• 著者: Rugo H.S., Bardia A., Marme F., Cortes J., Schmid P., Loirat D., Tredan O., Ciruelos E., Dalenc F., Dieras V., Duhoux F.P., Jhaveri K., Loi S., Prager G.W., Tolaney S.M., Zielinski C., Kim S.B., Lu Y.S., Cardoso F., Krop I., Freedman O., Viale G., Xu J., Baranda J.C., Metzger Filho O., Campone M., Gligorov J., Awada A., Pistilli B., Pivot X., Modi S., Carey L.A.
  • Corresponding author: Rugo H.S. (University of California, San Francisco)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-07-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36027558

背景

ホルモン受容体陽性かつヒト上皮成長因子受容体2陰性 (HR+/HER2-) の転移性乳癌は、乳癌全体のなかで最も頻度の高いサブタイプである。初期治療においては内分泌療法とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬 (CDK4/6i) の併用療法が標準治療として確立されており、全生存期間 (OS) を5年以上に延長することが報告されている。しかし、治療の継続に伴いほぼすべての患者で内分泌療法抵抗性が不可避的に生じる。内分泌療法抵抗性を獲得した後の治療選択肢は極めて限定的であり、単剤化学療法を逐次的に投与することが一般的であるが、治療ラインを重ねるごとに奏効率や疾患制御率は低下し、毒性のみが蓄積していくという悪循環が大きな臨床的課題であった。

Sacituzumab govitecan (SG) は、多くの固形腫瘍や乳癌において90%以上の高頻度で過剰発現し、腫瘍の増殖や予後不良と密接に関連する標的分子 TROP-2 (trophoblast cell-surface antigen 2) を標的とするファーストインクラスの抗体薬物複合体 (ADC) である。SGは、ヒト化抗TROP-2モノクローナル抗体にイリノテカンの活性代謝物であるSN-38を、加水分解可能なCL2A (hydrolyzable linker) リンカーを介して結合させた構造を持つ。細胞内に取り込まれたSGから放出されたSN-38は、膜透過性を有するため、周囲のTROP-2非発現腫瘍細胞に対しても抗腫瘍効果を及ぼすバイスタンダー効果を発揮する。

先行研究である第III相ASCENT (Antibody Drug Conjugate Trial in Vasoactive Intestinal Peptide Receptor 1 Positive Triple-Negative Breast Cancer) 試験において、SGは転移性トリプルネガティブ乳癌患者を対象に、標準的な化学療法と比較して無増悪生存期間 (PFS) およびOSを有意に改善することが実証され、すでに承認を獲得している。また、HR+/HER2-転移性乳癌患者を対象とした第I/II相IMMU-132-01試験のコホート解析においても、有望な抗腫瘍活性と管理可能な安全性が示されていた。しかし、CDK4/6iを含む複数の前治療歴を有する高度既治療のHR+/HER2-転移性乳癌患者を対象とした、大規模な無作為化比較試験による検証はこれまで実施されておらず、この治療困難な患者集団における最適な治療シークエンスの確立には大きな臨床的ギャップが存在していた。標準的な単剤化学療法に対するSGの優位性を検証する第III相試験のデータは依然として不足しており、この検証が治療開発における残された課題であった。

先行研究である Finn et al. (2020) や Slamon et al. (2020)、Sledge et al. (2020) などの既報では、初期治療における内分泌療法とCDK4/6i併用の有用性が示されているが、これらを経た後の治療抵抗性集団に対する最適な治療シークエンスは未解明であり、有効な治療選択肢が不足しているという深刻な臨床的課題が存在していた。

目的

本研究の目的は、内分泌療法に対する抵抗性を獲得し、CDK4/6iを含む複数の全身化学療法レジメンによる前治療歴を有するHR+/HER2-の局所進行切除不能または転移性乳癌患者を対象に、sacituzumab govitecan (SG) の有効性および安全性を、医師選択の単剤化学療法 (カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択) を対照群として比較検証することである。主要評価項目は、盲検下独立中央判定 (BICR) の評価による無増悪生存期間 (PFS) と設定した。副次評価項目には、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、臨床的有用性割合 (CBR)、奏効期間 (DOR)、患者報告アウトカム (PRO) による生活の質 (QoL)、および安全性の評価を含め、高度既治療患者におけるSGの臨床的有用性を多角的に評価することを目的とした。

