- 著者: Lee JH, Bhang DH, Beede A, Huang TL, Stripp BR, Bloch KD, Wagers AJ, Tseng YH, Ryeom S, Kim CF
- Corresponding author: Carla F. Kim (Stem Cell Program, Boston Children’s Hospital, Boston, MA 02115, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 24485453
背景
成体組織の幹細胞は、その生存、自己複製、分化を制御する支持細胞や因子を含む特殊なニッチに存在することが知られている (Jones and Wagers 2008; Morrison and Spradling 2008)。肺上皮の修復は、近位-遠位軸に沿った異なるニッチに存在する幹細胞/前駆細胞集団によって制御されている (Rawlins et al. 2009; Rock et al. 2011; Otto 2002)。肺幹細胞/前駆細胞とそのニッチ間のクロストークは、幹細胞と分化細胞のバランスを維持するために極めて重要であると考えられている。このような相互作用の欠陥は、急性呼吸窮迫症候群、気管支肺異形成、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、および癌につながる可能性がある。しかし、肺の再生能力に影響を与える支持細胞や、分化と修復を調節する正確なメカニズムについては、依然として未解明な点が多く、詳細なメカニズムの解明が課題として残されている。
気管支肺胞幹細胞 (BASC) は、気道が肺胞腔に開口する気管支肺胞管接合部に存在する成体マウスの遠位肺上皮幹細胞である (Kim et al. 2005)。BASCは、気管支クララ細胞マーカーであるCCSP (club cell secretory protein) と肺胞II型細胞 (AT2) マーカーであるSPC (prosurfactant protein C) を共発現する。これまでの研究では、3D Matrigelベースの培養システムが肺幹細胞研究を進展させてきたが、遠位肺上皮幹細胞/前駆細胞は、上皮コロニー形成のために線維芽細胞などの支持細胞を必要とすることが示されている (Kim et al. 2005; Lee et al. 2013; McQualter et al. 2010; Teisanu et al. 2011)。肺は高度に血管新生しており、血管が肺の発達において重要な役割を果たすことが多くの研究で示されている (DeLisser et al. 2006; Jakkula et al. 2000)。内皮由来のMmp14 (matrix metalloproteinase 14) は、肺再生中のAT2細胞増殖に不可欠である (Ding et al. 2011)。これらの研究は重要な枠組みを築いてきたものの、肺幹細胞の系統特異的分化が間質によってどのように制御されているかについては不明な点が多く、その解明が不足していた。
目的
本研究の目的は、肺内皮細胞が気管支肺胞幹細胞 (BASC) の分化を誘導するメカニズムを解明することである。特に、内皮細胞がBASCの自己複製と多系統分化をどのように支持するのか、そしてその過程でどのようなシグナル経路が関与しているのかを特定し、肺損傷修復におけるその役割をin vivoで検証することを目的とした。
結果
