• 著者: Matías A. Bustos, Ornella Lucchesi, María C. Ruete, Luis S. Mayorga, Claudia N. Tomes
  • Corresponding author: Claudia N. Tomes (ctomes@fcm.uncu.edu.ar, Instituto de Histología y Embriología, Universidad Nacional de Cuyo, Mendoza, Argentina)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22753498

背景

Rab GTPase (グアノシン三リン酸結合タンパク質) は小胞輸送の主要な調節因子であり、各Rabタンパク質が特定の膜コンパートメントの同一性と融合を制御する。先行研究はRab GTPaseがエクソソーム分泌の異なるステップを制御すること (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)、Rab27aがエクソソーム依存・非依存的に腫瘍微小環境を改変すること (Bobrie et al. CancerRes 2012)、Rab35がGTPase活性化タンパク質を介してエクソソーム分泌を制御すること (Hsu et al. JCellBiol 2010) を示してきた。Rab GTPaseは細胞質のGDP結合型 (不活性) と膜結合型GTP結合型 (活性) の間で循環し、グアニンヌクレオチド交換因子 (guanine nucleotide exchange factor, GEF) による活性化とGTPase活性化タンパク質 (GTPase-activating protein, GAP) による不活性化を繰り返す。精子の先体反応 (acrosome reaction, AR) は先体 (dense-core顆粒に相当) が精子細胞膜と融合して内容物を放出するカルシウム依存性の調節性開口分泌であり、受精に不可欠なプロセスである。先行研究でRab3Aが精子ARに必須であることは示されていたが、ニューロエンドクリン細胞でdense-core顆粒開口分泌を調節することが知られるRab27との機能的関係は未解明であった。PC12細胞ではRab3AとRab27Aが協調してdense-core顆粒のドッキングを調節するという報告があるが、その実験系は過剰発現に依存しており、精子ARにおける内因性タンパク質間の序列関係 (どちらが上流か) を直接示す証拠は決定的に不足していた。

目的

ヒト精子の先体反応においてRab27が必須であることを実証し、Rab27とRab3Aが連続的に作用する際にRab27がRab3Aの上流に位置するというRab-GEFカスケード機構を直接証明すること。さらに、Rab27が活性型Rab3 GEFを動員するという分子機構を生化学的に実証すること。

結果

Rab27の膜局在と精子AR必須性:ヒト精子の全溶解液ウェスタンブロットで約28 kDaの単一バンドとしてRab27が同定された。Triton X-114相分離でRab27は100%デタージェント相 (脂質修飾タンパク質) に分配され、ゲラニルゲラニル化による膜局在が確認された。細胞分画ではRab27はほぼ完全に膜画分 (約100%) に分配され、細胞質には極わずかしか存在しなかった。SLO透過化精子に抗Rab27抗体 (7 nM) を導入すると、ARは用量依存的に阻害された (Fig. 2A、p<0.01)。Slac2-b (Rab27-GTP競合阻害剤、140 nM) も同様に濃度依存的ARを阻害した (Fig. 2B)。カルシウムイオノフォアA23187および8-pCPT-2’-O-Me-cAMPによる異なる2種の刺激経路でも同等のAR阻害が得られ、Rab27の必須性は刺激経路に依存しないことが示された。光感受性カルシウムキレーターNP-EGTA-AMを用いた時間分解実験では、Rab27阻害 (Slac2-b 導入) 後にカルシウムを放出させてもARは起きなかったのに対し、カルシウム放出後にSlac2-bを加えてもAR阻害は起きなかった。この結果により、Rab27は先体内腔カルシウム放出より前のステップで機能することが初めて示された。

