Article data
Sodium Bicarbonate for Critically Ill Adults with Metabolic Acidosis and Shock
- 著者: The SODa-BIC Investigators and the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group ( 執筆委員会代表 Ary Serpa Neto, Rinaldo Bellomo, Andrew Udy, Paul J. Young ほか )
- Corresponding author: Ary Serpa Neto ( Australian and New Zealand Intensive Care Research Centre, Monash University )
- 雑誌: The New England Journal of Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-06-12
- Article種別: Original Article ( pragmatic, adaptive, double-blind randomized controlled trial )
- PMID: 42283370
背景
代謝性アシドーシスは敗血症・腎不全・ショックを伴う重症患者に高頻度に生じ、心筋収縮力低下・カテコラミン反応性低下・急性腎障害・腎代替療法・死亡の高リスクと関連する。重症患者管理では電解質・酸塩基異常の補正が予後を左右する臨床判断となり ( McCurdy et al. CritCareMed 2012 が論じる代謝性緊急症の管理原則とも通じる ) 、酸血症の早期補正は腎アウトカムや臓器補助の必要性に影響しうると考えられてきた。炭酸水素ナトリウムは代謝性アシドーシス治療に広く用いられるが、その使用を支持するエビデンスは不確実なままである。重症代謝性アシドーシス患者を対象とした BICAR-ICU 試験 ( Jaber ら 2018, Lancet ) では炭酸水素ナトリウムは 90 日死亡をコントロールに比べ低下させなかったが腎代替療法のリスクを下げた。急性腎障害患者を対象とした第二の試験 ( BICAR-ICU-2, Jung ら 2025, JAMA ) でも死亡に差はなかったが腎代替療法使用の低下が示唆された。これらは腎保護効果の可能性を示唆したが、いずれも非盲検 ( open-label ) であり治療割付の認識が腎代替療法開始の判断に影響しえた点が限界であった。輸液・補液介入を盲検 RCT で厳密に評価する重要性は他領域でも繰り返し示されており ( Horinouchi et al. ESMOOpen 2018 の経口補液 RCT のように、支持療法介入の真の効果は対照比較を要する ) 、本領域でも同様の盲検評価が求められていた。何が足りなかったか / 未解明だった点: これらの試験は重症アシドーシス ( pH ≤ 7.20 ) 患者に限られ、より軽度のアシドーシスを呈する広い ICU 患者集団の治療判断には情報を与えず、血管作動薬投与下集団での炭酸水素ナトリウムの腎保護効果は 未解明 のままであった。ガイドライン推奨も低確実性エビデンスに基づき狭い臨床状況に限られていた。血管作動薬を要する患者は急性腎障害を起こしやすい高リスクなアシドーシス亜群であり ( 重症患者の支持療法プロトコルの最適化は予後改善に直結する、Roeland et al. JClinOncol 2020 のような支持療法ガイドラインの精緻化と同じ方向性 ) 、ある観察研究 ( Blank ら 2025 ) で炭酸水素ナトリウム投与により死亡・腎代替療法が低下しうると示唆されたものの、この集団でのエビデンスは限られていた。パイロット試験では pH < 7.30 という従来 ( pH ≤ 7.20 ) より軽症の患者に 5 時間のプロトコル化輸液で pH を急速補正しアシドーシス再発リスクを低下させた。SODa-BIC 試験はこの空隙を埋めるべく、血管作動薬投与下の代謝性アシドーシス成人で炭酸水素ナトリウムが 30 日以内の主要腎有害事象 ( major adverse kidney event ) をプラセボより減らすかを盲検下で検証するよう設計された。
目的
血管作動薬の持続投与により低血圧を補正中で代謝性アシドーシス ( pH < 7.30、base excess −4 mmol/L 以下、Paco₂ が非挿管で 45 mm Hg 以下・挿管で 50 mm Hg 以下 ) を呈する ICU 成人において、5 時間のプロトコル化・調整型炭酸水素ナトリウム輸液がプラセボ ( 5% ブドウ糖 ) に比べ 30 日以内の主要腎有害事象 ( 全死因死亡・腎代替療法・持続性腎機能障害の複合 ) のリスクを低下させるか否かを、二重盲検・プラセボ対照の実用的適応的 RCT で検証することを目的とした。
