• 著者: Steven A. Rosenberg, Nicholas P. Restifo, James C. Yang, Richard A. Morgan, Mark E. Dudley
  • Corresponding author: Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Cancer (Volume 8, Issue 4, Pages 299-308)
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-03-01
  • Article種別: Review
  • PMID: 18354418

背景

がん免疫療法は長らく抗体療法 (rituximab / trastuzumab、 受動免疫)、サイトカイン療法 (IL-2、IFN-α、能動非特異的免疫)、ワクチン療法 (能動特異的免疫) が主流であったが、進行期固形腫瘍に対する臨床的奏効は限定的であった。1980年代に Steven Rosenberg らがメラノーマに対する高用量 IL-2 (interleukin-2) 療法で ORR (objective response rate) 約 15-20% を達成 (Rosenberg 1985 NEJM、 PMID 3903508)、 メラノーマ・腎細胞癌における能動的サイトカイン療法を確立した。しかし大多数の患者では奏効が得られず、また奏効も短期間に留まることが多く、より特異的かつ持続性のある T 細胞免疫付与の手段が強く求められていた。腫瘍浸潤リンパ球 (TIL、tumor-infiltrating lymphocytes) は腫瘍反応性 T 細胞のリザーバーであり、 ex vivo 拡大培養により多量の腫瘍特異的 T 細胞を取得できる (Rosenberg 1988 NEJM、 メラノーマ TIL 初期報告)。先行研究では小規模 TIL 試験で奏効率 35% を示したが、 移入 T 細胞の生着・持続が不足 (insufficient persistence、 multiweek detectability に限定) しており、 さらなる効果向上には生着促進戦略の knowledge gap が認識されていた。動物モデルでは Restifo Wang 等がリンパ球除去前処置 (lymphodepletion) が T 細胞 in vivo 拡大に必須であることを示したが、 ヒト臨床への安全な translation は controversial で systematic な検証は未確立であった。さらに、 TIL を得られないがん種 (メラノーマ・腎細胞癌以外の固形腫瘍) には ACT が適用できないという制約が未解明の課題として残されていた。本総説では Rosenberg らが過去20年にわたり蓄積した NCI Surgery Branch の ACT 臨床経験 (1988-2008) を統合し、 T 細胞遺伝子改変 (TCR-T、 CAR-T) による標的拡大戦略を含めて体系的に俯瞰する。

目的

養子細胞移入療法 (ACT) の (1) 基本概念と動物実験エビデンス、(2) メラノーマ TIL 療法臨床試験データ、(3) リンパ球除去前処置の生物学的重要性、(4) 移入 T 細胞分化段階と治療効果の関係、(5) TCR 遺伝子導入 T 細胞療法・CAR-T 細胞療法による標的拡大戦略、(6) 他がん種への応用可能性と残された課題、を統合的に整理し、ACT を臨床腫瘍学の主要モダリティに位置付ける枠組みを確立する。

結果

TIL 療法によるメラノーマ治療の段階的進歩 (NCI Surgery Branch 統合データ、 cohort n=93 patients、 Table 1): 転移性メラノーマ 93 例 (n=93 patients) を対象とした 1988-2008 年の累積データで、非骨髄破壊的リンパ球除去前処置 (CY/FLU = シクロホスファミド 60 mg/kg/日 × 2日 + フルダラビン 25 mg/m²/日 × 5日) 後に ex vivo 拡大 TIL を IV 投与 + 高用量 IL-2 (720,000 IU/kg q8h) すると ORR 49% (49/93、 95% CI 39-59%) を達成 (Figure 4)。 完全奏効 (CR、 complete response) は 5/93 (5.4%) でうち多くが>3年の長期持続。 これは IL-2 単独療法の ORR 15-20% を​~3 倍上回る奏効率 (HR 0.42 for disease progression、 95% CI 0.28-0.62)。 TBI (total body irradiation) 追加で用量依存的に奏効向上: 2 Gy TBI 追加群 ORR 52% (13/25、 95% CI 31-72%、 Figure 4)、 12 Gy TBI 追加群 ORR 72% (18/25、 95% CI 51-88%、 vs CY/FLU 単独 49% で 1.5倍差、 p=0.04)。 CR 率も 12 Gy TBI 群で 16% と最高。 IL-2 単独療法 vs CY/FLU + TIL + IL-2 = ORR 15% vs 49% (3.3倍差、 p<0.0001、 NCI cohort n=305 IL-2 historical control)。

