- 著者: Hongzhi Wang, Kun Wang, Xuan Zheng, Dezuo Dong, Xianggao Zhu, Xin Sui, Huajing Teng, Baocai Xing, Weihu Wang
- Corresponding author: Weihu Wang / Baocai Xing (Department of Radiation Oncology / Hepatopancreatobiliary Surgery, Peking University Cancer Hospital & Institute, Beijing, China)
- 雑誌: Carcinogenesis
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 2 Clinical Trial)
- DOI: N/A
背景
肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma: HCC) は世界で 6 番目に多い癌であり、癌死亡原因の第 3 位を占める。HCC の 75〜85% を占める HCC の大多数の患者は診断時に切除不能である。近年、免疫療法 (immune checkpoint inhibitor: ICI) が切除不能 HCC の生存を有意に延長させ、カムレリズマブ + アパチニブ (プログラム死受容体-1 [PD-1] 阻害剤 + 小分子チロシンキナーゼ阻害剤 [TKI])、アテゾリズマブ + ベバシズマブ、ニボルマブ + イピリムマブなどの併用療法が標準化されつつある。既存の全身療法では奏効率 (ORR) は 11〜36%、中央値無増悪生存期間 (PFS) は 3.8〜9.1 か月、中央値全生存期間 (OS) は 15.4〜23.7 か月にとどまり Biton et al. ClinCancerRes 2018、より高いアウトカムが求められていた。
放射線療法は HCC において局所制御に有効であり、免疫チェックポイント阻害剤との相乗効果も期待される。NRG Oncology/RTOG 1112 Phase 3 試験では局所進行 HCC に対して定位放射線療法 (SBRT) + ソラフェニブが ソラフェニブ単独より PFS を有意に改善した。他のがん種では ctDNA が免疫療法の治療反応性と予後を予測する重要なバイオマーカーとして確立されており Powles et al. Nature 2021、特に TP53 変異が免疫療法への反応性を修飾しうることも報告されているが Assoun et al. LungCancer 2019、局所進行 HCC でこれらのバイオマーカーが三療法の反応性予測に使えるかは未解明のままであった。
しかしながら、全病変を対象とした放射線療法と小分子 TKI (アパチニブ) および PD-1 阻害剤 (カムレリズマブ) を組み合わせた三療法を評価した前向き臨床試験はこれまで存在しなかった。また ctDNA ゲノムバイオマーカーがこの難治性集団での治療反応性予測に活用できるかどうかという重要な知識の不足が、局所進行 HCC の個別化治療を妨げる根本的な問題として残されていた。血管侵襲 (81.8%) と肝外リンパ節転移 (25%) を高頻度に含む難治性集団に対する有効な治療戦略の確立が急務であった。
目的
局所進行切除不能 HCC 患者に対するカムレリズマブ (PD-1 阻害剤) + アパチニブ (TKI) + 強度変調放射線療法 (intensity-modulated radiotherapy: IMRT) の三療法の有効性・安全性を評価し、ctDNA を含むゲノムバイオマーカーによる治療反応性・予後予測因子を同定する。
結果
奏効率と腫瘍縮小効果:ORR 84.1%・完全奏効率 52.3% (mRECIST):
2020 年 10 月〜2024 年 11 月に 78 例をスクリーニングし 44 例を登録した。年齢中央値 57 歳 (四分位範囲 [IQR] 50-62)、男性 90.9%、Barcelona Clinic Liver Cancer (BCLC) stage C 90.9%、Child-Pugh class A 90.9%。腫瘍径≥5 cm が 68.2% (30/44)、多発巣が 47.7%、血管侵襲が 81.8% (36/44) と高リスク集団であった (Table 1, Fig 1A)。全 44 例を治療反応性解析に含め、最良総合奏効では mRECIST・RECIST 1.1 とも ORR 84.1% (95% CI 69.9-93.4)、疾患制御率 (disease control rate: DCR) 97.7% (95% CI 88.0-99.9) を達成した (Table 2)。mRECIST による完全奏効 (CR) 率は 52.3%、RECIST 1.1 による CR 率は 13.6% であった。中央値奏効期間 (DOR) は mRECIST で 19.9 か月 (95% CI 8.7-31.2)、RECIST 1.1 で 19.9 か月 (95% CI 10.8-29.1)。中央値奏効達成期間は 2.3 か月 (IQR 2.0-3.9) で、全標的病変が mRECIST で縮小した (Fig 1B, 1C)。
