Article data
Efficient prime editing in vivo and in vitro using lipid nanoparticles
- 著者: Allen Y. Jiang, Ana Cristian, Dominique L. Brooks, Emily R. Feierman, Kiran Musunuru, David R. Liu ほか
- Corresponding author: David R. Liu (drliu@fas.harvard.edu, Broad Institute / Harvard University)
- 雑誌: Nature Nanotechnology
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 42298102
背景
プライム編集 (prime editing、PE) はゲノム上の任意の局所変化 (置換 ・小挿入 ・小欠失) を二本鎖切断やドナー DNA なしに導入できる汎用ゲノム編集法であり、慢性肉芽腫症 ・鎌状赤血球症 ・フェニルケトン尿症 (PKU) など多様な遺伝性疾患の治療に応用されてきた。しかし、これまでの治療応用は主に PE の ex vivo エレクトロポレーションと生着、あるいは in vivo ウイルス送達 (主に AAV: adeno-associated virus) に依存していた。AAV は強力だがパッケージング容量に制約があり、免疫応答で再投与が妨げられ、遷延する導入遺伝子発現が off-target 編集や免疫原性の機会を増やす。一方、脂質ナノ粒子 (LNP: lipid nanoparticle) は Cas9 ヌクレアーゼや塩基編集 (base editor、BE) の mRNA を動物 ・ヒト患者に治療的に送達した実績があり、近年は alpha-1 antitrypsin 欠損症や尿素サイクル異常 (患者 K. J. Muldoon) の世界初の in vivo 病的変異補正を BE-LNP (base editor を封入した LNP) が達成している。しかし、これまでの先行研究では LNP による三成分プライム編集システムの送達は編集効率が低く成功が限られ、治療的に有用な non-viral 単回送達の方法論は未確立であった。LNP の細胞取り込みと送達の基礎原理は Rennick et al. NatNanotechnol 2021 が整理しており、近年は LNP の組織向性を肝外へ拡張する試み (Gao et al. Cell 2026) も進む。CRISPR エフェクターそのものの多様化 (Scholz et al. Nature 2026) と並行して、送達側の課題が編集の臨床応用を律速している。
具体的には、高度化学修飾 pegRNA (HM-pegRNA: highly chemically modified pegRNA) を用いた既報は 3 mg/kg × 週 3 回でわずか 8% 平均バルク肝編集、AAV9 (血清型 9 の adeno-associated virus) による epegRNA 恒常発現と LNP-PE mRNA 併用で 16%、La 融合 PE (PE7: La タンパク質を融合した PE) で最大 23% に留まり、いずれも純粋な non-viral 単回送達ではなかった。何が足りなかったかというと、(1) mRNA から翻訳される PE タンパク質と短寿命 synthetic pegRNA の時間的ミスマッチ、(2) PE の活性 ・翻訳の最適化不足、(3) 三成分 (約 6.5 kb の PE mRNA と約 100–150 nt の 2 種 gRNA) の化学物性が異なる中での化学量論制御という、相互に絡む複数のボトルネックを系統的に解消する枠組みが存在しなかった点である。本研究はこの空白を、formulation 非依存 ・標的部位非依存の反復最適化プラットフォームで埋める。
目的
LNP 介在プライム編集の効率を制限する cargo 設計のボトルネックを系統的に同定 ・解消し、ウイルスに代わる非ウイルス性 in vivo プライム編集システム (PE-LNP) を確立すること。具体的には、(1) PE editor (s1) 、(2) 3’ epegRNA モチーフ (s2) 、(3) 三成分 RNA-LNP の比 (s3) を段階的に最適化するワークフローを構築してマウス肝 Pcsk9 座で高効率編集を実証し、(2) これを PKU の原因変異 PAH R408W の補正に適用して疾患モデルでの治療効果を示し、(3) DNA 送達 ・AAV 送達と比較した off-target 編集と毒性を評価することを目的とした。
結果
