• 著者: Yoomi Lee, Tomoko Ise, Duc Ha, Ashley Saint Fleur, Yoonsoo Hahn, Xiu-Fen Liu, Satoshi Nagata, Byungkook Lee, Tapan K. Bera, Ira Pastan
  • Corresponding author: Ira Pastan (Laboratory of Molecular Biology, National Cancer Institute, 37 Convent Drive, Room 5106, Bethesda, MD 20892-4264)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2006
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17101985

背景

POTE遺伝子ファミリーは霊長類特有のがん関連遺伝子群であり、乳腺癌をはじめとする多くの癌で高発現を示す一方、正常組織では前立腺・精巣・卵巣・胎盤などごく限られた臓器にのみ発現するという「がん精巣抗原 (cancer-testis antigen、CTA)」の特徴を持つ。先行研究では、ヒトゲノム中にPOTEパラログが13種類存在し8つの染色体に分散していること、祖先遺伝子ANKRD26からのゲノム重複と再構築によって進化したことが報告されており (Bera et al. Proc Natl Acad Sci USA 2002)、また乳腺癌においてPOTE-2αおよびPOTE-2γが選択的に発現することが示されている Bera et al. CancerRes 2006。ヒト前立腺・精巣では多数のPOTEパラログがスプライスバリアントとともに発現することも報告されており Bera et al. Gene 2004、さらにPOTE遺伝子は霊長類にのみ存在し齧歯類には存在しないことから、霊長類進化で比較的新しく獲得された遺伝子ファミリーであることが示されていた。

しかし、POTE遺伝子が霊長類ゲノムで多様化した具体的な分子機構や転写産物の全長構造については多くの点が手薄であった。特に、長鎖散在反復配列 (LINE、long interspersed elements) を含むレトロエレメント (ゲノムの15-20%を占める) がPOTE遺伝子の3’末端構造に与える影響は未解明であり、また既存cDNA配列が実際の転写産物全長を反映していない可能性が示唆されながら、これを実験的に検証し新たな融合タンパク質の存在を証明した研究は不足していた。

目的

本研究は、POTE遺伝子ファミリーの拡張ゲノム構造を精査し、β-アクチンcDNAのレトロポジションによってキメラ遺伝子が形成されたことを実験的に証明することを目的とする。加えて、このレトロポジションイベントが霊長類進化のどの段階で生じたかを霊長類ゲノムデータベース解析により推定し、産生されるPOTE-アクチン融合タンパク質を乳腺癌細胞株において同定・細胞内局在解析することを目標とした。

結果

POTE遺伝子の拡張ゲノム構造とアクチン挿入の発見: Human Genome Browser解析により、既報cDNAよりも長いPOTE転写産物が存在することが示唆され、全パラログの3’UTR配列にLINEエレメントが融合していることが明らかになった。特にgroup 3メンバー (POTE-2α、POTE-2β、POTE-2γ) においてexon 11内部にβ-アクチン由来レトロ遺伝子が挿入されていることを発見した (Fig 1)。挿入アクチン配列は完全プロセシングされたβ-アクチン転写産物に由来し、レトロポジションの証拠であるターゲットサイト重複配列 (target site duplication、TSD) に隣接していた (Fig 1B)。POTE-actin junctionの塩基配列解析から、exon 11からactinへ連続するORF (open reading frame) がPOTE-2α・POTE-2β・POTE-2γの3メンバーに保持されていることを確認した。一方、他のgroup 3メンバー (POTE-2δ、POTE-14α、POTE-14β、POTE-22) では上流exonの小欠失によるフレームシフトと早期終止コドンが生じており、intact ORFを持つ3メンバーとは構造が異なった (Fig 1A)。

