- 著者: Sachiko Okamoto, Junichi Mineno, Hiroaki Ikeda, Hiroshi Fujiwara, Masaki Yasukawa, Hiroshi Shiku, Ikunoshin Kato
- Corresponding author: Junichi Mineno (Center for Cell and Gene Therapy, Takara Bio, Inc., Shiga, Japan)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-11-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 19903853
背景
養子T細胞療法 (adoptive T-cell therapy) においてTCR遺伝子導入による抗原特異的リンパ球のリダイレクションは、患者体内の抗原特異的T細胞を分離・拡張する従来法の限界を克服する戦略として注目されている。Morgan et al. Science 2006 は転移性メラノーマ患者を対象とした臨床試験で、MAGE-A4/メラノサイト抗原特異的TCRをレトロウイルス遺伝子導入した自己リンパ球を用いて最大30%の患者でがん退縮が達成されることを示し、TCR遺伝子修飾T細胞療法が有望であることを実証した。Rosenberg et al. NatRevCancer 2008 は養子細胞移入が有効な癌免疫療法への臨床経路として機能し得ると体系的にまとめた。さらに Sadelain et al. NatRevCancer 2003 はレトロウイルスベクターを用いた遺伝子工学的T細胞による腫瘍標的化の基本的枠組みを示した。
しかし、TCR遺伝子療法には複数の本質的問題点が残存し、低コピー数での高い発現効率と安全性を両立させる技術的 gap in knowledge が明確に存在していた。第一の問題は、導入したTCR α/β 鎖が内因性TCRサブユニットとランダムにミスペアリングし、さらに導入TCRと内因性TCRがCD3 γ/δ/ε/ζ 分子をめぐって競合するため、導入TCRの細胞表面発現が不十分となること。第二に、このミスペアリングにより未知の (自己反応性を含む) 特異性を持つ新規 TCR α/β ヘテロ二量体が生成されるリスクがあること。第三に、高い導入TCR発現を得るためにプロウイルスコピー数を増やすと挿入変異誘発リスク (proto-oncogene活性化・腫瘍抑制遺伝子不活性化・染色体不安定性) が増大すること。追加システイン残基の導入やマウスTCR定常領域への置換といった既報のミスペアリング対策は、TCR可変領域配列依存性があり普遍的な解決策ではなかった。低コピー数での高い導入TCR発現、ミスペアリング回避、TCR汎用性の三要件を同時に満たす手法が手薄であり、その確立が急務であった。
目的
内因性TCR α/β 鎖を特異的にサイレンシングするsiRNA (small interfering RNA) 構築物と、siRNA耐性のコドン最適化腫瘍特異的TCR (MAGE-A4またはWT1) を単一レトロウイルスベクター (siTCRベクター) に組み込み、低プロウイルスコピー数での高い導入TCR表面発現と増強された腫瘍特異的細胞傷害活性を実現する新規ベクター系を開発・評価すること。
結果
コドン最適化による導入TCR発現の改善確認: 従来型WT-TCR発現ベクターMS-bPa (mouse-sequence beta-chain-paired wild-type TCR retroviral vector) と比較し、コドン最適化MAGE-A4特異的TCRを搭載したC-optiTCRは同一MOI (multiplicity of infection) においてテトラマー陽性率を向上させた (Fig. 2A、n=3 independent replicates [donors])。同等のテトラマー陽性率 (約16%) を達成するために必要な平均プロウイルスコピー数はMS-bPa: 4.86 copies/cellに対し、C-optiTCR: 1.02 copies/cellと約1/5に低減できた。コドン最適化単独で導入TCR発現効率が大幅に改善されることが先行報告と一致して確認され、siRNA導入との組み合わせの基盤となった。
siRNA-a04/b03による内因性TCRの選択的サイレンシング: siRNA-a04 (TCR Cα特異的) とsiRNA-b03 (TCR Cβ特異的) は、WT-TCR α/β を発現するHEK293細胞での特異性試験で内因性TCRを強力に抑制する一方、コドン最適化TCR α/β への影響が認められないことを確認した (Fig. 2B、n=3独立実験)。C-optiTCR導入PBMCにエレクトロポレーションでsiRNA混合液 (siRNA-a04 + siRNA-b03) を導入したところ、内因性TCR α RNA発現を54%、TCR β RNA発現を39%に低下させた (対照siRNA導入細胞比)。この際、コドン最適化TCR α/β mRNA発現には有意な変化は認められなかった (Fig. 2C、n=2ドナーで再現)。テトラマー染色ではsiRNA混合液導入により、MAGE-A4特異的TCR表面発現が対照siRNA導入細胞の1.6-fold増加した (p<0.05、Fig. 2D)。siRNAがコドン最適化配列を選択的に認識しない設計が有効に機能したことを実証した。
