- 著者: Tapan K. Bera, Nancy Huynh, Hiroshi Maeda, Bangalore K. Sathyanarayana, Byungkook Lee, Ira Pastan
- Corresponding author: Ira Pastan (Laboratory of Molecular Biology, Center for Cancer Research, NCI, NIH, Bethesda, MD, USA)
- 雑誌: Gene
- 発行年: 2004
- Epub日: 2004-07-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 15276201
背景
前立腺がんの免疫療法を目的とした新規標的遺伝子の探索として、NIH グループは EST (expressed sequence tag) データベースのコンピューター解析により、正常重要組織には発現せず前立腺がんで発現する遺伝子クラスターを系統的に同定する戦略を確立していた (Vasmatzis et al. 1998)。先行研究として、前立腺および精巣に選択的に発現する PAGE-1 (prostate-associated gene expression 1) が最初に同定され (Brinkmann et al. 1998)、続いて前立腺特異的な TARP (T-cell receptor gamma-chain alternate reading frame protein) が報告された (Wolfgang et al. 2000)。先行研究として、GDEP (gene differentially expressed in prostate) も同戦略で同定された (Olsson et al. 2001)。これらはいずれも CTA (cancer-testis antigen) 候補として免疫療法標的の観点から注目を集めていた。先行研究として、前立腺・精巣・卵巣・胎盤に選択的に発現する POTE (prostate, ovary, testis, and placenta expressed) 遺伝子が同定され、ヒトゲノム中に 10 個の高度相同性パラログが 8 つの染色体に分散していること、マウスやラットにはオルソログが存在しない霊長類特異的な遺伝子であること、アンキリン反復とスペクトリン様ドメインという機能的に重要な構造モチーフを持つことが報告された (Bera et al. 2002)。また同時期に、DD3 (differential display code 3)/PCA3 (prostate cancer antigen 3) をはじめとする前立腺特異的な非コード RNA が相次いで発見され (Bussemakers et al. 1999)、PCGEM1 (prostate cancer gene expression marker 1) も前立腺特異的な非コード RNA として独立に報告された (Srikantan et al. 2000)。組織特異的遺伝子座の逆鎖から転写される非コード RNA が局所的な遺伝子発現制御に関与するという新たなパラダイムが形成されつつあった。しかしながら、POTE パラログ各々の完全長 cDNA 配列・スプライスバリアントの全貌・コードタンパク質のドメイン構成と分子量・POTE タンパク質の細胞内局在といった基本的な生化学的特性は未解明なまま残されており、これらの知見が不足していたことが POTE ファミリーを免疫療法の実際の標的として評価する上での根本的障壁となっていた。
目的
前立腺 RNA を用いて5つの POTE パラログ (POTE-15, POTE-14, POTE-22, POTE-2, POTE-8) の完全長 cDNA とスプライスバリアントをクローニング・シーケンシングし、各バリアントがコードするタンパク質のサイズとドメイン構成を in vitro 翻訳実験で実証する。あわせて POTE タンパク質の細胞内局在を蛍光免疫染色・共焦点顕微鏡で同定し、POTE 遺伝子座の逆鎖から転写される前立腺特異的な新規非コード RNA を特性解析することで、POTE ファミリーの分子的多様性と機能的意義の解明を目指す。
結果
POTE-15 パラログの2種スプライスバリアント同定:前立腺 cDNA から POTE を増幅した n=8 クローンのシーケンス解析で、4 クローンが染色体 21 由来、残る 4 クローンが染色体 15 の POTE パラログ (POTE-15) 由来と判定された。染色体 15 には 2 種のスプライスバリアントが存在する。POTE-15A は POTE と同じ 11 エクソン構成を持ち 581 アミノ酸 (65.8 kDa) をコードする。最終エクソンに 9 塩基の欠失がある以外はエクソンサイズはほぼ同一で、アミノ酸配列の同一性は 97% に達する。N 末端の 17 アミノ酸シスチンリッチ反復 (3 個)、中央の 6-7 個のアンキリン反復、C 末端スペクトリン様ドメインという三者構造は POTE と共通する (Fig. 1, Fig. 2)。POTE-15B はエクソン 1 が 111 bp 短縮した 1,706 bp のバリアントで 544 アミノ酸 (61.1 kDa) をコードし、エクソン 2-11 は POTE-15A と同一であるが N 末端システインリッチ反復が 3 個中 1 個欠失した構造を持つ (Table 1)。
