- 著者: Chetan Bettegowda, Mark Sausen, Rebecca J. Leary, Isaac Kinde, Yuxuan Wang, Nishant Agrawal, Bjarne R. Bartlett 他, Victor E. Velculescu, Kenneth W. Kinzler, Bert Vogelstein, Nickolas Papadopoulos, Luis A. Diaz Jr.
- Corresponding author: Luis A. Diaz Jr. (Ludwig Center for Cancer Genetics and Therapeutics, Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins); Nickolas Papadopoulos (同); Bert Vogelstein (同); Kenneth W. Kinzler (同); Victor E. Velculescu (同)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-02-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 24553385
背景
全がんの大多数は体細胞遺伝子変異を保有し、これらは正常細胞集団でほぼ生じないため、原理的に「腫瘍由来であることを高い特異性で示せる」分子マーカーとなる。一方、CA-125、CEA、PSA 等の従来型タンパク質バイオマーカーは健常者にも存在し、進行癌でも一定割合で陰性となるため臨床的有用性に限界がある。血中循環腫瘍 DNA (ctDNA) と循環腫瘍細胞 (CTC) は非侵襲的アクセス可能な腫瘍由来情報源だが、これまで多くの研究は単一癌腫を対象とし、DNA 抽出・解析プロトコルが研究間で異なるため横断比較が困難であった。例えば、Maheswaran et al. NEnglJMed 2008 はCTCにおけるEGFR変異検出を報告したが、ctDNAとの直接比較は限定的であった。また、Diehl et al. NatMed 2008 や Dawson et al. NEnglJMed 2013 はctDNAの動態を評価したが、広範な癌種での体系的な比較は不足していた。これらの先行研究から、ctDNAの広範な臨床的有用性を確立するためには、多様な癌種における検出能を統一プロトコルで評価し、その検出率を病期別に体系化することが重要な課題として残されている。
目的
本研究は、14 種類のヒト悪性腫瘍 640 例を統一プロトコルで解析し、(i) 各癌腫における ctDNA 検出率を病期別に体系化すること、(ii) ctDNA と循環腫瘍細胞 (CTC) の量・出現パターンを同一患者内で比較すること、(iii) 転移性大腸癌 (CRC) における KRAS 変異検出の感度・特異度を従来の組織生検と対比すること、(iv) 抗 EGFR 抗体療法 (cetuximab/panitumumab) 耐性獲得時の ctDNA 経時変化からメカニズムを推定すること、を目的とした。これらの目的を達成することで、ctDNAが多様な癌種において臨床的・研究的に広範に応用可能な、高感度かつ特異的なバイオマーカーであることを実証することを目指した。
結果
癌腫横断 ctDNA 検出率 (進行期): 転移癌では膵癌、卵巣癌、大腸癌、膀胱癌、胃食道癌、乳癌、メラノーマ、肝細胞癌、頭頸部癌で 75% を超える症例から ctDNA が検出された (Fig. 2A)。一方、原発脳腫瘍 (神経膠腫)、腎細胞癌、前立腺癌、甲状腺癌では 50% 未満に留まり、解剖学的バリア (血液脳関門) や腫瘍生物学 (増殖速度・血管浸潤性) が ctDNA 放出量を規定することを示唆した。ctDNA濃度は患者間で大きく異なり、TP53のような非増幅遺伝子を評価した場合でも変動が見られた (Fig. 2B)。本研究では、136 例の転移性腫瘍と 41 例の原発性脳腫瘍患者を評価した。ctDNAは脳以外の固形腫瘍患者 136 例中 112 例 (82%) で検出された。尤度比検定では、腫瘍タイプによって検出率が有意に異なることが示された (p < 0.001)。
限局期癌における ctDNA 検出率と病期相関: 限局癌でも CRC 73% (n=64)、胃食道癌 57% (n=21)、膵癌 48% (n=155)、乳腺腺癌 50% (n=33) という臨床的に意義のある検出率が確認された (Fig. 3A)。全癌種を合わせた場合、ステージ I 癌患者の 47% で ctDNA が検出され、ステージ II、III、IV ではそれぞれ 55%、69%、82% と、病期が進行するにつれて検出率が上昇した (Fig. 3B)。ctDNA濃度も同様に病期と相関して増加した (Fig. 3C)。Somers’ Dxy 順位相関は 0.337 であった。
ctDNA と CTC の比較: 同一患者内比較で ctDNA は CTC が検出されない多数の症例 (16例中13例、81%) で陽性となり、両者は異なるバイオマーカーであることが示された (Table 2)。ctDNAが検出された3例では、血漿中の変異断片数はCTC中のレベルより平均で 50倍以上高かった。この結果は、ctDNAの大部分がCTCから直接由来するものではないことを示唆する。
転移性 CRC における KRAS 変異検出の感度と特異度: 転移性 CRC 患者 206 例を対象とした盲検解析において、digital PCR による血漿 KRAS 変異検出の感度は 87.2%、特異度は 99.2% に達した (Table S3)。組織生検結果との一致率は 95% であり、κ統計量 0.88 (p < 0.0001) と高い相関を示した。血漿中で KRAS 変異が検出されなかった偽陰性例は、低 CEA レベル、粘液性組織型、低アラニンアミノトランスフェラーゼレベル、低白血球数、若年と関連していた (Table S4, S5)。また、ctDNA濃度は CEA レベルと正の相関を示した (Table S6, S7)。ctDNA濃度は生存予測において追加的な価値を提供し (尤度比検定、p = 0.00253)、ctDNA濃度が高いほど2年生存率が低下する傾向が認められた (Fig. 5)。
