• 著者: Yujiao Han, Hirak Sarkar, Zhan Xu, Sereno Lopez-Darwin, Yong Wei, Xiang Hang, Fengshuo Liu, Kimberley Tran, Wei Wang, Jennifer M. Miller, Christina J. DeCoste, Dylan S. Blohm, Robert L. Satcher, Xiang H.-F. Zhang, Yibin Kang
  • Corresponding author: Yibin Kang (Princeton University, Princeton, NJ, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2025
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40907490

背景

骨は造血の主要部位であると同時に、乳がんや前立腺がんなど、多くのがんの転移先として重要な臓器である。骨転移患者では貧血、白血球減少、血小板減少、高カルシウム血症などの重篤な合併症が生じるが、特に貧血の発生機序は未解明な点が多かった。これまでの骨転移研究は、骨吸収を担う破骨細胞、間葉系幹細胞、骨芽細胞との相互作用に焦点が当てられていたが、造血細胞との相互作用とその病態生理学的帰結については手薄であった。例えば、Satcher et al. NatRevCancer 2022 は骨転移における腫瘍と間質細胞の相互作用の進化に焦点を当てている。また、Hanahan et al. Cell 2011 で示されたように、がんの主要な特徴の一つとして微小環境との相互作用があるが、骨髄微小環境における造血細胞との詳細な相互作用については依然として不明な点が多かった。骨髄には赤芽球島 (EBI) と呼ばれる特殊な構造があり、常在EBIマクロファージが赤芽球に鉄を供給して赤血球産生を支援していることが知られている。しかし、転移性腫瘍細胞がこのEBIマクロファージとどのように相互作用し、骨転移の進行や貧血の発生に影響を与えるかについては不明であった。本研究では、Ombrato et al. Nature 2019 が開発したin vivo転移ニッチラベリングシステムとscRNA-seqを組み合わせることで、骨転移ニッチにおける造血細胞プロファイルを初めて系統的に解析した。このアプローチは、希少なニッチ特異的細胞集団の同定を可能にするものであり、これまでの研究では捉えきれなかった細胞間相互作用の解明に貢献すると考えられる。

目的

骨転移ニッチに特異的に集積するマクロファージサブセットを同定し、腫瘍細胞がこのマクロファージを介して鉄を獲得するメカニズム、およびそれが赤血球産生障害 (貧血) に与える影響を解明すること。さらに、腫瘍細胞が骨髄の低酸素環境に適応するためにどのような分子メカニズムを利用しているかを明らかにすることを目的とした。

結果

骨転移ニッチ特異的VCAM1+CD163+CCR3+マクロファージの同定: scRNA-seq解析により、骨転移ニッチ (mCherry+) で特異的に富化するMac_c (VCAM1+CD163+CCR3+) クラスターが同定された (Figure 1D, 1E)。このクラスターは、モノサイト/マクロファージの3サブクラスのうち唯一ニッチで顕著に増加しており、FACS解析ではVCAM1+CD163+CCR3+細胞が正常骨髄の約1%から、E0771骨転移モデルで約2.5倍、Py8119骨転移モデルで約8.8倍に有意に増加していることが確認された (Figure 2A)。これらの細胞はCD11b/F4/80/MHC2/Ly6C陽性、CD79a/CD3/CD8陰性のマクロファージ表現型を示した。

VCAM1+CD163+CCR3+細胞のEBIマクロファージとしての特徴: GSEA解析の結果、VCAM1+CD163+CCR3+細胞はCD11b+F4/80+細胞と比較して、正常および転移骨髄の両条件でヘム代謝シグネチャーが有意に濃縮されていることが明らかになった (Figure 2C, 2D)。これらの細胞は、EBIマクロファージの主要マーカーであるTrf、Tfrc (CD71)、Slc11a2、Fth1/Ftl1、Slc40a1 (FPN)、Hmox1、Cd163、Vcam1、Siglec1、およびEBI形成転写因子Pparg、Maf、Spicを高発現していた (Figure 2E)。scRNA-seqの全モノサイト/マクロファージクラスター中で、Mac_cは最高のEBIスコアを示した (Figure 2F)。

