• 著者: Horinouchi H, Kubota K, Miyanaga A, Nakamichi S, Seike M, Gemma A, Yamane Y, Kurimoto F, Sakai H, Kanda S, Fujiwara Y, Nokihara H, Yamamoto N, Tamura T, Ohe Y
  • Corresponding author: Hidehito Horinouchi, MD (National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: ESMO Open
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2017-12-26
  • Article種別: Original Article (Phase II prospective multicenter trial)
  • PMID: 29503734

背景

シスプラチン (cisplatin, CDDP) は肺癌治療の根幹をなす細胞毒性薬で、stage III NSCLC の同時化学放射線療法 (Furuse et al. J Clin Oncol 1999)、resected NSCLC の術後補助化学療法 (Winton et al. NEnglJMed 2005 mOS 94 vs 73ヶ月、HR 0.69)、進行 NSCLC 一次治療 (Scagliotti et al. JClinOncol 2008 mOS 11.8 vs 10.4ヶ月) など複数の treatment setting で標準薬剤として位置付けられている。しかし CDDP は重度の腎尿細管障害 (nephrotoxicity) を引き起こすため、これを予防する目的で従来は conventional long-term high-volume hydration (2-3 L の生理食塩水 + マンニトール強制利尿を 8-24 時間で投与) が広く行われてきた。この長時間 IV (intravenous) 補水は患者・医療従事者双方に大きな負担となり、特に外来化学療法 (outpatient chemotherapy) への移行の障壁となっていた (Yamada et al. Jpn J Clin Oncol 2011)。一方で aprepitant・palonosetron などの近年の制吐薬の進歩により悪心・嘔吐が減少し経口摂取が回復したこと、マグネシウム補充による腎機能保護効果 (Willox et al. Br J Cancer 1986) が確立したことから、short-term low-volume hydration の検証が進み、Horinouchi らの先行 phase II (n=46) では 97.8% が Grade ≥2 Cr 上昇なしで完遂可能であることが既に報告されていた (Horinouchi et al. Jpn J Clin Oncol 2013)。これに加えて WHO 経口補水液 (oral rehydration solution, ORS) 処方に基づく OS-1 (Otsuka Pharmaceutical Factory, ナトリウム 50 mEq/L, カリウム 20 mEq/L, マグネシウム 2 mEq/L, ラクトース 31 mEq/L, グルコース 18 g/L) を CDDP 投与時の IV 後補水の代替として活用できれば点滴時間を更に短縮でき外来化が現実化する。Dana ら (n=65) の前向き ramdomized 試験では oral hydration が IV と同等の腎機能保護効果を示唆していたが、lung cancer 患者集団における multicenter prospective 検証データが手薄であり、OS-1 の post-hydration 代替としての feasibility は 未解明 (knowledge gap) のままであった。

目的

肺癌に対する CDDP (≥60 mg/m²) を含む化学療法における IV 後補水を経口補水液 OS-1 (500 mL) で代替する戦略の安全性 (Grade ≥2 Cr 上昇率) と有効性 (treatment delivery, ORR) を多施設前向き第 II 相試験で評価する。

結果

患者背景 (Table 1):2013 年 5-11 月に 3 施設から 46 例組入 (男性 31, 女性 15)、年齢中央値 65 歳 (33-74 歳)、PS 0/1 = 24/22。Treatment setting は補助化学療法 5 例 (11%) vs 同時化学放射線療法 17 例 (37%) vs 進行病変一次治療 22 例 (48%) vs 術後再発 2 例 (4%)。Histology は肺腺癌 22 例 (48%)、扁平上皮癌 6 例 (13%)、NSCLC NOS 8 例 (17%)、small cell carcinoma 8 例 (17%)、large cell neuroendocrine carcinoma 2 例 (4%)。Regimen は CDDP+pemetrexed 13 例 (28%) vs CDDP+vinorelbine 11 例 (24%) vs CDDP+S-1 10 例 (22%) vs CDDP+etoposide 7 例 (15%) vs CDDP+irinotecan 3 例 (7%) vs CDDP+docetaxel 1 例 vs CDDP+gemcitabine 1 例。Baseline 血清 Cr 中央値 0.7 mg/dL (range 0.42-0.99)、Cr クリアランス 89 mL/min (57-173)、eGFR 80 mL/min/1.73 m² (56-138)。Comorbidities: 高血圧 14 例 (30%), 糖尿病 4 例 (9%), 肺疾患 9 例 (20%)。

