• 著者: Catharina Conrad, Mélia Magnen, Jessica Tsui, Harrison Wismer, Mohammad Naser, Urmila Venkataramani, Bushra Samad, Simon J. Cleary, Longhui Qiu, Jennifer J. Tian, Marco De Giovanni, Nicole Mende, Andrew D. Leavitt, Emmanuelle Passegué, Elisa Laurenti, Alexis J. Combes, Mark R. Looney
  • Corresponding author: Mark R. Looney (UCSF, San Francisco, CA, USA)
  • 雑誌: Blood
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-02-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40014797

背景

造血幹細胞 (HSC) は成人骨髄 (BM) で全血球系列を維持する自己複製細胞であり、有核細胞の0.01%未満と稀少である。HSCは特異的なニッチに維持されつつ循環へ移動する機構は不明な点が多い。HSCは骨髄異形成症候群、急性/慢性白血病、再生不良性貧血、異常造血症の病因に中核的役割を果たし、HSC移植は救命治療となっている。これまで、HSCの主要な生息地は骨髄であるという伝統的な見方が支配的であったが、近年、骨髄外臓器にも稀な造血幹前駆細胞 (HSPC) のプールが存在する可能性が示唆されている。例えば、Lefrancais et al. Nature 2017はマウス肺にHSPCが存在し、血小板産生部位であることを報告した。しかし、成人ヒト肺におけるHSPCの存在、その機能、ニッチ構造、および全身造血への寄与については依然として未解明な点が多かった。

体外循環を受けた肺移植ドナーで血液系再構築が起こるという臨床観察も、肺HSCの存在を示唆していたが、直接的な証拠は不足していた。また、Sikkema et al. NatMed 2023はヒト肺組織の解析からHSC様の細胞集団の存在を示唆したが、その自己複製能や分化能、正確な局在は不明であった。さらに、Travaglini et al. Nature 2020によるヒト肺の単一細胞アトラス研究でも、HSPCの稀少性とその多様なCD34+細胞との共発現のため、肺HSCの明確な同定と機能解析には限界があった。これらの先行研究は、肺が単なるガス交換器官ではなく、造血においても重要な役割を担う可能性を示唆していたものの、ヒトにおける詳細な機能的特性や分子プロファイル、空間的ニッチの解明には知識のギャップが残されていた。特に、ヒトのHSPCは稀少であるため、そのプロファイリングは困難であり、標準的な非教師ありクラスタリング技術では他の肺細胞タイプにマスクされ、見過ごされることが多かった。本研究は、matchedドナー組織(肺、椎体骨髄、末梢血)を用いてヒト肺に機能的HSPCが存在することを実証し、その特性を多角的に解析することで、これらの未開拓な領域を解明することを目的とした。

目的

本研究の目的は、成人ヒト肺に骨髄外造血幹前駆細胞 (HSPC) が存在するかを検証し、その機能的特性、特にin vivoでの生着能と多系列分化能を評価することである。具体的には、matchedドナー組織から分離した肺HSPCが免疫不全マウスにおいて骨髄および肺に生着し、多系統の血球を産生する能力を持つことを示すことを目指した。さらに、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) を用いて肺HSPCのトランスクリプトーム特性を詳細に解析し、骨髄HSCとの分子的な違い、特に肺HSCに特異的な遺伝子シグネチャや経路の濃縮を明らかにすることを目的とした。また、空間トランスクリプトミクスと免疫染色により、肺HSPCの組織内ニッチ局在を特定し、その微小環境を特徴づけることも重要な目的とした。最終的に、G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) による造血幹細胞動員を受けた健常ドナーのアフェレーシス産物における肺HSCの寄与を定量的に解明し、肺HSPCが全身造血において果たす潜在的な役割を明らかにすることを目指した。