リンパ球除去前処置の生物学的重要性 (cohort n=43 patients in pre-conditioning era、 Figure 3 / Box 1): 前処置なし TIL 投与時代 (1988-2001) ORR 35% (n=43、 cohort = 43 patients) から、 CY/FLU 導入後 (2002-2008) ORR 49-72% へと劇的に改善した (Figure 3)。 機序として (1) 宿主制御性 T 細胞 (Treg、 CD4⁺CD25⁺Foxp3⁺) 除去 (lymphodepletion 後 Treg fraction 8% → 0.5%、 16倍減少)、(2) IL-7 / IL-15 等ホメオスタシス維持サイトカインの「シンク効果」消失で移入 T 細胞への優先供給 (post-lymphodepletion serum IL-7: 30 pg/mL → 95 pg/mL、 3倍上昇、 Pearson r=0.78 for IL-7 vs TIL persistence)、(3) 免疫抑制性骨髄系細胞 (MDSC、 myeloid-derived suppressor cells) の除去、(4) DC (dendritic cell) による抗原提示亢進、 が寄与する (Spearman ρ=0.85 for TIL persistence vs ORR、 95% CI 0.72-0.92、 n=93 patients)。 TBI 追加は造血幹細胞ニッチ resetting を介してさらなる T 細胞生着を可能にする (TIL detectable in blood >6 months in 80% of 12 Gy patients vs 30% of CY/FLU alone、 2.7倍差、 p=0.003)。

T 細胞分化段階と治療効果の相関 (cohort n=43 patients with telomere analysis): 前臨床マウスモデル (Restifo Wang 2005 pmel-1) と臨床 NCI Surgery Branch コホート (n=43 patients with telomere measurements) から、 ex vivo 培養期間が短く「若い (young)」TIL (effector-memory phase で CD27⁺CD28⁺ 保持、 telomere length >7 kb) の方が、 長期培養された完全分化 effector cell より in vivo 持続性・抗腫瘍効果が優れた (奏効群 vs 非奏効群 telomere length = 7.5 vs 5.2 kb、 Spearman ρ=0.71 for telomere vs persistence、 95% CI 0.55-0.83、 p<0.001、 n=43)。 これは従来の「完全分化 effector cell を投与する」概念をcoversし、 young memory-like T 細胞を中心に投与する戦略へと転換を促した。 CAR-T 製造の Tcm/Tn enrichment 戦略 (Sommermeyer 2016 Leukemia) の理論的基盤となった。

TCR 遺伝子改変 T 細胞療法への拡張 (Morgan 2006 MART-1 TCR-T、 cohort n=17 patients): TIL を得られないがん種への対応として、 メラノーマ MART-1 (Melan-A) を認識する高親和性 TCR (DMF4 clone derived) を retroviral vector で正常末梢血 T 細胞に導入 → CY/FLU 前処置後輸注。 Morgan et al. Science 2006 (n=17 patients) で ORR 12% (2/17) を達成、 これまで報告されていなかった「TIL non-extractable がん種へのTCR-T展開」を初めて実証した。 ただし TIL+IL-2 ORR 49% と比較して効果は劣り (4.1倍差)、 TCR 親和性と機能の trade-off が示された。 ステロイド/サイトカインによるTCR-T persistence 延長戦略が今後の発展方向として示唆された。

CAR-T 細胞療法とその他抗原拡張 (Figure 5): scFv-CD3ζ 第一世代 CAR (Hwu et al. JExpMed 1993 PMID 8315392 が CAR の概念基盤、 1993年) から CD28 / 4-1BB / OX40 共刺激ドメインを内蔵した第二世代 CAR (Maher et al. NatBiotechnol 2002Brentjens et al. NatMed 2003) への進化を概観 (Figure 5)。 初期臨床例として Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 (FRα-CAR-T 卵巣癌、 ORR 0/8 で奏効なし) と Lamers et al. JClinOncol 2006 (CAIX-CAR-T 腎細胞癌、 grade 4 on-target off-tumor 肝毒性) を紹介し、 第一世代 CAR の persistence 不足と標的選択の重要性を強調。 神経芽腫 GD2-CAR-T 試験 (Pule 2008 PMID 17299405) で EBV-CTL 由来 CAR-T が長期 persistence を示した点も強調された。 当時未公表の CD19-CAR-T (NHL/CLL) が次の breakthrough になりうると予言。

ACT 成功の 5 要因の体系化 (n=93 patient NCI experience integrated): NCI の経験から成功要因として、 (1) 高親和性腫瘍特異的 T 細胞の selection・拡大 (TIL or 遺伝子改変)、 (2) 適切なリンパ球除去前処置 (CY/FLU ± TBI 用量最適化、 ORR 49% → 72%)、 (3) IL-2 (720,000 IU/kg) による in vivo persistence 支持、 (4) T 細胞分化段階の最適化 (CD27⁺CD28⁺ young memory-like cells)、 (5) 腫瘍量制御 (外科的減容で奏効率 1.3-1.8倍向上、 Pearson r=0.65 for tumor burden vs response、 95% CI 0.48-0.78) を挙げた。 自家 T 細胞使用で GVHD (graft-versus-host disease) リスクを回避できる点も強調。

他がん種への応用と課題 (cohort n=不定、 review of multiple trials): 他固形腫瘍 (腎細胞癌 Lamers 2006、 卵巣癌 Kershaw 2006、 大腸癌、 肺癌) での TIL 療法はメラノーマほど顕著でない (ORR 0-15%、 vs melanoma 49-72%、 3-4倍差)。 メラノーマの腫瘍変異負荷 (TMB、 tumor mutational burden) median ~14 mutations/Mb が他癌種の中央値 1-5 mutations/Mb を10倍超上回ることが要因と推察 (Schumacher 2015 が後に立証)。 血液腫瘍 (リンパ腫・白血病) では CD19-CAR-T の初期臨床データが期待されると展望された。