POTE遺伝子の霊長類進化タイムライン: probe 1 (POTE exon11-LINE fusion) を用いた霊長類ゲノムデータベース検索では、チンパンジー・オランウータン・テナガザル (類人猿)、マカク・ヒヒ (旧世界ザル、OWM)、加えてマーモセット (新世界ザル、NWM) でもPOTE遺伝子フラグメントが検出された (Fig 2)。この結果はPOTE祖先遺伝子がNWM-OWM分岐以前に霊長類ゲノムに存在していたことを示す。マーモセット配列はgroup 1のPOTE-8と最も類似しており、これが全POTE遺伝子の最古の祖先に近いと考えられた。続いてprobe 2 (POTE-actin fusion配列) による検索では、group 3メンバーを含む全ての類人猿・OWM種で融合配列が確認されたが、NWMのマーモセットでは検出されなかった (Fig 2)。これによりアクチンのレトロポジションはOWM-NWM分岐後・OWM-類人猿分岐前の共通祖先において生じたと結論された。また、POTE-2δのexon 5における4 bp欠失がチンパンジーゲノムに存在しないことから、この変異はヒト特異的に生じた可能性が示された。

乳腺癌細胞株でのPOTE-アクチン融合転写産物の発現確認: RT-PCR解析では、MCF-7・HTB-19・HTB-20・HTB-30の4株すべてでPOTE-アクチン融合転写産物に特異的な650 bpの産物が検出されたが、正常乳腺細胞株MCF-10Aでは検出されなかった (Fig 3)。各パラログの発現割合はTable 1に示す通りで、MCF-7はPOTE-2γが100% (n=15クローン)、HTB-19はPOTE-2γが100% (n=8クローン)、HTB-20はPOTE-2αが75% (n=8クローン)、HTB-30はPOTE-2γが95%・POTE-22が5% (n=19クローン) であった (Table 1)。MCF-10AにErbB2またはc-Ha-Rasを単独・あるいは組み合わせで導入して発癌性形質転換を誘導すると、POTE-2αの発現が誘導された (各n=11、n=8、n=11クローン)。これにより、POTE発現が腫瘍性形質転換依存的ながん特異的性質を持つことが示された (Table 1)。

完全長POTE-アクチンcDNAと融合タンパク質の同定: MCF-10A-Ras/ErbB2細胞を用いたNorthern blot解析では、POTE-アクチン融合転写産物の約7.5 kbの特異バンドが検出された (Fig 4)。前立腺・精巣では6.5-9.0 kbの拡散シグナルが観察され、MCF-10Aと脳では検出されなかった (Fig 4)。RACE-PCR法による完全長cDNAクローニングの結果、1,075 aaをコードし予測分子量121.4 kDaのPOTE-2α-actin融合タンパク質であることが判明した。IP/Western blot解析ではHP8 mAbでIPしPG5 mAbで検出した結果、4株の乳腺癌細胞株すべてに120 kDaのPOTE-アクチン融合タンパク質が確認され (Fig 5)、Raji・KB・293T (POTE非発現) では同部位のバンドが認められなかった。HTB-19とHTB-30では120 kDaの融合タンパク質に加えて42 kDaのアクチン非融合POTEタンパク質も検出された。293T+POTE-2α-actinプラスミドトランスフェクション細胞がポジティブコントロールとして機能し、融合タンパク質の同定を確認した (Fig 5)。

POTE-アクチン融合タンパク質の細胞内局在: MCF-7細胞へのPOTE-actin発現プラスミドトランスフェクション (48 h) 後の共焦点顕微鏡解析では、POTE-アクチン融合タンパク質が細胞膜内側に局在し、細胞膜直下のF-アクチンフィラメントとの共局在 (colocalization) が確認された (Fig 6)。POTE自体が細胞膜内側に局在するという既知の知見と一致しており、アクチンモジュールの融合によって細胞骨格との相互作用に新たな様式が加わったことが示唆された。非トランスフェクション細胞では内在性POTEは免疫蛍光法で検出されなかった。