結果

ヒト肺におけるHSPCの存在と定量的特性: 成人ヒト肺の血管外間質に機能的な造血幹前駆細胞 (HSPC) が存在することが明らかになった。フローサイトメトリー解析により、肺は多能性前駆細胞 (MP pool: CD34+CD38-) を骨髄 (BM) と同等の頻度で含有しており、HSC (CD34+CD38-CD90+CD45RA-) および多能性前駆細胞 (MPP) も豊富に存在することが示された (Figure 1B-E)。matchedドナー組織を用いた比較では、MP poolの頻度は肺とBM間で統計的に有意差がなかった (Figure 1E, p<0.01)。一方、よりコミットした造血前駆細胞 (HPC: CMP/GMP/MEP) は肺でBMと比較して減少しており (Figure 1C-D)、肺が分化済み前駆細胞よりも原始的なHSCを選択的に維持する場であることが示唆された。肺HSPCの数は、灌流後の血液残留量では説明できず、組織特異的な組成を持つことが示された (補足図1B)。さらに、加齢とともにBMのHSPCは減少するが、肺のHSPCは加齢に対してロバストに維持されることが確認された (補足図1C)。これらの結果は、肺が真の造血幹細胞リザーバとして機能することを初めて示すものである。

機能的Engraftmentと赤芽球・巨核球バイアス: 異種移植 (xenograft) 実験では、BM HSPC移植でn=7匹中6匹 (86%)、肺HSPC移植でn=7匹中5匹 (71%) のNSG-SGM3マウスにおいて、骨髄および肺への多系列生着が確認された (Figure 2C, 補足図5A)。生着はヒトCD45+細胞の0.01%以上を基準とした。赤芽球系では、組換えヒトEPO (エリスロポエチン) 投与により赤血球系再構築も確認された (Figure 2F-G)。MethoCultコロニーアッセイでは、肺Lin-細胞はBMと比較してBFU-E (赤芽球バースト形成コロニー) の比率が有意に増加しており (Figure 1F, p<0.0001)、赤芽球バイアスが示された。MegaCultアッセイでは、肺HSCがBM HSCよりも多くの巨核球コロニーを産生し (補足図4A)、血小板産生への寄与能が高いことが示唆された。細胞周期解析では、肺HSPCがBM HSPCと比較してresting/G0期にある細胞の比率が高く (Figure 1H, p<0.01)、骨髄外ニッチでの静止期維持メカニズムの存在が示唆された。肺HSPC由来のコロニー形成細胞数はBM HSPCと比較して少なかったが、これはin vitroでの古典的CFUアッセイにおける成長因子への応答性の違いに関連する可能性がある。

scRNA-seqによる肺HSC特異的トランスクリプトームシグネチャ: scRNA-seqでBM/肺/末梢血HSPCをKorsunsky et al. NatMethods 2019で統合解析したところ、汎HSC特異的モジュール (AVP, SPINK2, SELL, HOPX) は両組織間で保存されていた (Figure 3B)。肺HSCではCEBPB, SOD2, PLCG2, HSPA1Aなど計50遺伝子がBM HSCと比較して有意に上方制御されており (fold change ≥ 1.5, FDR < 0.05)、これらはHSCの静止期維持、酸化ストレス応答、炎症シグナル関連遺伝子である (Figure 3D-F)。BM HSCでは10遺伝子が肺HSCと比較して上方制御された (Figure 3D-E)。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) では、肺HSCにおいてEPOシグナリング (R-HSA-9027277, FDR=2.38×10⁻⁴)、巨核球分化 (R-HSA-8936459, FDR=0.03)、赤芽球系経路が有意に濃縮されており (Figure 3I-J)、機能的バイアスのトランスクリプトーム基盤が確立された。UCellスコア解析では、肺HSCのEPO関連遺伝子セットスコアがBM HSCと比較して平均2.3 ± 0.4倍高く、また巨核球関連スコアが1.8 ± 0.3倍高いことが確認された。さらに、炎症性シグナル経路も肺HSCで上方制御されており (Figure 3K)、これらの細胞が免疫学的機能を担う可能性が示唆された。

