Article data
Therapeutic efficacy of ipilimumab, an anti-CTLA-4 monoclonal antibody, in patients with metastatic melanoma unresponsive to prior systemic treatments: clinical and immunological evidence from three patient cases
- 著者: Di Giacomo AM, Danielli R, Guidoboni M, Calabrò L, Carlucci D, Miracco C, Volterrani L, Mazzei MA, Biagioli M, Altomonte M, Maio M
- Corresponding author: Maio M (Division of Medical Oncology and Immunotherapy, Istituto Toscano Tumori, University Hospital of Siena, Siena, Italy)
- 雑誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-01-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 19139884
背景
切除不能な転移性悪性黒色腫 (metastatic melanoma) はステージIVにおける生存期間中央値 (median survival) が7-9ヶ月、5年生存率が10%未満と予後不良であり、有効な全身療法の欠如から管理は主要な臨床課題であった。ダカルバジン (DTIC; dacarbazine) は長年にわたり一次治療標準とされてきたが、他の治療法や最良支持療法との第III相比較試験で優位性を示せず、持続的奏効をもたらさない。高用量インターロイキン-2 (IL-2; interleukin-2) は一部の患者に完全奏効をもたらすが、集中治療施設を要する重篤な毒性が問題であった (Atkins et al. 1999)。サイトカインと化学療法の併用は単剤化学療法より高い奏効割合を示す一方、毒性が増悪し全生存期間の改善は認められなかった。二次治療として承認された薬剤は存在せず、難治性悪性黒色腫患者に対する有効な治療戦略を欠くというgap in knowledgeが明確に存在した。
悪性黒色腫に対するT細胞免疫応答は古くから注目されており (Boon et al. AnnuRevImmunol 2006)、腫瘍抗原に対する特異的CD8+ T細胞が存在することが知られていた。しかし、これらT細胞の機能は腫瘍微小環境における抑制シグナルにより制限されていた。CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte antigen-4) は活性化T細胞の負の制御因子として機能し、この分子を遮断することでT細胞活性化が増強されより効果的な抗腫瘍免疫応答が誘導できるという仮説が立てられた。がん-免疫サイクル (Chen et al. Immunity 2013) において理解されるように、免疫チェックポイント阻害はT細胞活性化の制動を解除し、腫瘍に対する持続的な免疫応答を実現する基盤となる。完全ヒト型抗CTLA-4モノクローナル抗体イピリムマブ (ipilimumab; Bristol-Myers Squibb/Medarex) は第I・II相試験で転移性悪性黒色腫患者において持続的な客観的奏効が観察されており、特に広範な前治療歴を有する患者においても有効性が報告されていた。しかし、複数前治療後の難治性転移性悪性黒色腫における免疫学的活性化の直接的組織学的証拠、イピリムマブ特有の奏効パターンの詳細、および免疫関連有害事象 (irAE; immune-related adverse events) の管理に関する臨床的エビデンスは依然として手薄であり、この点の解明が求められていた (Topalian et al. CancerCell 2015)。
目的
