- 著者: Sandra Assoun, Nathalie Theou-Anton, Marina Nguenang, Aurélie Cazes, Claire Danel, Baptiste Abbar, Johan Pluvy, Valérie Gounant, Antoine Khalil, Céline Namour, Solenn Brosseau, Gérard Zalcman
- Corresponding author: Gérard Zalcman (Thoracic Oncology Department, University Hospital Bichat-Claude Bernard, Assistance Publique-Hôpitaux de Paris (AP-HP), Paris, France)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 31097096
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: anti-PD-1/PD-L1) は進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療戦略を大きく変革し、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブといった薬剤が広く臨床応用されている。これらの薬剤は、標準的なプラチナ製剤ベースの化学療法や二次治療のドセタキセルと比較して、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を有意に改善することが示されている Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015。しかし、ICI治療に対する全患者の奏効率は20-30%に留まっており、治療効果を正確に予測するバイオマーカーの確立は依然として喫緊の課題である。PD-L1の免疫組織化学 (IHC) 発現は最も広く用いられているバイオマーカーであるが、その予測的価値には限界があり、PD-L1高発現患者でも奏効しない例や、逆にPD-L1陰性患者でも奏効する例が報告されている Reck et al. NEnglJMed 2016。
近年、腫瘍変異負荷 (TMB) がICIの効果と相関することが複数の研究で示唆されている Rizvi et al. Science 2015。TMBが高い腫瘍では、より多くのネオアンチゲンが産生され、これが免疫細胞による認識と抗腫瘍免疫応答の活性化につながると考えられている Schumacher et al. Science 2015。しかし、全エクソームシーケンス (WES) や大規模な遺伝子パネルを用いたTMBの測定は、コストが高く、技術的に複雑であり、ルーチン臨床検査としての標準化がまだ確立されていないという課題がある。このため、TMBの簡便な代替バイオマーカーが不足しており、臨床現場での実用化が遅れているのが現状である。
TP53はゲノムの安定性を制御する重要な腫瘍抑制遺伝子であり、その変異はNSCLCで高頻度 (約50%) に認められる。TP53変異はゲノム不安定性を介してTMBの増加と強く相関することが報告されており、TMBの代替バイオマーカーとして注目されている。また、TP53変異腫瘍ではPD-L1発現が増加するという報告もあり、TP53変異がICI治療効果の予測因子となる可能性が示唆されている。例えば、Dong et al. (2017) は、ペムブロリズマブ治療を受けた進行NSCLC患者30例において、TP53変異群でPFSが有意に延長することを示したが、この研究では他の臨床病理学的因子による調整が行われていなかった。これらの背景から、ルーチン検査で検出可能なTP53変異が、ICI治療を受ける進行NSCLC患者の治療効果および予後と関連するかを検証し、TMBの簡便な代替バイオマーカーとしての臨床的有用性を評価することが重要である。特に、TP53変異がPD-L1発現とは独立してICI治療効果を予測する因子となりうるかについては、依然として未解明な点が多い。
目的
本研究の目的は、ルーチンの次世代シーケンス (NGS) パネルで評価可能なTP53変異が、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療を受けた進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の治療効果 (客観的奏効率 [ORR]、無増悪生存期間 [PFS]) および予後 (全生存期間 [OS]) と関連するかを検討することである。さらに、TP53変異が、高コストで複雑な腫瘍変異負荷 (TMB) 測定の代替となる簡便なバイオマーカーとして臨床的有用性を持つ可能性を評価することも目的とする。特に、TP53変異がPD-L1発現とは独立してICI治療効果を予測する因子となりうるかについても検証する。本研究は、実臨床における進行NSCLC患者のICI治療選択において、TP53変異ステータスが有用な予測因子となりうるかという臨床的意義を明らかにすることを目指す。
結果
患者背景とTP53変異の分布: ICI治療を受けた進行NSCLC患者72例が解析対象となった。患者の年齢中央値は61歳 (範囲: 33-83歳) で、男性が52例 (72.2%) を占めた。組織型は腺癌が53例 (73.6%) と最も多く、扁平上皮癌は11例 (15.3%) であった。ICI治療は20例 (27.8%) で一次治療として、52例 (72.2%) で二次治療以降として開始された。ICIの種類はニボルマブ単独が59例 (81.9%) と最多であった。TP53変異は41例 (56.9%) に認められ、KRAS変異は25例 (34.8%) に認められた。PD-L1発現データが得られた65例中、PD-L1高発現 (≥50%) は36例 (55.4%)、1-49%発現は20例 (30.8%)、陰性 (<1%) は9例 (13.8%) であった。TP53変異群では、喫煙歴のある患者の割合が有意に高かった (85.4% vs 58.1%, p=0.009) (Table 2)。