最適siTCRベクターの選定とPM11の優位性: 29種類のsiTCRベクターから2段階スクリーニングで6候補 (SH03、SH07、SH16、SH18、PM07、PM11) を選定した。フローサイトメトリーの比較ではSH16とPM11がテトラマー陽性率およびMFI (mean fluorescent intensity) において最高値を示した (Fig. 3A、B、n=3ドナーで再現)。テトラマー陽性細胞を単離して内因性TCR RNA発現を定量したところ、SH16はTCR α発現を10%に低下させたがTCR β は60%にとどまり、PM11はTCR α/β 両方を約20%に低下させてより均衡した抑制効果を示した (Fig. 3C)。長期安定性の評価では、PM11導入細胞でプロウイルスコピー数・テトラマー陽性率・TCR RNA抑制効果がday 4からday 34まで1か月以上にわたり維持されることが確認され (Fig. 3D)、PM11を最終候補として選定した。
PM11-wの低コピー数での圧倒的優位性: PM11の2対目siRNA (siRNA-a06、siRNA-b02) を追加したPM11-wと他ベクターを希釈系列で比較した。同等のテトラマー陽性率達成に必要な平均プロウイルスコピー数はMS-bPa: 4.86、C-optiTCR: 1.02、PM11: 0.60、PM11-w: 0.58 copies/cellと段階的に低下した (Fig. 4A、B)。同等のプロウイルスコピー数条件 (MS-bPa: 3.1、C-optiTCR: 2.0、PM11: 2.4、PM11-w: 2.7 copies/cell) での直接比較では、PM11-wのテトラマー陽性率はMS-bPaの4.6-fold、C-optiTCRの2.5-fold高く、MFIもMS-bPaの2.5-fold、C-optiTCRの1.5-fold高値を示した (Fig. 4B)。内因性TCR α/β RNA発現はPM11とPM11-wで同程度 (C-optiTCR比30-35%) だったが、外因性TCR α/β RNA発現レベルはPM11-wがPM11より有意に高く (p<0.05、Fig. 4C)、追加ステムループ構造による5’ UTRでのmRNA安定化効果が外因性TCR高発現に寄与しているものと推察された。
内因性TCR抑制によるCD3競合解除の蛋白レベル実証: PM11-wおよびC-optiTCR導入PBMCのテトラマー陽性・陰性細胞を、FITC標識抗TCR Vβ (Vβ2/Vβ3/Vβ17) 抗体混合液で染色した。テトラマー陽性細胞中のTCR Vβ陽性集団のMFI (FITC) はテトラマー陰性細胞と比較して著明に低下していた (Donor 1: PM11-w 2,595 vs. 6,715、C-optiTCR 3,219 vs. 5,519; Donor 2: PM11-w 2,902 vs. 7,382、C-optiTCR 3,600 vs. 7,027)。さらにPM11-w導入細胞のMFIはC-optiTCR導入細胞より低く (Fig. 4D)、siTCRベクターによる内因性TCR抑制がCD3 γ/δ/ε/ζ 分子をめぐる競合を解除し、導入MAGE-A4特異的TCR α/β ヘテロ二量体の細胞表面発現増強をもたらすという機序が蛋白レベルで確認された。
腫瘍特異的細胞傷害活性の増強: 同等のプロウイルスコピー数 (C-optiTCR: 4.2 copies/cell、PM11-w: 4.0 copies/cell) 条件で、MAGE-A4+/HLA-A2402+ 腫瘍細胞株11-18に対するCTL活性を比較した。Calcein-AM放出アッセイ (n=3 independent replicates) では、PM11-w導入細胞はC-optiTCR導入細胞より有意に高い腫瘍溶解活性を示した (Fig. 5、p<0.05)。一方、MAGE-A4+/HLA-A2402- 細胞株QG56への溶解は両群でほぼ認められず (specific lysis <5%)、HLA-A*2402拘束的な抗原特異的CTL活性であることが確認された。
WT1特異的TCRへの適用による汎用性の実証: WT1-siTCRベクターはWT1-WT (野生型) およびWT1-CO (コドン最適化のみ) と比較して、同等のプロウイルスコピー数 (WT1-WT: 2.1、WT1-CO: 2.0、WT1-siTCR: 2.5 copies/cell) でテトラマー陽性率が2.8-fold高く、MFIがWT1-WT: 16,021、WT1-CO: 21,427、WT1-siTCR: 27,236と段階的に向上した (Fig. 6B、n=2ドナーで再現)。MAGE-A4とWT1という抗原特異性の異なる2種類のTCRで同様の改善が得られたことは、siTCRアプローチがTCR可変領域配列に依存しない普遍的手法であることを示している。