Rab27とRab3Aの連続活性化パターン:AR誘導因子 (A23187または8-pCPT-2’-O-Me-cAMP) 刺激により、GST-Slac2bプルダウン解析でRab27-GTPレベルが約1.5倍増加した (Fig. 3C、p<0.01、n=2)。同時にGST-RIM-RBDプルダウンでRab3A-GTPレベルは約2倍増加し、膜結合型Rab3Aは約50%増加した (Fig. 3D、p<0.01、n=4)。Rab27は安静時から主に膜結合型 (約100%膜画分) であったのに対し、Rab3Aは刺激依存的に細胞質から膜へリクルートされるという対照的な動態を示した。研究室独自開発の先体領域活性型Rab可視化間接免疫蛍光アッセイ (少なくとも200細胞計数、n=3反復) では、GTP/カルシウム処置によりRab27-GTP陽性細胞は4倍超に増加し (p<0.001)、Rab3-GTP陽性細胞も2倍超に増加した (p<0.001)。これら結果はRab27とRab3Aが同一刺激に対して連続的に活性化されることを細胞レベルで直接示した。

Rab27がRab3Aの上流で機能するRab-GEFカスケードの直接証明:組換えゲラニルゲラニル化Rab27A-GTPγS (活性型、300 nM) を精子へ添加すると、先体領域の内因性Rab3-GTP陽性細胞が統計的に有意に増加し (Fig. 4B、Rab27A-GDPと比較してp<0.001、396細胞計数)、Rab27-GTP/カルシウム条件と統計的に同等のRab3活性化が生じた。逆に組換えRab3A-GTPγSを添加してもRab27-GTP陽性細胞数に変化はなく (p>0.05)、Rab27→Rab3という一方向の非対称な活性化順序が確立された。さらに段階的阻害実験で、抗Rab27抗体でブロック後にカルシウム刺激し、次にRIM-RBD (Rab3-GTP捕捉) を加えるとARが阻害された (Rab27下流にRab3が位置)。一方、抗Rab3A抗体でブロック後にカルシウム刺激し、Slac2-bを加えてもARは阻害されなかった (Rab27の作用はRab3阻害前に完了)。これらの証拠によりRab27→Rab3Aという一方向の連続的機能的序列が実証された。

Rab27によるRab3 GEF活性の動員の生化学的証明:GST-Rab27A-GTPγS固定化ビーズにヒト精子抽出液を負荷した後、His6-Rab3A-GDPを基質として加えると、His6-Rab3A-GTPが生成された。GST単独ビーズではRab3A-GTPはバックグラウンドレベルのみであり、Rab27-GTPが精子抽出液中のRab3 GEF活性を物理的に捕捉・動員することが直接示された。この in vitro 再構成アッセイ (n=2反復) により、Rab27-GTP→Rab3 GEF動員→Rab3A活性化というRab-GEFカスケードの生化学的基盤が確立された。PC12細胞でのRab3/Rab27協調に関する先行報告は過剰発現系であったため因果関係が不明であったが、本研究はヒト内因性精子タンパク質のみを用いて同じ方向性を生化学的に実証した点で決定的に異なる。なお先体領域の活性型Rab可視化アッセイは各条件170〜484細胞を計数し、少なくとも3回の独立実験 (n≥3) でmean±SEMを算出してTukey-Kramer post hoc検定で群間比較しており、定量の頑健性が担保されている。

