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Mitochondria directly interact with the nuclear pore complex

  • 著者: Ivan Menendez-Montes, Consuelo Marin-Vicente, Shibani Mukherjee, Jesus Vazquez, Miguel Torres, Hesham A. Sadek ほか
  • Corresponding author: Hesham A. Sadek (UT Southwestern Medical Center / CNIC)
  • 雑誌: Nature, Vol 654, 786–
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42271060

背景

ミトコンドリアは古典的には ATP 産生小器官と説明されてきたが、他の小器官との直接 ・間接的相互作用を通じて多様な細胞過程を制御する。よく研究された例がミトコンドリア-小胞体接触 (MAM: mitochondria-associated ER membrane) で、レドックスやカルシウム恒常性、リン脂質交換、活性酸素種 (ROS) 生成を担う。ミトコンドリアはリソソーム ・ペルオキシソーム ・脂質滴 ・(酵母では) 液胞とも相互作用し、空間的 ATP 需要に応じて細胞内局在を変える運動性小器官である ( 小器官の細胞内輸送と協調の総説は Barlan et al. CurrOpinCellBiol 2013 を参照 )。ミトコンドリアは細胞間でも転移しうること (Hoover et al. Nature 2025) 、代謝物輸送がその機能維持に重要であること (Zhu et al. MolCell 2026) も近年示され、ミトコンドリアの位置と物質輸送の制御が細胞機能の鍵であることが明らかになりつつある。ミトコンドリアと核の長距離コミュニケーションは広く研究されてきた一方、両小器官の密接な物理的相互作用を記述した報告は少ない。

近年、低酸素やがん細胞の TRAIL 誘導アポトーシスでミトコンドリアが核周囲に集積すること、がん細胞 ・酵母でミトコンドリア-核膜接触が生存促進シグナルを伝えること、mitofusin-2 を介したミトコンドリア-核膜相互作用が pyruvate dehydrogenase 複合体の核取り込みを促してヒストンアセチル化を助けることが先行研究で示された。しかし、これらの研究はミトコンドリア-核の直接相互作用を示しつつも、不透過性の両膜を越えてどのように cargo (ATP などのエネルギー分子) が交換されるのかは未解明であった。核膜孔複合体 (NPC: nuclear pore complex) は 30 を超える蛋白からなる巨大複合体で核-細胞質間輸送を担うが、ミトコンドリアが NPC と直接相互作用するかどうか、その分子実体と機能的意義を体系的に示した研究が足りていなかった。本研究はこの空白を、2 種の非バイアスプロテオミクススクリーニングと CRISPR ベースの in vitro ・in vivo モデルで埋める。

目的

ミトコンドリアが核膜孔複合体と直接相互作用するか、その分子的実体 (結合蛋白対と結合残基) を非バイアスに同定し、相互作用の機能的意義を明らかにすること。具体的には、(1) ミトコンドリア外膜 (OMM) 蛋白と NPC 蛋白の直接結合対を 2 種の独立プロテオミクスで同定し、(2) 結合の構造基盤と必須アミノ酸残基を決定し、(3) 結合喪失がミトコンドリア-核近接 ・核内エネルギー (ATP ・ホスホクレアチン) ・核ホスホプロテオーム ・クロマチン ・細胞分化に与える影響を in vitro で検証し、(4) マウス個体で結合ドメイン欠失の発生学的帰結を評価することを目的とした。

結果

2 種の非バイアススクリーニングが VDAC1–RANBP2 結合を同定:GST (グルタチオン S 転移酵素) pulldown と BioID (近接ビオチン標識プロテオミクス) の 2 種の独立スクリーニングで、ミトコンドリア外膜の VDAC1 (voltage-dependent anion channel 1) が核膜孔フィラメント蛋白 RANBP2 (RAN-binding protein 2、別名 NUP358) と相互作用する最上位候補と同定された。精製心筋ミトコンドリアを用いた GST–CTD (RANBP2 C 末端ドメイン) pulldown は特異的な 40 kDa バンドを与え、VDAC1 が CTD 画分に最も豊富に濃縮された OMM 蛋白であった (対照比 1.5 倍超) 。ビオチンリガーゼ BirA を TOM20 (OMM マーカー蛋白) または CTD に融合した BioID では、VDAC1 が OMM に唯一局在する近接蛋白であった。免疫染色 ・近接ライゲーションアッセイ (PLA: proximity ligation assay) で 10T1/2 細胞と心臓の接触部位に VDAC1–RANBP2 シグナルが検出され、Ranbp2-KO 細胞では消失した。VDAC3 は VDAC1 と同程度に豊富だが CTD サンプルでビオチン標識を受けず、配列差に基づくアイソフォーム特異的結合が示された (Fig 2c, 2d) 。