Ka/Ks解析による進化的選択圧の評価: DIVERGEプログラムによるKa/Ks算出結果をTable 2に示す。β-アクチンとPOTE group 3アクチン部分のKa値は4.1 (POTE-2δ)・4.4 (POTE-2γ)・4.7 (POTE-14α) であり、group 3内非アクチン部分間のKa値 (約6-7%) と同程度であった (Table 2)。一方Ks値はβ-アクチンとPOTEアクチン部分の間で19.0 (POTE-14α)・16.5 (POTE-2γ)・19.2 (POTE-2δ) と著しく大きく、POTE遺伝子内アクチン部分間のKs値 (5.3-8.7) の2.2-3.6-fold高い値 (平均約3倍) を示した。これはβ-アクチン (GC含量59%) がPOTE遺伝子の低GC環境 (42-43%) に挿入後、沈黙置換サイトが加速されたためと解釈された。実際、POTE内アクチンORFのGC含量は57-58%であり、局所的なGC環境への適応が進行中であることが示唆された (Table 2)。

考察/結論

先行研究との違いとPOTE-actin融合遺伝子の独自性: これまでの研究では、レトロポゾン挿入による新機能遺伝子形成の機構として、jingwei遺伝子 (ショウジョウバエのイントロンへの挿入)、TRIMCyp遺伝子 (フクロウザルのUTRへの挿入) などが知られていた。本研究のPOTE-actin融合遺伝子はこれらと異なり、アクチンレトロポゾンがコーディングエクソン (exon 11) に直接挿入され両者の本来のORFを連続的に融合した構造を持つ点で既報の機構と相違する。また、Vinckenboschらが>100例のレトロ遺伝子を調査した際に観察した「宿主遺伝子内レトロ遺伝子の転写抑制傾向」とも対照的に、POTE-actinは乳腺癌で機能的転写産物と融合タンパク質を活発に産生している。これまでの研究ではコーディングエクソンへのレトロポゾン直接挿入による新遺伝子創出の実験的証明は存在しておらず、本研究はその点で独自性を持つ。

新規性: 本研究で初めて、POTE遺伝子ファミリーにおけるβ-アクチンcDNAのレトロポジションが機能的キメラタンパク質の形成をもたらすことを実験的に証明した。Ka値の解析から挿入後もアクチンモジュールに対する浄化淘汰 (purifying selection) が働き続けているという新規な知見が示され、このキメラ遺伝子が機能的に維持されてきた証拠となる。POTE自体がスペクトリン様ドメインを含む点と合わせると、アクチンモジュールの融合はPOTEタンパク質の細胞骨格との相互作用にnovelな経路をもたらしたと考えられる。さらに、腫瘍関連融合タンパク質の免疫認識という観点は、がん細胞の免疫逃避の文脈 (Malladi et al. Cell 2016) とも関連し、POTE-actinの腫瘍免疫学的意義を考察する上で重要な背景となる。

臨床応用: POTE-アクチン融合タンパク質は乳腺癌細胞株で選択的に発現し正常乳腺細胞では検出されないため、臨床的意義としてがん診断マーカーや免疫療法標的としての可能性が期待される。がん精巣抗原に属するPOTEは正常組織での発現が生殖細胞系列に限られており、免疫学的に「自己非提示」であるため、腫瘍特異的に発現するPOTE-アクチン融合タンパク質は腫瘍抗原として免疫原性を持つ可能性がある。抗POTE mAb (HP8、PG5) が免疫沈降とWestern blotで機能することが示されており、抗体ベースの診断ツールやantibody-drug conjugate (ADC、抗体薬物複合体) 開発への bench-to-bedside 展開も考えられる。臨床応用に向けてはタンパク質の細胞表面露出エピトープの同定と腫瘍内発現頻度の評価が鍵となる。

