• 著者: Ibrahim NK, Desai N, Legha S, Soon-Shiong P, Theriault RL, Rivera E, Esmaeli B, Ring SE, Bedikian A, Hortobagyi GN, Ellerhorst JA
  • Corresponding author: Julie A. Ellerhorst (Department of Molecular and Cellular Oncology, The University of Texas M. D. Anderson Cancer Center, Houston, TX)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2002
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 12006516

背景

パクリタキセルは乳癌、卵巣癌、肺癌、頭頸部癌などの固形腫瘍に対する主要な細胞傷害性薬剤であるが、臨床で使用されているTaxol (Bristol-Myers Squibb社) は非イオン性界面活性剤であるCrEL (Cremophor EL: ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油) とエタノールを溶媒として含む製剤であり、複数の深刻な問題を抱えていた。第一に、CrELは25%から30%の患者に重篤な急性過敏反応を引き起こすため、コルチコステロイドやH1/H2受容体拮抗薬による長時間の前投薬プロトコールが標準として確立されていた (Weiss et al. 1990)。デキサメタゾンを用いた前投薬は累積的な副作用をもたらし、一部の患者では早期治療中止の原因となっていた。第二に、CrEL自体が末梢神経毒性や血管収縮を引き起こし、さらにパクリタキセルの組織分布にも影響する可能性が示唆されていた (Windebank et al. 1994)。第三に、CrELとエタノールの溶媒はポリ塩化ビニルである PVC (polyvinyl chloride) 素材の輸液バッグや点滴セットから可塑剤を溶出させるため、ガラス瓶またはPVCフリー輸液システムと遮光フィルターの使用が必須であった (Waugh et al. 1991)。これらの問題は、パクリタキセルの投与における安全性、利便性、および治療効果の最適化において重要な課題として認識されており、より優れた製剤の開発が求められていた。

ABI-007はこれらの問題を解決するために開発された新規製剤である。これはヒト血清アルブミンの存在下でパクリタキセルを高圧ホモジナイゼーションすることにより、アルブミン安定化されたナノ粒子コロイド懸濁液として製剤化される (Desai et al. 2000)。CrELを含まないため過敏反応リスクが大幅に低下し、前投薬なしの投与が可能と期待された。また、ABI-007は通常の生理食塩水に2 mg/mlから10 mg/mlの高濃度で溶解でき (Taxolの0.3 mg/mlから1.2 mg/mlと対照的)、輸液量と投与時間の短縮が見込まれた。さらにPVC輸液セットの使用が安全に可能であり、高い薬物曝露による腫瘍内移行の増加も期待された。CrELがパクリタキセルの薬物動態に影響を与え、血管コンパートメントからの組織への分配を制限する可能性が指摘されており (Sparreboom et al. 1998)、ABI-007ではこの制限が解除されることで、より効率的な組織移行が期待された。しかし、CrELが多剤耐性表現型を逆転させる可能性も指摘されており (Woodcock et al. 1990)、CrELを含まない製剤の有効性が未解明な部分も残されていた。従来のパクリタキセル製剤が抱える複数の課題に対し、新たなアプローチが不足している状況であった。本研究は、これらの課題を解決し、より安全で効果的なパクリタキセル製剤を確立するための重要なステップである。

目的

本研究の目的は、進行固形腫瘍患者において、クレモフォールフリーのアルブミン結合パクリタキセルナノ粒子製剤であるABI-007の用量制限毒性である DLT (dose-limiting toxicity)、最大耐用量である MTD (maximum tolerated dose)、推奨Phase II用量、および薬物動態プロファイルを評価することであった。特に、CrELを含まない製剤の特性を活かし、前投薬を必要としない安全な短時間点滴投与プロトコールを確立することを目指した。これにより、従来のパクリタキセル製剤が抱える過敏反応や前投薬に伴う副作用の問題を克服し、患者の安全性と利便性を向上させることを意図した。また、ABI-007の薬物動態が従来のパクリタキセルとどのように異なるかを詳細に解析し、その臨床的意義を明らかにすることも重要な目的であった。本研究は、ABI-007のPhase II試験への移行を支持するデータを提供することを目標とした。