骨転移ニッチでの鉄豊富マクロファージ (iMac) の空間的再配置と赤血球産生障害: 免疫蛍光染色とフローサイトメトリーにより、FPNが主にF4/80+マクロファージに発現し、CD71が主にEGFP+腫瘍細胞に発現していることが確認された (Figure 3A-3F)。Prussian blue染色を用いた定量解析では、正常骨髄では鉄豊富マクロファージ (iMac) が均一に分布するのに対し、転移骨では腫瘍辺縁部 (腫瘍-間質界面) に有意に集積し、赤血球 (RBC) は減少していた (Figure 3G, 3H)。E0771モデルおよびPy8119モデルの両方で、転移ニッチ領域におけるiMacの濃縮とRBCの減少が観察された。転移骨髄では、成熟赤血球 (VI) と網赤血球 (V) が有意に減少し (p<0.001)、赤芽球の脱核障害が示唆された (Figure 4B, 4C)。全ての赤芽球ステージでCD71の発現増加が認められ、鉄不足への応答が示唆された (Figure 4E, 4F)。血液検査では、Hgb低下、RBC減少、HCT低下、RDW増加、血清鉄低下、TIBC低下、フェリチン上昇という、がん関連貧血の典型的なパターンが確認された (Figure 4Q)。

EBIマクロファージが骨転移を支持する機序: Spic-EGFP+マクロファージとE0771細胞の共培養実験では、腫瘍増殖促進効果が確認された (Figure S5D)。JEDIマウスを用いたSpic-EGFP+細胞の枯渇により、尾側動脈注射モデルおよび心臓内注射モデルの両方で骨転移増殖が抑制され、Hgbレベルの低下が逆転した (Figure 5D-5F, S5G-S5I)。LysM-CreERT2; Slc40a1 f/fマウス (マクロファージFPN欠失) では、in vivoでの骨転移が遅延した (Figure 5M, 5N)。DFO (鉄キレート剤) やVamifeport (FPN阻害剤) のin vitro実験では、iMacの腫瘍促進効果が消失した (Figure 5I, 5P)。腫瘍細胞のCD71ノックダウンによりiMacとの共培養効果が消失し、FPN欠失またはVamifeport処理によりiMacの腫瘍促進効果が抑制された (Figure 5L, 5O, 5P)。Prussian blue染色ではiMacと腫瘍細胞の共培養後にiMacの鉄が減少し (Figure 5Q, 5R)、FerroOrange染色では腫瘍細胞の遊離鉄が増加した (Figure 5S, 5T)。これらの結果は、iMacが鉄輸送を介して腫瘍増殖を促進することを示唆している。

腫瘍細胞の赤芽球擬態 (低酸素によるHBB発現): scRNA-seq解析により、骨転移E0771細胞は原発腫瘍と比較して、ヘム代謝、OXPHOS、解糖、低酸素シグナルが同時に上昇していることが示された (Figure 6A, 6B)。骨転移腫瘍細胞ではHba/Hbb (グロビン遺伝子) が有意に発現しており、特にHBBタンパク質の発現が免疫蛍光染色とフローサイトメトリーで確認された (Figure 6D, 6E)。低酸素がGata1発現を誘導し、HBB産生を制御することがshRNA実験で示された (Figure 6F, 6G)。iMacとの低酸素共培養によりHBB発現がさらに上昇し、HBB/グロビン過剰発現やヘム補充が低酸素誘発アポトーシスを防ぎ、腫瘍増殖を促進した (Figure 6I, S6H-S6J)。ヒト乳がん患者のコホート解析では、HBB発現上昇が骨転移リスク上昇と相関することが示された (Figure 7G)。HBB high群 (n=123) はHBB low群 (n=492) と比較して骨転移リスクが高かった。

考察/結論

本研究は、骨転移と貧血という2つの重大な臨床問題が「EBIマクロファージのハイジャック」という単一の細胞機構で連結されることを初めて示した。EBIマクロファージは正常状態では赤芽球への鉄供給 (赤血球産生) を担う「鉄の運搬者」であるが、腫瘍細胞がこの鉄輸送経路を横取りすることで骨転移成長の鉄要求を満たし、同時に赤血球産生が障害されてがん関連貧血が生じるという新規パラダイムを提示した。

