• 著者: Ann-Christin Borchers, Lars Langemeyer, Christian Ungermann
  • Corresponding author: Lars Langemeyer; Christian Ungermann (Osnabrück University, Osnabrück, Germany)
  • 雑誌: The Journal of cell biology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-08-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 34383013

背景

真核細胞のエンドメンブレン系は、オルガネラの成熟 (maturation) によって動的に制御される。Rab GTPaseは各オルガネラに特異的なマーカーとして機能し、輸送・トラフィッキング制御タンパク質を動員する。Rab GTPaseはGDPとGTPを結合する不活性型・活性型の2状態を交互にとり、GDP解離阻害因子 (GDI: GDP dissociation inhibitor) との会合・解離とグアニンヌクレオチド交換因子 (GEF: guanine nucleotide exchange factor) による活性化サイクルが厳密に制御されている。オルガネラ成熟時にはあるRabが次のRabに置き換わる「Rabカスケード」が生じ、このカスケードには特異的なGEFが必要である。エンドリソソーム系では、初期エンドソーム (EE) のRab5から後期エンドソーム (LE) のRab7へのカスケードがMon1-Ccz1 GEF複合体によって制御されることが知られている (Nordmann et al., 2010)。

Rab GTPaseは、ゲラニルゲラニル基による膜への可逆的会合、GDP結合型 (不活性) とGTP結合型 (活性) の間のスイッチング、そしてGTP結合によるエフェクタータンパク質動員といった基本的な作動原理を持つ (Barr, 2013; Goody et al., 2017; Hutagalung et al. PhysiolRev 2011)。GTPの加水分解速度は内在的に低く、GTPase活性化タンパク質 (GAP: GTPase-activating protein) が必要とされる。GDIはRab-GDPを細胞質に可溶化し、次の活性化サイクルまで保持する。Rab GTPaseのC末端には超可変ドメイン (HVD: hypervariable domain) が存在し、GEF認識とRabの正確な局在化をサポートする (Thomas et al., 2018)。Rab GTPaseはテザータンパク質を動員することで、小胞とアクセプター膜の融合に不可欠な役割を果たす。テザーはSec1/Munc18タンパク質と共に、SNAREタンパク質が四量体コイルドコイル複合体を形成するのを促進し、膜融合を駆動する (Wickner and Rizo, 2017; Ungermann and Kümmel, 2019)。

これまでの研究ではRab GTPaseの一般的な機能や分類に焦点が当てられていたが (例: Hutagalung et al. PhysiolRev 2011)、GEFの活性化機序の詳細、特に膜環境におけるGEF活性化の具体的なメカニズムには未解明な点が多く残されていた。特に、Mon1-Ccz1 GEF複合体の活性化がRab5-GTPとPIPs (ホスホイノシチド) の「同時検出 (coincidence detection)」に依存すること、およびYck3によるリン酸化がGEF活性を阻害することなど、その多様な制御機構の包括的な理解が不足していた。また、オートファゴソームにおけるRab5非依存的なAtg8依存的活性化経路の存在も、エンドソーム経路との比較において詳細な検討が不足している状況であった。Rab GTPaseの活性化原理に関する包括的な理解は、オルガネラ生合成と成熟の基盤を理解する上で重要な課題である。

目的

本レビューは、エンドリソソーム成熟におけるRab5からRab7へのカスケードを中心に、Mon1-Ccz1 GEF複合体の活性化機序を詳細に解説することを目的とする。具体的には、Mon1-Ccz1の活性化が膜結合型Rab5-GTPとPI3Pによる「同時検出」に依存すること、およびYck3によるリン酸化がGEF活性を阻害するメカニズムを明らかにすることを目的とする。さらに、オートファゴソームにおけるAtg8依存的なRab5非依存的Rab7活性化経路の存在を強調し、エンドソーム経路との差異を考察する。これらのGEF制御の共通原理を他のRabカスケードと比較検討し、オルガネラ生合成と成熟の基盤理解におけるin vitro解析の重要性を論じることを目的とする。

