR/R の悪性上皮細胞間で差次的に発現しフェロトーシスを抑制する候補分子を同定すること、(2) その候補 (GALNT7) のノックダウンが in vitro でフェロトーシス・アポトーシス・増殖をどう変化させるかを機能的に検証すること、(3) in vivo 異種移植モデルで GALNT7 喪失が腫瘍増殖・CD8+ T 細胞浸潤・IFN-γ 産生に及ぼす影響を評価すること、(4) GALNT7 抑制と PD-1 阻害の併用効果、およびその効果がフェロトーシス阻害剤 Ferrostatin-1 で逆転するか否かを検証して GALNT7-フェロトーシス-免疫軸の因果性を確立することにある。

結果

応答者と不応答者で代謝・フェロトーシスプログラムが乖離する:治療未経験の NSCLC 腫瘍 21 例 (院内 scRNA-seq 7 例 + 公開 ICI 治療 14 例) を 10x Genomics でプロファイルし統合単一細胞ディスカバリーアトラスを構築した。厳格な QC と Harmony 統合の後、R 群 24,361 細胞・NR 群 77,188 細胞が解析に供された (Fig 1)。教師なしクラスタリングは上皮/腫瘍・線維芽・内皮・骨髄系・好中球・mast・B・plasma・NK・CD4+ T・CD8+ T の 11 系統を解像し、T 細胞が最大の免疫集団 (CD8+ 23,119 細胞 = 29.9%, CD4+ 13,204 = 17.1%, Treg 4,357 = 5.6%) を占めた。試料間の免疫構成は大きく不均一で、CD8+ T 細胞割合は P16 の 1.0% から P21 の 51.6% まで、骨髄系は 13.6%–64.8%、NK は 0.7%–13.5% に分布した (Table S4)。一方、R/NR 間の broad な系統レベル割合の差は Wilcoxon rank-sum 検定で限定的で「ns」であった (Fig 1G)。

GALNT7 が不応答腫瘍上皮で高発現しフェロトーシス活性と逆相関する:悪性上皮区画に焦点化した差次的発現解析では、R 腫瘍で脂肪酸代謝・グルタチオン代謝・フェロトーシスの KEGG パスウェイが有意に濃縮された一方 (Fig 2B)、NR 腫瘍は酸化的リン酸化・低酸素応答・p53 経路といった ferroptosis-prone な代謝状態を示した。Violin plot で GALNT7 発現は NR 腫瘍で有意に高く (Fig 2C)、フェロトーシススコアは逆に R 腫瘍で顕著に上昇していた (Fig 2D,E)。GALNT7 は悪性上皮細胞に優勢に濃縮され、大半の免疫・間質集団では低発現であった (Fig 2F)。TCGA-LUAD コホートの Kaplan–Meier 解析では GALNT7 高発現が不良な全生存 (OS) と相関した (Fig 2G)。Monocle2 pseudotime 解析は応答者様から不応答者様状態への漸進的遷移を推定し、その軌跡に沿って GALNT7 発現が一貫して増加した (Fig 2L)。donor レベル Spearman 相関では GALNT7 とフェロトーシススコアは正の傾向を示したものの統計的有意には達せず、cell レベルの過大評価を避けた慎重な提示がなされた (Fig 2H)。

GALNT7 サイレンシングが増殖抑制・アポトーシス・フェロトーシスを誘導する:A549 と Calu-3 (human lung adenocarcinoma cell line) のヒト LUAD 細胞で 3 種の独立 siRNA (50 nM, 各条件 n≥3 biological replicates) を用い、qRT-PCR と Western blotting で mRNA・蛋白とも >70% の顕著な低下を確認した (p<0.01; Fig 5B,C)。下流のフェロトーシス・アポトーシス assay はいずれも独立生物学的反復 n≥3 (≥30,000 events/sample) で取得した。下流 assay に siGALNT7-1 を用い、GALNT7 サイレンシングは 72 時間で細胞生存率を有意に減少させ (p<0.001; Fig 5D)、EdU 取り込み assay で DNA 合成低下、Annexin V/PI フローでアポトーシス画分の増加を示した (Fig 5E,F)。トランスクリプトーム解析はフェロトーシス・脂質代謝・酸化ストレス・アポトーシス関連経路の強い濃縮を明らかにし (Fig 6B)、免疫ブロットはフェロトーシス活性化因子 ACSL4 の上昇と、canonical なフェロトーシス抑制因子 GPX4・SLC7A11 の有意な低下を確認した (Fig 6C)。Oxidized BODIPY-C11 フローは GALNT7 ノックダウン細胞で蛍光の右方シフト (脂質 ROS 蓄積) を示し、TEM はミトコンドリア収縮・膜密度上昇・cristae 消失といったフェロトーシス特異的超微細構造を示した (Fig 6D–G)。これらはミトコンドリア標的抗酸化剤 MitoTEMPO (10 µM) で逆転され、ミトコンドリア酸化ストレスがこの表現型を媒介することを示した (Fig 6H)。同様の応答が Calu-3 でも再現された (細胞株非特異的)。

