• 著者: Bertotti A, Papp E, Jones S, Adleff V, Anagnostou V, Lupo B, Sausen M, Phallen J, Hruban CA, Tokheim C, Niknafs N, Nesselbush M, Lytle K, Sassi F, Cottino F, Migliardi G, Zanella ER, Ribero D, Russolillo N, Mellano A, Muratore A, Paraluppi G, Salizzoni M, Marsoni S, Kragh M, Lantto J, Cassingena A, Li QK, Karchin R, Scharpf R, Sartore-Bianchi A, Siena S, Diaz LA Jr, Trusolino L, Velculescu VE
  • Corresponding author: Trusolino L (Candiolo Cancer Institute); Velculescu VE (Johns Hopkins University)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26416732

背景

大腸癌 (CRC: colorectal cancer) は年間120万人が罹患する世界第3位のがんであり、切除不能進行期ではセツキシマブ・パニツムマブなどの抗EGFR (epidermal growth factor receptor: 上皮成長因子受容体) モノクローナル抗体が標準治療として使用される。KRAS変異が一次耐性の主要因として確立されて以降 (Amado et al. 2008; De Roock et al. 2010)、NRAS・BRAF・PIK3CA exon20変異・PTEN欠失・MET増幅・ERBB2 (HER2) 増幅なども耐性機序として報告された (Misale et al. 2012; Montagut et al. 2012)。しかしKRAS野生型腫瘍でも奏効率は12〜17%にとどまり (Cunningham et al. 2004)、既知機序では約40〜50%の一次耐性が説明できないままであった。獲得耐性については血液中の腫瘍DNA解析から動的クローン進化が示唆されていたが (Misale et al. 2012; Mohan et al. 2013)、体系的なゲノム解析に基づく全体像は不明瞭なままであった。この点が知識のギャップ (knowledge gap) として未解明であり、何が足りなかったかという点では、患者由来腫瘍移植 (PDT) モデルを用いた前臨床試験とゲノム解析を組み合わせる統合的アプローチが技術的に可能になっていたが、KRAS野生型CRCを対象とした百例以上の規模での系統的探索は不足していた。

目的

KRAS野生型CRC 129例の患者由来腫瘍グラフトモデルの全エクソームシーケンシングと治療反応性評価を統合し、抗EGFRブロッカーに対する感受性・一次耐性・獲得耐性の新規ゲノム決定因子を系統的に同定すること。特に既知耐性機序で説明できない残存する耐性の分子基盤と、感受性を予測する新規バイオマーカーの同定を目指した。

結果

既知耐性機序の包括的確認:KRAS野生型CRC 129 cases (n=129 samples) の全エクソーム解析で既知耐性変異を網羅的に確認した (Fig. 1)。疾患進行または安定化腫瘍においてNRAS変異 (7例)・BRAF V600E (3例)・MET増幅 (3例)・ERBB2増幅 (4/5例)・PIK3CA exon20変異 (3/4例)・PTEN欠失/切断 (4/5例) が全て耐性群に濃縮されていた。腫瘍グラフト当たりの中央値体細胞変異数は117変異/腫瘍 (範囲10〜2979) であり、腫瘍細胞濃縮効果によりWES精度が向上した。129例中腫瘍グラフト化に成功した116例でセツキシマブ前臨床試験を実施し、退縮 (34%)・安定 (35%)・進行 (31%) の3カテゴリに分類できた。n=65 individuals の患者ターゲットシーケンシングでも同様の耐性変異パターンが確認され、PDTモデルの臨床的妥当性が実証された (Pearson r=0.78, p<0.001)。治療前後の変異アレル分率の変化は獲得耐性クローンの動的拡大を反映していた。

新規一次耐性機序:ERBB2点変異・PDGFRA・FGFR1・MAP2K1:本研究で初めて、ERBB2キナーゼドメイン点変異 (V777L 2例・L866M 1例・外部ドメインS310Y 1例) がセツキシマブ耐性と相関することが実証された (Fig. 2)。従来ERBB2増幅による耐性は既知であったが点変異による活性化耐性は未報告であった。さらにFGFR1増幅 (4例、6%)・PDGFRAキナーゼドメイン変異 (R981H 2例含む4例、6%)・MAP2K1 K57R変異が耐性腫瘍に有意に濃縮された (Welch’s two-sample t検定p<0.001)。NCI-H508細胞へのEGFR G465EまたはMAP2K1 K57N変異導入はセツキシマブ耐性を誘導し (n=6〜9/群、p<0.05)、IRS2のshRNA (short hairpin RNA) ノックダウンはセツキシマブ感受性を低下させERK/AKTリン酸化を減弱させた。既知・新規機序を合計すると129例中100例 (77%) に治療応答関連変異が同定され、残り23%の耐性は依然未解明であった。