方法
実用的・適応的・二重盲検・無作為化臨床試験として実施され、Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group により承認・運営された。18 歳以上で血管作動薬持続投与下にあり上記の代謝性アシドーシス基準 ( 無作為化前 2 時間以内に全基準充足 ) を満たす患者を対象とし、糖尿病性ケトアシドーシス・大量重炭酸喪失・eGFR < 30 ( 慢性腎臓病 ) ・腎代替療法施行中/予定・脳浮腫高リスクなどを除外した。無作為化は 1:1 比で試験施設・pH ( < 7.25 か ≥ 7.25 ) ・血清クレアチニン ( < 1.7 か ≥ 1.7 mg/dL ) を層別因子とする可変ブロック法で行った。実薬は 5% ブドウ糖に希釈した炭酸水素ナトリウム ( 最終濃度 600 mmol/L ) 、プラセボは 5% ブドウ糖単独で、患者・治療医とも割付を知らされなかった。両群とも 100 mL/時で開始し、輸液開始 1 時間・3 時間後の血液ガスに基づきプロトコルに従い投与速度を調整 ( pH 7.30 ~ 7.35 かつ base excess ≥ 0 で 25 mL/時、pH > 7.35 かつ base excess > 0 で中止 ) 、5 時間で終了し再開しなかった。主要アウトカムは 30 日以内の主要腎有害事象 ( 全死因死亡・腎代替療法・持続性腎機能障害 = 退院時クレアチニンが基線の 200% 以上 ) 。統計解析では修正 intention-to-treat 集団で、主要アウトカムに二項分布・恒等リンクの混合効果一般化線形モデル ( 施設をランダム効果、層別因子を固定効果 ) を用い調整絶対差と両側 95% 信頼区間を報告、生存は Kaplan-Meier 曲線と shared-frailty Cox 比例ハザードモデルで調整ハザード比を推定した。サンプルサイズはコントロール群 40% の事象率を仮定し 14 ポイントの絶対差検出に 90% 検出力 ( α = 0.05 ) で 470 例とし、適応的盲検サンプルサイズ再推定により 500 例に増やした ( 上限 700 ) 。解析は R 4.3.3 と SAS 9.4 で実施。ClinicalTrials.gov 番号は NCT05697770。
結果
患者背景と登録:2023 年 4 月 ~ 2025 年 12 月に 7 か国・55 ICU で 500 例が登録され、同意撤回 2 例を除く修正 intention-to-treat 集団 498 例 ( 炭酸水素ナトリウム群 244 例、プラセボ群 254 例 ) を解析した。年齢中央値は 66 歳 ( IQR 54 ~ 75 ) 、女性 215 例 ( 43.2% ) 、APACHE II ( Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II ) スコア中央値 21 ( IQR 16 ~ 27 ) 、SOFA ( Sequential Organ Failure Assessment ) スコア中央値 7 ( IQR 6 ~ 9 ) で、約半数が内科的理由の入室、主要なアシドーシス原因は敗血症/敗血症性ショックであった。登録時の pH 中央値は 7.26 ( IQR 7.22 ~ 7.28 ) 、base excess 中央値 −9.0 mmol/L、基線で 228 例 ( 46.2% ) に急性腎障害を認めた。両群の背景は概ね均衡していた ( Table 1 ) 。
介入の実施と酸塩基分離:炭酸水素ナトリウムまたはプラセボは 493 例 ( 99.0% ) に投与され ( 実薬群 243 例 99.6%、プラセボ群 250 例 98.4% ) 、無作為化から輸液開始までの中央値は 0.4 時間、輸液時間中央値は両群とも 5.0 時間であった。実薬群が受けた炭酸水素ナトリウム総投与量中央値は 300.0 mmol ( IQR 197.4 ~ 300.0 ) 、投与量中央値は 500 mL であった。非盲検炭酸水素ナトリウムの追加使用は実薬群 17/243 例 ( 7.0% ) 対プラセボ群 38/250 例 ( 15.2% ) で、調整差は −8.2 ポイント ( 95% CI −13.6 ~ −2.8 ) と実薬群で有意に少なかった ( Table 2 ) 。pH・bicarbonate・base excess・sodium・Paco₂ の推移は両群間で良好な治療分離を示した。