肺内皮細胞によるBASCの自己複製と多系統分化の支持: LuMECとの3D共培養において、BASCは自己複製能力を示し、複数回継代後もコロニー形成効率を維持した (Fig. 1C)。一方、AT2細胞のコロニー形成は継代とともに減少した。BASC/LuMEC共培養では、CCSP陽性の気管支様構造、SPC陽性の肺胞様構造、およびCCSPとSPCの両方を共発現する混合形態の構造 (気管支肺胞コロニー) の3種類のコロニーが形成された (Fig. 1B, D, E)。これに対し、AT2細胞はSPC陽性の肺胞構造のみを形成した。単一のBASCをLuMECと共培養し、放射線照射済みEpCAM陽性肺上皮細胞をヘルパー細胞として加えた実験では、単一BASCが多系統分化能を有することが示され、気管支肺胞コロニーが80%と最も多く観察された (Fig. 2C)。これらの結果は、LuMECがBASCの自己複製と多系統分化をin vitroおよびin vivoで支持することを示唆している。この実験では、n=180, 105, 90 wells with 1, 10, or 100 GFP+ cells plated, respectively, のデータが得られた。
臓器特異的な内皮細胞によるBASC分化の制御: BASCを肝内皮細胞 (LiMEC) と共培養した場合、LuMECとの共培養と比較して、気管支コロニー形成が約3.5倍増加し、肺胞コロニー形成が約21.5倍減少した (p < 0.001) (Fig. 3B, C)。これは、CCSP mRNAレベルの1.8倍増加とSPC mRNAレベルの19.3倍減少によって裏付けられた (p < 0.001)。皮下共移植実験においても、LiMECとの共移植では主に気管支構造が形成され、LuMECとの共移植で見られた3種類の肺上皮構造とは対照的であった (Fig. 3E, F)。これらのデータは、BASCの肺胞分化には肺内皮細胞が特異的に必要であることを示している。この実験では、n=663 (LuMECs) および n=627 (LiMECs) のコロニーがスコアされた。
内皮細胞由来TSP1がBASC分化を制御することの同定: 肺内皮細胞においてTSP1の発現レベルが肝内皮細胞よりも有意に高いことが確認された (Fig. 3G)。ナフタレンによる気管支上皮損傷後、LuMECにおけるTsp1 mRNAレベルは3日後に約10.1倍減少したが、ブレオマイシンによる肺胞上皮損傷後には14日後に約2.9倍増加した (p < 0.001) (Fig. 4A)。Tsp1欠損LuMEC (Tsp1⁻/⁻ LuMEC) との共培養では、BASCの気管支コロニー形成が約3.2倍増加し、肺胞コロニー形成が約3.5倍減少した (Fig. 4B, C)。CCSP mRNAレベルは4.8倍増加し、SPC mRNAレベルは29.5倍減少した (p < 0.001) (Fig. 4D)。さらに、Tsp1⁻/⁻ LuMECとの皮下共移植では、気管支上皮構造の割合が有意に増加し、肺胞構造が減少した (Fig. 4F-H)。活性化ヒト血小板由来の精製TSP1タンパク質をBASC/Tsp1⁻/⁻ LuMEC共培養に添加すると、肺胞コロニー形成が増加した (Fig. S3G, S3H)。これらの結果は、TSP1がBASCの肺胞分化の正の制御因子として機能することを示唆している。Tsp1⁻/⁻ LuMECとの共培養では、n=753のコロニーがスコアされた。
BMP4-NFATc1経路によるTSP1発現誘導とBASC肺胞分化: BMP4処理は、BASC/LuMEC共培養において肺胞コロニー形成を約1.6倍増加させ、気管支コロニー形成を約3.0倍減少させた (p < 0.01) (Fig. 5B, C)。このBMP4による肺胞分化誘導にはTSP1が必要であり、Tsp1⁻/⁻ LuMECとの共培養ではBMP4を添加しても肺胞コロニーの増加は見られなかった。BMP4はLuMECにおいてSmad1/Smad5およびErk1/Erk2シグナルを活性化し、Tsp1 mRNAおよびタンパク質レベルを約15.5倍増加させた (p < 0.001) (Fig. 5D, E)。BMP阻害剤Noggin (NOG) はTsp1発現と肺胞分化を減少させた。また、BMP4はLuMECにおいて細胞内Ca²⁺流入を増加させ、NFATc1の核移行を誘導した (Fig. 5F, G)。構成的活性型NFATc1 (CaNFATc1) の過剰発現やイオノマイシン処理はTsp1発現を強く誘導し、NFATc1がTsp1の上流で作用することを示した。カルシニューリン阻害剤シクロスポリンA (CsA) はBMP4依存的なTsp1発現とNFATc1核移行を阻害し、気管支コロニー形成を増加させた (Fig. 5D, E, G, H)。ChIPアッセイにより、BMP4処理LuMECにおいてNFATc1がTsp1プロモーターに結合することが確認された (Fig. 5I)。NFATc1 ChIPでは、IgGコントロールと比較してTsp1の濃縮が8-fold増加し、PBSコントロールと比較して30.8-fold増加した (p < 0.001)。