残された課題: POTE-アクチン融合タンパク質が乳腺癌の増殖・転移進行にどう機能するかは未解明であり、今後の検討が必要である。本研究ではβ-アクチン抗体による融合タンパク質の認識が成功しなかったことがlimitationであり、融合タンパク質のアクチン部分のエピトープ構造については更なる検討が求められる。また、本研究は乳腺癌に焦点を当てているが、他のがん種 (前立腺癌・卵巣癌など) におけるPOTE-actinの発現・役割についても今後の研究課題として残されている。ErbB2/Ras以外の発癌ドライバーによるPOTE発現誘導機構の解明や、一部group 3メンバーにおけるフレームシフト変異の進化的意義についても future research が必要である。加えて、POTE遺伝子グループの3分類がOWMと類人猿の分岐以前に完成したとする本研究の進化モデルを検証するためには、より多くの霊長類ゲノム配列の収集が望まれる。

方法

細胞株と培養: 乳腺癌細胞株はMCF-7、HTB-19、HTB-20、HTB-30をATCC (Manassas, VA) の推奨条件で維持した。正常乳腺由来MCF-10Aおよび発癌性形質転換細胞株 (MCF-10A-Ras、MCF-10A-ErbB2、MCF-10A-Ras/ErbB2) はNCI・David Salomonより入手した。POTE非発現のネガティブコントロールとして293T、Raji、KB細胞を使用した。

RT-PCRとパラログ発現解析: TRIzol試薬でRNAを抽出し、ランダムヘキサマープライマーを用いてfirst-strand cDNAを合成した (Amersham, Piscataway, NJ)。各パラログの同定にはT444/T445プライマーでPCR増幅後にTAベクターへクローニングし、配列差1-6%を基にシーケンシングで識別した。POTE-アクチン融合転写産物の検出にはPOTE exon 10とアクチン挿入領域を跨ぐプライマーペア (PA01/PA07) を使用し、650 bpの特異産物を確認した。

Northern blot解析: 各細胞株から約2.5 μgのmRNAをアガロースゲル電気泳動後ナイロンメンブレンへ転写した。1.2 kb 32P標識プローブでハイブリダイゼーション (2 h バッファー + 12 h プローブ)、0.1×SSC/0.1% SDS・60°Cで2回洗浄後にオートラジオグラフィーを実施した。

RACE-PCRと完全長cDNAクローニング: SMART RACEキット (Clontech, Palo Alto, CA) でMCF-10A-Ras/ErbB2細胞からRACE-readycDNAを調製し5’および3’RACE反応を実施した。得られた配列を基に完全長ORFをPCR増幅し、TOPO TAクローニングキット (Invitrogen) でクローニング・シーケンシングした。

免疫沈降 (IP) / Western blot: 細胞をRIPAバッファーで溶解後、HP8抗POTE mAb (10 μg) とprotein G-Sepharoseビーズで免疫沈降した。4-20%グラジエントSDS-PAGEで分離しPVDFメンブレンへ転写後、PG5抗POTE mAb (0.5 μg/ml) およびアルカリホスファターゼ標識二次抗体で検出した。

共焦点顕微鏡による細胞内局在解析: MCF-7細胞にpcDNA3-POTE-actinをトランスフェクション (48 h)、4%パラホルムアルデヒド固定・0.5% Triton X-100透過処理後、PG5一次抗体とAlexa Fluor結合二次抗体で染色した。F-アクチンはTRITC-phalloidin (Sigma)、核をDAPI (4’,6-diamidino-2-phenylindole) で染色し、Zeiss LSM 510共焦点顕微鏡で解析した。

ゲノムデータベース解析と進化解析: POTE exon11-LINE junction配列 (probe 1) およびPOTE-2γ由来POTE-actin融合配列 (probe 2) をクエリーとしてNCBI BLASTでゲノムデータベース (NCBI genome assemblies、GenBank nr/htgs/chromosome/wgs、whole-genome shotgun traces) を検索した。配列同一性>80%をカットオフとし、shotgunデータはCAP3プログラムでアセンブルした。Ks (synonymous、同義置換) およびKa (nonsynonymous、非同義置換) の置換率はDIVERGEプログラム (GCG Wisconsin Package Version 10.2、Accelrys) で算出した。