• 著者: Biton J, Mansuet-Lupo A, Pecuchet N, Alifano M, Ouakrim H, Arrondeau J, et al.
  • Corresponding author: Diane Damotte (INSERM, UMRS 1138, Cordeliers Research Center, Paris, France)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29764856

背景

抗PD-1抗体は非小細胞肺癌 (NSCLC) において前例のない持続的奏効をもたらすが、長期奏効を得られるのは一部の患者のみである。現在のFDA承認の予測バイオマーカーはPD-L1発現とミスマッチ修復欠損であるが、PD-L1発現は免疫原性誘導 (適応的PD-L1発現) と腫瘍固有の発現に由来する場合があり、予測精度は不完全であるという課題がある。例えば、PD-L1高発現腫瘍の一部しかPD-1阻害薬に奏効しないことがReck et al. NEnglJMed 2016によって報告されている。また、腫瘍変異負荷 (TMB) も有望なバイオマーカーであるが、全エクソームシーケンス (WES) が必要であり、臨床実装の障壁が存在するRizvi et al. Science 2015

EGFR、KRAS、TP53、STK11変異は肺腺癌において最も頻度の高い変異であり、腫瘍免疫微小環境に異なる影響を与えることが示唆されていた。例えば、EGFR変異はPD-1経路阻害薬への低い奏効割合と関連することがGainor et al. ClinCancerRes 2016により報告されている。また、TP53変異は高いTMBと関連し、免疫原性を高める可能性が示唆されている。しかし、これらの遺伝子変異の特定の組み合わせが、腫瘍免疫プロファイル (TIP) とPD-L1発現にどのように影響し、抗PD-1療法への治療反応をどの程度予測できるかについては、依然として未解明な点が多かった。特に、日常的な遺伝子パネルで検出可能な変異の組み合わせが、より堅牢な予測バイオマーカーとなり得るかどうかの検討が不足していた。

目的

本研究の目的は、TP53、STK11、EGFR変異の組み合わせが腫瘍免疫プロファイル (TIP) とPD-L1発現の主要な決定因子であるかを検討し、さらにこれらの変異プロファイルが抗PD-1療法への治療反応予測において有用であるかを評価することである。特に、日常的なNGSパネルで解析可能な遺伝子変異の組み合わせが、PD-L1発現と組み合わせて、より正確な予測バイオマーカーとなり得るかを検証する。

結果

3つの腫瘍免疫プロファイル (TIP) の同定: 221例の肺腺癌を対象としたIHCによる免疫細胞密度の階層的クラスタリングにより、3つの主要なTIPが同定された (Fig. 1E)。TIP-1は最高密度のCD8+ T細胞を特徴とする適応免疫応答優位型 (免疫「ホット」) であり、さらにTIP-1a (CD8Tu密度中等度) とTIP-1b (CD8Tu密度最高) に細分された。TIP-2はマクロファージ高浸潤を特徴とし、TIP-3は全般的な免疫細胞浸潤が乏しい免疫「コールド」型であった (Fig. 1E-J)。興味深いことに、TIP-1においてのみPD-L1発現がOSの予後不良因子として機能した (Cox回帰p<0.05、Fig. 2G)。

TP53、STK11、EGFR変異とTIPの関連: TP53変異はTIP-1 (特にTIP-1b) に有意に濃縮され (Fig. 3A)、STK11変異はTIP-3に有意に濃縮されていた (Fig. 3A)。EGFR変異腫瘍では好中球、マクロファージ、CD8Tu細胞、PD-L1発現のいずれもが低値であった一方、成熟DC密度は高かった (Supplementary Fig. S3C)。KRAS変異は腫瘍免疫微小環境と独立した関連を示さなかった。これらの結果は、新鮮検体を用いたフローサイトメトリー解析 (n=24例) でも再現され、TP53-Mut/STK11-EGFR-WT腫瘍では腫瘍浸潤CD8+ T細胞比率が有意に高いことが確認された (Supplementary Fig. S7B-D)。