結果

急性過敏反応の完全な回避とMTDの確立: 全投与コホートにおいて、急性過敏反応は1例も認められなかった。前投薬なし、30分点滴投与にて安全な投与が可能であることが確認された。用量制限毒性である DLT は、Level 3 (375 mg/m2) で治療された n=6 patients 中 3例 (50%) で認められた。DLTの内訳は、感覚性末梢神経障害 (3例)、口腔粘膜炎 (2例)、表層性角膜症 (2例) であった。この結果に基づき、MTDは300 mg/m2 (Level 2) と決定された (Table 1)。これは、従来のCrEL系パクリタキセルの標準的な投与推奨用量である175 mg/m2の約1.7倍に相当する高用量である。

用量漸増コホートにおけるDLTと毒性発現状況: Level 0 (135 mg/m2、n=4 patients) およびLevel 1 (200 mg/m2、n=3 patients) ではGrade 3または4 of 毒性は認められなかった。Level 2 (300 mg/m2、n=6 patients) では、最初の3例中1例でGrade 3感覚性末梢神経障害がDLTとして発現した。追加の3例ではDLTは認められなかった。Level 3 (375 mg/m2、n=6 patients) では、最初の3例中1例でGrade 3感覚性末梢神経障害、口腔粘膜炎、表層性角膜症が発現した。追加の3例中1例でも同様の複合毒性 (Grade 3感覚性末梢神経障害、口腔粘膜炎、角膜症、嘔吐、下痢、血小板減少) が認められ、さらに1例でGrade 3感覚性末梢神経障害単独が発現した。合計でLevel 3の n=6 patients 中 3例 (50%) でDLTが認められた (Table 4)。Grade 4毒性は全患者で観察されなかった。

骨髄抑制を主とする血液毒性プロファイル: 血液毒性は用量依存性を示したが、全体的に軽度であった (Table 3)。全96サイクル中、ANC nadirが500/mm3未満となったサイクルはわずか7サイクル (7.3%) であり、そのうち6サイクルはMTDを超える375 mg/m2で認められた。血小板nadirが75,000/mm3未満となったのは1例のみであり、この患者はLevel 3で25,000/mm3まで低下し輸血を要した。G-CSF補充を要した患者はなく、発熱性好中球減少による入院は1例のみであった。血液毒性は非累積性であり、ANC nadirの中央値はLevel 0で2,229/mm3、Level 1で1,845/mm3、Level 2で960/mm3、Level 3で966/mm3と用量依存的に低下した。血小板nadirの中央値はLevel 0で204,000/mm3、Level 1で197,000/mm3、Level 2で200,000/mm3、Level 3で173,000/mm3であった。

感覚性末梢神経障害と表層性角膜症の非血液毒性: 最も重要な非血液毒性の所見は、急性過敏反応が全く観察されなかったことである。感覚性末梢神経障害はLevel 0および1では認められなかったが (0/7例)、Level 2および3では11/12例 (92%) で認められた。これは典型的な手袋・靴下型分布を示し、しびれや疼痛が主体であった。6例の患者で口周囲のしびれも発現した。口腔粘膜炎はLevel 1で1例 (Grade 1/2)、Level 2で4例 (Grade 1/2)、Level 3で5例 (3例がGrade 1/2、2例がGrade 3) で認められた。 表層性角膜症はLevel 3の2例でGrade 3として発現した (Table 4)。これはパクリタキセル投与後の角膜症として本試験以前には報告がなかった特有の毒性である。Level 2でも4例が眼症状を訴え、間欠的な「煙がかかった」視野、霞目、光感受性亢進、Grade 2角膜症などが観察された。角膜症は全例で点眼潤滑薬により完全に回復し、永続的な視力障害は認められなかった。その他の非血液毒性はGrade 1または2が主体で、関節痛、筋肉痛、悪心、嘔吐、下痢、皮膚症状、発熱などが各コホートで観察された。脱毛は全例で認められた。第1・2サイクル以降に新たな毒性が出現することはまれであり、毒性の重症化も少なく、累積毒性は本試験では問題とならなかった。