TP53変異とPD-L1発現の相関: TP53変異はPD-L1高発現 (≥50%) と有意に相関していた (カイ二乗検定, p=0.002)。TP53変異群では61.0%がPD-L1 ≥50%であったのに対し、TP53野生型群では35.5%であった (Table 2)。この結果は、TP53変異がゲノム不安定性を引き起こし、TMBの増加やネオアンチゲンの産生を促進することで、腫瘍免疫環境を活性化し、結果としてPD-L1の発現を代償的に上昇させるという仮説を支持するものである。
TP53変異と全生存期間 (OS): 中央値15.2ヶ月 (95% CI 10.3-17.4ヶ月) の追跡期間において、TP53変異群のOS中央値は18.1ヶ月 (95% CI 6.6ヶ月-未到達) であったのに対し、TP53野生型群では8.1ヶ月 (95% CI 2.2-14.5ヶ月) と有意に良好であった (単変量解析HR 0.48, 95% CI 0.25-0.95, p=0.04)。カプラン・マイヤー曲線は両群間で明確な分離を示し、TP53変異群で長期生存の優位性が認められた (Figure 2A)。多変量Cox解析では、年齢、性別、パフォーマンスステータス (PS)、組織型、PD-L1発現、KRAS変異、喫煙歴を調整した後も、TP53変異はOSの独立した予後因子として有意に残った (HR 0.35, 95% CI 0.16-0.77, p=0.009)。この結果は、TP53変異がPD-L1発現とは独立してICI治療によるOS延長効果を予測する可能性を示唆している。
TP53変異と無増悪生存期間 (PFS) および奏効率 (ORR): TP53変異群のPFS中央値は4.5ヶ月 (95% CI 2.8-18.1ヶ月) であったのに対し、TP53野生型群では1.4ヶ月 (95% CI 1.1-3.5ヶ月) と有意に延長していた (HR 0.53, 95% CI 0.30-0.95, p=0.03) (Figure 2B)。客観的奏効率 (ORR) もTP53変異群で有意に高く、51.2% vs 20.7% (p=0.013) であった。病勢コントロール率 (DCR) もTP53変異群で68.3% vs 41.4% (p=0.03) と有意に良好であった。しかし、PFSに関する多変量解析では、TP53変異の独立した効果は統計的に有意ではなかった (HR 0.71, 95% CI 0.35-1.41, p=0.32)。これは、TP53変異とPD-L1発現の間に共線性がある可能性を示唆している。
TP53変異タイプおよび共変異の解析: TP53変異は41例中37種類の異なる変異が検出され、ミスセンス変異が30例 (73.2%)、ナンセンス変異が7例 (17.1%) であった。変異の大部分はエクソン5, 6, 7, 8に集中していた (Figure 1A)。25例 (61.0%) がトランスバージョン変異であり、そのうち14例 (34.1%) がG-to-Tトランスバージョンであった。これは喫煙によるDNA損傷のシグネチャーとして知られている。KRAS変異とTP53変異の共存解析では、KRASとTP53の両方に変異を持つ群が最も良好な予後を示す傾向が観察された。STK11変異は4例 (5.6%) に認められ、そのうち2例はTP53変異も有していた。EGFR活性化変異は2例 (2.8%) に認められたが、ALKまたはROS1再編成は認められなかった。
考察/結論
本研究は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において、TP53変異が免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療による全生存期間 (OS) の延長と独立して関連することを示した。TP53変異群のOS中央値は18.1ヶ月 (95% CI 6.6ヶ月-未到達) であったのに対し、TP53野生型群では8.1ヶ月 (95% CI 2.2-14.5ヶ月) であり、多変量解析においてもTP53変異はOSの独立した予測因子であった (HR 0.35, 95% CI 0.16-0.77, p=0.009)。この結果は、TP53変異がゲノム不安定性を介した腫瘍変異負荷 (TMB) の増加とネオアンチゲンの産生を促進し、抗腫瘍免疫応答を強化するという機序によって、ICI治療効果を増強する可能性を示唆している。
先行研究との違い: 従来、TP53変異は化学療法に対する抵抗性や予後不良因子と関連付けられてきた。しかし、本研究の結果は、ICI治療の文脈ではTP53変異がむしろ良好な予後と関連するという、これまでの報告とは対照的な知見を示している。これは、TP53変異が化学療法には非感受性である一方で、ICIには感受性を示すというパラダイムシフトを示唆するものである。また、Dong et al. (2017) の研究ではPFSのみが有意に延長したと報告されたが、本研究ではOSにおけるTP53変異の独立した予測的価値を多変量解析で初めて示した点が新規である。
新規性: 本研究で初めて、ルーチンの次世代シーケンス (NGS) パネルで検出可能なTP53変異が、進行NSCLC患者におけるICI治療のOS延長と独立して関連することを実証した。これは、高コストで複雑なTMB測定が困難な臨床現場においても、既存のNGSデータからICI治療の有効性を予測する簡便なバイオマーカーとしてTP53変異を活用できる可能性を示す新規な知見である。TP53変異はPD-L1発現と有意に相関するものの、多変量解析で両者が独立してOSを予測したことから、TP53変異がPD-L1とは異なる機序でICI効果に寄与する可能性が示唆される。
