• 著者: Pika Miklavc, Manfred Frick
  • Corresponding author: Pika Miklavc (University of Salford, UK), Manfred Frick (Ulm University, Germany)
  • 雑誌: Cells
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-06-11
  • Article種別: Review
  • PMID: 32545391

背景

制御性分泌は多くの真核細胞に共通する基本プロセスであり、分泌小胞が形質膜 (PM, plasma membrane) へ輸送され、PMと融合して内容物を細胞外へ放出する一連の高度に制御された段階から成る。歴史的に、PM直下の皮質アクトミオシン複合体は分泌小胞の「時期尚早な融合」を防ぐ機械的バリアとして理解されてきた。この仮説は主に神経細胞・神経内分泌細胞における初期観察に由来する (Stenmark et al. NatRevMolCellBiol 2009 が整理したRab依存的輸送機構の枠組みもこの古典像を前提としていた)。分泌小胞膜のリサイクリングという概念自体、カエル神経筋接合部での膜回収観察 (Heuser & Reese 1973) に始まり、その後シナプス小胞サイクル (Südhof 2004) として体系化された経緯がある。膜融合の分子基盤については SNARE/SM タンパク質モデル (Südhof & Rothman 2009) が中心パラダイムを形成し、Rab GTPase を介した分泌顆粒輸送の制御 (Bustos et al. ProcNatlAcadSciUSA 2012) も精力的に解析されてきた。

しかし近年、超解像顕微鏡技術の発展と非神経分泌細胞への関心の高まりにより、アクトミオシン系が輸送・ドッキング・融合孔形成・融合後膜回収の各段階で能動的かつ多面的な役割を担うことが明らかになってきた。特に肺胞上皮II型 (ATII, alveolar type II) 細胞のサーファクタント、内皮細胞のフォン・ヴィルブランド因子 (vWF, von Willebrand factor)、肥満細胞のヒスタミンなど、神経シナプス小胞 (径40-50 nm) よりはるかに大きい大型分泌顆粒 (径1-2 µm) や粘性の高い内容物の放出には、アクチン・ミオシンの特殊な適応が不可欠である。

一方で、これら先行研究は個々の細胞型や単一の分泌段階に焦点を当てたものが多く、複数の細胞型を横断する統一的な分子メカニズムの記述は手薄であった。すなわち従来の研究には、(1) 各段階で動員されるミオシンアイソフォーム (myoV/myoI/myoII/myoVII) の細胞型依存的な役割分担を一貫した枠組みで対応づける視点、(2) 融合後アクチンコート形成と補償的エンドサイトーシスの連関を機構レベルで結びつける記述、(3) 大型・高粘性カーゴに固有の能動放出機構を神経細胞モデルと対比して位置づける統合像、という三点が決定的に不足していた。この体系的整理の欠如こそが本レビューの出発点である knowledge gap である。本稿は非神経細胞エクソサイトーシスにおけるアクトミオシン系の最新知見を統合し、各段階を貫く共通の分子原理を抽出することを企図する。

目的

本レビューの目的は、非神経細胞の制御性エクソサイトーシスにおけるアクチンとミオシンの役割を、(1) 小胞輸送、(2) PMへのドッキング、(3) 融合孔の形成と動態、(4) 融合後の内容物放出と膜回収、という分泌サイクルの各段階にわたって統合的に整理し、複数の細胞型 (ATII細胞・内皮細胞・肥満細胞・NK (natural killer) 細胞・膵β細胞・外分泌腺腺房細胞・卵母細胞など) を横断する共通の分子機構を同定することである。具体的には、各段階で動員されるミオシンアイソフォームの種類とその細胞型依存的な機能、ならびに調節タンパク質・脂質との相互作用を体系化する。さらに、大型分泌顆粒や粘性の高い内容物に特化した非神経細胞特有の適応機構を明確化し、神経細胞中心の古典的バリアモデルとの相違を提示する。最終的に、これらを統合した統一モデルを提案するとともに、残された課題と将来の研究展望を議論することを目指す。