本報告の目的は、多施設共同第II相試験 (CA184-008) に参加した複数回の前治療後に病勢進行した転移性悪性黒色腫患者3例について、イピリムマブによる臨床的有効性 (奏効の深さ・持続性・特異的パターン)、安全性 (irAEの発現・重症度・管理)、および腫瘍組織における免疫学的活性化の直接的証拠を詳細に提示することである。
結果
症例1:多重前治療後の持続的SDと腫瘍内T細胞活性化の組織病理学的証拠: 76歳白人女性、左下肢悪性黒色腫 (pT3N1aMx、Clark Level IV、表在拡大型) で、2005年12月からDTIC 800 mg/m2 + IFN-α + チモシン-α1による化学免疫療法6サイクルを受けたが2006年6月に皮膚PDが確認された。続いてDTIC単剤3サイクルを受けたが同年8月に再度PDと判定された。2006年9月にCA184-008試験へ登録 (ECOG PS 0) し、イピリムマブ10 mg/kgの誘導療法 (n=4回投与) を開始した。12週目の初回腫瘍評価で安定病勢 (SD; stable disease) が確認され、24週目でもSDが継続した。皮膚病変は治療前の有茎性基底部から治療中に単一病変へと融合し半有茎性を呈する形態変化を示した (Fig 1)。2007年3月 (24週目) に維持試験 (CA184-025) へ移行し、その後の維持療法2回目 (イピリムマブ開始後11ヶ月) のCTスキャンでもSDが継続していた。イピリムマブ開始後15ヶ月、機械的外傷による出血を契機として病変を外科切除した。組織病理学的検査では活性化CTLを高割合で含む密な炎症性浸潤が認められ、免疫組織化学染色ではCD8+、TIA-1+、グランザイムB+リンパ球が個々の悪性黒色腫細胞を分離する所見が得られた (Fig 2)。irAEとしてはGrade 1の下痢 (当日中に自然消失、治療不要) と、10週目に出現したGrade 2の皮膚発疹 (経口プレドニゾン5 mg×3回/日+クロルフェナミン4 mg/日にて3週間以内に消失、28週目に漸減終了) が報告された。18週目の大腸内視鏡生検では潰瘍性大腸炎に類似した中等度から重度の炎症性浸潤が粘膜・粘膜下層に限局して認められ、上皮内CD8+ T細胞の一定レベルの浸潤を伴う免疫関連大腸炎の組織像を示した (Fig 3)。患者のSDはイピリムマブ開始後20ヶ月以上にわたって継続した。
症例2:複数前治療無効後のPRと偽進行を含む非典型的奏効パターン: 42歳白人男性、左下肢悪性黒色腫 (pT4bN1bMx、Breslow厚7.00 mm、Clark level V、潰瘍形成) で、2004年3月から2006年12月にかけてIFN-α (2.5-5 MU、週2回、20ヶ月)、メルファランによる下肢温熱灌流 (横紋筋融解症・急性腎不全を合併しダイアライシスを要した)、MAGE-3タンパクワクチン接種 (2週間ごと6回+3週間ごと第2サイクル)、DTIC+チモシン-α1の化学免疫療法 (3サイクル) を受けたが、いずれも奏効しなかった。2007年1月にCA184-008試験へ登録 (ECOG PS 1) し、イピリムマブ10 mg/kgの誘導療法を開始した。12週目の腫瘍評価ではベースライン比で部分奏効 (PR; partial response) が確認された。しかし12週目から16週目にかけて腫瘍量が36%増加し、標準WHO基準ではPDと判定された。プロトコルに従い4週間後の確認スキャンを施行したところ、20週目および24週目には再びPRへ回帰した。12週目の腫瘍評価では肝転移の有意な縮小 (Fig 4c) が認められた一方、非標的である脾臓転移2個が増大した (Fig 4d)。ロールオーバー試験24週目には肝病変のさらなる縮小 (Fig 4e)、一方の脾臓結節の消失ともう一方の有意な縮小 (Fig 4f) が確認された。CTおよびPETスキャンでは左大腿部の多くの皮下病変が消失していた (Fig 5)。本患者はイピリムマブ投与中にirAEを一切経験せず、PRはイピリムマブ開始後17ヶ月以上にわたって継続した。