epegRNA と PE6 editor による段階的効率改善:PEmax mRNA ・(e)pegRNA ・nicking gRNA (ngRNA) を OF-02 LNP (肝送達に最適化された ionizable lipid 製剤) に個別封入し、投与直前に admix した。HM-pegRNA (s0.1) はマウスバルク肝で 0.8% 平均編集に留まったが、3’ 偽結び目モチーフを持つ epegRNA (s0.2) に置換すると 3.8% に有意に増加した (P = 0.0003、Pcsk9 +1 TTAC 挿入、n = 3 mice) 。次に、AAV でマウス脳編集を改善した PE6 editor を試験したところ、PE6c は PEmax (2.3%) 比 4.6 倍の 11% 編集を達成し (P < 0.0001、s1 PE-LNP) 、ELISA (酵素結合免疫吸着法) で肝ライセート中の PE6c タンパク質濃度が全時点で PEmax を上回ったことから、活性向上に加え翻訳 ・産生の改善が寄与すると示された (Fig 2a, 2c) 。
新規 3’ モチーフと化学量論 ・mRNA 純度の最適化:自然界の偽結び目から進化させた第二世代 3’ モチーフ eSBRMV1-A を用いると、tevopreQ1 比でバルク肝編集が 17% から 26% に改善した (P = 0.0006、s2 PE-LNP) 。RT-qPCR (逆転写定量 PCR) では eSBRMV1-A epegRNA が 24 時間後に肝ライセート中でより多く残存し、安定化効果が PE 存在下でのみ発現することから、PE 複合体形成が 5’ エキソヌクレアーゼ分解を阻害する機序が示唆された。mRNA-LNP:gRNA-LNP 比は 1:1 から 1:3 で 21–22% とプラトーを示し有意差なし (P ≥ 0.337) で、1:2 を採用した (s3 PE-LNP) 。さらに HPLC (高速液体クロマトグラフィー) 精製で dsRNA (二本鎖 RNA) を除去した GenScript 製 PE6c mRNA に切り替えると、自家製 mRNA (26%) 比 1.9 倍の 49% 平均バルク肝編集を達成した (P = 0.0016, unpaired t-test) 。この一連の最適化で s0.1 比 63 倍 ・s0.2 比 13 倍の編集効率向上が得られた (Fig 2d, 2h) 。
物性解析と薬力学 ・肝特異性:cryo-EM (cryo-electron microscopy) で、大きな mRNA を封入した mRNA-LNP は ~40% が bleb (出芽様構造) を含む複数形態を示したのに対し、小さな gRNA-LNP は bleb を持たず層状 ・六方晶コアのみであった (n = 329 LNPs 解析) 。封入効率は mRNA-LNP 63% 、epegRNA-LNP 87% 、ngRNA-LNP 92% で、サイズも mRNA-LNP (118 nm) > epegRNA (105 nm) > ngRNA (98 nm) であった (Fig 3a, 3e) 。2 mg/kg s3 PE-LNP の生体内分布では編集は肝に限局し非肝組織では検出されず、FACS (蛍光活性化細胞選別) でも非実質細胞 ・全血では編集が認められず肝細胞特異的であった。用量反応では 4 mg/kg で 53% 編集 ・血清 PCSK9 (proprotein convertase subtilisin/kexin type 9) が 94% 低下し、編集は 1 日で 27% 、7 日で 47% と速やかに進行、血清 ALT (alanine aminotransferase) の軽度 ・一過性上昇のみで 3 日後に対照と同等に回復した (Fig 4b, 4g) 。再投与 (1 mg/kg × 2 回、7 日間隔) は単回 28% を 43% へ向上させた (n = 3 mice) 。
PKU マウスでの疾患補正:最も頻度の高い病的変異 PAH c.1222C>T (p.R408W) を標的に、PAH R408W カセットを持つ HuH-7 細胞で s1–s3 を最適化した (PE6d ・eSBRMV1-A ・1:2 比) 。ヒト化 Pah R408W ホモ接合マウス (7–9 週齢、n = 4 mice/条件) に単回 4 mg/kg を RO 投与すると、s2 ・s3 PE-LNP でゲノム DNA 編集 15% ・12% 、cDNA 編集 23% ・19% を得た (Fig 5f) 。s2 PE-LNP は投与 3 日以内に血清フェニルアラニン (Phe) を 90% 低下させ、7 日後には s0.2 を除く全 PE-LNP 群で推奨治療介入閾値 (360 µM) を下回った。ALT ・AST 上昇は認めず、単回投与で治療的レベルの編集を達成した (Fig 5g) 。
