• 著者: Lee JH, Tammela T, Hofree M, Choi J, Marjanovic ND, Han S, Canner D, Wu K, Paschini M, Bhang DH, Jacks T, Regev A, Kim CF
  • Corresponding author: Lee JH (University of Cambridge), Kim CF (Boston Children’s Hospital)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28886383

背景

成体肺の恒常性維持と傷害修復は、解剖学的に異なる位置に存在する多様な上皮前駆細胞集団の協調的な動員に依存する。遠位気道ではclub細胞 (旧称Clara細胞) が自己複製しながら線毛細胞を産生する前駆細胞として機能し、ナフタレンによるclub細胞傷害後には生き残ったclub細胞が増殖して気道上皮を再生することが系譜追跡で示されてきた (Rawlins et al., 2009; Hogan et al., 2014)。しかし、これら上皮前駆細胞の挙動を制御する間質ニッチの分子実体は十分に解明されていなかった。

成体肺における間葉系細胞の多様性は、集団を定義する確立されたマーカーの欠如のため理解が手薄なまま残されていた。肺発達では間葉系前駆細胞がFgf10 (fibroblast growth factor 10)、Gli1 (GLI family zinc finger 1)、Axin2 (axis inhibition protein 2) を発現しながら解剖学的位置に応じた分化プログラムを経て気道・血管平滑筋や肺胞線維芽細胞などを生み出すことがクローン解析で示されていたが (McCulley et al., 2015; Kumar et al., 2014)、成体肺における各間葉系集団の空間分布と上皮前駆細胞への機能的影響は不明であった。これが本領域の主要なgap in knowledgeであった。

Wnt (wingless-related integration site) シグナルは肺発達と再生に必須である一方、正常成体肺ではWnt活性の記載が乏しく、Wnt応答性Lgr5 (leucine-rich repeat-containing G-protein coupled receptor 5) 発現細胞が肺腺がんで高増殖性・進行性クローンを駆動するという報告 (Tammela et al., 2017) を除けば、成体正常肺間葉系細胞でのLgr5/Lgr6の役割は全く検討されていなかった。腸管・肝臓・皮膚で上皮幹細胞マーカーとして機能するLgr5・Lgr6 (leucine-rich repeat-containing G-protein coupled receptor 6, Barker et al., 2007) が、成体肺ではむしろ間葉系細胞を標識し上皮ニッチとして働くという予想外の観察が、本研究の出発点である。

目的

遺伝的系譜追跡、シングルセルRNA配列解析 (single-cell RNA sequencing, scRNA-seq)、3次元オルガノイド共培養を統合して、成体肺間葉系細胞の異質性・空間分布・機能的役割を解明することを目的とした。特に、Lgr5・Lgr6で標識される異なる間葉系集団が、気道および肺胞という解剖学的領域に応じて上皮前駆細胞の系譜分化方向性を規定するニッチとして機能するか、そしてその制御がWntおよびFgf10シグナルにどのように依存するかを検証した。

結果

Lgr5とLgr6は成体肺の解剖学的に異なる間葉系集団を標識する:Lgr6-EGFP-IRES-CreERT2マウスでは、予想に反してLgr6発現細胞は上皮ではなく気道周囲の間葉に分布し、α-SMA (alpha-smooth muscle actin) 陽性の気道平滑筋細胞 (airway smooth muscle cell, ASMC) として同定された。血管平滑筋細胞 (vascular smooth muscle cell, VSMC) にはLgr6発現を認めず、肺胞領域にはα-SMA陰性の散在GFP陽性細胞が存在した。FACS解析では成体肺の常在間葉系細胞の9.12% ± 1.42% (mean ± SD) がLgr6を発現した (Fig 1C)。対照的に、Lgr5-CreERT2; R26-Tomマウスで標識されたLgr5+細胞の大多数は肺胞コンパートメントに局在し、ASMCを含まず、常在間葉系細胞の1.24% ± 0.42%を占めた (Fig 1G)。Lgr6+細胞はLgr5も高発現する一方、Lgr5+細胞はLgr6・Acta2をほとんど濃縮せず、両者が別系譜であることが示された。

scRNA-seqが5つの転写的に異なる間葉系亜集団を解像する:FACS分離した182細胞 (Lgr5+ 57細胞、Lgr6+ 125細胞) のscRNA-seqにより、consensus clusteringで5つのロバストなクラスター (A-E) が同定された (Fig 2D)。クラスターEはLgr6・Acta2・Cspg4・Tagln・Gli1高発現のASMCに対応し、クラスターBとDはLgr5高発現の肺胞間葉系細胞、クラスターCはPdgfra (platelet-derived growth factor receptor alpha) ・Wnt2・Fgf10・Vcam1高発現の肺胞線維芽細胞様細胞、クラスターAは少数のEpCAM (epithelial cell adhesion molecule) +/Scgb1a1+/Sftpc+上皮混入細胞に対応した。全クラスターがCol1a1・Vimentin・Pdgfrbなど共通間葉系マーカーを発現し、各集団が固有の転写プログラムを保持した。この解像は単一細胞解析手法の発展 (Macosko et al. Cell 2015Satija et al. NatBiotechnol 2015) と consensus clustering (Wilkerson et al. Bioinformatics 2010) に基づく。