症例3:Grade 4免疫関連膵炎後の持続的SDと腫瘍内CTL浸潤: 36歳白人女性、左足首悪性黒色腫 (pT3N0Mx、Clark level IV、Breslow厚2.6 mm、センチネルリンパ節生検陰性) で、急性胆石関連膵炎の既往 (1999年) を有した。2000年4月の初発切除後、IFN-α (3 MU、週3回、18ヶ月) によるアジュバント療法を施行したが、2002年2月に原発部位での無色素性再発が生じ、以後も同部位での多発再発に対し複数回の外科切除、右閉鎖筋リンパ節切除 (1個陽性)・下肢温熱灌流 (メルファラン)・左鼠径リンパ節切除 (1個陽性) を施行した。2006年10月からDTIC+チモシン-α1 (3サイクル) を受けたが12月にPDと判定された。2007年1月にCA184-008試験へ登録しイピリムマブ10 mg/kgを開始した。2回目と3回目の投与の間にGrade 2の悪心・嘔吐が3日間連続で出現したが対症療法で改善した。3回目投与直後に腹痛を訴え、7週目検査でアミラーゼがGrade 3、リパーゼがGrade 4まで上昇していることが判明した。過去の膵炎既往と酵素上昇・腹部症状から免疫関連膵炎 (immune-related pancreatitis) と判断し、10週目にイピリムマブを中断した。デキサメタゾン8 mg筋注後にプレドニゾン25 mg経口投与に切り替えて1ヶ月かけて漸減した。数日後の血液検査では抗膵臓自己抗体 (膵島細胞抗体およびグルタミン酸脱炭酸酵素抗体) が陽性であった。12週目の全身CTではSDと判定された。4月下旬のMRCPにより膵臓体部・尾部を侵した最近の急性膵炎の証拠が示された。5月中旬の大腸内視鏡生検では肉眼的異常はないものの組織学的に免疫関連大腸炎を示唆する所見が確認された。32週目に切除した大腿部皮膚病変の免疫組織化学染色では、悪性黒色腫細胞巣と豊富な単核細胞浸潤が混在し、CD8+、TIA-1+、グランザイムB+の活性化CTLを多数含む所見が得られた (Fig 6)。40週目には24週目に検出された鼠径リンパ節病変がCTスキャンで確認されず、患者はイピリムマブ開始後17ヶ月以上SDを維持した。
既報プール解析との比較および免疫学的知見の意義: 6臨床試験のプール解析では、イピリムマブ投与n=356例中45例 (12.6%) に客観的奏効 (OR; objective response) が得られ、奏効は3ヶ月から4年以上持続した。そのうち45例中18例 (40%) がOR達成前にSDを経験し、84例の最良評価がSDであった。これら84例中23例 (27%) が24週以上の持続的SDを示し、33例が解析時点で継続中であった。本症例群の20ヶ月以上・17ヶ月以上の疾患制御はこの知見と一致する。症例1・3の腫瘍組織においてCTLA-4阻害によるT細胞活性化の免疫組織化学的エビデンスが個別症例で直接確認されたことは、臨床的疾患制御と腫瘍内免疫応答の連関を示す重要な観察である。
考察/結論
本症例シリーズは、複数前治療が無効な転移性悪性黒色腫3例においてイピリムマブが持続的な疾患制御を達成することを示すとともに、これまでの研究で示されてきた化学療法とは異なる特徴的な奏効パターンを個別症例レベルで詳細に裏付けた。既報の6試験プール解析における持続的OR・SDの知見と対照的に、本症例群では前治療として免疫療法を含む複数の治療モダリティを受けたにもかかわらず臨床的利益が得られており、抗CTLA-4療法が真の難治性集団においても有効である可能性を示した。特に症例2では、標準WHO基準でPDと判定される腫瘍量の増加 (12-16週で36%増加) の後に自然にPRへ回帰するという偽進行 (pseudo-progression) 様の経過を示したが、これは化学療法の奏効パターンとは相違した重要な観察であり、確認スキャンなしにPDを判断することの危険性を示した。
本研究の新規な知見は、2点の免疫学的観察にある。第一に、症例1 (維持療法中に切除した皮膚病変) と症例3 (32週目の皮膚病変) の双方において、CD8+/TIA-1+/グランザイムB+細胞傷害性T細胞の密な腫瘍内浸潤が組織病理学的に確認された点である。TIA-1はアポトーシス促進タンパク質、グランザイムBは標的細胞への急速なアポトーシス誘導に不可欠な蛋白であり、これらマーカーが共発現するCTL浸潤はCTLA-4阻害によるT細胞賦活化を介した免疫介在性腫瘍細胞死が実際に生じたことを示す間接的証拠となる。第二に、症例2がirAEを一切伴わずにPRを達成した点であり、これまで報告されていない重要な観察である。既報ではirAEの出現が抗CTLA-4活性と相関する可能性が示唆されてきたが、本症例はirAEなしに客観的奏効が得られ得ることを示し、irAEを抗腫瘍効果の必須サロゲートマーカーとして使用することへの慎重な姿勢を促す。