POTE-14 の3種バリアントと最小パラログ POTE-22:n=40 クローン解析から染色体 14 由来の 3 種バリアントが同定された。POTE-14A は 508 アミノ酸 (57.2 kDa) で、エクソン 10 が 5 bp 短縮して ORF (open reading frame) が早期終止する。POTE-14B はエクソン 3-4 間に 255 bp の追加エクソンを持ち 594 アミノ酸 (67.1 kDa) で最長バリアントであり、アンキリン反復 4 と 5 の間に潜在的な膜貫通領域を含む可能性がある。POTE-14C はエクソン 9-10 間に 49 bp 追加エクソンが挿入され内包される未成熟停止コドンにより 487 アミノ酸 (54.6 kDa) となり、C 末端スペクトリン様構造が欠失している (Fig. 2, Table 3)。同クローン群から POTE-22 も同定され、エクソン 1 に 111 bp の付加配列を持つため N 末端システインリッチ反復が 4 個となる一方、3 つのアンキリン反復と C 末端構造が欠失した最小パラログとして 288 アミノ酸 (32.3 kDa) をコードする。
POTE-2・POTE-8 のゲノム構造と in vitro 翻訳による分子量確認:POTE-2 は 4 種のスプライスバリアントを持ち、イントロン 9 内に 4 つの追加エクソンを含む POTE-2A が最大の 712 アミノ酸 (72.5 kDa) をコードする。エクソン欠失バリアントの POTE-2B は 394 アミノ酸 (40.2 kDa)、POTE-2C および POTE-2D は 376 アミノ酸 (38.6 kDa) で、POTE-2 遺伝子は 45.2 kb の広域にまたがる。POTE-8 は 14 エクソン構成 (POTE の 11 エクソン + イントロン 9 内追加 3 エクソン) を持ち、n=24 クローン解析から POTE-8A (498 アミノ酸, 56.2 kDa) と POTE-8B (エクソン 5 欠失、452 アミノ酸, 51.3 kDa) の 2 種が同定された。POTE-8 遺伝子は 71 kb 領域を占有し POTE (31.4 kb) の約 2 倍の大きさを持つ最大のパラログで、差異のほとんどはイントロン 6, 9, 9-3 の伸長による。全 11 バリアントの in vitro 翻訳産物サイズは予測分子量と良好に一致した (Fig. 4, Table 3)。最小の POTE-22 は 32.3 kDa 予測に対し 34 kDa 実測、最大の POTE-2A は 72.5 kDa 予測に対し 75 kDa 実測であった。
POTE-21 タンパク質の形質膜内面局在と前立腺特異的非コード RNA PSNR の同定:HA タグ付き POTE-21 をトランスフェクションした PC-3 細胞 (n=3 replicates) では、抗 HA 抗体免疫蛍光染色で強いシグナルが細胞周辺部の形質膜に集中し (Fig. 5A)、細胞質全体に均一分布する EGFP 単独とは対照的に POTE-EGFP 融合タンパク質は形質膜沿いに局在した (Fig. 5B)。POTE はシグナル配列を持たないため形質膜内面 (細胞質側) に局在すると推定される。POTE-14/22 遺伝子座の逆鎖から転写される非コード RNA の探索では、EST データベースで n=15 の EST が確認された (うち 12 件が正常前立腺、2 件が前立腺がん、1 件が正常腎臓)。多組織 RNA ドットブロットでは前立腺のみに強シグナルが観察され (Fig. 3A)、ノーザンブロット解析でも前立腺レーンにのみ 1.25 kb の転写産物が検出された (Fig. 3B)。RACE-PCR で得た 1.25 kb cDNA (GenBank: AY458019) は多数の停止コドンを含む非コード配列であったため、PSNR (prostate-specific noncoding RNA) と命名した。n=20 の独立 cDNA クローン解析から PSNR の転写は染色体 14 (100% 同一性) および染色体 22 (99.9% 同一性) の POTE 遺伝子座逆鎖からのみ確認され、その他の染色体 (2, 15, 8, 21) では転写が確認されなかった (Table 2)。
考察/結論
これまでの研究では POTE 遺伝子の単一産物 (66 kDa) の特性のみが記述されていたが、本研究によりコードタンパク質が 32-80 kDa に及ぶ広範な多様性を持つことが明らかになった点は既報と大きく異なる実態であり、POTE ファミリーの生物学的実態を根本的に更新するものである。各スプライスバリアントが固有のドメイン構成を持つことが注目される。POTE-14C ではスペクトリン様構造が欠失し、POTE-22 ではアンキリン反復が部分欠失、POTE-14B には潜在的な膜貫通領域が存在するなど、同一遺伝子ファミリーから機能的に多様なタンパク質群が生じることが示された。アンキリン反復は多様なタンパク質で protein-protein 相互作用を媒介する機能的モジュールであり (Michel et al., 2001)、スペクトリンは細胞骨格として形質膜内側にアンキリンを含むタンパク質複合体を介して錨留されることが知られる (Djinovic-Carugo et al., 2002)。
