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TGF-β1-induced endothelial transcytosis drives blood-brain barrier leakage during aging

  • 著者: Cheng Fang, Yinzhong Ma, Pengju Wei ほか(Cheng Fang と Yinzhong Ma は equal contribution)
  • Corresponding author: Junlei Chang(Shenzhen Institutes of Advanced Technology, Chinese Academy of Sciences)
  • 雑誌: Neuron
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-03(Accepted)
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1016/j.neuron.2026.06.003

背景

血液脳関門 ( blood-brain barrier; BBB ) は血液と中枢神経系 ( CNS ) の間の物質交換を厳密に制御する構造であり、その破綻は神経毒性分子・炎症因子・免疫細胞の脳内侵入を許して神経炎症と神経細胞傷害を招く。ヒト・動物において BBB の破綻は正常加齢とともに進行し、認知機能低下と密接に相関することが知られ、CSVD ( cerebral small vessel disease ) や VCI ( vascular cognitive impairment ) を含む加齢関連の脳血管・神経変性疾患への寄与因子として注目されている。しかし加齢過程で BBB がどのように破綻するのかは十分に解明されていない。

BBB の完全性は内皮細胞 ( EC )・pericyte・astrocyte 足突起・neuron・細胞外基質 ( ECM ) からなる NVU ( neurovascular unit ) によって決定される。この BBB 抑制因子として脂質輸送体 Mfsd2a ( major facilitator superfamily domain-containing 2a ) と caveolae 構造タンパク Cav-1 ( caveolin-1 ) が中心的役割を担う。脳微小血管 EC は BBB の中核をなし、細胞間の高密度な tight junction ( TJ ) による paracellular 経路の制御と、低頻度の caveolae 介在性 transcytosis および有窓構造の欠如による transcellular 経路の制限という特性を備える。これまでの研究では、加齢に伴う BBB 破綻は claudin-5・occludin・ZO-1 など TJ タンパク減少による paracellular 透過性亢進に帰せられてきたが(Elahy et al. 2015; Stamatovic et al. 2019)、TJ 劣化と加齢性 BBB 破綻を結びつける機能的証拠は限定的かつ一貫しない。近年、Yang et al. 2020 は脳 EC において加齢に伴い受容体介在性 transcytosis から非特異的 caveolae 介在性 transcytosis への転換が生じることを報告し、transcellular 経路が加齢性 BBB 破綻の重要な寄与因子として浮上した。Mfsd2a が caveolar transcytosis を能動的に抑制することは Andreone et al. 2017 らの先行研究で確立され、加齢脳での Mfsd2a 発現低下と pericyte 被覆減少が併存することも知られる。それでも paracellular 対 transcellular 経路の相対的寄与、両者が並行的か逐次的か、そして最も重要な「BBB 破綻を開始させる上流トリガー」は依然として不明であり、この点の機序的解明はこれまで手薄で十分に検討されていなかった。本研究は加齢性 BBB 破綻の発症・進展・分子基盤を、TGF-β1 シグナルとその下流効果に焦点を当てて解明することを試みた。

目的

本研究の目的は、加齢に伴う BBB 破綻が (1) いつ発症しどのように進展するか、(2) paracellular ( TJ ) 経路と transcellular ( caveolar transcytosis ) 経路のいずれが主因か、(3) その分子的上流トリガーは何か、を明らかにすることである。特に、加齢脳で上昇する TGF-β1 が脳微小血管 EC の Mfsd2a を抑制して caveolar transcytosis を亢進させ BBB を破綻させるという仮説を、遺伝学的 ( 内皮特異的 Tgfbr2 ノックアウト、AAV による Mfsd2a 復元・Cav-1 ノックダウン ) および薬理学的 ( TGFBR1/2 阻害薬 LY2109761、TGF-β 受容体 kinase 阻害化合物 ) 手法で検証し、TGF-β1-Tgfbr2-Smad2/4-Mfsd2a 軸を加齢性 BBB 破綻の治療標的として位置づけることを狙う。