考察/結論
本研究は内因性TCRをsiRNAでサイレンシングしたコドン最適化腫瘍特異的TCRを単一レトロウイルスベクターに組み込む新規なsiTCRアプローチを開発し、本研究で初めてプロウイルスコピー数を規格化した上でのベクター発現効率を系統的に比較評価した。siTCRベクターは低コピー数 (PM11-w: 0.58 copies/cell) で同等のテトラマー陽性率を達成し、同等コピー数条件では従来型WT-TCRベクターと比較して4.6-fold多いテトラマー陽性細胞と増強した腫瘍特異的細胞傷害活性を実現した。
これまでの研究との比較: 既報のTCRミスペアリング対策として追加システイン残基の導入 (Cohen et al. CancerRes 2007) やマウスTCR定常領域への置換 (Cohen et al. CancerRes 2006) が報告されていたが、これらの有効性はTCR可変領域配列依存性があり、特定のTCR組み合わせでは効果が減弱するという本質的限界があった。これと異なり、本研究のsiRNAはTCR定常領域 (Cα、Cβ1/Cβ2) を標的とするため、Cαは1種類、Cβは2種類 (Cβ1/Cβ2) しか存在しないという定常領域の構造的単純性を活用し、わずか2種類のsiRNAで多様な内因性TCRリアレンジメントを網羅的に抑制できる点に新規性がある。MAGE-A4特異的TCRとWT1特異的TCRという異なる可変領域を持つ2つのTCRで同様の改善効果が確認されたことは、このアプローチの可変領域非依存的普遍性を支持している。
分子機序の考察: コドン最適化TCR mRNAの発現レベルはsiRNA導入によって変化せず、タンパク質表面発現のみが増強されたことは、内因性TCR mRNA減少によるミスペアリング低減とCD3分子の利用可能性増加が発現増強の機序であることを示唆している。PM11-wがPM11より外因性TCR mRNA発現を高く維持しながら内因性TCR抑制は同程度であった点は予期せぬ知見であり、PM11-wに含まれる追加ステムループ構造がmRNA 5’ UTR (untranslated region) に作用してポリアデニル化を阻害しmRNA安定化をもたらすというRNA安定化機構 (Klasens et al. 1998; Suay et al. 2005) が付加的に機能していると解釈される。
臨床的意義と臨床応用への展望: TCR遺伝子療法の臨床現場においてプロウイルスコピー数の最小化は、挿入変異誘発リスクを低減するために重要な安全性要件である。成熟T細胞はCD34+ 造血幹細胞と比較して挿入変異リスクが低いとされるが、継続的な安全性追跡が必要であることは変わりない。siTCRベクターは低コピー数での高発現効率により、この安全性要件と治療有効性を同時に満たす可能性があり、臨床的意義は高い。また、単一レトロウイルスベクターへの腫瘍抗原特異的TCRとsiRNAの組み込みは、複数ベクターの同時導入に伴うベクタータイター調整の困難・製造コスト・規制承認の複雑さを回避でき、臨床規模での実装可能性を大幅に高める。本アプローチは悪性腫瘍のみならず骨髄移植後サイトメガロウイルス感染等のウイルス感染症にも適用可能である。
残された課題: off-target効果については詳細な検討が必要であり、siRNAの予期せぬ遺伝子サイレンシングが他の生物学的プロセスに影響を与えないかを網羅的に評価することが今後の課題として残されている。長期的な安全性追跡、他の腫瘍抗原特異的TCRへの適用、臨床グレードでの大量製造安定性の確立、およびin vivoでの前臨床試験を経た上での早期臨床試験設計が future research として求められる。内因性TCR発現の大幅な抑制後に免疫応答の多様性が低下することへの影響 (感染防御・自己免疫リスク) も慎重に評価が必要な limitation として認識されている。
方法
供与源と細胞株: HLA-A2402拘束性MAGE-A4143-151 (melanoma antigen gene A4 protein, residues 143-151 epitope) 特異的CD8+ CTL (cytotoxic T lymphocyte) クローン2-28およびWT1235-243 (Wilms’ tumor protein 1, residues 235-243 epitope) 特異的CD8+ CTLクローンTAK-1 (WT1-specific CTL clone) からTCR α/β 遺伝子を単離した。