• 著者: Alvero AB, Mor GG (editors); 各章執筆者多数
  • Corresponding author: Ayesha B. Alvero, Gil G. Mor (Wayne State University)
  • 雑誌: Methods in Molecular Biology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Protocol
  • DOI: 10.1007/978-1-0716-1162-3

背景

細胞死メカニズムは多様かつ非排他的な分子経路からなる。アポトーシスとパイロトーシスはともにカスパーゼ活性化とDNA切断をもたらすが、関与するカスパーゼと形態学的変化が異なる。例えば、アポトーシスはカスパーゼ-3/7/8/9の活性化を伴うのに対し、パイロトーシスはカスパーゼ-1/4/5/11の活性化を特徴とする。アポトーシスとネクロトーシスはいずれも膜死受容体のリガンド結合で開始されるが、前者はカスパーゼ-8を介し、後者は受容体相互作用セリン/スレオニンキナーゼ1 (RIPK1: receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 1)、受容体相互作用セリン/スレオニンキナーゼ3 (RIPK3: receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 3)、および混合系統キナーゼドメイン様タンパク質 (MLKL: mixed lineage kinase domain-like protein) のキナーゼ活性に依存する。これらの違いは宿主反応にも反映され、パイロトーシスと免疫原性細胞死 (ICD: immunogenic cell death) は炎症・免疫応答を惹起するのに対し、アポトーシス小体のパッケージングは非炎症性細胞死をもたらす。

がん治療・腫瘍免疫研究において適切な細胞死メカニズムを同定することは治療効果評価と機序解明に不可欠であるが、各死様式を特異的に区別するための標準化プロトコルを集成したリソースがこれまで不足していた。特に、学生や経験の浅い研究者が多様な細胞死経路を正確に検出するための実践的なガイドラインが未確立であった。本分野の急速な進展に伴い、アポトーシス、ネクロトーシス、パイロトーシス、ICD、好中球細胞外トラップ (NET: neutrophil extracellular trap)、アノイキス、小胞体ストレス応答 (UPR: unfolded protein response) など、多岐にわたる細胞死メカニズムの検出法を網羅した包括的なプロトコル集が求められていた。

先行研究として、Elmore et al. (2007) はアポトーシスの形態学的特徴と分類を定義し、Taylor et al. (2008) は細胞レベルでの制御された解体プロセスを詳述した。また、Degterev et al. (2003) はカスパーゼファミリーの活性化機構について報告している。しかし、これらの個別研究だけでは、多様な細胞死を同一プラットフォームで比較・検出するための実践的プロトコルが不足しており、研究室間での再現性確保に課題が残されていた。

目的

本メソッド書籍の目的は、学生、トレーニー、および経験豊富な研究者が即座に実行可能な、各種細胞死メカニズムの検出プロトコルを体系的に提供することである。一般的なヒト・マウス細胞株と市販試薬を用いてポジティブコントロールとして使用できる系で実験を記述し、各プロトコルが再現性高く実施できるよう、ステップバイステップの詳細な手順、必要な試薬・材料リスト、およびトラブルシューティングのヒントを提供することを目指す。これにより、細胞死研究における方法論の標準化と、研究室間での技術移転の促進に貢献する。

結果

多様なアポトーシス検出法の提供: 本メソッド書籍では、アポトーシス検出に特化した複数のプロトコルが詳細に解説されている。例えば、カスパーゼ活性化の検出では、ウェスタンブロットによりカスパーゼ-3、-8、-9のプロセシング断片を確認する手法が示された。パクリタキセル 0.02 μM処理したA2780細胞では、24時間および48時間後にカスパーゼ-9のプロセシング(プロカスパーゼ-9の減少とp35切断断片の増加)が顕著に増加することがウェスタンブロットで示された (Fig 2)。また、内因性アポトーシス経路の活性化を評価するため、ミトコンドリア/サイトゾル分画によるチトクロームc放出の検出法が提供され、パクリタキセル処理により細胞質チトクロームcが増加し、ミトコンドリア膜の完全性喪失が示された (Fig 3)。ライブセルイメージングでは、三重パラメーター蛍光イメージングにより、カスパーゼ-3活性、ホスファチジルセリン反転、ミトコンドリア膜電位の変化をリアルタイムで可視化するプロトコルが提示され、SUM149乳がん細胞を用いた解析でアポトーシス細胞の動態が鮮明に描出された (Fig 4) (Fig 5)。

ネクロトーシスおよびパイロトーシスの確立: RIPK1/RIPK3/MLKL依存的非アポトーシス性細胞死であるネクロトーシスについて、リン酸化MLKL (pMLKL) およびリン酸化RIPK3 (pRIPK3) のウェスタンブロットによる検出法が確立された。さらに、透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いた細胞膜破裂や細胞膨張といった形態学的変化の可視化により、アポトーシスとの形態的鑑別が可能となった。炎症性細胞死であるパイロトーシスの包括的検出法では、ガスダーミンDの切断、NLRP3インフラマソームの活性化、およびカスパーゼ-1活性の評価が含まれ、炎症性サイトカインの放出を伴う細胞死が明確に定義された。