POTE-21 タンパク質が形質膜内面に局在するという新規の知見は、スペクトリンの細胞内配置と整合し、POTE がシグナル伝達や細胞骨格制御に関与する新規の足場タンパク質 (scaffold protein) としての役割を示す生化学的証拠として本研究で初めて提示された。膜局在には典型的なシグナル配列が不要であることから、アンキリン-スペクトリン複合体に類似した機構で膜内面に結合していると考えられる。この新規の機能仮説の検証と、POTE-14B の潜在的膜貫通領域の実験的確認は今後の重要課題となる。
POTE ファミリーの臨床的意義は前立腺・精巣・卵巣・胎盤への限定的発現プロファイルにある。正常重要組織への発現が検出されない CTA 的発現パターンは、腫瘍免疫療法の標的としての組織特異性要件を満たしており、POTE 関連ペプチドワクチンや T 細胞療法への橋渡しとなる分子基盤を提供する。霊長類特異的であるためマウスモデルによる前臨床評価には制約があるが、前立腺がんでは特定のパラログのみが選択的に発現する可能性 (未発表データ) は、治療標的として最適なアイソフォームを絞り込む戦略的根拠を提供する。
PSNR は DD3/PCA3 および PCGEM1 に続く第 3 の前立腺特異的非コード RNA として同定され、POTE 遺伝子座の逆鎖から転写される位置関係から POTE の転写調節に関与する可能性が示唆される。残された課題としては、(1) POTE-21 以外の各パラログタンパク質の細胞内局在の比較解析、(2) 前立腺がんにおける各パラログの発現変動の包括的解析 (特に POTE-14B の膜貫通領域とがん特異的機能の関連)、(3) PSNR が POTE 転写に与える制御機構の実験的検証、(4) アンキリン反復・システインリッチ反復が媒介する具体的な protein-protein 相互作用の同定、(5) 染色体 13 および 18 のパラログの精巣・卵巣における発現解析が挙げられる。POTE ファミリーの中から治療応用に最適なアイソフォームを同定することが、前立腺がん腫瘍免疫療法への橋渡しに向けた優先的な今後の検討課題である。
方法
正常ヒト前立腺由来 cDNA をテンプレートとして、各 POTE パラログに特異的なプライマーセットを用いた PCR で完全長 cDNA を増幅した。染色体 21 の POTE には primer T455/T456 を使用し n=8 クローンをシーケンス解析した。染色体 2, 14, 22 のパラログには primer T455/T468 を用い n=40 クローンを解析した。染色体 8 のパラログ同定には primer T474/T475 を使用し n=24 クローンを解析した。PCR 産物は pCR2.1-TOPO ベクター (Invitrogen) にクローニング後、Perkin-Elmer ローダミンターミネーター法でシーケンスした。タンパク質サイズの実験的確認には、各 cDNA の in vitro 転写 (T7 RNA ポリメラーゼ) と TNT (coupled transcription and translation) 系 (ウサギ網状赤血球ライセート、Promega) による翻訳を 35S-Met 標識存在下で実施し、4-20% SDS-PAGE で分離後オートラジオグラフィで可視化した。細胞内局在の解析は、HA (hemagglutinin) タグ付き POTE-21 発現プラスミド (Gateway/CMV プロモーター) または POTE-EGFP (enhanced green fluorescent protein) 融合コンストラクトを前立腺がん細胞株 PC-3 および 293T 細胞 (ATCC) に一過性トランスフェクション (48 時間後固定) し、抗 HA モノクローナル抗体 (5 μg/ml, Roche) および TRITC (tetramethylrhodamine isothiocyanate) 標識二次抗体で免疫蛍光染色後、レーザー共焦点顕微鏡で評価した。PSNR (prostate-specific noncoding RNA) の発現解析には 50 種正常ヒト組織 RNA ドットブロット (RNA Masterblot, Clontech) とノーザンブロット (Multiple Tissue Northern blot, Clontech) を 32P 標識プローブで実施した。ドットブロットシグナルの定量は ImageJ を用いてデンシトメトリーで実施し、組織間の発現量比較には一元配置 ANOVA (analysis of variance) を適用した (有意水準 p < 0.05)。5’-/3’-RACE-PCR (rapid amplification of cDNA ends、Marathon-Ready cDNA, Clontech) で完全長 cDNA を単離した。