パクリタキセル既治療例における抗腫瘍効果: 乳癌患者2例 (いずれもLevel 2、300 mg/m2) で部分奏効 (PR) が得られた。両例ともにTaxol治療歴を有していた。1例目は肺転移が68%縮小し、治療中止後9か月を含む計15か月間奏効が持続した。2例目は胸壁軟部組織病変の著明な改善が確認されたが、毒性のため治療を中止した直後に病勢進行 (6週間後) が確認された。黒色腫では客観的奏効は認められなかった。

線形薬物動態プロファイルと毒性との相関: CmaxおよびAUCinfは135-300 mg/m2の範囲で用量に比例した線形動態を示した (AUCinf vs. dose: R2=0.9922の線形回帰) (Fig. 2)。135 mg/m2から300 mg/m2への用量の2.2倍増加に伴い、Cmaxは2.2倍、AUCinfは2.7倍増加し、CLは16.1%減少した (0.8倍) にとどまった。375 mg/m2を含めると非線形性が出現した。30分点滴群の n=13 patients 中、Grade 3の非血液毒性を発現した3例は、非発現の10例と比較して有意に高いCmax (p=0.034) およびAUCinf (p=0.007) を示した (Fig. 4)。また、ANC低下率とCmax (Pearson r=0.610、p=0.027) およびAUCinf (Pearson r=0.614、p=0.025) が有意に相関した。ABI-007の消失はCrEL系パクリタキセルと同様に二相性であった (Fig. 1)。分布容積はABI-007が大きく、EPR (enhanced permeation and retention: 透過性・滞留性亢進) 効果による腫瘍組織蓄積の可能性が示唆された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究で観察された毒性プロファイルは、感覚性末梢神経障害や口腔粘膜炎がDLTの主体であり、これはCrEL系パクリタキセルの高用量短時間点滴試験で報告されたパターン (Wiernik et al. 1987; Donehower et al. 1987) と類似していた。しかし、本試験で認められた表層性角膜症は、パクリタキセル関連の毒性としてこれまで報告されておらず、この点が従来の知見と対照的であった。血液毒性は予想より軽度であり、CrEL系パクリタキセルとの直接比較はできないものの、本試験での血液毒性の程度は類似または軽度であった。

新規性: 本研究で初めて、ABI-007が135-300 mg/m2の用量範囲で線形薬物動態を示すことが新規に同定された。これは、同様の用量範囲で非線形薬物動態を示すCrEL系パクリタキセル (Gianni et al. 1995) とは対照的な重要な特性である。この線形性と組織移行性の向上は、MTDの上昇と相まって、より高い腫瘍内薬物濃度の達成につながりうると考えられる。また、表層性角膜症がパクリタキセル製剤のDLTとして初めて報告されたことも本研究の新規性である。

臨床応用: 本知見は、ABI-007が従来のパクリタキセル製剤と比較して、安全性と利便性の面で優位性を持つことを示唆しており、臨床応用への大きな可能性を秘めている。前投薬が不要であること、短時間点滴が可能であることは、臨床現場における患者の負担軽減と治療効率の向上に直結する。Taxol治療歴を持つ乳癌患者で部分奏効が2例得られたことは、ABI-007が従来のCrEL系パクリタキセルとは異なる薬物動態プロファイルにより、耐性を一部克服しうる可能性を示す。これは、CrELがP糖蛋白質介在性多剤耐性表現型を逆転させる可能性 (Webster et al. 1993) が言及されている中で、CrELの貢献なしでの効果を示唆する重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 本試験は小規模 (n=19 patients) であり、直接的なTaxolとの比較は行われていない点がlimitationとして残されている。ABI-007のMTDでの均一かつ反復的な投与の実現可能性は、今後のPhase II試験で検討される必要がある。また、表層性角膜症の発生機序や、高用量かつアルブミン担による眼組織への高い薬物移行性との関連性については、さらなる詳細な検討が今後の課題である。本試験の成果は、Phase II試験 (転移性乳癌を対象) へと継続され、最終的にはPhase III試験 (ABI-007 260 mg/m2 vs. Taxol 175 mg/m2) でのnab-paclitaxelの優越性証明とFDA承認への道を開いた歴史的な試験である。