in vivo で GALNT7 喪失が腫瘍縮小と CD8+ T 細胞活性化を引き起こす:sh-GALNT7 導入 NSCLC 細胞の皮下異種移植では、対照 (sh-NC) と比較して腫瘍体積・重量が顕著に低下した (Fig 7A,B)。異種移植組織の Western blot は sh-GALNT7 群で ACSL4 上昇・SLC7A11/GPX4 低下を示し、in vitro 所見を再現した (Fig 7C)。免疫組織化学的定量では Ki-67・PD-L1・PD-1 染色が有意に減少する一方、CD8+ 細胞浸潤が有意に増加し (Fig 7D)、フローサイトメトリーは腫瘍浸潤 CD3+CD8+ T 細胞割合の上昇を示した (Fig 7E)。さらに IFN-γ 関連免疫活性化も sh-GALNT7 群で増加した (Fig 7F,G)。すなわち GALNT7 喪失は腫瘍縮小のみならず、腫瘍細胞フェロトーシスを引き金として CD8+ T 細胞活性化と抗腫瘍免疫を増強する形で TME を再構築する。

GALNT7 喪失が PD-1 阻害と相乗し、Ferrostatin-1 で逆転する:腫瘍担持マウス由来 CD8+ T 細胞の共培養では sh-GALNT7 腫瘍由来の細胞で IFN-γ 産生が有意に増加し、この効果は Fer-1 で大きく逆転した (Fig 8B)。5 群 (shNC+Iso, shNC+Anti-PD-1, shGALNT7+Iso, shGALNT7+Anti-PD-1, shGALNT7+Anti-PD-1+Fer-1) の皮下移植では、GALNT7 サイレンシングまたは PD-1 阻害単独でも腫瘍負荷が低下したが、両者の併用が最も強い抗腫瘍効果 (腫瘍体積・重量の顕著な減少) を示し、Fer-1 共投与でその効果が部分的に消失した (Fig 8C–E)。腫瘍浸潤 CD3+CD8+ T 細胞は shGALNT7+anti-PD-1 群で実質的に増加し Fer-1 で再び減少、CD8+ T 細胞の IFN-γ 産生も併用群で最高となりフェロトーシス阻害で低下した (Fig 8F,G)。これらはフェロトーシス活性化が併用療法の抗腫瘍免疫増強の鍵となる媒介者であることを示す。

考察/結論

本研究は、腫瘍上皮細胞内のフェロトーシス脆弱性が NSCLC における有効な抗腫瘍免疫の決定因子であることを明らかにした。応答者は悪性領域で脂質過酸化プログラムとフェロトーシススコアの上昇、ならびに CD8+ T 細胞の浸潤と細胞傷害活性の増大を示し、GALNT7 はこれを抑える機能的レギュレーターとして同定された。GALNT7 高発現腫瘍はフェロトーシスシグネチャと免疫 engagement の抑制を示し、GALNT7 枯渇はフェロトーシス感受性を回復させて PD-1 阻害の有効性を増強したが、それはフェロトーシス薬理学的阻害で鈍化した。

先行研究との違い・対照的な点:活性化 CD8+ T 細胞が IFN-γ 介在性 SLC7A11 抑制を通じて腫瘍フェロトーシスを増強しうること、放射線や一部の化学療法が SLC7A11 を低下させ免疫療法応答性を高めることは既に示されていた。本研究はこのパラダイムを拡張し、GALNT7 をこの過程に対する腫瘍内在性の「ブレーキ」として同定した点で先行研究と異なる。すなわち GALNT7 は GPX4・SLC7A11 発現を安定化することでフェロトーシス耐性状態を維持し、IFN-γ-STAT1 駆動の酸化ストレスと細胞傷害性 T 細胞浸潤を制限する。腫瘍細胞の糖鎖修飾プログラムがフェロトーシス感受性、ひいては免疫景観を直接形作るという視点は従来の代謝・免疫研究とは対照的である。

新規性:GALNT7 は甲状腺癌・前立腺癌で増殖・転移への関与が報告されてきたが、フェロトーシスとの結びつきは本研究で初めて記述された。GALNT7 がムチン型 O-glycosylation を介して xCT/GPX4 軸の構成因子を修飾・安定化しフェロトーシス感受性を撹乱しうるという機構は、これまで未開拓であった糖鎖修飾-フェロトーシス-免疫のインターフェースを提示する新規な知見である。

臨床応用・橋渡し:トランスレーショナルな観点では、GALNT7 抑制と PD-1 阻害の併用が抗腫瘍効果を増強し、薬理学的フェロトーシス阻害がこれを部分的に逆転したことは、フェロトーシスが GALNT7 活性と免疫応答性を結ぶ機構的橋渡しであることを含意する。imidazole ketone erastin や cystinase といった分子はフェロトーシス薬理誘導の実現可能性と前臨床でのチェックポイント阻害との相乗を validate しており、GALNT7 発現やフェロトーシスシグネチャを予測バイオマーカーとして将来の臨床試験で評価する論拠を与える。O-glycosylation 酵素は druggable であり、GALNT7 を直接標的化して耐性腫瘍をフェロトーシス脆弱性へ reprogram する戦略も考えられる。