抗 EGFR 抗体耐性メカニズムの解析: cetuximab/panitumumab に客観的奏効後再発した CRC 患者 24 例の解析で、24 例中 23 例 (96%) が再発時に MAPK 経路の遺伝子変異 (KRAS、NRAS、BRAF、EGFR ectodomain 変異、MEK1 変異など) を 1 個以上獲得していた (Fig. 6)。検出された変異の平均数は 2.9 個 (範囲 0-12) であり、多くは多重変異 (polyclonal resistance) を呈した。特に KRAS コドン 61 変異と NRAS コドン 61 変異が頻繁に検出され、全変異の 45% を占めた。これらの変異は治療開始前には検出されなかった。
点突然変異と再配列の比較: 19 例の患者において、血漿中の点突然変異と腫瘍特異的再配列の絶対数を比較したところ、両者の変異断片数は高い相関 (相関係数 0.96) を示した (Fig. 4)。ただし、4 例では再配列を含む循環DNA断片数が点突然変異の 10倍以上であった。これは、解析に選択された再配列が腫瘍における遺伝子増幅の結果として生じたためである。
考察/結論
本研究は ctDNA の臨床応用可能性を 14 がん腫・640 例という当時最大規模で系統的に検証した最初の論文であり、liquid biopsy 概念を広範な癌腫に拡張する転換点となった。
先行研究との違い: これまでの研究は単一癌腫に焦点を当て、DNA抽出・解析プロトコルが研究間で異なっていたため、癌腫間のctDNA検出能の直接比較は困難であった。本研究は統一プロトコルを用いることで、多様な癌種におけるctDNA検出率を病期別に体系化し、その違いを明確に示した点で、これまでの研究と対照的である。また、ctDNAとCTCの直接比較において、ctDNAがCTCよりも広範な癌種で検出され、かつ高濃度であるという知見は、両者が異なるバイオマーカーであることを示唆し、先行研究の相反する結論に一石を投じるものである。
新規性: 本研究で初めて、進行癌だけでなく限局癌においても、結腸直腸癌で 73%、胃食道癌で 57%、膵癌で 48%、乳腺腺癌で 50% という臨床的に意義のあるctDNA検出率を報告した。これは、ctDNAが早期発見や術後再発モニタリングに利用できる可能性を新規に示したものである。さらに、抗EGFR抗体療法後に再発した患者のctDNAを解析することで、組織生検では捉えきれない多クローン性耐性 (polyclonal resistance) のメカニズムを、MAPK経路の多様な遺伝子変異として特定できたことは、これまで報告されていない新規の知見である。特にKRASおよびNRASのコドン61変異が耐性獲得に頻繁に関与していることを明らかにした。
臨床応用: 本知見はctDNAの臨床応用を大きく加速する。進行CRC、膵癌、卵巣癌等ではctDNAは確立的バイオマーカーとして利用可能であり、組織生検が困難な症例での代替手段として、KRAS変異検出の感度 87.2%、特異度 99.2% という実用水準に達している。また、抗EGFR抗体耐性研究は、ctDNAが治療抵抗性メカニズムのリアルタイムな特定に有用であることを示し、その後のosimertinib耐性C797Sモニタリング、術後minimal residual disease (MRD) サーベイランス、早期癌検出 (CancerSEEK等) の臨床開発の理論的基盤となった。ctDNA濃度と生存期間の相関 (p = 0.00253) は、ctDNAが予後予測にも有用な臨床的意義を持つことを示唆する。
残された課題: 今後の検討課題として、(i) clonal hematopoiesis (CHIP) による偽陽性の影響評価と対策、(ii) 早期癌検出の感度限界 (特にゲノム変異量が少ない癌腫) の克服、(iii) 多遺伝子パネルの標準化と臨床判断アルゴリズム策定、(iv) 限局癌の術後補助療法判断への組み込みエビデンス確立が残されている。また、神経膠腫、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌のようにctDNA検出率が低い癌腫では、CSF ctDNA、尿ctDNA、メチル化マーカー等の補完的アプローチが必要となる。本論文は液体生検の臨床導入を加速した citation 数千超のランドマークである。
方法
14 がん腫の患者血漿 (および対応腫瘍 DNA) を統一プロトコルで処理し、digital PCR ベース技術 (Safe-SeqS、PARE 等) で点突然変異と構造変化 (再配列) の双方を検出した。各症例について「mutant template/mL plasma」として絶対定量化することで癌腫間横断比較を可能にした。CTC は CellSearch 法で同時定量し ctDNA と直接比較した。CRC コホート (n=206) で KRAS 変異検出の感度・特異度を組織生検と対比した。抗 EGFR 抗体療法に奏効後再発した CRC 24 例で、奏効前後の血漿サンプルを digital PCR/シーケンスで連続解析し MAPK 経路変異の出現を追跡した。腫瘍DNAの変異同定には、ターゲットシーケンス、エクソームシーケンス、または全ゲノムシーケンスが用いられた。ctDNAの検出には、1 mutant template/5 mL plasmaの感度を持つ3種類のデジタルPCR法が使用され、これらは同等の結果を示した (Fig. S1)。統計解析には、異なる腫瘍タイプ間のctDNA検出率の比較に尤度比検定 (likelihood ratio test) が用いられ、病期とctDNA検出率の相関には Somers’ Dxy 順位相関が使用された。ctDNA濃度と生存期間の関連は、Cox回帰モデルを用いて評価された。