Bmpr1aがBMP4によるTSP1誘導に必須であること: Bmpr1aはLuMECで高発現しており、BMP4処理後に発現が上昇した (Fig. S5A)。Bmpr1aを欠損させたLuMEC (Bmpr1a f/f; Ad-Cre LuMEC) との共培養では、BASCの肺胞分化が障害され、気管支コロニー形成が約4.6倍増加し、肺胞コロニー形成が約1.4倍減少した (Fig. 6B)。Bmpr1a欠損はTsp1 mRNAレベルを約2.42倍減少させ、BMP4によるTsp1誘導を阻害した (Fig. 6C, D)。さらに、BMP4によるNFATc1の核移行もBmpr1a欠損LuMECでは障害された (Fig. 6E)。これらの結果は、BMP4がBmpr1aを介してカルシニューリン/NFATc1シグナルを活性化し、LuMECにおけるTSP1発現を誘導するというモデルを支持する。この実験では、n=3 independent experiments with triplicate wells のデータが得られた。
Tsp1欠損マウスにおける気管支および肺胞損傷修復の異常: Tsp1欠損マウス (Tsp1⁻/⁻ mice) では、ナフタレンによる気管支損傷後、野生型マウスと比較して5-7日後のクラブ細胞数が有意に増加した (Fig. 7A, B)。ブレオマイシンによる肺胞損傷後、Tsp1⁻/⁻マウスではSPC陽性AT2細胞が約4.4倍減少し、BrdU (bromodeoxyuridine) 陽性細胞も減少した (Fig. 7D, E)。Tsp1⁻/⁻マウスでは線維化がわずかに増加し (Fig. 7F)、BASC数も損傷後28日まで増加したままであった (Fig. 7G, H)。野生型LuMEC由来の条件培地をTsp1⁻/⁻マウスに投与すると、AT2細胞の再生が約3倍増加し、線維化が減少し、BASC数も野生型レベルに回復した (Fig. S6D-H)。これらのデータは、LuMEC由来TSP1がBASC分化を介した肺胞上皮損傷修復に十分であることを示している。この実験では、n=3 individual mice のデータが得られた。
考察/結論
本研究は、肺幹細胞の分化を特異的に指示するシグナル経路を解明した。内皮細胞は、in vitroおよび皮下移植後において、BASCの多系統上皮分化を支持した。これらの3Dプラットフォームを用いて、我々は肺内皮細胞におけるBMP4制御下のNFATc1-TSP1軸がBASCの肺胞系統特異的分化を誘導することを同定した。この内皮-上皮クロストークは、in vivoにおける肺損傷応答時に肺幹細胞の分化選択が制御されるメカニズムの一つである。
先行研究との違い: これまでの研究では、肺幹細胞の分化を制御する間質細胞の役割について不明な点が多かったが、本研究は、肺内皮細胞がBASCの多能性を維持し、系統特異的な分化を誘導する上で重要な役割を果たすことを示した点で、これまでの報告と異なる。特に、特定のシグナル経路 (BMP4-NFATc1-TSP1軸) を介した内皮細胞とBASC間の直接的なクロストークを詳細に解明した点は、これまでの研究では手薄であった。
新規性: 本研究で初めて、肺内皮細胞がBMP4に応答してNFATc1を活性化し、その結果としてTSP1の発現を誘導することで、BASCの肺胞系統への分化を促進するという新規なシグナル経路を同定した。また、Tsp1ノックアウトマウスを用いたin vivo実験により、このBMP4-NFATc1-TSP1軸が肺上皮の分化と再生に不可欠であることを本研究で初めて実証した。