小胞体ストレス応答 (UPR) の検出: 小胞体ストレス応答 (UPR) の検出プロトコルでは、PERK、IRE1、ATF6経路のmRNA発現をqPCRで評価する。SKOV3細胞をツニカマイシンで処理すると、CHOP mRNAの発現がコントロールと比較して 512-fold 増加することが示された (Table 3)。この定量解析には、n=3 replicates の独立した実験データが用いられ、p<0.001 の有意差をもって高い再現性が確認された。

免疫原性細胞死 (ICD) の3シグナル検出: 免疫原性細胞死 (ICD) の検出プロトコルでは、腫瘍ワクチンマウスモデル (n=12 mice) を用いて、表面カルレティキュリン (CRT) の露出、ATP放出、高移動度群ボックス1 (HMGB1) 放出という3つの主要なICDシグナルを評価する。これにより、化学療法や放射線療法が免疫応答を活性化する能力を評価し、免疫療法との組み合わせ治療設計に重要な情報を提供する。

考察/結論

先行研究との違い: これまでの細胞死検出プロトコル集は特定のアッセイや単一の細胞死様式に焦点を当てることが多かった。しかし、本メソッド書籍は、多様な細胞死メカニズムを網羅し、かつ実践的なトラブルシューティングのヒントを各章で提供している点で、従来の単一アプローチに依存した書籍と対照的である。特に、ライブセルイメージングや3D培養対応アッセイなど、最新の技術を取り入れている点が特徴的である。

新規性: 本研究で初めて、学生から経験豊富な研究者までが、一般的なヒト・マウス細胞株と市販試薬を用いて、多様な細胞死メカニズムを特異的に検出できる標準化されたプロトコルを体系的に集成した。特に、三重パラメーターライブセル蛍光イメージングによるアポトーシス検出や、ICDの3シグナル同時検出プロトコルは、これまで報告されていない実践的なアトラスとして新規性が高い。

臨床応用: 本知見は、がん研究における治療誘導細胞死の種類を区別することで、化学療法、放射線療法、免疫療法の作用機序理解を深め、免疫療法の効果予測(免疫原性細胞死の誘導能)の評価や耐性機構解明への臨床応用が期待される。例えば、ICD誘導能の評価は、患者層別化や個別化医療の推進に貢献する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、各プロトコルの自動化や高スループット化、さらにin vivoモデルにおける細胞死検出法の開発が残されている。また、細胞死経路間のクロストークや、特定の疾患における細胞死メカニズムの役割をさらに詳細に解明するための新たな技術開発も今後の研究方向性となる。Limitationとして、本書のプロトコルは主にin vitro系に焦点を当てており、複雑な生体内環境における細胞死の動態を完全に再現するには限界がある。

方法

本メソッド書籍は、多様な細胞死メカニズムの検出プロトコルを17章にわたって詳細に解説している。各章は、①導入概要、②試薬・材料リスト、③ステップバイステッププロトコル、④トラブルシューティングNotesから構成されている。

アポトーシス検出: カスパーゼ活性化の検出には、ウェスタンブロットによるカスパーゼ-3/8/9のプロセシング確認、ミトコンドリア/サイトゾル分画によるチトクロームc放出検出法が用いられる。ライブセルイメージングでは、三重パラメーター蛍光イメージングにより、カスパーゼ-3活性、ホスファチジルセリン反転、ミトコンドリア膜電位の変化をリアルタイムで可視化する。フローサイトメトリー解析では、p53媒介細胞周期停止とアポトーシス(サブG1分画、Annexin V/PI染色)を評価する。また、リアルタイム発光アポトーシスアッセイや、アノイキス(足場非依存的アポトーシス)の細胞生存率色素とカスパーゼ活性定量も含まれる。

ネクロトーシス検出: RIPK1/RIPK3/MLKL依存的非アポトーシス性細胞死の検出には、哺乳類細胞培養での誘導と、リン酸化MLKL (pMLKL)・リン酸化RIPK3 (pRIPK3) のウェスタンブロットによる確認が用いられる。透過型電子顕微鏡 (TEM) による細胞膜破裂・細胞膨張の形態学的可視化も詳細に解説されている。

炎症性・免疫原性細胞死検出: パイロトーシスの包括的検出法では、ガスダーミンD切断、NLRP3インフラマソーム活性化、カスパーゼ-1活性の評価が含まれる。ICDの検出には、腫瘍ワクチンマウスモデルを用いた表面カルレティキュリン (CRT) スクリーニング、ATP放出、高移動度群ボックス1 (HMGB1) 放出の3シグナル検出法が記述されている。

その他細胞死関連プロトコル: 好中球細胞外トラップ (NET) の可視化と定量、ヒトNETのin vitro同定・単離プロトコル、細胞傷害性T細胞媒介細胞死の定量、およびポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) による小胞体ストレス (UPR) の検出(PERK、IRE1: inositol-requiring enzyme-1、ATF6: activating transcription factor-6 経路)が含まれる。

統計手法と細胞株: 各プロトコルは定性的な検出法が主であるが、定量的なデータ解析を伴うアッセイ(例:qPCRによるmRNA発現解析)では、2^-ddCt法などの標準的な統計手法が用いられる。また、群間比較などの統計解析には Student t-test や one-way ANOVA が適用される。細胞株として A2780、SKOV3 (SKOV3 human ovarian cancer cell line)、SUM149、OVK18 (OVK18 ovarian cancer cell line) などのヒトがん細胞株が頻繁に用いられている。