空間トランスクリプトミクスによるニッチ解析と動員への肺HSCの寄与: 免疫染色により、HSC候補細胞 (Lin-/CD34+/CD90+) は肺胞間質に特異的に局在することが確認された (Figure 4A)。Resolve Biosciencesの空間トランスクリプトミクス解析 (100遺伝子パネル) では、HSPC候補の90%以上が血管外肺組織 (肺胞間質、気管支周囲、血管周囲) に存在しており、周囲の内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞がHSPCの直接的なニッチを形成していることが示された (Figure 4D-F)。共起解析では、HSPCの近傍は主に内皮細胞によって形成されるが、上皮細胞や線維芽細胞も安定して存在することが示唆された (Figure 4E-F)。動員幹細胞ドナーn=8例のアフェレーシス産物のscRNA-seqでUCell組織特異的シグネチャ解析を行ったところ、アフェレーシス産物の約25%が骨髄外シグネチャを持ち、そのうち約15%が肺特異的シグネチャを示した (Figure 5E-G)。これにより、G-CSF等による造血幹細胞動員時に肺に常在するHSCが血液HSCプールに動員され寄与することが初めて示された。

考察/結論

本研究は、成人ヒト肺が血管外間質に骨髄と同等頻度の機能的HSPCを含む骨髄外造血部位であることを、matchedドナー組織、xenograft engraftment、単一細胞解析、空間トランスクリプトミクスの4つの独立した方法論で初めて実証した画期的な研究である。これまで、HSCの主要な生息地は骨髄であるという伝統的な見方が支配的であったが、本研究はこれと異なり、肺がHSPCの重要なリザーバであることを示した。本研究の新規性は、ヒトmatched組織(肺/BM/PB)での直接比較、NSG-SGM3マウスへのxenograft engraftment(BM: 6/7, 肺: 5/7)による機能的多系列分化能の証明、および肺HSC特異的50遺伝子シグネチャ(EPOシグナリング FDR=2.38×10⁻⁴)の確立にある。肺HSPCはBM HSPCと比較して細胞周期が静止期にあり、赤芽球系および巨核球系へのバイアスを示すという新規の知見が得られた。これは、肺が血小板産生に関与するというLefrancais et al. Nature 2017の先行研究の知見と一致する。

臨床的意義として、本研究の知見はいくつかの重要な含意を持つ。第一に、肺移植時に肺由来HSCが骨髄外HSCとして移植され、受容者の血液系再構築に寄与しうる可能性が示唆される。第二に、COVID-19、肺癌、間質性肺炎などの肺疾患において、肺HSCの異常が全身造血に影響を及ぼす可能性がある。第三に、G-CSFなどによる造血幹細胞動員産物の約25%が骨髄外起源であり、そのうち約15%が肺由来であるという知見は、動員効率の最適化や移植後の回復戦略に応用できる可能性がある。第四に、CHIP (clonal hematopoiesis of indeterminate potential) や血液悪性腫瘍の肺外HSC起源の検証が今後重要である。

残された課題として、本研究はヒトの死亡ドナー組織を使用したため、死亡メカニズムや臓器回収時の虚血時間がHSC生物学に影響を与えた可能性があり、ドナー間の異質性も結果のばらつきに寄与した可能性がある。また、肺HSCの発生起源(胎生期の初期播種と出生後骨髄からの継続的移入の比率)、肺特異的ストレス(COVID-19感染、慢性低酸素、線維化、炎症)へのHSCの動的応答性の解明、肺癌や転移巣の形成が肺HSCニッチをどのように改変するかの検証、およびヒト肺HSCを支持するニッチ構成分子(CXCL12、SCF、Notchリガンドなどの候補)の同定が重要な将来課題である。本研究は、HSPCプールとその分子多様性に関する理解を再構築し、骨髄悪性腫瘍や骨髄不全に対するHSC移植などの治療的進歩につながる可能性を秘めている。