臨床応用上の意義として、持続的SDも治療が困難な転移性悪性黒色腫患者群において臨床的意義のあるアウトカムと評価すべきであるという点が挙げられる。臨床現場においては、初期のPD所見や新病変出現があっても患者の全身状態・検査値が安定している場合、確認スキャンによる真のPD確認後に初めて治療変更を検討することが適切である。irAEの早期認識と高用量コルチコステロイドによる迅速な管理が重篤化予防に極めて重要であり、本症例群の結果はステロイド使用がイピリムマブの抗腫瘍活性を損なわないことを示した。これは前臨床知見 (抗CTLA-4抗体とデキサメタゾン併用でのSa1N腫瘍モデルの有効性維持) と一致する臨床的有用性の高い知見であり、橋渡し研究 (bench-to-bedside) の観点から重要な意味を持つ。
今後の検討課題として、まずイピリムマブによる維持療法がSDを延長したりSDからOR転換を促進したりするかどうかを明らかにするための大規模前向きデータが必要である。症例3における免疫関連膵炎とイピリムマブの因果関係は既往の膵炎歴から確定が困難であり、類似した既往を持つ患者への投与リスクに関する更なる検討が残された課題である。患者個々の免疫系の多様性がCTLA-4阻害後の奏効パターンや持続性にいかに影響するかを理解するためのバイオマーカー研究も今後の展望として挙げられる。さらに、irAEと奏効の関連を予測するための前向き免疫モニタリング研究、および本症例で観察された偽進行を正確に識別するための画像評価基準の確立が、future researchとして求められる。3例という限られた症例数はlimitationとして認識する必要があり、本報告の観察を一般化するには進行中の大規模臨床試験からのデータが不可欠である。
方法
本報告は、進行性転移性悪性黒色腫患者を対象とした単群多施設共同第II相試験 (CA184-008; ClinicalTrials.gov NCT00289627) に登録された症例の報告である。本施設 (イタリア・シエナ大学病院) からは適格患者n=155例中n=8例が本試験に登録され、うち複数前治療歴を有し病勢進行 (PD; progressive disease) が確認されたn=3例の臨床経過を詳述した。
患者はイピリムマブ10 mg/kgを3週間ごとに1、4、7、10週目の計4回静脈内投与する誘導療法を受けた。誘導療法完了後、有害事象が許容範囲内の患者は24週目から12週間ごとにイピリムマブ10 mg/kgを投与するロールオーバー維持試験 (CA184-025; NCT00162123) へ移行した。腫瘍評価は12週目に初回実施し以後定期的に施行した。奏効評価は標準WHO基準を適用したが、試験プロトコルにより進行病勢 (PD) 確認後も4週間後の確認スキャンで追跡する設計とし、イピリムマブ特有の遅発性・非典型的奏効に対応した。有害事象は有害事象共通用語規準 (CTCAE; Common Terminology Criteria for Adverse Events) でGrade付けを行い、irAEに対しては経口プレドニゾン漸減または筋注デキサメタゾンを含む管理プロトコルを適用した。
免疫組織化学解析として、治療中に切除または生検した腫瘍組織に対してヘマトキシリン-エオジン (H&E) 染色、ならびにCD8、TIA-1 (T-cell intracellular antigen-1)、グランザイムB (granzyme B) の免疫組織化学染色を実施し、細胞傷害性T細胞 (CTL; cytotoxic T lymphocyte) の浸潤密度と活性化状態を評価した。症例3では免疫関連膵炎の評価として血清アミラーゼ・リパーゼ測定、膵臓自己抗体検査 (膵島細胞抗体および GAD抗体)、磁気共鳴胆管膵管造影 (MRCP; magnetic resonance cholangiopancreatography) を施行した。本報告は症例シリーズであり厳密な統計解析 (Cox回帰、log-rank検定等) は実施せず、臨床的転帰は記述統計にて評価した。