結果

小胞輸送におけるmyoVとアクチン軌道: 膵腺房細胞やDrosophila上皮細胞では、formin (Dia) が生成するPM付着型の線状アクチンバンドルが分泌小胞の短距離輸送軌道として機能し、顆粒を先端膜 (apical membrane) へ運ぶ。これら軌道を破壊すると先端輸送が障害された (Fig 1)。myoVa はprocessiveなクラスVミオシンで、2つのモーターヘッドがアクチンに交互結合して barbed-end 方向へ「歩行」し (古典的には36 nmステップ)、tailドメインを介して小胞膜に連結される。連結はRab GTPase (主にRab27a) を介し、内皮細胞ではエフェクター MyRIP が、メラノサイトではメラノフィリンが myoVa とRab27aを橋渡しする。Rab27aはトランスジェニックマウスで外分泌・内分泌・造血系を含む広範な分泌細胞に発現する (Table 1)。卵母細胞ではノコダゾールによる微小管破壊は皮質顆粒輸送に影響せず、サイトカラシンによるアクチン破壊で輸送が消失したことから、長距離輸送でもアクチンが支配的でありうることが示された。

皮質バリアの解除とドッキング (myoIIとアクチン再編成): 皮質アクチンは厚さ約100 nm (卵母細胞では最大4 µm) のF-アクチン密集層で、原子間力顕微鏡ではメッシュサイズ100 nm以下と測定され、150種以上のアクチン結合タンパク質を含む。これは大型顆粒のPM接近を妨げる拡散バリアとして長く捉えられてきた。NK細胞のlytic granule分泌では、超解像解析でアクチンに通過可能な clearance が形成され、Arp2/3阻害でエクソサイトーシスが低下、myoII阻害剤 blebbistatin は皮質線維密度を増加させ clearance を減らし分泌を低下させた (Table 1)。分子シャペロン UNC-45A (uncoordinated-45 myosin chaperone A) はmyoIIAのアクチン結合を増強しNK細胞分泌を促進する。latrunculin Bやformin mDia1ノックダウンによる脱重合は肥満細胞分泌を増加させ、逆にjasplakinolideによるアクチン安定化はNK細胞分泌を抑制した。非定型ミオシンも関与し、myo1cはGLUT4 (glucose transporter type 4) 含有小胞とATII細胞ラメラ体の分泌を促進、myo1g欠損Bリンパ球ではTNFα (tumor necrosis factor α) 分泌が低下した。腎レニン分泌ではMLCK (myosin light chain kinase) 阻害が分泌を増やし、myoIIリン酸化が負の制御を担うことが示された。気道分泌細胞ではMARCKS (myristoylated alanine-rich C-kinase substrate) のN末端ドメインが粘液分泌の90%以上を抑制し、PKC (protein kinase C) によるMARCKSリン酸化とPM離脱がPIP2利用性を高めて皮質アクチン動態を促進する。皮質アクチンのメッシュサイズ (100 nm以下) と大型顆粒径 (1-2 µm = 1000-2000 nm) の間には径で10-20-fold の不一致があり、顆粒が単純拡散でPMへ到達することは幾何学的に不可能である。したがって皮質層は単なる受動バリアではなく、myoIIによる局所収縮とArp2/3・formin依存的な脱重合/再重合を介して通過経路 (clearance) を能動的に開閉する動的構造として再定義される。実際、blebbistatinによるmyoII阻害はNK細胞で皮質線維密度を増加させ分泌を低下させる一方、latrunculin Bによる脱重合は肥満細胞分泌を促進するという正反対の表現型が、細胞型ごとの皮質アクチン依存性の質的差異を示している。

融合孔の安定化と拡大 (F-アクチンとmyoIIの協調): 融合孔の開閉は内容物分泌量の精密調節に重要で、Ca2+依存的に制御される。膵腺房細胞ではF-アクチンが融合孔の開放維持に必要であり、後にF-アクチンが開放孔を安定化し motor protein による調節の場を提供すると提唱された (Table 1)。chromaffin (クロム親和) 細胞および上皮細胞ではmyoIIリン酸化が融合孔開口を直接制御し、myoIIがF-アクチンと協働して開放孔を安定化するというモデルに至った。膵β細胞ではformin核化のサブコルチカル線状F-アクチンの消失で孔が不安定化し、制御不能な孔拡大と顆粒コラプスが生じた。myoIIが孔周囲に収縮力を与えて孔を安定化するのか、あるいはF-アクチンリングがmyoII誘発の膜張力に拮抗するのかは未解決である。融合孔径は数nmの初期状態から数百nmまで段階的に拡大し得るが、この径の動態が放出される内容物量を直接規定するため、F-アクチン/myoIIによる孔の安定化は「全か無か」ではなく定量的な分泌制御を可能にする。Rab3a (Ras-related protein Rab-3A) が精子頂体反応のdense core granule融合孔拡大を調節することも報告され、孔動態の制御に複数のRabアイソフォームが関与する細胞型特異的な階層性が示唆される。