生存期間:PFS 中央値 13.8 か月・2 年 OS 率 70.2%:
中央値追跡期間 32.2 か月 (IQR 26.8-48.9) の時点で、疾患進行が 25 例 (56.8%)、死亡が 18 例 (40.9%) に発生した。中央値 PFS は 13.8 か月 (95% CI 11.8-15.8)、12 か月 PFS 率 59.1% (95% CI 46.2-75.6)、24 か月 PFS 率 38.1% (95% CI 26.0-55.8) (Fig 2A)。中央値 OS は未到達 (NR)、12 か月 OS 率 81.2% (95% CI 71.2-94.0)、24 か月 OS 率 70.2% (95% CI 57.8-85.2) (Fig 2B)。中央値 TTP (time to progression) は 14.2 か月 (95% CI 6.5-21.9)。局所制御率は 12 か月 92.3% (95% CI 84.3-100)、24 か月 86.3% (95% CI 75.8-98.3) と良好で、in-field failure は 6 例 (13.6%) のみであった (Fig 2C)。mRECIST CR 達成患者の中央値 OS は NR、非 CR では 18.8 か月 (HR 0.13、95% CI 0.04-0.44) と CR 達成が強力な予後予測因子であることが示された。血管侵襲サブグループ (n=36) でも ORR 83.3%、中央値 PFS 12.6 か月 と全体集団と同等の有効性が確認された。
安全性:Grade 3-4 TRAE 81.8%、治療関連死なし:
全 44 例に治療関連有害事象 (TRAE) が発生し、grade 3-4 は 36 例 (81.8%) に認められた (Table 3)。主な grade 3-4 TRAE は血小板減少 (36.4%)、高血圧 (29.5%)、白血球減少 (29.5%)、好中球減少 (25.0%)。肝毒性・消化器反応は主に grade 1-2。Grade 3 消化管出血が 4 例 (9.1%) に発生し、全例 門脈/下大静脈侵襲患者で、保存的治療で回復した。免疫関連有害事象 (irAE) は 16 例 (36.4%) に認められ、主な grade 3-4 irAE は肝炎 (6.8%)・大腸炎 (2.3%)・心筋炎 (2.3%)・神経障害 (2.3%) で 5 例が投与中止。治療関連死は認められなかった。Child-Pugh スコア ≥2 点上昇が 23 例 (52.3%) に生じたが中央値 5.3 か月後に 87.0% が回復。QoL 解析 (37 例) では global health status と身体機能の悪化中央期間は未到達であった。
ctDNA ゲノム解析:TP53 変異が完全奏効率低下と予後悪化の独立予測因子:
40 例の ctDNA 次世代シーケンシング (NGS) 解析で最頻変異遺伝子は TP53 (60.0%、24/40)、TERT (35.0%、14/40)、ARID1A (15.0%、6/40)、FAT2 (15.0%、6/40) であった (Fig 3)。単変量解析で TP53・FAT2 変異は OS・PFS の有意な悪化と相関した。TP53 変異例の mRECIST CR 率は 29.2% と野生型の 75.0% より有意に低く (p<0.01)、OS・PFS とも TP53 変異陽性で有意に短かった。一方、腫瘍遺伝子変異量 (tumor mutational burden: TMB) の中央値は 6.2 mut/Mb (IQR 3.8-8.6) で、閾値 ≥8 mut/Mb によるグループ分けでは CR・OS・PFS いずれとも有意な相関を認めなかった Assoun et al. LungCancer 2019。なおトライアルへの同意取り下げとなった 6 例のうち 4 例が根治的手術 (移植 3・切除 1) を受け、3 例で病理学的 CR が確認された Powles et al. Nature 2021。