主要アウトカム ( 主要腎有害事象 ):30 日以内の主要腎有害事象は炭酸水素ナトリウム群で 40.2% に対し 39.4% ( プラセボ群、それぞれ 98/244 例、100/254 例 ) で生じ、調整絶対差は 1.2 ポイント ( 95% CI −7.1 ~ 9.4、P = 0.78 ) と有意差を認めなかった ( Table 3 ) 。さらなる調整や持続性腎機能障害の別定義を用いた感度解析も主要解析と同様の結果を示した。事前規定 8 亜群全体で結果は一貫し ( 例えば pH < 7.25 の亜群では調整差 −5.1 ポイント vs pH ≥ 7.25 の亜群では 5.3 ポイント ) 、より重症のアシドーシスや進行性急性腎障害 ( stage 2/3 で調整差 −15.2 ポイント、95% CI −34.1 ~ 3.8 ) の亜群でも炭酸水素ナトリウムの有益性は認められなかった ( Fig. 2C ) 。これらの亜群間に有意な治療効果の異質性 ( interaction ) は検出されなかった。
副次アウトカムと生存:30 日以内の院内死亡は実薬群 25.4% ( 62 例 ) vs プラセボ群 24.0% ( 61 例 ) で調整差 1.8 ポイント ( 95% CI −5.6 ~ 9.2 ) 、院内死亡の調整ハザード比は HR 1.09 ( 95% CI 0.76 ~ 1.56 ) 、実薬群で 25.4% に対し 24.0% ( プラセボ群 ) と両群間に差を認めなかった ( Fig. 2A ) 。30 日以内の腎代替療法は実薬群で 16.8% に対し 20.9% ( プラセボ群、それぞれ 41 例、53 例 ) で調整差 −3.9 ポイント ( 95% CI −10.6 ~ 2.7 ) であり ( Fig. 2B、Table 3 ) 、信頼区間が 0 をまたぐため確定的な差とは解釈されなかった。腎代替療法開始の生存時間解析でも実薬群対プラセボ群の HR 1.0 付近の推定値は 95% CI が 1.0 をまたぎ明確な有意差を示さず、Kaplan-Meier 曲線は追跡を通じてほぼ重なった。7 日以内の急性腎障害発生・30 日以内の持続性腎機能障害・腎代替療法依存・ICU 内死亡・90 日院内死亡はいずれも両群で同様で、血管作動薬非投与日数・腎代替療法非施行日数・ICU 非滞在日数・入院非滞在日数も両群で同様であった。
有害事象:有害事象は両群とも稀で、炭酸水素ナトリウム群で 1.6% ( 4 例 ) vs プラセボ群で 0% ( 0 例 ) に有害事象を認めた ( P = 0.06 ) 。この群間差は主に補正を要した低カリウム血症 ( 実薬群 1.6% ) によって駆動されており、炭酸水素ナトリウム投与に伴う細胞内カリウムシフトを反映すると考えられる。重篤な安全性シグナルは両群で認められず、5 時間という短時間のプロトコル化輸液が安全性プロファイルの面でも忍容可能であったことを示す ( Table 3、Table S10 ) 。
考察/結論
本試験の知見は、重症アシドーシス ( pH ≤ 7.20 ) 患者に限定した先行研究の非盲検試験 ( BICAR-ICU, BICAR-ICU-2 ) という既報とは異なり、より軽度のアシドーシス ( pH < 7.30 ) を呈し血管作動薬を要する患者を二重盲検下で評価した点で対照的である。これまでの両試験が示した腎代替療法低下という所見と相違して、本試験では主要腎有害事象・腎代替療法・死亡のいずれにも有意差を認めなかった。新規な点として、本研究で初めて軽度アシドーシスかつ血管作動薬投与という予後豊富化された集団で、盲検下のプロトコル化輸液により酸塩基の急速補正と良好な治療分離を達成しつつ患者中心アウトカムへの無効性を厳密に示した。過去試験で観察された腎代替療法低下が割付認識による開始判断のバイアスを反映しえたという、これまで報告されていなかった解釈上の懸念に対し、盲検化と Web ベース中央無作為化で対処した設計上の独自性を持つ。臨床的意義としては、血管作動薬投与下の代謝性アシドーシスに対し腎保護目的でルーチンに炭酸水素ナトリウムを投与する根拠が乏しいことを示し、ICU での日常診療における過剰な buffer 投与を見直す橋渡しとなる。一方で著者らは観察された腎代替療法の数値差を慎重に解釈すべきとし、重症酸血症がしばしば腎代替療法開始の引き金となるため、療法の延期が腎機能改善ではなく pH 補正を反映しうると指摘する。残された課題 ( limitation ) として、非盲検炭酸水素ナトリウムの使用や介入後の臨床判断が群間差を減弱させた可能性、プロトコル外の sodium/buffer 源を規制しなかったこと、安全とみなされない患者の除外による一般化可能性の制約、5% ブドウ糖が低張で sodium 含有担体と生理学的に異なる点、酸塩基変化により割付を推測されえた点、腎代替療法開始時の生理学的データ未収集、血糖データ未収集、中等度 ~ 大の治療効果を検出する検出力設定 ( 小さな臨床的差は除外できない ) 、国際的 ICU 間の腎代替療法閾値の実践差などが挙げられる。長期/反復投与が患者中心アウトカムを改善するかは今後の検討課題として残る。結論として、血管作動薬投与下の代謝性アシドーシスを呈する重症成人で炭酸水素ナトリウム療法は 30 日以内の主要腎有害事象を低下させなかった。