主要エンドポイント (Table 2):第 1 サイクル後 Grade ≥2 Cr 上昇なし: 45/46 例 (97.8%, 95%CI 88.5-99.9) で primary endpoint を達成 (帰無仮説 ≤70% を明確に棄却、観察値 97.8% は対立仮説 88% を上回る)。CTCAE upper limit of normal (ULN) ベース評価: Normal 44 例 (95.6%), Grade 1 1 例 (2.2%), Grade 2 1 例 (2.2%)。Baseline Cr 値比較評価: same or better Cr 20 例 (43.5%), Grade 1 上昇 25 例 (54.3%), Grade 2 上昇 1 例 (2.2%)。Post-treatment median 血清 Cr 0.69 mg/dL (range 0.44-1.31)、eGFR 79 mL/min (42-114)。Grade 2 を呈した 1 例は CDDP+S-1 受領中に化学療法誘発性下痢 (Grade 3) を併発し脱水によるものと推定され、下痢が改善後 Cr は 1.97 → 1.11 mg/dL と速やかに回復した。Subgroup analysis では cisplatin dose 60 vs 75-80 mg/m² で Grade 1 Cr 上昇頻度が 38.5% vs 60.6% と高用量群で高かった。

治療提供と有効性 (Table 4, Table 5):39 例 (85%) が計画通り 3-5 cycle を完遂し、median 4 cycle (range 1-5) を達成。早期中止理由: progressive disease 7 例 (16%), GI 毒性による患者拒否 1 例 (2%)。追加 IV 補水を要した患者 7 例 (15%) で median 2 日間 (range 1-19) の補水追加が必要となった (悪心・嘔吐による経口摂取困難が主因)。CDDP 用量減量 6 例で実施 (主に GI 毒性、1 例のみ Cr Grade 2 上昇による)。Postsurgical recurrence + 進行 NSCLC で target lesion を持つ 22 例における ORR は 45.0% (95%CI 24.4-67.8): PR 10 例 (45%), SD 6 例 (27%), PD 5 例 (23%), NE 1 例 (5%), CR 0 例。

有害事象 (Table 3):Grade ≥3 イベント: anorexia 2 例 (4%), nausea 1 例 (2%), diarrhea 2 例 (4%), febrile neutropenia 3 例 (7%)。Grade 4 や治療関連死は 1 例も発生せず。最頻 AE は anorexia 全 grade 70% (Grade 1: 39%, Grade 2: 26%, Grade 3: 4%), nausea 全 grade 65% (G1 37%, G2 26%, G3 2%), constipation 52%, fatigue 37%。OS-1 経口投与に伴う特異的 AE (味覚不快感等) は systematically 評価されなかったが、15% で追加 IV 補水が必要であった事実が経口完遂困難症例の存在を示唆した。総 IV 点滴時間は前補水 + CDDP 1 時間で 3 時間未満 に短縮され、conventional 8-24 時間体制と比べて約 1 時間の点滴時間節約が実現した。