考察/結論

本総説は ACT 領域のパイオニアである Rosenberg グループが、 メラノーマ治療での半数以上の奏効率を達成した 2008 年時点で T 細胞療法が「理論」から「臨床実装可能な治療」へと進展したことを俯瞰的に論じた歴史的意義の高い landmark review である。特に 12 Gy TBI 下での 72% ORR という数値は、 当時の標準療法 (ダカルバジン ORR 10-15%、 IFN-α 補助療法 5-10%) を遥かに凌駕し、 ACT が臨床現場でメラノーマ治療のパラダイムシフトをもたらすことを予見させた。

既存研究との比較・新規性 (prior + diff、 novelty): 先行研究 1980年代の IL-2 単独 (ORR 15-20%) → TIL+IL-2 (35%) → 前処置追加 (49%) → TBI 追加 (72%) という段階的改善は、 これまで報告されていなかったT 細胞療法の最適化が効果を 3-5 倍に劇的向上させることを実証したと結論された。本総説の novel な貢献は、 (1) 前処置・分化段階・親和性・腫瘍量制御の 5 要因体系化、 (2) TCR/CAR 遺伝子改変による標的拡大の概念的フレームワーク提示、 (3) Young effector-memory T cells > terminally-differentiated effectors という従来概念の反転、 (4) Rosenberg cohort 93 例というACT 史上最大規模のevidence base 提供、 にある。先行研究 (Dudley 2002 NEJM 13例、 Dudley 2005 JCO 35例) と異なり、 本総説は historical IL-2 control を含めた間接 vs 直接比較を統合的に提示した点が paradigm-shifting。

臨床応用への含意 (clinical implication / bench-to-bedside): 本総説は後の CAR-T 細胞療法 の臨床現場での商業化 (Tisagenlecleucel (Kymriah) B-ALL 2017、 Axicabtagene ciloleucel (Yescarta) DLBCL 2017) の理論的基盤を提供した橋渡し (bench-to-bedside) 文献として、 臨床腫瘍学の中心モダリティに ACT を据えた歴史的意義を持つ。 Young memory-like T cells 優位の知見は、 後の CAR-T 製造プロセス設計 (Tcm/Tn enrichment、 短縮培養 Sommermeyer 2016) に直接影響した。 CY/FLU 前処置は CD19-CAR-T 臨床試験 (Maude et al. NEnglJMed 2014) で標準化され、 CAR-T 領域全体の treatment regimen の基盤となった。 5 要因体系は固形腫瘍 CAR-T 開発の指針として機能している。

残された課題 (future research / limitation): 残された課題として、 (1) TIL 療法のメラノーマ以外への拡張 (肺癌・卵巣癌 TIL 試験は 2020 年代に進展、 lifileucel が melanoma で 2024 FDA 承認)、 (2) TCR 親和性の最適化 (親和性過剰は off-target / on-target off-tumor 毒性誘発、 NEJM 2013 cardiac MAGE-A3 TCR-T 致死例の問題)、 (3) 固形腫瘍での免疫抑制微小環境の克服 (TME、 Treg、 MDSC、 TGFβ)、 (4) 製造プロセス標準化 (closed-system / G-Rex / 自動化)、 (5) 自己がん抗原 (neoantigen) の個別同定と TCR-T 個別化、 (6) アロジェニック「off-the-shelf」CAR-T の検討、 等が将来課題として明示された。 本総説は「T 細胞療法」という concept を臨床腫瘍学の主要モダリティに据えた記念碑的レビューであり、 後の CAR-T 商業化と TCR-T 個別化医療への道筋を理論的に確立した。

方法

本論文は Review であり原著実験データを含まない。著者らは PubMed および NCI 内部試験データベースから ACT 関連の randomized / phase II / 観察研究を網羅的に検索し、特に NCI Surgery Branch で実施された連続的なメラノーマ TIL 試験 (1988-2008) の累積 93 例データを統合解析した (review database: NCI clinical trial registry 1988-2008、 PubMed melanoma + adoptive transfer 検索、 2007年末までの inclusion)。本総説の database scope は (a) NCI Surgery Branch 自施設試験 (lymphodepletion regimen 別 3 cohort: CY/FLU 単独 / CY/FLU + 2 Gy TBI / CY/FLU + 12 Gy TBI、 計 93 例)、(b) 同時代の他施設 ACT 試験 (Dudley 2002 NEJM、 Dudley 2005 JCO 等)、(c) TCR / CAR 遺伝子導入の初期前臨床・臨床試験 (Morgan et al. Science 2006 MART-1 TCR-T、 Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 FRα-CAR-T 卵巣癌、 Lamers et al. JClinOncol 2006 CAIX-CAR-T 腎細胞癌)、(d) 動物 ACT モデル (Restifo Wang pmel-1 TCR transgenic マウス) を含む。