結果

患者背景と治療状況: 2019年5月から2021年4月までに、北米および欧州の91施設から計543例の患者が登録され、SG群にn=272例、化学療法群にn=271例が無作為に割り付けられた。全患者の年齢中央値は56歳 (範囲 27-86歳) であり、95%の患者が登録時に内臓転移を有していた。また、99%の患者がCDK4/6iによる前治療歴を有しており、転移性疾患に対する前化学療法レジメン数の中央値は3 (範囲 0-8) であった (Table 1)。SG群の268例 (99%) および化学療法群の249例 (92%) が実際にプロトコル治療を受けた。

無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長: 主要評価項目であるBICR判定によるPFSにおいて、SG群は化学療法群と比較して病勢進行または死亡のリスクを34%有意に減少させた。SG群のPFS中央値は5.5ヶ月 (95% CI 4.2-7.0) であったのに対し、化学療法群では4.0ヶ月 (95% CI 3.1-4.4) であった (HR 0.66, 95% CI 0.53-0.83, p=0.0003) (Fig 2A, Table 2)。6ヶ月時点のPFS率はSG群で46% (95% CI 39-53)、化学療法群で30% (95% CI 24-37) であり、12ヶ月時点ではそれぞれ21% (95% CI 15-28) と7% (95% CI 3-14) であった。サブグループ解析においても、3ライン以上の前化学療法歴を有する患者群 (HR 0.70, 95% CI 0.52-0.95) や内臓転移を有する患者群 (HR 0.66, 95% CI 0.53-0.83) を含め、事前に定義された主要なサブグループのほぼすべてにおいて一貫したSGのベネフィットが確認された (Fig 3)。

全生存期間 (OS) の中間解析結果: 階層的検定戦略に基づき評価された初回中間解析時点 (イベント数329) において、OS中央値はSG群で13.9ヶ月 (95% CI 12.7-15.4) であったのに対し、化学療法群では12.3ヶ月 (95% CI 10.8-14.2) であった (HR 0.84, 95% CI 0.67-1.06, p=0.14) (Fig 2B)。SG群で生存期間の延長傾向が観察されたものの、この時点では統計学的な有意差には達しなかった。

客観的奏効率および臨床的有用性: BICR判定による客観的奏効率 (ORR) は、SG群で21% (n=57, うち完全奏効 1%、部分奏効 20%) であったのに対し、化学療法群では14% (n=38, うち完全奏効 0%、部分奏効 14%) であった (Table 2)。臨床的有用性割合 (CBR) はSG群で34% (n=92)、化学療法群で22% (n=59) と、SG群で有意に高かった。奏効期間 (DOR) 中央値はSG群で7.4ヶ月 (95% CI 6.5-8.6)、化学療法群で5.6ヶ月 (95% CI 3.8-7.9) であった。

安全性プロファイルと有害事象: 安全性解析対象集団における治療期間中央値は、SG群で4.1ヶ月、化学療法群で2.3ヶ月であった。SG群で最も頻度の高かった治療関連有害事象 (いずれのグレード) は、好中球減少症 (70%)、下痢 (57%)、悪心 (55%)、脱毛症 (46%) であった。グレード3以上の主な治療関連有害事象は、好中球減少症 (SG群 51% vs 化学療法群 38%)、白血球減少症 (9% vs 5%)、下痢 (9% vs 1%)、貧血 (6% vs 3%) であった (Table 3)。発熱性好中球減少症の発生率はSG群で5% (n=14)、化学療法群で4% (n=11) と同等であった。有害事象による治療中止に至った割合はSG群で6% (n=17)、化学療法群で4% (n=11) と低率であった。SG群において1例の治療関連死 (好中球減少性大腸炎に伴う敗血症性ショック) が報告された。

患者報告アウトカム (PRO) によるQoL評価: 欧州がん研究治療機構 (EORTC) のQoL質問票を用いた評価では、ベースラインからの全般的健康状態/QoLの悪化までの期間中央値が、SG群で4.0ヶ月 (95% CI 3.5-4.9)、化学療法群で2.9ヶ月 (95% CI 2.3-3.6) であり、SG群で有意に遅延した (HR 0.74, 95% CI 0.59-0.91, p=0.005)。また、疲労感の悪化までの期間中央値もSG群で2.1ヶ月 (95% CI 1.6-2.8) と、化学療法群の1.4ヶ月 (95% CI 1.1-1.8) に対し有意に延長した (HR 0.76, 95% CI 0.62-0.93, p=0.008)。