臨床応用: 本知見は、多能性細胞から特定の肺上皮系統を誘導するための方法を示唆しており、肺疾患の治療法開発における臨床応用につながる可能性がある。例えば、肺線維症における肺胞損傷や、閉塞性細気管支炎における気管支損傷など、特定の肺疾患において、肺幹細胞の関連する系統特異的分化活性を促進する薬剤が、患者の損傷した肺細胞の修復を刺激するのに有用であると考えられる。この臓器特異的なBMP4-NFATc1-TSP1軸は、これらの疾患に対する臨床的意義の高い治療標的となる可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、TSP1がBASCの肺胞分化を制御する際に、どのTSP1受容体および下流シグナル分子が関与しているかを特定する必要がある。また、Tsp1が肺損傷修復において内皮細胞以外の他の細胞型との相互作用に関与する可能性や、内皮細胞からの他の因子や構造的役割も重要である可能性が残されている。さらに、ヒトにおけるBASCに相当する細胞が不明であるため、このBMP4-NFATc1-TSP1経路がヒトの肺でも機能するかどうかは今後の研究で明らかにする必要がある。
方法
本研究では、マウスの肺幹細胞分化における内皮細胞の役割を調査するため、主に3D共培養および皮下共移植実験を実施した。まず、β-アクチン-GFPマウスから蛍光活性化細胞選別 (FACS) により、CD31⁻CD45⁻EpCAM⁺Sca1⁻細胞 (AT2細胞に富む) およびCD31⁻CD45⁻EpCAM⁺Sca1⁺細胞 (BASCに富む) を単離した。これらの細胞を初代マウス肺内皮細胞 (LuMEC) とともに成長因子低減Matrigel中で3D共培養した。単一BASCの多能性を評価するため、dsRed標識した放射線照射済みEpCAM陽性肺上皮細胞を「ヘルパー細胞」として用い、単一BASCとLuMECの共培養を行った。臓器特異的な内皮細胞の影響を調べるため、初代肝内皮細胞 (LiMEC) も同様に単離し、BASCと共培養した。
シグナル経路の解析には、遺伝子発現レベルを評価するための定量的リアルタイムPCR (qPCR)、タンパク質発現を評価するための免疫ブロッティング、および免疫蛍光 (IF) 染色を用いた。特に、BMP4 (骨形成タンパク質4)、TGF-β1、HGFなどの成長因子がBASC分化に与える影響を組換えタンパク質添加実験で評価した。BMP4シグナルの下流にあるカルシニューリン-NFATc1 (活性化T細胞核内因子c1) 経路の関与を調べるため、細胞内Ca²⁺濃度をFluo-4 AMで測定し、NFATc1の核移行をIFで観察した。また、カルシニューリン阻害剤であるシクロスポリンA (CsA) やBMP阻害剤であるNoggin (NOG) を用いて薬理学的介入を行った。NFATc1とTsp1プロモーターとの結合を評価するため、クロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイを実施した。
Bmpr1a (bone morphogenetic protein receptor type 1A) の役割を検証するため、Bmpr1a f/f マウスから単離したLuMECにアデノウイルス-Creリコンビナーゼ (Ad-Cre) を感染させ、Bmpr1aを欠損させたLuMECを用いて共培養実験を行った。in vivoでの肺損傷修復におけるTsp1 (トロンボスポンジン-1) の役割を評価するため、Tsp1ノックアウトマウス (Tsp1⁻/⁻ mice) を用いて、ナフタレンまたはブレオマイシンによる気管支または肺胞損傷モデルを作成した。損傷後の肺組織を組織学的に解析し、CCSPおよびSPC発現細胞の数を免疫蛍光染色により定量した。さらに、Tsp1⁻/⁻マウスにおける肺胞損傷修復に対する内皮細胞由来TSP1の十分性を検証するため、野生型LuMECまたはTsp1⁻/⁻LuMEC由来の条件培地 (CM) をブレオマイシン処理後のTsp1⁻/⁻マウスに投与した。統計解析には、Mann-Whitney U testまたはStudent t-testを用いた。