方法

脳死または心停止後ドナー(n=複数、詳細なドナー情報は補足表1に記載)から、matched肺(広範に灌流済み)、椎体骨髄 (BM)、および末梢血 (PB) を採取した。肺組織は健康な外観の部位を選択した。細胞分離後、Lin-細胞を標準HSPCマーカー(CD34/CD38/CD90/CD45RA/Flt-3)でフローサイトメトリー解析し、多能性前駆細胞 (MP pool: CD34+CD38-)、HSC (CD34+CD38-CD90+CD45RA-)、および多能性前駆細胞 (MPP: CD34+CD38-CD90-CD45RA-) を同定した。さらに、よりコミットした造血前駆細胞 (HPC: CD34+CD38+) である共通骨髄系前駆細胞 (CMP: CD34+CD38+CD45RA-Flt-3+)、顆粒球・マクロファージ前駆細胞 (GMP: CD34+CD38+CD45RA+Flt-3+)、および巨核球・赤芽球前駆細胞 (MEP: CD34+CD38+CD45RA-Flt-3-) の存在も評価した。線維芽細胞の汚染を除外するため、PDGFRA (血小板由来増殖因子受容体アルファ) を含む lineage パネルも使用し、HSPC頻度への影響がないことを確認した (補足図2A-C)。

機能評価として、MethoCult培地を用いたコロニー形成単位 (CFU-E/BFU-E/CFU-GM) アッセイおよびMegaCult培地を用いた巨核球コロニーアッセイを実施し、各組織由来のLin-細胞の増殖・分化能を評価した。MethoCultアッセイでは、10〜14日間培養後、形態学的および表現型基準に基づいてコロニーをスコア化し、手動で定量化した。MegaCultアッセイでは、巨核球コロニーの数とサイズを評価した。細胞周期解析はKi-67とDAPI染色を用いて実施し、G0、G1、S-G2-M期の細胞比率を定量した。

異種移植 (xenograft) 生着能評価のため、NSG-SGM3マウス(Jackson Laboratoryより購入、Stock No: 013062)を亜致死量照射 (2.4 Gy) で前処置し、Lin-細胞 1.5×10⁶個を尾静脈投与した。移植後10週目に、レシピエントマウスの骨髄、肺、末梢血におけるヒト細胞の生着(ヒトCD45+細胞の存在)を評価した。生着はCD45+細胞の0.01%以上をヒトCD45++細胞が占め、かつBMおよび肺では30細胞以上、PBでは15細胞以上がCD45++ゲートに記録された場合を陽性と定義した。赤芽球系細胞の生着を評価するため、実験の最終3週間は組換えヒトエリスロポエチン (EPO) を投与した。

10× Genomics scRNA-seqにより、matched BM、肺、PB由来のLive/Lin-/CD34+ HSPCの統合トランスクリプトーム解析を実施した。異なる個体からのサンプルをデマルチプレックスするために、SNP (一塩基多型) に基づくLive/Lin+細胞のバルクRNAシーケンスも実施した。データ統合にはKorsunsky et al. NatMethods 2019を用いた。遺伝子発現の差次解析にはWilcoxon rank-sum testを用いた。単一細胞遺伝子セット濃縮解析 (ssGSEA) およびUCellスコアリングにより、経路濃縮と組織特異的シグネチャを評価した。

空間トランスクリプトミクス (Resolve Biosciences、カスタム100遺伝子パネル) と免疫染色 (Lin-/CD34+/CD90+) を用いて、肺組織内のHSPCニッチを解析した。smFISH (単一分子蛍光in situハイブリダイゼーション) を実施し、遺伝子発現を可視化した。QuPathを用いた細胞セグメンテーション後、非教師ありクラスタリングにより細胞タイプをアノテーションし、HSPC候補細胞を同定した。HSPCの細胞レベルでの近傍を定義するため、Squidpyを用いた共起解析を実施した。

最後に、G-CSFによる造血幹細胞動員を受けた健常ドナー (n=8) のアフェレーシス産物からLive/Lin-/CD34+細胞を採取し、scRNA-seq解析を行った。UCellスコアリングを用いて組織特異的シグネチャを解析し、動員されたHSCプールにおける肺由来HSCの寄与を評価した。統計解析はGraphPad Prism version 10.0.2、R/RStudio version 4.0.3、またはPython version 3.12.1を用いて実施し、各解析の詳細は関連セクションに記載した。