考察/結論

本研究は、内分泌療法抵抗性を獲得し、CDK4/6iを含む複数の前治療歴を有する高度既治療のHR+/HER2-転移性乳癌患者において、TROP-2を標的とするADCであるsacituzumab govitecan (SG) が、標準的な医師選択の単剤化学療法と比較して、主要評価項目であるPFSを有意に改善することを実証した初の無作為化第III相試験である。

先行研究との違い: これまでのHR+/HER2-転移性乳癌の後方ライン治療を対象とした第III相試験 (例えば、エリブリンの承認根拠となったEMBRACE (Eribulin Monotherapy Versus Treatment of Physician’s Choice in Patients With Metastatic Breast Cancer) 試験など) と比較して、本試験の登録患者は全員がCDK4/6iによる前治療を受けており、転移性疾患に対する化学療法歴の中央値が3ラインと、より高度に前治療された治療抵抗性の強い集団を対象としている点でこれまでと異なっている。また、HER2低発現乳癌を対象にトラスツズマブ デルクステカンの有効性を示したDESTINY-Breast04試験とは、対象患者のHER2発現ステータスや前治療ライン数の分布が異なっており、本試験はHER2発現レベルを問わない全HR+/HER2-患者においてADCの優位性を示した点で対照的な位置づけとなる。

新規性: 本研究は、CDK4/6iおよび複数の化学療法を経た治療選択肢の極めて乏しいHR+/HER2-転移性乳癌患者において、TROP-2指向性ADCが標準化学療法を凌駕する臨床的ベネフィットをもたらすことを新規に、かつ大規模臨床試験において初めて証明した。

臨床応用: 本試験の結果に基づき、SGは高度既治療のHR+/HER2-転移性乳癌患者に対する新たな標準治療として位置づけられ、主要なガイドライン (NCCNガイドライン等) においても推奨治療として追加された。この結果は、治療選択肢が枯渇した患者に対する臨床現場での意思決定に直接的な影響を与えるものである。

残された課題: 初回中間解析におけるOSは統計学的な有意差に達しておらず、生存ベネフィットの確定には今後の検討課題として、より長期の追跡調査による最終解析データの検証が必要である。また、TROP-2の発現レベルとSGの治療効果との相関関係の解明や、耐性獲得メカニズムの特定、さらに早期の治療ラインにおけるSGの有効性を検証することが今後の研究課題として挙げられる。本試験のlimitationとしては、オープンラベル試験であることによるバイアスの可能性、および化学療法群において無作為化後に治療を受けずに脱落した症例が8%存在したことが挙げられる。

方法

本試験は、国際多施設共同オープンラベル無作為化第III相臨床試験 (TROPiCS-02 (Study of Sacituzumab Govitecan-hziy Versus Treatment of Physician’s Choice in Patients With HR+/HER2- Metastatic Breast Cancer) 試験、試験登録番号: NCT03901339) として実施された。対象患者は、組織学的に確認された測定可能な病変を有するHR+/HER2-転移性乳癌患者であり、転移性疾患に対して2〜4レジメンの全身化学療法歴を有することを条件とした。さらに、前治療として少なくとも1種類のタキサン系薬剤、少なくとも1種類の抗ホルモン療法、および少なくとも1種類のCDK4/6iによる治療歴を有することが必須とされた。

適格基準を満たした患者は、SG群 (10 mg/kgを21日サイクルの1日目と8日目に静脈内投与) または医師選択化学療法群 (エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、またはビノレルビン) に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化の層別化因子には、転移性疾患に対する前化学療法レジメン数 (2レジメン vs 3-4レジメン)、内臓転移の有無 (あり vs なし)、および転移性疾患に対する6ヶ月以上の前内分泌療法歴の有無 (あり vs なし) が用いられた。

主要評価項目であるPFSは、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づくRECIST v1.1基準を用いてBICRにより評価された。画像評価は、投与開始から54週間までは6週間ごと、その後は12週間ごとに実施された。統計解析計画において、PFSのハザード比 (HR) を0.70と仮定し、両側有意水準5%、検出力92%で有意差を検出するために必要なイベント数は350と算出された。OSについてはHR 0.73を仮定し、検出力87%で438イベントが必要とされた。OSの正式な統計学的検定は、主要評価項目であるPFSで有意差が認められた場合にのみ、階層的検定戦略に従って実施される計画とした。生存曲線の推定にはKaplan-Meier法を用い、群間比較には層別log-rank検定を適用した。有害事象 (AE) の評価およびグレード分類には、NCI-CTCAE v5.0が用いられた。