融合後アクチンコートによる圧縮と能動的内容物放出: 古典的「全融合 (full fusion)」モデルに代わり、融合顆粒は omega 形状を保ったまま収縮するという見方が、電気生理・光学両手法で支持されるようになった。多くの分泌細胞で融合直後にF-アクチンとmyoIIが融合顆粒表面を包む「アクチンコート」が形成される。融合によりPMのシグナル脂質が融合顆粒膜へ拡散して局所アクチン重合の引き金となる「kiss-and-coat」機構が働き、Drosophila唾液腺やATII細胞ではPIP2が、Xenopus卵母細胞ではDAGがコート形成を誘導し、続いてRho GTPaseが活性化してforminやArp2/3によるアクチン核化を起こす。Drosophilaでは蛍光標識Arp3がコート形成の約29 s後に遅れて動員された。myoIIは大半の系でコート収縮に寄与するが主要な駆動力ではなく、myoII阻害は圧縮速度を低下させても収縮自体は阻止しない。著者らは、cofilin-1によるアクチン脱重合が架橋因子α-actinin存在下でフィラメント滑りとコート収縮を駆動し、収縮がモーター活性非依存的に起こりうることを示した。この圧縮機構は、サーファクタント (ATII)・vWF (内皮)・消化酵素 (腺房) など粘性の高い大型カーゴを狭い融合孔から押し出すために特に重要で、神経シナプス小胞 (40-50 nm) より径で約40-fold大きいATII細胞顆粒 (1-2 µm) では受動放出が困難なことがその進化的意義を裏づける (Fig 1)。

補償的エンドサイトーシスとアクチンコートの連関: エクソサイトーシスによるPM過剰を回収する補償的エンドサイトーシスでは、ダイナミン-アクチン相互作用とArp2/3依存的重合が複数段階に寄与する。Xenopus卵母細胞では、融合した皮質顆粒がそのままF-アクチンコートにより直接PMから回収され (kiss-and-coat)、myo1cが重合アクチンと顆粒膜を連結して力発生を仲介した。膵β細胞でもアクチンコートが融合インスリン顆粒に内胞作動タンパク質を局所集積させる。ただし多くの非神経分泌細胞では、アクチンコート動態が補償的エンドサイトーシスを直接駆動する証拠は無い。唾液腺腺房細胞や内皮細胞では膜は先にPMへ統合された後にクラスリン依存的に回収され、ATII細胞では細胞静電容量測定で即時的な補償的エンドサイトーシスは検出されなかった。アクチンコートのエンドサイトーシスへの直接寄与は、Arp2/3が動員される細胞でのみ観察され、formin主導でArp2/3非依存的に核化する細胞では見られないことから、コートの構築様式が「分泌か膜回収か」という主機能を規定する可能性が示唆された (Table 1)。

ミオシンアイソフォームの機能的分業 (細胞型横断): 本レビューを通じ、myoVが小胞輸送と皮質アクチン係留を (Stenmark et al. NatRevMolCellBiol 2009 のRab枠組みと連動して) 担い、myoI (myo1c/myo1g) が皮質アクチン再編成とGLUT4分泌・Bリンパ球分泌を、myoIIが皮質バリア解除・融合孔安定化・アクチンコート収縮を、myoVIIが膵島β細胞でのMyRIP経由の顆粒係留を担う、という段階別・アイソフォーム別の分業像が浮かび上がる。これらをRab27a/bがエフェクター (MyRIP・メラノフィリン・Munc13-4) を介して輸送からドッキングまで統合的に協調させる (Bustos et al. ProcNatlAcadSciUSA 2012)。

考察/結論

本レビューは、非神経細胞エクソサイトーシスにおけるアクチン・ミオシンの役割が単一の「バリア機能」ではなく、輸送→ドッキング→融合孔→融合後→補償的エンドサイトーシスの各段階に対応した機能的に異なる複数のアクチン構造と質的に異なるミオシンアイソフォームの動員によって達成されることを統合的に提示した。

先行研究との違い: 神経細胞のエクソサイトーシスでは、SNAREによる膜融合機構が中心パラダイムであり、アクチンはバリアとして周辺的に扱われてきた。これとは対照的に、本稿が強調する非神経細胞での独自点は、大型分泌顆粒に対するアクチンコート圧縮機構、ミオシンアイソフォームの精緻な機能的分業、融合孔の積極的制御としてのアクトミオシン関与の体系化にある。例えばATII細胞顆粒 (1-2 µm) は神経シナプス小胞 (40-50 nm) より径で約40-fold大きく、受動的内容物放出が困難であることが圧縮機構の進化的必然性を説明する。この観点は、これまでの研究の神経細胞中心の枠組みとは質的に異なる。