VSVG (vesicular stomatitis virus G protein) -pseudotyped レトロウイルス産生にはHEK293T cell line (ATCC CRL-3216, human embryonic kidney 293 cells) を使用し、単一TCR鎖発現の検証系としてHEK293細胞株 (293-A: 野生型TCR α発現、293-coA: コドン最適化TCR α発現、293-BC1 (wild-type TCR beta chain construct 1) / 293-BC2 (wild-type TCR beta chain construct 2): 野生型TCR β鎖発現、293-coB: コドン最適化TCR β発現) を構築した。腫瘍細胞株として11-18 (MAGE-A4+/HLA-A2402+) およびQG56 (MAGE-A4+/HLA-A*2402-) を細胞傷害アッセイに使用した。健常ドナー由来PBMC (peripheral blood mononuclear cells) は書面でのインフォームドコンセントを取得後に分離し、GT-T503 (serum-free T-cell expansion medium)培地 (1%自己血漿、0.2% HSA (human serum albumin)、IL-2 600 IU/mL) で培養した (Takara Bio Ethics Committee承認)。
ベクター設計と構築: TCR α/β cDNAをGeneArtによりコドン最適化し、ヒトコドンバイアスへの適合とcis作動配列 (スプライスドナーサイト等) の排除を実施した。内因性TCR Cα (T-cell receptor alpha constant region)領域特異的siRNA (siRNA-a04: 5’-GTAAGGATTCTGATGTGTA-3’) およびCβ (TCR beta constant region)領域特異的siRNA (siRNA-b03: 5’-CCACCATCCTCTATGAGAT-3’) を、コドン最適化TCRとミスマッチになるよう設計した。コドン最適化MAGE-A4特異的TCR α/β を搭載したC-optiTCR (codon-optimized MAGE-A4-specific retroviral TCR vector)を基盤に、siRNA発現ユニットとして2種類のアーキテクチャを採用した — (1) pol III (RNA polymerase III) プロモーター (hU6 [human U6]、mU6 [mouse U6]、hH1 [human H1]) 駆動の短鎖ヘアピンRNA (shRNA) 型 (SH series: shRNA-type siTCR vectors SH03/SH07/SH16/SH18)、(2) ヒトmiRNA miR-17/miR-18クラスター構造を模倣したpri-miRNA (primary microRNA) 型 (PM series: pri-miRNA-type siTCR vectors PM07/PM11/PM11-w)。計29種類のsiTCRベクターを構築・評価した。WT1特異的ベクターとしてWT1-WT (wild-type WT1-specific TCR vector)、WT1-CO (partially codon-optimized WT1-specific TCR vector)、WT1-siTCR (siRNA-equipped WT1-specific TCR vector) を構築した。
感染・評価プロトコル: PBMCをOKT-3 (anti-CD3 monoclonal antibody, mAb, 30 ng/mL) およびIL-2 (600 IU/mL) で刺激後、RetroNectin結合ウイルス感染法 (2,000×g、2時間、RetroNectin coatedプレート) でレトロウイルス感染を行った。評価指標: PE (phycoerythrin) 標識MAGE-A4143-151/HLA-A*2402テトラマーおよびFITC (fluorescein isothiocyanate) 標識抗CD8抗体によるフローサイトメトリー (Cytomics、FACS CantoII)、SYBR PrimeScript RT-PCRキット (SYBR Green dye-based reverse transcription PCR kit)による定量的RT-PCR (reverse transcription quantitative PCR; 内因性・外因性TCR α/β mRNA)、Cycleave PCR (Cycleave real-time quantitative PCR system)によるプロウイルスコピー数定量、Calcein-AM (acetoxymethyl ester fluorescent cell viability dye)放出アッセイによる細胞傷害活性評価。TCR Vβ (T-cell receptor variable beta chain)特異抗体として抗Vβ2/Vβ3/Vβ17 mAb混合液を使用した。siRNA導入にはエレクトロポレーション (Human T-Cell Nucleofector kit, Amaxa) を用いた。統計解析はStudent’s t testを使用し、p<0.05を統計学的有意とした。