TP53-Mut/STK11-EGFR-WTというバイオマーカー概念の確立: TP53変異単独ではなく、「TP53変異かつSTK11・EGFRが野生型」という複合条件 (TP53-Mut/STK11-EGFR-WT) が、最高のCD8+ T細胞密度とPD-L1発現を示す腫瘍サブタイプを規定した (Fig. 4D-F)。NanoString PanCancer Immune Profiling Panel (770遺伝子) によるトランスクリプトーム解析では、このサブタイプでT細胞走化性 (CCL5, CXCL9, CXCL10, CXCL11, CXCL13)、免疫細胞傷害性 (GNLY, GZMA, GZMB, PRF1)、および抗原処理・提示 (TAP1, PSMB8, PSMB9, HLA-A, B) に関連する経路が上方制御されており、適応免疫応答が機能的に活性化されていることが示された (Fig. 5A-C)。また、MHC-I発現もTP53-Mut/STK11-EGFR-WT群で有意に高かった (Supplementary Fig. S8D)。

抗PD-1治療 (ニボルマブ) への奏効予測: CERTIM登録の進行肺腺癌患者32例 (ニボルマブ3 mg/kg q2週) においてPFSを解析した結果、TP53-Mut/STK11-EGFR-WT腫瘍を有する患者では有意に長いPFSが確認された。統合コホート (CERTIM + Rizvi) におけるTP53-Mut/STK11-EGFR-WT群のPFSは、他の遺伝子型と比較して有意に長く、ハザード比は0.32 (95% CI 0.16-0.63, p < 0.001) であった (Fig. 6C)。TP53-Mut/STK11-EGFR-WT群の患者の無増悪生存期間中央値は11.0ヶ月であったのに対し、STK11またはEGFR変異を有する患者群では4.6ヶ月と有意に短かった。さらにPD-L1高発現を加えた複合バイオマーカー解析では、TP53-Mut/STK11-EGFR-WTかつPD-L1高発現例でPFS延長がさらに顕著であり、変異プロファイルとPD-L1の相乗的予測力が実証された (Supplementary Fig. S12D)。

外部コホートによる検証: cBioPortalより収集したペムブロリズマブ治療NSCLC患者31例 (Rizvi et al. Science 2015) においても同様の傾向が確認された (Fig. 6B)。TP53-Mut/STK11-EGFR-WTというバイオマーカー概念は、標的NGSパネルで日常的に得られる遺伝子情報のみで算出可能であり、追加コストなく臨床実装できる点が実用上の強みである。この群ではTMBおよびネオアンチゲン負荷も高かった (Supplementary Fig. S10C, D)。

考察/結論

本研究は、TP53、STK11、EGFRという日常的なNGSパネルで解析可能な3遺伝子の変異組み合わせが、肺腺癌の腫瘍免疫微小環境を規定し、かつ抗PD-1療法への奏効を予測できることを示した重要なバイオマーカー研究である。

先行研究との違い: これまでの研究では、個々の遺伝子変異 (例: KRASやTP53単独) と免疫微小環境やICI奏効との関連が報告されてきたが、本研究は、これらの遺伝子変異の「特定の組み合わせ」が腫瘍免疫プロファイルと抗PD-1療法への奏効をより強力に規定することを初めて示した点で、これまでの報告と異なる。特に、TP53変異単独ではなく、STK11およびEGFR野生型との組み合わせ (TP53-Mut/STK11-EGFR-WT) が最も免疫応答性の高い腫瘍微小環境を規定するという知見は新規である。

新規性: 本研究で初めて、TP53-Mut/STK11-EGFR-WTという変異プロファイルが「免疫ホット」な腫瘍微小環境 (高CD8+ TIL、高PD-L1発現、T細胞走化性・細胞傷害性・抗原提示経路の上方制御) と強く関連し、抗PD-1療法への良好な奏効 (HR 0.32、95%CI 0.16-0.63、p<0.001) と関連することを実証した。また、STK11変異が免疫抑制的微小環境の主要な規定因子として同定されており、TP53変異があってもSTK11変異が共存するとPD-L1発現とCD8 T細胞密度が劇的に減少することも新規の発見である。これは、STK11変異がTP53変異の免疫活性化効果を上回る可能性を示唆する。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は、PD-L1単独よりも分子変異プロファイルとPD-L1発現の組み合わせが予測バイオマーカーとして優れていることを示した点にある。TP53、STK11、EGFRはすでに臨床腫瘍学的な意義で日常的に検査される遺伝子であり、追加コストなく免疫療法の予測に活用できる点が実用的利点として強調される。この複合バイオマーカーは、抗PD-1療法を受ける患者の層別化と治療選択に貢献し、臨床現場での個別化医療の推進に役立つ可能性がある。