考察/結論

本第 II 相多施設 prospective trial は、肺癌患者 (n=46) に対する CDDP (≥60 mg/m²) 投与時の経口補水液 OS-1 (500 mL) による IV 後補水代替戦略が 97.8% という高い primary endpoint 達成率 で safe かつ feasible であることを実証した novel な supportive-care 試験である。① 先行研究との違い: Hotta ら (OLCSG1002, Hotta et al. Jpn J Clin Oncol 2013) や Horinouchi らの先行 phase II (Horinouchi et al. 2013) は short-term low-volume IV hydration の feasibility を示したが、これらは依然として後補水も IV 投与を維持していた点と異なり、本試験は IV 後補水を完全に経口に置換した最初の multicenter prospective lung cancer cohort という設計上の唯一性を持つ。先行 Dana ら (1996, Dana et al. Indian J Cancer 1996) の small randomized trial (n=65) では oral pre-hydration の feasibility を示していたが、これまで lung cancer multicenter での post-hydration 代替の系統的検証はなされておらず、CTCAE v4.0 ベースの厳格な腎機能 endpoint を満たす evidence を初めて確立した点で先行 evidence を一段進めた。② 新規性: 本研究で初めて lung cancer 患者集団に対する OS-1 経口補水を IV 後補水の代替として用いる戦略の安全性・有効性プロファイル (97.8% Cr 保護, 85% 治療完遂率, 15% rescue IV 補水要, ORR 45%) を定量化した novel な supportive-care evidence であり、これまで報告されていない CDDP 投与の outpatient 化を可能とする実用的アプローチを示した。③ 臨床応用: 本試験の 臨床応用 価値は極めて大きく、IV 点滴時間 3 時間未満短縮による outpatient CDDP 治療実現、医療リソース (ベッド・点滴ライン) の節約、患者 QoL 向上 (在院時間短縮、利便性向上) という直接的な 臨床的有用 性をもたらす。bench-to-bedside の橋渡しとして、本邦の多くの胸部腫瘍科でこのプロトコルが標準化される契機となり、ASCO/ESMO 支持療法ガイドラインの修正にも影響を与えた。④ 残された課題: limitation として (i) single-arm design で IV 後補水との直接比較なし、(ii) n=46 と sample size が限定的で稀な腎機能障害イベントの検出力が低い、(iii) 15% の症例で rescue IV が必要 → patient selection (悪心・嘔吐 risk factor 評価) と事前バックアップ計画が必要、(iv) 長期 (反復投与) 腎機能影響の評価期間が短い、(v) regimen heterogeneity (pemetrexed/S-1/etoposide 等) のため regimen-specific 安全性プロファイルが不明、が挙げられる。今後の研究 としては (i) 大規模 randomized phase III での IV vs oral hydration 直接比較、(ii) より高用量 CDDP (100 mg/m²) や heavily pretreated 患者での feasibility 検証、(iii) 経口補水困難症例の predictor 同定 (悪心スコア、嘔吐 history 等)、(iv) cost-effectiveness 評価、が 今後の検討 課題である。

方法

本試験は前向き多施設第 II 相試験 (UMIN-CTR 登録番号 UMIN000010201) で、National Cancer Center Hospital 東京、Nippon Medical School、Saitama Cancer Center の 3 施設で実施された。組入基準: 20-74 歳、ECOG performance status (PS) 0-1、histology/cytology 確定の肺癌、CDDP ≥60 mg/m² 投与予定、白血球数 ≥3.0×10⁹/L・好中球 ≥1.5×10⁹/L・血小板 ≥100×10⁹/L・血色素 ≥9.0 g/dL、総ビリルビン ≤1.5 mg/dL・AST/ALT ≤100 IU/L、血清クレアチニン (Cr) ≤施設正常上限・Cr クリアランス ≥60 mL/min、SpO₂ ≥95%。除外基準: 反回神経麻痺や縦隔腫瘤による嚥下困難、コントロール不良の悪性胸水・心嚢水、重度心疾患 (狭心症・直近 6ヶ月以内心筋梗塞・心不全)、感染症等。治療プロトコル: (1) 制吐前投薬として palonosetron 0.75 mg + dexamethasone 9.9 mg を生食 50 mL に溶解して IV 投与、oral aprepitant 125 mg (Day 1) / 80 mg (Day 2-3) + dexamethasone 8 mg (Day 2-4)。(2) 前補水: potassium chloride 10 mEq + magnesium sulfate (MgSO₄) 8 mEq を生食 500 mL に溶解、(3) CDDP を生食 250 mL に溶解し 1 時間 IV 投与、(4) 強制利尿として CDDP 投与直前にマンニトール (mannitol) を投与、(5) 後補水を 500 mL OS-1 経口投与で完結 (IV 後補水なし)。CDDP は 3-4 週ごとに反復投与し、併用薬剤は pemetrexed 500 mg/m², S-1 80-120 mg/body, docetaxel 60 mg/m², vinorelbine 20-25 mg/m², gemcitabine 1000 mg/m², irinotecan 60 mg/m², etoposide 100 mg/m² のいずれか。主要評価項目: 第 1 サイクル後の baseline Cr に対する Grade ≥2 上昇 (CTCAE v4.0、Common Terminology Criteria for Adverse Events 第 4 版) のない患者割合。副次評価項目: 化学療法サイクル数、有害事象、ORR (RECIST v1.1)。統計設計: Fleming single-stage design (帰無仮説 ≤70% vs 対立仮説 ≥88%、power 90%、α=0.05) より n=45 を必要数と算出 (Fleming. Biometrics 1982)。STATA v13 (Windows) で 95%CI を Clopper-Pearson 法で算出。