Lgr6+ASMCは恒常性を維持し損傷後にWnt依存的に増殖する:12ヶ月間の長期系譜追跡では、標識Lgr6+ASMCの割合が一定に保たれ恒常性維持への寄与が確認された (Fig 3)。低用量タモキシフェンによるクローン解析では、誘導10日後に92.02%のクローンが単一細胞だった (n=231 clones) のに対し、6ヶ月後には38.8%が複数細胞となり (2細胞20.84%、3細胞11.67%、4細胞5.34%、5-8細胞6.22%; n=212 clones)、12ヶ月後には51.12%が複数細胞で21.03%が5細胞以上 (最大30細胞; n=201 clones) を含み、Lgr6+細胞が低速かつ持続的な増殖能を持つことが示された。DTによる遺伝的除去では標識Lgr6+細胞が対照群の83.1% ± 3.78%から13.1% ± 0.42%へ低下し (Fig 4C)、除去後にclub細胞がWntリガンド (Wnt3a・Wnt5a・Wnt7b) を増発現し、これに応答してLgr6+細胞のAxin2・Ki67が上昇した。Wnt3a添加によるin vitroでも標識ASMCの増殖が顕著に増加し (p<0.001)、上皮-間葉双方向クロストークが裏付けられた。

Lgr6+細胞はclub細胞ニッチとして気道修復に必須でありFgf10が鍵因子である:Scgb1a1系譜標識club細胞とLgr6+細胞の3D共培養では、14日後にLgr6+細胞存在下でのみ気管支・肺胞・混合の3型コロニーが形成され (CFE 2.12% ± 0.25%; Fig 5C)、Lgr6-細胞ではコロニーが形成されなかった。連続継代でもCFEが維持され (P1: 2.47% ± 0.3%、P2: 2.93% ± 0.29%)、多系統分化能が保たれた。Lgr6+細胞除去マウスのナフタレン傷害実験では、PBS対照群が傷害後5-20日でclub細胞を再生したのに対し、DT群はclub細胞数が低いまま気道修復が著明に障害された (Fig 6)。傷害後5日にLgr6+ASMCでFgf10発現が有意に増加し、Wnt活性化でもFgf10が誘導された。Lgr6+細胞除去共培養へのFgf10添加が気管支・混合コロニー形成を部分的に救済し、Fgf10がLgr6+ニッチの主要な分泌因子であることが示された。

Lgr5+肺胞間葉はWnt活性化を介して上皮前駆細胞の肺胞分化を駆動する:Lgr5+間葉系細胞はScgb1a1+club細胞との共培養でLgr6+細胞と同等のCFEを示しつつ、肺胞コロニー形成を有意に促進した (Fig 7)。Lgr5+細胞はWnt3a・Wnt5aを総肺細胞やLgr6+細胞より高発現し、Wntリガンド分泌阻害剤IWP2の添加が気管支コロニーを増加させ、Wnt3a添加で肺胞分化が部分的に回復、Wntアゴニストの添加が肺胞分化を刺激した (p<0.01)。Scgb1a1+/Lgr6+共培養へのWnt3a添加でもAxin2上昇とともに肺胞コロニーが増加し、Fzd3・Fzd6受容体がclub細胞でWnt応答を媒介した。これにより、Lgr6+気道周囲間葉がWnt-Fgf10協調で気道分化を、Lgr5+肺胞間葉がWnt活性化で肺胞分化を駆動するという、領域特異的かつ対称的なニッチ機能の差異が明確化された。Wnt活性レベルの薬理学的調節によって間葉系細胞が規定する分化方向そのものが切り替わった。

考察/結論

本研究は、腸管・皮膚など他臓器で上皮幹細胞マーカーとして確立されているLgr5・Lgr6が、成体肺ではむしろ間葉系細胞を標識し、解剖学的位置に特異的な上皮分化ニッチとして機能するという、既報の理解とは対照的な知見を提示した。これまでの研究はLgr5/6を上皮幹細胞の文脈でのみ捉えてきたが、本研究で初めて、同じマーカーが臓器・細胞型に依存して間葉系の機能的アイデンティティを定義しうることが示された点は新規な貢献である。