新規性: 本稿は、輸送から膜回収に至る一連のプロセスを通じたアクトミオシン系の多機能性を細胞型横断的に統合した点で新規性をもつ。特に、融合後アクチンコートが粘性の高い内容物の能動放出を駆動する機構と、cofilin-1とα-actininによるモーター非依存的なコート収縮という、これまで報告されていない統一的描像を提示した。個別の細胞系で別々に記載されてきたRab GTPaseとミオシンの連携が細胞型を超えた共通機構であることを novel な統合像として明示した点も意義深い。

臨床応用: 本知見は多様な疾患の分泌異常に対する治療標的特定への臨床応用が期待される。具体的には、(1) ATII細胞サーファクタント分泌 (急性肺傷害・ARDS, acute respiratory distress syndrome)、(2) 肥満細胞脱顆粒 (アレルギー・喘息)、(3) NK細胞・細胞傷害性T細胞の免疫シナプス分泌 (がん免疫療法)、(4) 膵β細胞インスリン分泌 (2型糖尿病) において、アクチン/ミオシン制御が臨床的意義をもつ介入点となりうる。さらに多胞体 (MVB, multivesicular body) 融合とエクソソーム放出にもmyoIIやRab27aが関与することから、本レビューの枠組みは細胞外小胞 (EV, extracellular vesicle) 生物学への橋渡しとしても有用である。

残された課題: 今後の検討課題として、アクチン重合/脱重合の正確な時空間制御を担うRho GEF/GAPの同定、融合後コート収縮力の単一分子レベルでの定量、超解像イメージング (STED/PALM/STORM) と生細胞観察を組み合わせたコート動態のリアルタイム計測が挙げられる。各ミオシンクラス間の協調制御の解明も主要課題である。本レビューの limitation として、知見の多くが化学的阻害剤と限られたモデル細胞に依拠し、生体内 (in vivo) での妥当性検証が未完である点も指摘される。これら残された課題への取り組みが、非神経細胞分泌の分子機構理解と新規治療戦略の開発に資すると考えられる。

方法

本論文はレビュー (Review article) であり特定の実験プロトコルは存在しないため、文献統合の方法論を記述する。著者らは PubMed・Web of Science・Scopus などの主要学術データベースを用い、2020年5月までに公開された非神経細胞のエクソサイトーシス・アクチン・ミオシン・膜融合 (membrane fusion)・小胞輸送に関する一次文献・総説を網羅的に収集した。検索語には “secretion”、“exocytosis”、“vesicle trafficking”、“cortical actin”、“actin coat”、“fusion pore”、“non-neuronal cells” などを用いた。

収集文献は、大型分泌顆粒または粘性の高い内容物を放出する細胞型 (ATII細胞・内皮細胞・肥満細胞・NK細胞・膵β細胞・腺房細胞・卵母細胞・メラノサイト・精子など) を優先対象とし、小胞輸送・皮質アクチンへのドッキング・融合孔動態・融合後の内容物放出と膜回収という段階別に分類された。各段階で機能するミオシンアイソフォーム (myoV、myoI、myoII、myoVII)、ならびに調節因子である Rab GTPase、MyRIP (myosin and Rab27a-interacting protein)、メラノフィリン、Munc13-4 (mammalian uncoordinated-13 isoform 4)、SNARE (soluble NSF attachment protein receptor) タンパク質、脂質 PIP2 (phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate)・DAG (diacylglycerol) の報告が分析された。

評価にあたっては、超解像顕微鏡法 (super-resolution microscopy)、全反射蛍光顕微鏡法 (TIRF, total internal reflection fluorescence microscopy)、原子間力顕微鏡 (atomic force microscopy)、FRAP (fluorescence recovery after photobleaching)、細胞静電容量測定などで皮質アクチン密度やアクチンコート動態を定量した研究結果が特に重視された。本レビューはエビデンスレベルの形式的格付け (GRADE 等) や統計的メタ解析は行わず、エクソサイトーシスの時間的順序に沿って各段階の機能的役割を体系記述し、共通機構と細胞型特異的適応の双方を抽出する narrative synthesis の形式を採った。