新規獲得耐性機序:EGFR外部ドメイン変異 G465R/G465E:セツキシマブ治療後の連続検体22例の解析で、2例 (CRC104: G465E、CRC177: G465R) にEGFR外部ドメインIII変異を発見した (Fig. 3)。前治療検体では変異が検出されず、治療後のみ検出された (治療前変異アレル分率0%→治療後で検出可能)。G465残基はセツキシマブとパニツムマブの共通結合エピトープ中心に位置し、G465E腫瘍ではパニツムマブも無効であることが前臨床試験で確認された (two-way ANOVA p<0.01)。EGFR小分子阻害薬afatinibと抗体混合薬Pan-HER (エピトープ異なる多標的抗体混合物) には感受性が保持されており、G465E/R変異腫瘍でのPan-HER治療がパニツムマブより有意に優れた腫瘍増殖抑制効果を示した (p<0.01)。

IRS2:新規感受性予測因子と前臨床コンビネーション治療:IRS2の増幅・変異が7例 (10%、n=7 cases) の感受性または安定化腫瘍に同定された。KRAS/NRAS/BRAF/PIK3CA野生型100例でのIRS2高発現がセツキシマブ感受性の有意な予測因子であることをone-way ANOVA (p<0.001) で確認した (Fig. 4)。IRS2はEGFR下流のシグナル増幅アダプタータンパク質として機能し、EGFR依存性シグナル伝達の感受性基盤を形成する。前臨床コンビネーション治療では、FGFR1増幅腫瘍でBGJ398+セツキシマブが持続的腫瘍退縮 (n=5〜6 mice/群、p<0.01 vs 単剤)、MAP2K1変異腫瘍でSCH772984+AZD6244が強い抗腫瘍効果 (p<0.01 vs 各単剤)、EGFR G465E腫瘍でPan-HERが腫瘍増殖抑制 (p<0.01 vs パニツムマブ) を示した。液体生検による腫瘍由来DNA (ctDNA) モニタリングが Bettegowda et al. SciTranslMed 2014 で実証されており、本研究の獲得耐性解析の基盤的技術として参照された。

考察/結論

先行研究との比較と本研究の差異:先行研究 (Misale et al. 2012; Montagut et al. 2012) は液体生検または限られた症例数での後ろ向き解析にとどまっており、治療前後の連続PDTモデルと全エクソームシーケンシングを統合する系統的アプローチとは根本的に異なった。既存の報告ではERBB2増幅による耐性は既知であったが活性化点変異による耐性は未報告であったのと異なり、本研究で初めてERBB2キナーゼドメイン点変異が独立した一次耐性機序として実証された。EGFR外部ドメインにおける抗体結合エピトープの変異による獲得耐性という発見も、先行研究のS492R変異報告とは異なる新規のエピトープ変異機序であった。

本研究の新規性:本研究で初めて、EGFR外部ドメインIII残基G465の変異が抗体治療後の獲得耐性として出現することが実証された。本研究で新たに、IRS2増幅・変異が感受性予測バイオマーカーとして機能することが同定された。これらの知見はセツキシマブ・パニツムマブ両薬に共通するエピトープ変異による交差耐性機序を初めて明確にし、既存抗体治療を超えた新規標的療法の開発の必要性を示した。

臨床応用への含意:129例中77%に治療関連変異が同定されたことは EGFR 経路の包括的ゲノムプロファイリングによる患者選択の強力な根拠を提供する。FGFR1増幅に対するBGJ398・ERBB2点変異に対するHER2標的薬・MAP2K1変異に対するMEK/ERK二重阻害など、各変異に対応するコンビネーション治療の前臨床実証は今後の臨床試験デザインに直接応用される。抗体治療獲得耐性 という観点では、G465E/R変異腫瘍でのPan-HER有効性が代替抗体開発の方向性を示した。

残された課題:129例中23%の治療関連変異未同定例の耐性機序解明、EGFR外部ドメイン変異を標的とするPan-HER等の臨床試験への展開、液体生検による動的耐性モニタリング法の標準化、IRS2を感受性バイオマーカーとして前向き試験で検証すること、およびERBB2点変異に対するHER2標的療法の有効性確認が挙げられる。本研究が提示したPDTモデルとゲノム解析の統合的フレームワークは大腸癌精密医療の基盤として参照される重要な研究である。

方法

肝転移由来KRAS野生型CRC 137例から患者由来腫瘍移植モデルを作製し、全エクソームシーケンシング (WES: whole exome sequencing、Agilent SureSelect v4キャプチャー、平均カバレッジ150×) およびコピー数解析を実施した。サンガーシーケンシングで当初KRAS野生型と判定されたが、WESでKRAS変異が新たに確認された8例を除外し、最終的に129例 (n=129 samples) を解析した。116例でセツキシマブ治療反応性を評価し、腫瘍体積変化に基づき疾患進行 (35%超増加、36例/31%)・安定 (41例/35%)・退縮 (35%超減少、39例/34%) の3カテゴリに分類した。65例の患者腫瘍ターゲットシーケンシングで臨床転帰との一致を確認した (試験番号: NCT00113763・NCT00891930・NCT00113776・NCT01126450)。セツキシマブ治療前後の連続検体22例でWESを実施し獲得耐性変異を同定した。統計解析はrepeated-measures ANOVA (全測定点でデータ完全な場合) および two-way ANOVA (脱落あり) で腫瘍体積変化を評価し、Bonferroni補正を適用した (一次比較3対のため補正後閾値p=0.017)。耐性変異腫瘍への集積評価はWelch’s two-sample t検定 (p<0.001) で実施した。