先行研究との違い: これまでの骨転移研究は主に骨吸収破骨細胞や骨芽細胞との相互作用に焦点を当てていたが、本研究は造血細胞、特にEBIマクロファージと腫瘍細胞の相互作用が骨転移と貧血に与える影響を詳細に解析した点で、これまでの研究とは対照的である。また、腫瘍細胞が低酸素環境下でGATA1を介してヘモグロビンβ鎖 (HBB) を発現し、赤芽球を模倣するという知見は、膠芽腫の血管擬態 (vasculogenic mimicry) や乳がん・前立腺がんの骨芽細胞擬態と並ぶ新たな「宿主細胞擬態」の概念を拡張するものである。

新規性: 本研究で初めて、骨転移ニッチにVCAM1+CD163+CCR3+マクロファージが特異的に濃縮され、これらのマクロファージが腫瘍細胞への鉄供給を介して骨転移を促進し、同時に赤血球産生を障害することで貧血を引き起こすことを明らかにした。さらに、腫瘍細胞が低酸素環境下でGATA1を介してHBBを発現し、赤芽球を模倣することで適応するという新規メカニズムを解明した。

臨床応用: 本知見は、骨転移と貧血の新たな治療標的を示唆し、臨床応用に直結する可能性を秘めている。FPN阻害剤Vamifeportは現在鎌状赤血球症で開発中であり、骨転移治療への転用可能性が示唆される。HBBおよびVCAM1+CD163+CCR3+マクロファージマーカーは骨転移リスクのバイオマーカーとして有望であり、EBIマクロファージ枯渇 (Spic標的) やDFO (鉄キレート) との組み合わせ治療戦略も考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒト骨転移におけるEBIマクロファージの機能的確認、乳がん以外の複数のがん種への一般化、およびEBIマクロファージ枯渇時の造血への副作用評価が必要である。また、腫瘍細胞がマクロファージをどのようにリクルートし、赤芽球擬態を開始するかの詳細なメカニズム、および骨髄以外の全身性因子が貧血に与える影響についても、さらなる研究が残されている。

方法

ニッチラベリングとscRNA-seq:分泌型脂質透過性mCherry (sLP-mCherry)、EGFP、ルシフェラーゼを安定発現するE0771乳がん細胞をC57BL/6Jマウスの尾側動脈注射し、骨転移モデルを作製した。FACSによりmCherry+ニッチ細胞、mCherry-遠位細胞、正常骨髄細胞を分取後、scRNA-seqを実施した。Tabula Murisアトラスを参照として21種の造血細胞型を同定した。scRNA-seqデータはHao et al. Cell 2021 の手法を用いて解析された。 フローサイトメトリーと免疫組織化学:VCAM1+CD163+CCR3+細胞の頻度をE0771およびPy8119 (MMTV-PyMT由来) モデルで評価した。FPN (フェロポルチン) およびCD71 (トランスフェリン受容体) の骨転移内局在を免疫蛍光染色 (IF) およびFACSで解析した。Prussian blue染色により鉄含有マクロファージ (iMac) の分布を定量した。 バルクRNA-seq:FACSでソーティングしたVCAM1+CD163+CCR3+細胞とCD11b+F4/80+細胞のGSEA解析をSubramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 の方法論に基づき実施し、ヘム代謝シグネチャーを同定した。 遺伝子操作マウス:Spic-EGFPレポーターマウスを用いてEBI-EGFP+マクロファージを可視化した。JEDIマウス (EGFP認識TCR発現T細胞) によりSpic-EGFP+マクロファージを選択的に枯渇させ、骨転移への寄与を検証した。LysM-CreERT2; Slc40a1 f/fマウス (マクロファージ特異的FPN欠失) を用いて鉄輸送経路の役割を検証した。DFO (デフェロキサミン、鉄キレート剤) およびVamifeport (FPN阻害剤) によるin vitro/in vivo実験を実施した。 赤血球産生解析:フローサイトメトリーにより赤芽球成熟ステージ (pro-E→baso-E→poly-E→ortho-E→網赤血球→赤血球) を定量した。骨転移骨髄の血液学的パラメータ (Hgb、RBC、HCT、血清鉄、TIBC、フェリチン) を測定した。 腫瘍細胞の低酸素応答解析:骨転移腫瘍細胞におけるヘム代謝、OXPHOS、解糖、低酸素シグナルの発現をscRNA-seqで解析した。Hba/Hbb (グロビン遺伝子) の発現をIF、FACS、RT-qPCRで確認し、低酸素環境下でのGATA1によるHBB産生制御メカニズムをshRNA実験で検証した。統計解析にはStudent t-testおよびone-way ANOVAを用いた。