結果

Rab GTPaseの基本的作動原理とエンドリソソーム系の組織化: Rab GTPaseはゲラニルゲラニル基によって膜に可逆的に会合し、GDP結合型 (不活性) とGTP結合型 (活性) の2状態をとる。GTP結合によりRab GTPaseドメインに2つのスイッチループが安定化され、エフェクタータンパク質が動員される。GTPの加水分解速度は内在的に低く、GAP (GTPase活性化タンパク質) が必要である。エンドリソソーム系では初期エンドソーム (EE) の小型膜小嚢がRab5を獲得・拡大し、やがてRab7へのRab移行によって後期エンドソーム (LE) ・多胞体 (MVB) へと成熟する (Fig 1A)。成熟したLEはリソソームと融合し、内腔のILV (intraluminal vesicles) とその内容物が分解される。哺乳類ではRab4 (初期エンドソームでの選別・再利用)、Rab11・Rab14 (リサイクリングエンドソーム)、Rab9 (LEからtrans-Golgiへの逆行輸送)、Rab32/38 (リソソーム関連オルガネラの生合成) など複数の補助Rabが存在し、酵母より複雑な系を構成している。

Rab5の多面的機能とRab5→Rab7の「カットアウトスイッチ」機構: Rab5は初期エンドソームにおいて複数のエフェクター (脂質キナーゼVps34、Rabaptin-5/Rabex5複合体、Rabenosyn-5、CORVET (class C core vacuole/endosome tethering) 複合体およびEEA1テザー等) と相互作用し、同型EEの融合・PI3P (phosphatidylinositol-3-phosphate) 産生・ESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) 動員を統合的に制御する。Rab5-GTPがVps34 complex IIを動員・活性化することで局所PI3P pool形成が促進される (Franke et al., 2019)。Rab5からRab7への移行はタイムラプス顕微鏡でリアルタイムに可視化され、Rab5シグナルの急激な低下とRab7シグナルの急激な上昇が観察される (Poteryaev et al., 2010)。数理モデルに基づくと、このダイナミクスは「カットアウトスイッチ (cutout switch) 」機構によって説明される:Rab5活性化が閾値を超えた時点でRab7活性化を誘導し、活性化されたRab7が逆にRab5活性化を抑制することで急峻な移行が生じる (Del Conte-Zerial et al., 2008)。この原理は多くのRabカスケードに適用可能と考えられている。

Mon1-Ccz1 GEF複合体の構造・動員・活性化機序: Mon1-Ccz1はRab7 (酵母ではYpt7) の特異的GEFであり、その活性化機序の詳細がin vitroリポソーム再構成系によって解明された。Mon1とCcz1の2つの中央ロンギンドメインがYpt7/Rab7から結合ヌクレオチドを置換する構造的機序が明らかになっている (Kiontke et al., 2017)。重要な発見として、プレニル化膜結合Rab5-GTPが存在する場合にのみMon1-Ccz1は高効率なRab7 GEF活性を発揮し、PIPs (ホスホイノシチド) 単独では不十分であった (Langemeyer et al., 2020)。in vitro GEFアッセイでは、Rab5-GTP存在下でMon1-Ccz1のRab7 GEF活性が約 2.5-fold増加したことが示されている。一方、膜上のRab5-GTPとPIPsが「同時検出 (coincidence detection) 」されることでMon1-Ccz1の動員が促進され、活性化に相乗効果が生じる (Fig 1C)。哺乳類のMon1-Ccz1には酵母に存在しない第3サブユニット (RMC1/C18orf8、ショウジョウバエではBulli) が存在するが、このサブユニットはin vitroでのRab7に対するGEF活性に影響しないため、GEFの基本機構は種を超えて保存されている (Dehnen et al., 2020)。このサブユニットの欠損はエンドソーム・オートファゴソーム生合成を障害するため、in vivoでの機能的役割は別途存在する。Mon1-Ccz1はRab5陽性エンドソームに動員されてRab7を活性化し、最終的にMon1サブユニットがRabex-5 (Rab5 GEF) をエンドソーム膜から競合的に置換することで負のフィードバックループが完成する (Poteryaev etal., 2010)。

Mon1-Ccz1の阻害性リン酸化制御:Yck3による調節: 酵母では液胞カゼインキナーゼ1型Yck3によるMon1-Ccz1のリン酸化がGEF活性を阻害することが示された (Lawrence et al., 2014)。Yck3によるリン酸化はRab5様Ypt10との相互作用を阻害することでMon1-Ccz1のGEF活性を約 50%低下させる (Langemeyer et al., 2020)。このYck3自体の上流調節機構や、これ以外のMon1-Ccz1制御機構の有無は未解明である。このリン酸化制御は後述する分泌系のSec2のカゼインキナーゼ (Yck1/Yck2) によるリン酸化制御と相同的であり、キナーゼによるGEF調節がRabカスケードの共通制御原理であることを示唆する。