主要な発見は2点に集約される。第一に、Lgr6+間葉系細胞 (ASMC) は気道周囲に局在してclub細胞の自己複製・多系統分化を支持し、Wnt-Fgf10協調作用を介して気道分化を促進するニッチとして働く。Lgr6+細胞の遺伝的除去が気道傷害修復を著明に障害し、Fgf10投与が培養障害を部分的に救済したことは、Fgf10がこのニッチの機能的因子であることを示す。傷害後にclub細胞がWntリガンドを産生してLgr6+細胞増殖を促す双方向クロストークは、上皮と間葉の協調的修復の実体を明らかにした。第二に、Lgr5+間葉系細胞は肺胞コンパートメントに局在し、Wnt活性化を通じて上皮前駆細胞の肺胞系譜分化を促す、解剖学的・機能的に対称なニッチを構成する。これはLgr5+集団が同時期に報告されたPdgfra+のmesenchymal alveolar niche cells (Zepp et al., 2017) と一部重複しうることを示唆し、間葉系異質性の統合的理解を促す。

方法論的には、scRNA-seqによる182細胞の単一細胞転写プロファイリングと、系譜追跡・細胞除去・オルガノイド共培養 (Lee et al. Cell 2014) の3手法の組合せが、相関を超えた因果的証明を可能にし結論を強固にした。

臨床的意義として、Wnt-Fgf10経路を介したLgr6+ニッチ制御は、慢性閉塞性肺疾患・特発性肺線維症・喘息における気道上皮再生機構の理解に直接の含意を持ち、領域特異的な間葉系標的化 (肺胞疾患にLgr5+、気道疾患にLgr6+) という橋渡し的な治療仮説を生む。Lgr5+細胞が肺腺がん進展で悪性クローンを駆動するという知見 (Tammela et al., 2017) と併せると、同じ間葉系ニッチが再生と発がんの双方で病的役割を担う可能性が示唆される。残された課題として、Lgr5+の2クラスター (クラスターB・D) が機能的に異なる細胞型に対応するか、ヒト肺で同等の間葉系区画が存在するか、そしてWnt-Fgf10シグナルが領域選択性をどのように担保するかは未解明であり、今後の検討を要する。これらはlimitationであると同時に、肺再生医療と肺がん治療の標的探索における将来の研究の出発点となる。

方法

遺伝的系譜追跡にはLgr6-EGFP-IRES-CreERT2ノックインマウス (EGFP [enhanced green fluorescent protein] がLgr6遺伝子座の活性を標識、IRESはinternal ribosome entry site、CreERT2はtamoxifen-inducible Cre recombinase-estrogen receptor) と、Lgr5-IRES-CreERT2をRosa26-lox-stop-lox-TdTomato (R26-Tom; tandem dimer Tomato fluorescent protein) レポーターと交配したLgr5-CreERT2; R26-Tomマウス (C57BL/6 inbred 背景、雄、7-10週齢、各群n=3-5匹) を用い、タモキシフェンを腹腔内投与して誘導標識した。細胞除去実験はLgr6-EGFP-CreERT2; R26-iDTR (inducible diphtheria toxin receptor); R26-Tomマウスにジフテリアトキシン (diphtheria toxin, DT) 50ng/匹を気管内投与し、Lgr6+細胞を特異的に除去した。気道傷害はナフタレン250 mg/kgの腹腔内投与で誘導した。FACS (fluorescence-activated cell sorting) でCD31-CD45-EpCAM-分画から標識間葉系細胞を分離した。

scRNA-seqは182個の間葉系細胞にSmart-seq2プロトコルを適用し、38bpペアエンドreadをKallistoでmm10トランスクリプトームへpseudo-alignした後、Seurat (高分散遺伝子抽出、dispersion>0.5) とconsensus clustering (k-nearest-neighbor [k-NN] グラフ上での1000回のコミュニティ検出) で5つのロバストなクラスターを同定し、t-stochastic neighbor embedding (tSNE) で可視化した。品質除外基準は発現遺伝子数<2000、house-keeping遺伝子のTPM (transcripts per million) <1.5などである。オルガノイド共培養はScgb1a1 (secretoglobin family 1A member 1、club細胞マーカー) -CreER; R26-YFP (yellow fluorescent protein) 由来のclub細胞 (CD31-CD45-EpCAM+YFP+) とLgr5+またはLgr6+間葉系細胞を1:1でMatrigelに包埋した3D系で培養し、IWP2 (1.5 μM)、CHIR99021 (3 μM)、4-hydroxytamoxifen (500 nM)、rhFgf10、Wnt3a等で介入してコロニー形成効率 (colony forming efficiency, CFE) と組織型を定量した。統計は両側のpaired/unpaired Student t検定で評価し、データはmean ± SDまたはmean ± SEMで表示した。