残された課題・今後の検討:腫瘍細胞フェロトーシスが分子レベルで T 細胞リクルートや抗原提示にどう影響するかは未解明で、GALNT7 がフェロトーシス経路に作用する糖蛋白基質も未同定のまま残されている。フェロトーシスの免疫学的帰結は stage 依存的 (早期は抗原提示を刺激、後期・過剰では免疫抑制的) であり、介入設計には timing と程度の考慮が要る。空間トランスクリプトーム検証は単一 NR 症例・spot レベル解像度・正式な空間相関検定の欠如という限界を持ち、illustrative な観察にとどまる。酵素的解離による活性化・ストレス署名の混入も完全には除外できない。今後の検討として、条件的アレルや単一細胞マルチオミクスを用いたより大規模な臨床コホートでの因果性・臨床有用性の検証が今後の検討課題として残されている。

結論として、本研究はフェロトーシスを NSCLC の免疫応答の actionable な構成要素として位置づけ、GALNT7 を予後マーカーかつ潜在的治療標的として提示する。フェロトーシス調節を免疫療法に統合することは immune-cold 腫瘍を応答性へ転換し、チェックポイント阻害の benefit を広げる手段となりうる。

方法

ヒト検体と統合 scRNA-seq:CPTAC SOP に準拠し、進行 NSCLC 7 例から ICI 開始前に biopsy/外科切除で治療未経験腫瘍を採取した。切除標本は ≤30 分で液体窒素に移送し、2 名の病理医が H&E で診断確認した。cross-cohort validation には公開 neoadjuvant ICI scRNA-seq 14 データセットを統合し、neoadjuvant では pCR/MPR (残存生存腫瘍 ≤10% を responder)、進行例では RECIST v1.1 (CR/PR=R, SD/PD=NR) で応答を分類した。最終統合アトラスは 21 腫瘍 (院内 7 + 公開 14) で構成され、別途 1 例の NR を空間トランスクリプトームで illustrative に解析した。

単一細胞処理・解析:新鮮腫瘍を Collagenase IV (1 mg/mL) + DNase I で解離し、>85% viability で 10x Genomics Chromium 3’ v3.1 ライブラリを構築、Illumina NovaSeq 6000 で 50,000–80,000 reads/cell を取得、Cell Ranger v6.1.2 + GRCh38 で処理した。R 4.2.3 / Seurat v4.3.0 で QC (500–6000 遺伝子, 1000–40,000 UMI, <15% mito RNA)、Harmony v1.2.0 (theta=2, 30 PCs) でバッチ統合、FindNeighbors/FindClusters (resolution 0.4–0.8) でクラスタリングした。悪性同定は inferCNV v1.12.0 (CD8+ T 細胞を reference, cutoff=0.1)、差次的発現は two-sided Wilcoxon rank-sum 検定 + Bonferroni 補正 (FC≥1.2, adj P≤0.05)、cell-cell 通信は CellChat v1.1.3 (permutation p<0.05)、軌跡解析は Monocle2 v2.28.0 (DDRTree)、フェロトーシス活性は AUCell v1.20.1、バルク/TCGA では GSVA/ssGSEA (tau=0.25) と Cox 回帰・Kaplan–Meier・log-rank を用いた。

機能検証:ヒト LUAD 細胞 A549 (ATCC CCL-185) と Calu-3 (ATCC HTB-55) を STR profiling で認証し、siGALNT7 1-3 (50 nM, Lipofectamine RNAiMAX) でノックダウンした。Erastin (10 µM), Ferrostatin-1 (2 µM), MitoTEMPO (10 µM) を用い、増殖は CCK-8・EdU、アポトーシスは Annexin V-FITC/PI フロー (≥30,000 events)、脂質過酸化は Oxidized BODIPY-C11、超微細構造は TEM (Hitachi HT7800, 80 kV) で評価した。マウスモデルは C57BL/6J 雄 (6–8 週) に LLC または shGALNT7-LLC を 1×10^6 皮下接種 (n=6/群)、≈80 mm^3 で randomize し、anti-PD-1 (Bio X Cell BE0146, 10 mg/kg 腫瘍内, day 0/3/6/9/12)・Fer-1 (5 mg/kg 腹腔内 連日) を投与した。バルク RNA-seq は Galnt7-/- vs WT (n=3/群)、GRCm39 への STAR アライン・DESeq2 v1.48.2 (|log2FC|≥1.0, FDR q<0.05) で解析した。統計は GraphPad Prism v10.6.1 / R v4.5.1 で、2 群は unpaired two-tailed Student’s t-test または Mann–Whitney U、3 群以上は one-way ANOVA + Tukey または Kruskal–Wallis + Dunn を用い、正規性は Shapiro–Wilk、データは mean ± SEM で提示、two-sided p<0.05 を有意とした。