オートファゴソームでのRab5非依存的Rab7活性化:Atg8依存経路: オートファゴソームはリソソームの別の主要な融合パートナーであり、ここでのRab7活性化の機序はエンドソームと異なる。酵母ではAtg8 (哺乳類LC3相当) が飢餓時にMon1-Ccz1を直接動員してオートファゴソーム膜上でのYpt7活性化を促進し、これがHOPS (homotypic fusion and vacuole protein sorting) 依存的な液胞との融合に必要であることが示された (Gao et al., 2018a) (Fig 2B)。この経路はRab5非依存的であり、エンドソームでの経路との重要な差異を示す。Atg8/LC3によるMon1-Ccz1活性化の調節機序や、エンドソームとオートファゴソームへの局在化の協調制御については未解明である。Rab5様GTPaseがミトコンドリア外膜 (マイトファジー時) にも局在し、Mon1-Ccz1動員・Rab7A活性化→マイトファジーを促進する経路も存在し、Mon1-Ccz1の調節可能な動員先の多様性が実証されている (Yamano et al., 2018)。

Rab7の多様なエフェクター機能とレトロマーによるRab7 GAP動員: 活性化Rab7は後期エンドソーム・リソソーム上で多様な機能を統合的に制御する。コレステロールセンサーORPL1およびダイニン相互作用性RILP (Rab-interacting lysosomal protein) (Jordens et al. CurrBiol 2001) がRab7エフェクターとして機能し、HOPS複合体 (LEs-リソソーム融合を触媒) とも間接的に連携する。Rab7は線維状微小管ネットワーク上のリソソーム位置決め (核周囲:主要分解コンパートメント / 細胞辺縁部:mTORC1 (mammalian target of rapamycin complex 1) 活性調節・コレステロール恒常性調節) にも関与する。NPC1コレステロールトランスポーターとの相互作用を介してリソソームからのコレステロール排出もRab7が制御する可能性がある (van den Boomen et al., 2020)。レトロマー (Vps35・Vps26・Vps29のトリメリックコア+SNX二量体/単量体) はRab7エフェクターとして機能する一方でRab7 GAP (TBC1D5) も動員し、エンドソームチューブル形成後のRab7失活を促進する (Jimenez-Orgaz et al., 2018)。この「Rab7エフェクターとしての機能 + Rab7 GAP動員」という二重機能はエンドソームチューブル形成と切断の後にRab7ドメインを消去するための効率的な機構を提供する。ER-エンドソーム間MCS (membrane contact sites) でのERからのコレステロール輸送・エンドソーム分裂もRab7活性を要する。

GEF制御の普遍的原理:分泌系Rabカスケード・Arf GEF・TRAPP複合体との比較: 分泌系ではTRAPPII (trans-Golgi GEF) →Ypt32 (Rab GTPase) →Sec2 GEF (動員) →Sec4活性化→Exocyst動員→形質膜融合というカスケードが機能する (Ortiz et al., 2002)。哺乳類ではRab11→Rabin8→Rab8 (繊毛形成時) という類似カスケードが存在し、Rabin8がRab11エフェクターとしての機能とRab8 GEFとしての機能を兼ねる。Sec2のSec4エフェクター (Sec15) との相互作用はMon1のHOPSテザーとの相互作用と類似しており、「GEFが上流Rabのエフェクターであると同時に下流Rabを活性化する」という二重機能は複数系に共通する原理である。Arf GEF (Sec7等) のGolgi局在化にも複数の上流GTPase (Arf1・Ypt1・Arl1) と膜脂質 (PI4P・陰イオン性リン脂質) が同時検出的に関与し、自己阻害解除の機構も確認されている (McDonold and Fromme, 2014)。TRAPP複合体 (TRAPPII・TRAPPIII) の基質特異性 (Rab11/Ypt32 vs Rab1/Ypt1) は可変長C末端HVD (hypervariable domain) が膜から活性サイトへのアクセスを規定することで決定されており、これはin solutionアッセイでは再現できない膜環境特異的な特異性発現機構である (Thomas et al., 2019)。DENND1 (Rab35 GEF) はArf5によるGEF活性促進とAkt依存的リン酸化による自己阻害解除の両方を受けており (Kulasekaran et al., 2021)、キナーゼによるGEF制御は分泌系にも共通する。以上から、GEF制御の共通原理として (1) 複数シグナルの同時検出 (PIPs+上流Rab/Arf)、 (2) リン酸化による活性制御 (促進的または抑制的)、 (3) 自己阻害解除 (エフェクター結合や活性化状態上流Rabによる誘導) の3つが普遍的に機能することが示された (Fig 3A)。