off-target 編集とウイルス送達との比較:HEK4 座の 4 種 prime edit で、プラスミドトランスフェクションは OT1 ・OT3 で有意な off-target 編集を示したが (P ≤ 0.0385 / ≤ 0.0046, two-way ANOVA + Tukey) 、PE-LNP は OT3 の +2 TAA 挿入 1 例のみで、しかもプラスミドより有意に低頻度であった (P < 0.0001) 。in vivo では 2 mg/kg s3 PE-LNP と 1e12 vg dual PE-AAV9 がバルク肝で同等のオンターゲット編集 (44% vs 46%、P = 0.1419) を示したが、AAV9 は心臓でも 7.9% の編集を生じたのに対し PE-LNP は肝特異的であった。CIRCLE-seq (in vitro off-target 候補同定法) 由来 14 候補座のうち off-target は OT13 のみで、AAV9 が PE-LNP より有意に高頻度であり (P < 0.0001) 、一過性 editor 送達の利点が確認された (Fig 6a, 6e, 6f) 。
考察/結論
本研究は、三成分プライム編集システムを LNP で送達する際の編集効率を制限する複数のボトルネックを系統的に同定 ・解消した。LNP 送達 PE が 8–23% に留まっていた先行研究と異なり、また AAV を要した epegRNA 恒常発現アプローチとは対照的に、本手法は純粋な non-viral 単回投与で 49% という従来比 63 倍のバルク肝編集を達成した。これは dual-AAV PE 送達の 46% に匹敵し、これまで non-viral プライム編集が抱えていた効率の壁を越えた点で意義が大きい。
第二に、PE6c editor ・新規 3’ モチーフ eSBRMV1-A ・dsRNA-free HPLC 精製 mRNA/epegRNA の組合せという cargo 設計の最適化が in vivo 効率を桁違いに左右することを定量的に示した点は、本研究で初めて体系化された新規な知見である。とくに eSBRMV1-A の安定化効果が PE 複合体存在下でのみ発現するという機序、および大きな mRNA-LNP が bleb 形態をとり小さな gRNA-LNP と物性が異なるという cryo-EM 知見は、これまで報告されていない設計原理を提供する。
第三に、臨床応用の観点では、PKU マウスで単回投与により血清 Phe を治療閾値 (360 µM) 以下へ低下させたことは、多回投与を要した既報からの明確な前進であり、肝の遺伝性代謝疾患に対する PE-LNP の臨床的意義を示す。off-target が DNA 送達 ・AAV より低く、肝酵素上昇が一過性で長期毒性が観察されないという安全性プロファイルは、ウイルス送達に代わる translational な選択肢としての魅力を裏づける。塩基編集と異なり任意の局所変化を導入できるプライム編集は、個別化ゲノム編集治療の対象を transition 点変異以外へ拡張する橋渡しとなる。
第四に、残された課題がある。本研究は肝 (RO 全身投与での OF-02 肝向性) に限局しており、肝外組織への効率的 LNP 送達は今後の検討課題である。また mRNA 転写産物設計 ・キャップ/テール修飾 ・epegRNA 純度と化学修飾、大型 mRNA cargo に特化した LNP 製剤化など、さらなる効率改善の余地が limitation として残る。総じて本研究は、肝の遺伝性疾患治療に向けた効率的かつ精密な非ウイルス性プライム編集の一般的な出発点を提供した。
方法
研究デザインは in vitro (培養細胞) と in vivo (マウス) を組み合わせた前臨床ゲノム編集の段階的最適化試験である。PE mRNA ・(e)pegRNA ・ngRNA はマイクロ流体混合で OF-02 LNP に個別封入し、投与直前に admix した。in vitro は Hepa1-6 細胞 (マウス肝癌) および PAH R408W カセットをレンチウイルスで組込んだ HuH-7 細胞 (ヒト肝癌、ApoE 1 µg/mL 補充) を用い、72 時間後に high-throughput sequencing (HTS) で解析、用量反応は four-parameter logistic 曲線に nonlinear regression で fit した。in vivo は 6 週齢雌 C57BL/6 マウス (野生型) およびヒト化 Pah R408W トランスジェニックマウス (7–9 週齢) に retro-orbital (RO) 注射で投与し、肝を 1–8 週後に採取して targeted amplicon HTS で編集を定量した。PE タンパク質は ELISA、epegRNA 存在量は RT-qPCR で測定、血清 PCSK9 ・Phe ・ALT ・AST を生化学的に評価した。物性は Ribogreen assay (封入効率) 、dynamic light scattering (DLS、流体力学径) 、cryo-EM (コア形態 ・bleb) で解析した。統計は unpaired t-test、two-way ANOVA + Bonferroni / Tukey 多重比較を用い、データは mean ± s.e.m. (n = 3 wells または n = 3–4 mice) で示した。off-target 解析は HEK4 の既知座 OT1/OT3 および CIRCLE-seq 由来 14 候補座を amplicon HTS で評価した。