考察/結論
① 先行研究との違い: 既存の全身療法試験では ORR 11〜36%、中央値 PFS 3.8〜9.1 か月が報告されており、本試験の ORR 84.1%・中央値 PFS 13.8 か月は既存報告と大きく異なる成績を示した。先行 Phase 2 試験 (Zhu et al.: ORR 58.7%、PFS 13.8 か月; Hu et al.: 門脈腫瘍血栓 (portal vein tumor thrombus: PVTT) への SBRT のみ) と比較して、全病変への包括的照射と TKI・ICI の三療法を組み合わせた本研究の設計はこれまでにないものであり、かつ血管侵襲 81.8%・BCLC stage C 90.9% という極めて高リスクな集団での成績である点が先行研究と対照的である。
② 新規性: 本試験が新規に示した最も重要な知見は、ctDNA TP53 変異が局所進行 HCC における三療法の治療反応性予測因子として機能することである。TP53 変異陽性例での mRECIST CR 率 29.2% に対し野生型の 75.0% という鮮明な差は、三療法の恩恵を受けやすい患者集団の事前同定を可能にする可能性を示した最初期の知見である。TMB が予測因子としてマイナーな役割しか持たないことも、HCC における免疫療法予測バイオマーカーの特殊性を示す新知見である。
③ 臨床応用: ORR 84.1%・2 年 OS 率 70.2% というきわめて良好な成績は、局所進行切除不能 HCC という難治性集団に対する三療法の臨床応用の有望性を示している。とりわけ 4 例での手術転換 (うち 3 例が病理学的 CR) という成果は、本三療法が切除不能 HCC を根治切除へ「ダウンステージング」する可能性を示唆する。TP53 ctDNA 変異検査を治療選択のバイオマーカーとして組み込むことで個別化医療への応用も期待される。
④ 残された課題: 本研究の主要な限界は単群試験でありランダム化対照との比較が困難な点である。Grade 3-4 TRAE が 81.8% と高率で、肝機能への影響の管理も重要な課題として残されている。また TMB 以外の予測バイオマーカーの同定や三療法の至適シーケンシング・線量等の最適化も今後の研究が必要であり、ランダム化試験での有効性確認が今後の課題である。FAT2 変異の予後的意義も独立した検証が求められる。
方法
単群 Phase 2 試験 (ChiCTR2000035052)、北京大学がん病院。対象: 18 歳以上の組織学的または画像診断による HCC 確定例で、治療歴なし または一次治療 (ソラフェニブ/レンバチニブ) への不耐性・不応症例。門脈・肝静脈・下大静脈浸潤や腹部リンパ節転移を許容。Child-Pugh class A5 to B7 (スコア 5〜7 点)、ECOG PS 0-1。主要エンドポイント: mRECIST による PFS。治療: IMRT (50-60 Gy、25-30 分割、cone-beam CT (CBCT) ガイド) + カムレリズマブ 200 mg IV q3w + アパチニブ 250 mg PO qd (最大 2 年)。腫瘍反応評価は contrast-enhanced MRI + CT で week 10 後、9 週毎。グレード評価は CTCAE v5.0。統計: Kaplan-Meier 法 (PFS・OS・TTP・DOR)、Log-rank 検定、Cox 比例ハザード回帰 (HR・95% CI)、Clopper-Pearson 法 (ORR 95% CI)、Mixed Models for Repeated Measures (QoL)。サンプルサイズ: 中央値 PFS 12 か月 (対 6.4 か月) を一側 α 0.025・power 90% で 44 例。ctDNA: MagMAX Cell-Free DNA Isolation Kit で血漿から抽出、custom-designed SeqCap EZ probes で 1,021 遺伝子 1.55 Mb 領域をターゲット捕捉、Gene+ シーケンサー (Gene+ Seq-200/2000 モデル) で 100 bp ペアエンドシーケンス、BWA アライメント、MuTect で変異検出 (VAF ≥0.5%、depth ≥300×)。TMB 閾値 ≥8 mut/Mb (Geneplus database 2000 例上位四分位)。データカットオフ 2026 年 1 月 31 日。R version 4.5.1 で解析。倫理: 2020YJZ19 (北京大学がん病院 IRB 承認)。