考察/結論

Mon1-Ccz1 GEF複合体の制御機序はRab GTPaseカスケードの普遍的な作動原理を示す。同時検出 (coincidence detection) はエンドリソソーム成熟の精密な空間的・時間的制御を可能にする。オートファゴソームでのRab5非依存Atg8/LC3依存活性化はオルガネラ特異的な適応機構の存在を示し、同一のGEFが異なるオルガネラで文脈依存的に機能する柔軟性を示す。

先行研究との違い: これまでのRab GTPaseに関するレビュー (例: Hutagalung et al. PhysiolRev 2011) はRab GTPaseの一般的な機能や分類に焦点を当てていた。本レビューは、Mon1-Ccz1 GEF複合体に特化し、その活性化の分子メカニズム、特に膜環境におけるRab5-GTPとPIPsの同時検出の重要性を強調している点で、これまでのレビューと対照的である。

新規性: 本レビューは、Mon1-Ccz1 GEF複合体の活性化が、Rab5-GTPとPIPsの同時検出に依存すること、およびYck3によるリン酸化によって阻害されることをin vitro再構成系を用いた研究成果に基づいて詳細に解説した点で新規性がある。これまで報告されていないオートファゴソームにおけるRab5非依存的なAtg8/LC3依存性活性化経路の存在も強調された。

臨床応用: GEFの局在制御、リン酸化調節、自己阻害解除の各機構は、リソソーム蓄積症や神経変性疾患などの病態解明に重要な枠組みを提供し、将来的な治療標的として有望である。特に、病原体がGEFの機能を操作して細胞内ニッチを確立する例が示されており、GEF制御機構の理解は感染症治療にも繋がる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、Yck3の上流調節機構や、Mon1-Ccz1のリン酸化以外の制御機構の解明が残されている。また、エンドソームとオートファゴソームへのMon1-Ccz1の局在化の協調制御、およびAtg8/LC3によるGEF活性の調節機序についても未解明である。in vitroリポソーム再構成系は膜環境特異的な制御原理の解明に決定的な役割を果たしており、今後のEV (extracellular vesicles) 生物学・エンドリソソーム系研究の方法論的基盤として重要性が増すと考えられるが、より複雑な細胞内環境を模倣したシステムの開発が今後の課題である。

方法

本レビューは、エンドリソソーム膜輸送におけるRab GTPaseの活性化原理に関する既存の文献を包括的に評価した。PubMed、Embase、Web of Scienceを含む主要な学術データベースを用いて、2000年から2021年までの期間に発表された関連論文を検索した。検索キーワードには「Rab GTPase」、「Mon1-Ccz1」、「GEF activation」、「endolysosomal trafficking」、「Rab cascade」、「phosphoinositide」、「autophagy」などを用いた。論文の選定は、GEFの分子メカニズム、膜環境における活性化、およびRabカスケードの制御原理に焦点を当てた研究を対象とし、in vitro再構成系を用いた研究に特に注目した。

GEF活性の評価方法としては、主に以下の3つのアプローチが比較検討された。(1) 溶液中でのGEFアッセイ: 蛍光標識または放射性標識ヌクレオチドを結合させた可溶性Rabと可溶性GEFを試験管内でインキュベートし、非標識ヌクレオチドの添加によるヌクレオチド交換活性を測定する。この方法はGEFの基質特異性を同定できるが、膜環境や調節因子の影響を再現できない。(2) DOGS-NTA (1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-[(N-(5-amino-1-carboxypentyl)iminodiacetic acid)succinyl]) リポソームを用いた人工的なRab固定化: C末端にヘキサヒスチジンタグを付加したRabをDOGS-NTA含有リポソームに固定化し、GEF活性を測定する。この方法はGEF活性の向上を示すが、人工的な膜組成やRabの恒久的な膜結合という欠点がある。(3) プレニル化Rab:GDI複合体を用いた完全再構成系: 細胞質Rabプールを模倣したプレニル化RabとGDIの複合体をGEF基質として用い、天然の膜組成を模倣したリポソームの存在下でGEF活性を測定する。この方法は、膜脂質やタンパク質がGEF活性化に果たす役割をより生理的に再現できるため、GEF活性化の理解を深める上で重要であると評価された。

本レビューでは、これらのin vitro再構成系を用いた研究成果に基づき、Mon1-Ccz1 GEF複合体の活性化がRab5-GTPとPIPsの同時検出に依存すること、およびYck3によるリン酸化によって阻害されるメカニズムを詳細に解析した研究に焦点を当てた。また、オートファゴソームにおけるAtg8依存的なRab5非依存的活性化経路に関する報告も収集し、エンドソーム経路との比較を行った。特定の統計解析手法やエビデンスレベルのグレーディングは適用していない。