結合の構造基盤と必須残基:AlphaFold 構造予測は CTD と VDAC1 細胞質側表面の高信頼度の相互作用 (predicted local distance difference test > 70%) を示し、媒介残基として RANBP2 の F2977–D2978 と VDAC1 の E50–T51–T52 (ETT) を同定した。この結合は約 10 Å 径のチャネルを形成し VDAC1 孔を塞がず、ホスホクレアチン (PCr、径 6.8–8.2 Å) や ATP の直接輸送を促しうる。VDAC1 ETT>ILL および CTD FD>AA 変異は CTD 位置をずらして結合面を減じ複合体構造を破壊した (個々の蛋白の 3D 折り畳みは不変) 。VDAC1-null hiPS 細胞 (ヒト人工多能性幹細胞) での FLAG ビーズ免疫沈降では、WT VDAC1 は CTD と強く結合したが ETT ・FD 変異で有意に減弱した。ETT トライアドはヒト ・マウス VDAC1 で保存されるが VDAC3 には欠如し、アイソフォーム特異性を説明した (Fig 2g–l) 。

接触喪失で核内 ATP ・ホスホクレアチンが低下:CRISPR-Cas9 で 10T1/2 細胞 (マウス胚線維芽細胞株) に RANBP2-KO 株 (RKO) を作製し、qPCR ・western blot ・免疫染色で欠失を確認した。ミトコンドリア-核接触を「contact site score」(MitoTracker 表面から距離 0 の ONM (外核膜) 上の SYNE3 点数を正規化) で定量すると、RKO は有意に減少した (P = 0.0212、n = 19 WT vs 20 RKO 細胞) 。同様に VDAC1-KO でも接触が減少した。クロマチン標的型 ATP FRET (蛍光共鳴エネルギー移動) センサー (ATeam-H2AX) で RKO の核内 ATP が有意に低下し (Kruskal–Wallis + Dunn、WT vs RKO P = 0.0249) 、反応拡散生物物理モデルはミトコンドリア距離が 50 nm (係留) から 500 nm (非係留) へ増えると ATP 濃度が約 90% 低下すると予測した。核内 PCr も RKO で全時点で有意に減少し (adjusted P < 0.0001、n = 284–683 細胞) 、細胞質 PCr は経時的に蓄積して核取り込み障害を示した。これは増殖遅延と G1→S 移行欠陥 ・細胞周期非依存性であった (Fig 3a–l) 。

核ホスホプロテオーム ・クロマチン ・分化の障害:ATP は多くの ATP 要求性核過程 (DNA 合成 ・修復 ・転写 ・クロマチン修飾) のリン酸化に必要なため、ホスホプロテオミクスを行うと RKO で核ホスホペプチドが減少し、ヒストン修飾 ・細胞分化 ・転写制御に関わる経路が下方制御された。ATAC-seq (クロマチン接近性解析) ・H3K27me3 ChIP-seq (クロマチン免疫沈降シーケンス) でクロマチン構造の変化も認められた (ヒストンメチル化変化は二次的と推定) 。これは核内エネルギー供給が細胞分化の前提条件であることを示し、4 週間の自発分化で RKO は成熟系譜への移行が障害された (Fig 4a–d) 。

マウス RANBP2-CTD 欠失は分化遅延で胎生致死:CRISPR-Cas9 で RANBP2 の C 末端を欠失させたマウス (RANBP2ΔCTD) は、ホモ接合で胎生致死を示し、E10.5 では Mendel 比だが E14.5 では回収されなかった (Wilcoxon P = 0.0039、n = 5 litters) 。KO 胚は有意に小さく、TEM (透過型電子顕微鏡) で神経管の OMM–NPC 間距離が孔特異的に増大した (Mann–Whitney P = 0.0006) 。心臓では両心室の心筋壁菲薄化 (アポトーシス非依存、two-way ANOVA P = 0.0018/0.0090) 、神経管では頭側閉鎖不全を認めた。pH3⁺ 心筋細胞増加 ・細胞サイズ縮小により、ΔCTD の E10.5 心臓は正常 E9.5 心臓に酷似し発生遅延が示された。神経管では Tuj1⁺ (神経分化マーカー) 面積減少 (分化障害) と EdU/BrdU 二重標識による細胞周期長 Tc の短縮 (KO 約 7.5 h vs WT 11 h) を示し、未熟で高速分裂する前駆細胞状態への滞留が確認された (Fig 5a–s) 。