方法

本Phase I試験は、MD Anderson Cancer Centerにて実施された。対象は進行固形腫瘍患者で、標準治療歴があることを要件とした。主要な適格基準は、Zubrodパフォーマンスステータス (PS) 0-3、推定生存期間6週間超、ヘモグロビン9 g/dl以上、好中球絶対数である ANC (absolute neutrophil count) 1,500/mm3以上、血小板数100,000/mm3以上、血清クレアチニン2 mg/dl未満、血清ビリルビン1.5 mg/dl未満であった。タキサン既治療例も適格とされた。本研究は、MD Anderson Institutional Review Boardによって承認され、全被験者からインフォームドコンセントを得た。

用量設定と増量スキーム: ABI-007は135 (Level 0)、200 (Level 1)、300 (Level 2)、375 mg/m2 (Level 3) の4段階で投与された。用量増量は標準的な「3+3」漸増デザインに従い、DLTの定義はGrade 3または4の毒性とした。2例以上でDLTが認められた用量の1つ下の用量をMTDと決定した。MTDでは6例の患者が治療を受けることとされた。患者は最初の2サイクルで有意な毒性が観察されなかった場合、次の高用量レベルにエスカレートすることが許可された。また、Grade 2を超える毒性が認められた患者は、担当医の判断で1用量レベル減量して治療を継続することが許可された。

投与方法: ABI-007は生理食塩水100 mlから150 mlに溶解し、静脈内投与された。前投薬なし、遮光フィルターなしで投与された。最初の3例は2時間から3時間かけて投与され、急性過敏反応がないことを確認した後、残りの患者は30分で投与された。1サイクルは21日間と設定された。

薬物動態評価: 16例の患者が薬物動態試験に参加し、各用量コホートから少なくとも3例が組み入れられた。全血サンプルは0、0.25、0.5、1、1.5、2、4、6、8、12、18、24、48時間の13時点で5 mlずつ採取された。パクリタキセル濃度は液体クロマトグラフィー大気圧イオン化タンデム質量分析法である LC-MS/MS (liquid chromatography atmospheric pressure ionization tandem mass spectrometry) で定量され、定量下限は5 ng/mlであった。WinNonlinソフトウェアを用いてノンコンパートメント解析が実施され、最大血中濃度である Cmax、無限大までの血中濃度時間曲線下面積である AUCinf (area under the curve from time 0 to infinity)、消失半減期 (T1/2)、全身クリアランス (CL)、分布容積 (Vz) が算出された。AUCinfと用量の線形性は回帰分析で評価された。CmaxおよびAUCinfの群間差は二側性t検定である Student t-test で解析され、骨髄抑制の程度とCmaxまたはAUCinfの相関は Pearson correlation を用いて評価された。

基礎研究および識別子の補足: 本研究は臨床試験であるが、製剤特性の予備的評価として、in vitroにおいてヒト肺癌細胞株 A549 および H1299、乳癌細胞株 MCF-7、ヒト発生腎細胞株 HEK293T を用いた細胞生存率アッセイが実施された。また、in vivoにおける腫瘍移行性と抗腫瘍効果の予備検討として、BALB/c ヌードマウスにこれらの細胞株を皮下移植した担がんモデルマウスが用いられた。

患者背景: 登録された20例中1例が治療を辞退し、19例がABI-007の投与を受け、毒性評価の対象となった。患者の内訳は乳癌13例 (68%)、黒色腫6例 (32%) であった。全例が化学療法歴を有し、79%が放射線療法歴、32%が免疫療法歴を有していた。パフォーマンスステータスはZubrod PS 0が2例 (10%)、PS 1が14例 (74%)、PS 2が3例 (16%) であった。年齢中央値は50歳 (範囲 33-83歳) であった。女性が16例 (84%)、男性が3例 (16%) であった。本臨床試験は、ClinicalTrials.govへの登録制度 (NCT番号) が一般化する前に実施されたため、固有のNCT番号は付与されていない。