臨床応用: 本知見は、進行NSCLC患者に対するICI治療の患者選択において、TP53変異ステータスが有用な情報となりうるという臨床的意義を持つ。特に、TMB検査がルーチンで利用できない環境において、TP53変異はTMBの代替バイオマーカーとして活用できる可能性がある。TP53変異はルーチンのNGSパネルで容易に検出可能であり、その情報はICI治療の意思決定プロセスに組み込むことで、より効果的な患者層別化に貢献できると考えられる。将来的には、TP53変異とPD-L1発現、さらにはKRAS、STK11、KEAP1などの共変異を組み合わせた複合的なバイオマーカーアルゴリズムが、最適な患者選択に役立つ可能性がある。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。第一に、単施設の後方視的デザインであり、症例数も72例と小規模であるため、選択バイアスや統計的検出力の不足のリスクがある。第二に、多様なICI薬剤と治療ラインが混在しており、均一な治療効果の評価が困難であった可能性がある。第三に、TMBの直接測定が行われていないため、TP53変異とTMBの直接的な相関関係を本研究で検証することはできなかった。第四に、TP53変異の機能的ヘテロジェニティ (ミスセンス、トランケーティング、共存変異など) の詳細な解析が症例数の限界により十分に行えなかった。今後の検討課題として、大規模な前向きコホート研究や、CheckMate 227やKEYNOTE-189などの大規模臨床試験のサブ解析によるTP53変異の予測的価値の検証が不可欠である。また、TP53変異がPD-L1発現やTMBとどのように相互作用してICI効果を予測するのか、KRAS、STK11、KEAP1などの共変異の影響を詳細に検討することも今後の研究方向性として重要である。
方法
本研究は、2015年9月から2017年11月にかけて、フランスのBichat-Claude Bernard大学病院胸部腫瘍科でICI治療を受けた進行NSCLC連続症例を対象とした単施設後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。当初122例が特定されたが、ICI治療開始前に腫瘍組織を用いたNGS解析が可能であった72例を最終的な解析対象とした。患者は標準治療、臨床試験、または特定使用承認 (ATU: Autorisation Temporaire d’Utilisation) のいずれかの枠組みでICIを受けていた。ICIの種類はニボルマブ単独、ニボルマブとCTLA-4阻害剤イピリムマブの併用、またはペムブロリズマブであった。
臨床データ、病理学的データ、分子データは電子カルテから後方視的に収集された。腫瘍のゲノムプロファイリングは、ルーチンの診断手順としてBichat大学病院遺伝子診断部門で実施された。DNA抽出はMaxwell automaton (Promega) を用いてFFPE Plus LEV DNAキットで行われ、NGS (S5XL - Life Technologies) により25の既知遺伝子のホットスポットおよび標的領域が解析された。使用されたNGSパネルはOncomine tumor solid DNA (OST) および補完パネルOST+ (Life Technologies) であり、TP53遺伝子のエクソン2, 4, 5, 6, 7, 8, 10がシーケンスされた。各TP53変異の構造的・機能的影響は国際がん研究機関 (IARC) データベースで確認された。同義変異またはIARCデータベースで中立と判断されたTP53変異は、TP53野生型群に含められた。PD-L1発現はE1L3N抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) で評価され、腫瘍細胞の1%以上を発現陽性とした。評価はフランスのPD-L1 IHC検査多施設パネルの専門病理医2名によって行われた。
主要評価項目はOS (ICI開始からあらゆる原因による死亡までの期間) とし、副次評価項目はPFS (ICI開始から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間)、客観的奏効率 (ORR)、および病勢コントロール率 (DCR) とした。病勢評価はRECIST Version 1.1基準に従い、8週目以降3ヶ月ごとに多職種腫瘍ボード (MTB: Multidisciplinary Tumor Board) で実施された。
統計解析にはSAS™ version 9.4ソフトウェアを用いた。連続変数は中央値と範囲で、カテゴリカル変数は頻度とパーセンテージで記述した。TP53変異群と野生型群のベースライン特性の比較には、カイ二乗検定またはフィッシャーの正確検定を用いた。ORRに関連する変数を特定するため、単変量ロジスティック回帰分析を実施し、多変量ロジスティック回帰分析には単変量解析でp値が0.20以下の変数を組み入れた。OSおよびPFSの推定にはカプラン・マイヤー法とログランク検定を用い、ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) は単変量Cox比例ハザードモデルから算出した。多変量Cox解析は、比例ハザード仮説の確認と多重共線性の不在を確認した後、ステップワイズ回帰を用いて実施された。多変量モデルには、単変量解析でp値が0.20未満の変数に加え、臨床的意義の観点から性別、年齢、喫煙状況をOSモデルに強制的に組み入れた。統計的有意水準は両側p値 < 0.05とした。