考察/結論

本研究は、NPC フィラメント蛋白 RANBP2 と OMM 蛋白 VDAC1 が媒介するミトコンドリア-核膜孔の物理的係留という、これまで認識されていなかった相互作用を報告した。よく研究されてきた MAM (ミトコンドリア-小胞体接触) とは異なり、また mitofusin-2 を介したミトコンドリア-核膜接触を示した先行研究とは対照的に、本研究が同定した相互作用は核膜孔という特定構造を標的とし、解剖学的にも機能的にも区別される。不透過性の両膜を越えた cargo 交換機構が未解明だったこれまでの空白に対し、VDAC1 孔を塞がない約 10 Å チャネルを介した ATP/PCr の直接供給という機構を提示した。

第二に、ミトコンドリア-NPC 係留が核内エネルギー (ATP ・PCr) を供給し、その喪失が核ホスホプロテオーム低下とクロマチン構造変化を介して細胞分化を障害するという因果連関は、本研究で初めて示された新規な知見である。とくに反応拡散モデルによる「50 nm から 500 nm でミトコンドリア由来 ATP が約 90% 減衰」という定量予測と、RANBP2-CTD–VDAC1 ETT という具体的結合残基の同定は、これまで報告されていない分子 ・物理的設計原理を与える。核が PCr を利用するためのミトコンドリア (CKMT1/2) ・核 (CKB) クレアチンキナーゼアイソフォームの同定も機構を裏づける。

第三に、臨床応用 ・臨床的意義の観点では、RANBP2 変異が急性壊死性脳症などヒト疾患と関連することを踏まえると、ミトコンドリア-NPC 係留の破綻が核エネルギー欠乏を介して発生 ・神経 ・心疾患の病態に寄与しうる translational な示唆がある。胎生致死が心臓 ・神経堤の分化遅延に起因する点は、エネルギー供給と発生プログラムの橋渡しを示す。

第四に、残された課題がある。本研究は主に 10T1/2 細胞 ・hiPS 細胞 ・マウス胚を用いており、成体組織や他の細胞種での役割は今後の検討課題である。ATP/PCr 以外の cargo (代謝物 ・シグナル分子) がこのチャネルを通るか、相互作用がどう動的に制御されるかは未解明で、著者自身もこの相互作用の追加的役割が今後明らかにされるべき限界 (limitation) と述べている。総じて本研究は、ミトコンドリアが核膜孔複合体と直接相互作用して核エネルギーと細胞分化を制御する機構を確立した。

方法

研究デザインは、非バイアスプロテオミクス ・構造予測 ・CRISPR ベースの in vitro ノックアウトと in vivo マウスモデルを組み合わせた機構研究である。結合同定は精製心筋ミトコンドリアを用いた GST–CTD pulldown と、BirA を TOM20 または CTD に融合した BioID 近接標識プロテオミクスの 2 経路で行った。構造予測は AlphaFold (RANBP2-CTD: PDB 4I9Y、VDAC1: PDB 6G6U) で、結合残基変異 (VDAC1 ETT>ILL、CTD FD>AA) をモデル化し、VDAC1-null hiPS 細胞で T2A 二シストロン性に WT/変異 VDAC1 と FLAG–CTD を化学量論的に共発現させて FLAG ビーズ免疫沈降で検証した。細胞株は CRISPR-Cas9 で RANBP2-KO (RKO) ・VDAC1-KO を 10T1/2 背景で作製。評価はミトコンドリア-核接触の confocal/super-resolution イメージング + Imaris 3D 再構築による contact site score、クロマチン標的型 ATP FRET センサー ATeam-H2AX、PCr ・creatine kinase アイソフォーム免疫染色、ホスホプロテオミクス、ATAC-seq、H3K27me3 ChIP-seq、EdU/BrdU 二重パルス標識による細胞周期 (Ts/Tc) 算出を用いた。in vivo は CRISPR-Cas9 で RANBP2 C 末端を切断した RANBP2ΔCTD マウスを作製し、E10.5–E14.5 で胚回収 ・組織学 ・TEM ・pH3/Tuj1/cTnT 免疫染色を行った。統計は two-tailed unpaired/Welch’s t-test、Mann–Whitney U-test、Kruskal–Wallis + Dunn、two-way ANOVA + Sidak/Tukey、Wilcoxon rank-sum を用い、反応拡散生物物理モデルで NPC の ATP 濃度を距離の関数として予測した。