考察/結論

本研究はRab27→Rab3A GEF動員→Rab3A活性化というRab-GEFカスケードがヒト精子dense-core顆粒開口分泌 (先体反応) を逐次的に制御することを、機能阻害・細胞生物学・生化学の3層で初めて直接実証した。Rab27が安静時から膜結合・部分活性化状態 (約100%膜画分) にあり、カルシウム刺激によりさらに活性化 (GTP負荷量1.5倍増) されてRab3 GEF活性を捕捉するというモデルは、膜上のRab27存在だけでは開口分泌が起きない理由を説明する。Rab3A側のGTP結合量は2倍増加、Rab27-GTP直接添加でRab3活性化が再現されたことは、因果関係を確立する最も直接的な証拠である。先行研究ではPC12細胞でRab3A/Rab27Aが協調してdense-core顆粒のドッキングを調節すると報告されていたが、それらは過剰発現系に基づくものであり上下流の方向性を確定できなかった。これと異なり本研究は、内因性タンパク質系のみで両Rabの機能的序列 (Rab27→Rab3A) を証明した点で方法論的優位性がある。Rab27がRab3Aの上流でRab3 GEFを動員するという一方向のカスケードは、これまで報告されていない新規な分子序列であり、本研究で初めて生化学的に直接実証された点に新規性がある。NP-EGTA-AM時間分解実験によりRab27がカルシウム放出前に機能するステップが同定されたことは、先体反応の時系列制御機構の理解を深める。EV研究との関連として、Rab27は多小胞体 (MVB) の細胞膜への融合と細胞表面へのエクソソーム放出においても中心的役割を担い、Rab27aとRab27bが分泌経路の異なるステップを制御すること (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)、Rab27aがエクソソーム依存・非依存的に腫瘍微小環境を改変すること (Bobrie et al. CancerRes 2012) が知られている。また別のRab GTPaseであるRab35もそのGAPを介してエクソソーム分泌を制御する (Hsu et al. JCellBiol 2010)。本論文で示されたRab27→Rab3 GEFカスケードはこれらエクソソーム分泌制御の一般的パラダイムに新たな上下流序列の視点を提示する可能性がある。精子学・生殖医学の観点からは、AR障害による男性不妊の分子機序としてRab27/Rab3A経路の機能異常が新たな候補として浮上する。本研究が開発したGTP結合型Rab可視化間接免疫蛍光アッセイ (少なくとも200細胞計数、先体領域限定評価) は、ニューロン・膵β細胞・肥満細胞など他の調節性開口分泌細胞系へも応用可能な汎用ツールとして意義を持つ。臨床応用の観点では、AR障害による男性不妊の分子診断マーカーとしてのRab27/Rab3A経路検査や、エクソソーム分泌制御を標的とした治療開発への橋渡しが期待される。残された課題 (limitation) として、Rab27がRab3 GEFを動員する際に経由するエフェクター分子 (Slac2ファミリー、Rabphilin等) の同定と、カルシウム放出前のステップにおける具体的な分子イベントの解明が今後の課題である。

方法

対象・デザイン: 健常ドナー由来ヒト精子 (capacitation後) をStreptolysin O (SLO) でペルミアビライズし、膜透過できない分子を細胞内へ導入する細胞フリー再構成系。比較対照として神経内分泌細胞株PC12 (rat pheochromocytoma cell line) 由来の既報Rab3/Rab27協調モデルを参照、組換えタンパク質発現にはE. coli (大腸菌) 系を使用。精子ARはFITC-PSA (fluorescein-Pisum sativum agglutinin) 結合により評価し、各条件少なくとも200細胞を計数。統計手法: 群間比較は対応のあるStudent t検定およびTukey-Kramer post hoc検定、各アッセイn=3反復以上の独立実験でmean±SEMを算出。抗Rab27抗体 (7 nM) およびRab27-GTP結合ドメイン (Slac2-b、140 nM) のAR阻害実験。光感受性カルシウムキレーター (NP-EGTA-AM) を用いた時間分解実験でRab27の作用時点を決定。GST-Slac2b (Rab27-GTP結合ドメイン) およびGST-RIM-RBD (Rab3-GTP結合ドメイン) プルダウンアッセイによるRab27-GTPおよびRab3A-GTPレベルの経時測定。実験室独自開発の間接免疫蛍光法により先体領域の活性型Rab (GTP結合型) を細胞単位で可視化。組換えゲラニルゲラニル化Rab27A-GTPγS・Rab3A-GTPγSの精子への添加実験でRab活性化の上下流関係を解析。GST-Rab27A-GTPγS固定化ビーズへのヒト精子抽出液負荷によるRab3 GEF活性測定アッセイ。