残された課題: 本研究のlimitationは、CERTIMコホートのサンプルサイズがn=32例と小さいこと、および単施設の後方視的研究であることである。また、TP53/EGFR/STK11変異の組み合わせの予測性能とTIPs自体の予測性能を直接比較できていない点も挙げられる。今後の検討課題として、より大規模なプロスペクティブコホートでの検証、異なる人種・地理的背景を持つ患者集団での再現性の確認、および他の免疫チェックポイント阻害薬に対する予測能の評価が必要である。さらに、TP53変異によらないp53機能喪失が腫瘍免疫プロファイルに与える影響や、KRAS変異がTP53-Mut/STK11-EGFR-WT腫瘍群のPFSに与える影響についても、より詳細な解析が求められる。

方法

本研究は、3つの異なるコホートを用いた統合的な解析により実施されたレトロスペクティブコホート研究である。

コホート1 (IHC免疫プロファイリング) : 2001年から2005年にHôpital Cochinで完全切除を受けた肺腺癌患者221例のレトロスペクティブコホート。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織を用いて、免疫組織化学 (IHC) によりCD3、CD8、DC-Lamp (dendritic cell lysosome-associated membrane glycoprotein)、CD66b、CD68、MHC-I、PD-L1の発現を腫瘍巣および間質別に解析した。CD8 T細胞は腫瘍巣 (CD8Tu) と間質 (CD8s) で個別に計数され、結果は陽性細胞数/mm²で表された。PD-L1陽性腫瘍細胞の割合は、2名の独立した観察者により手動で決定され、陽性閾値は1%に設定された。

コホート2 (フローサイトメトリー) : 2015年から2017年に手術を受けた未治療肺腺癌患者24例のプロスペクティブコホート。新鮮腫瘍検体を用いて多色フローサイトメトリーを実施し、免疫細胞サブセット(CD8 TILsのTIM-3、グランザイムB、PD-1、IFNγ発現など)を詳細に解析した。

コホート3 (抗PD-1治療) : CERTIM (Cochin Immunomodulatory Therapies Multidisciplinary Study group) に登録された進行期肺腺癌患者32例 (2015年から2016年) が含まれた。これらの患者はニボルマブ (抗PD-1抗体、3 mg/kgを2週間ごとに投与) による治療を受け、RECIST 1.1基準で奏効評価が行われた。主要評価項目は無増悪生存期間 (PFS) であった。本研究プロトコルは地域の倫理委員会 (CPP Ile de France II, no. 2008-133および2012 06-12) により承認された。また、外部検証コホートとして、cBioPortal由来のペムブロリズマブ治療を受けたNSCLC患者31例 (Rizvi et al. Science 2015) のデータも使用された。

分子解析: 全てのコホートにおいて、腫瘍DNAはFFPE組織から抽出された。コホート1のn=221例では、AmpliSeqカスタムパネル (AmpliSeq Ion Torrent) を用いて、EGFR (エクソン18-21)、TP53 (エクソン2-11)、KRAS (エクソン2-6)、BRAF (エクソン11-15)、NRAS (エクソン2-5)、HER2 (エクソン18-21)、STK11 (エクソン1-9) の変異が解析された。コホート2およびCERTIMコホートでは、Ion AmpliSeq Colon and Lung Cancer Research Panel v2が使用された。さらに、コホート2の患者の一部では、NanoString PanCancer Immune Profiling Panel (770遺伝子) を用いたトランスクリプトーム解析が実施され、T細胞走化性、免疫細胞傷害性、抗原処理・提示に関連する遺伝子発現プロファイルが評価された。

統計解析: カテゴリカルデータはχ²検定またはFisherの正確検定で比較された。フローサイトメトリーデータは、データ分布に応じてANOVA、Student t検定、またはKruskal-Wallis、Mann-Whitney検定が用いられた。NanoStringデータはlog変換後、t検定で比較され、Benjamini-Hochberg法によりFDR (False Discovery Rate) が算出された。生存解析にはログランク検定とCox比例ハザード回帰モデルが用いられ、OSおよびPFSが評価された。