結果

BBB 漏出は加齢の早期に始まり性差なく進行する:C57BL/6J マウスを young ( 2-4 ヶ月 )・mature ( 6-8 ヶ月 )・middle-aged ( 10-12 ヶ月 )・aged ( 16-18 ヶ月 ) の 4 群に分け、外因性 3-kDa dextran と内因性 albumin ( ∼66 kDa )・IgG ( ∼150 kDa ) の血管外漏出で BBB 完全性を評価した。Western blot では血管外 albumin・IgG が 2-8 ヶ月ではほぼ検出されず、10-12 ヶ月で顕著に上昇、16-18 ヶ月で最高となった ( Fig 1B, 1C )。免疫蛍光 ( IF ) トレーサー解析では 6-8 ヶ月の海馬で 3-kDa dextran と albumin の軽度漏出が始まり、10-12 ヶ月で全トレーサーが海馬・皮質ともに大幅増加した ( Fig 1D, 1E )。すなわち BBB 漏出は中年期に海馬から先行して始まり、小分子が先・大分子は後というトレーサーサイズ依存性の進行を示す。雌雄間で 6-8 ヶ月・10-12 ヶ月とも漏出程度に有意差はなく ( Fig 1F-1H )、以降の実験には両性をほぼ等比で組み入れた。

内皮 transcytosis は明白な TJ 破壊に先行して亢進する:主要 TJ タンパク claudin-5・occludin・ZO-1 の発現・局在は young から aged まで概ね保たれ、claudin-5 減少は ultra-aged ( 26-27 ヶ月 ) でのみ観察された ( Fig 2A, 2B )。透過電子顕微鏡 ( TEM ) では TJ は aged まで形態的に無傷で、ultra-aged で初めて焦点性の不連続・電子密度低下・配向変化を呈し、HRP ( ∼44 kDa ) 灌流 TEM でも TJ を越える paracellular 漏出は ultra-aged 群のみで明らかであった ( Fig 2C, 2E )。一方 caveolar transcytosis 側では、Mfsd2a が海馬血管で 6-8 ヶ月・皮質血管で 10-12 ヶ月に減少し、caveolae 構造タンパク caveolin-1 ( Cav-1 ) は加齢とともに漸増した ( Fig 2F-2J )。TEM では HRP 充填小胞を含む内皮小胞密度が 16-18 ヶ月で有意に増加し ultra-aged でも高値を維持した ( Fig 2K, 2L )。したがって加齢早期の BBB 漏出は TJ 破壊ではなく内皮 transcytosis の活性化が主に駆動する。

Caveolar transcytosis が加齢早期の BBB 漏出を媒介する:免疫金 EM では Cav-1 陽性小胞が young 対照より aged・ultra-aged で顕著に増加し、多くは caveolae 特有の flask 状形態とサイズ ( 50-100 nm ) を示した ( Fig 3A )。AAV9 shCav1 による内皮 Cav-1 ノックダウンは aged マウスの内皮小胞数を有意に減少させ、脳 IgG 量の低下として BBB 漏出を軽減した ( Fig 3D-3G )。さらに脳内皮特異的 AAV-BI30 ( adeno-associated virus BI30 血清型、脳内皮向性 ) を用いた AAV-BI30-Mfsd2a 投与で Mfsd2a を復元すると、HRP 充填小胞密度と DAB 染色 HRP 沈着が著明に低下し、脳 IgG 漏出も減少して BBB 完全性が回復した ( Fig 3K-3Q )。Mfsd2a 過剰発現 aged マウスは Y-maze の自発交替の改善も示した ( Fig S2F )。これらは Mfsd2a 低下・Cav-1 上昇による過剰な内皮小胞輸送こそが加齢性 BBB 漏出の一次駆動因子であることを示す。

TGF-β1 が Tgfbr2-Smad2/4 経路で Mfsd2a 転写を抑制する:SHH ( sonic hedgehog )・Wnt3a・VEGF・bFGF・TGF-β1 の分泌因子スクリーニングで、TGF-β1 と bFGF のみが mPBEC と hCMEC/D3 で Mfsd2a を強く抑制した。TGF-β1 は hCMEC/D3 で MFSD2A ( major facilitator superfamily domain 2A ) タンパクを 0-100 ng/mL(最高用量 100 ng/mL)の用量依存的・0-48 h の時間依存的に抑制し(n = 3-6 replicates/group)、mRNA レベルでも低下させ転写抑制であることを示した ( Fig 4A-4F )。TGFBR1/2 阻害薬 LY2109761 は TGF-β1 誘導性の Smad2 リン酸化 ( p-Smad2 ) と MFSD2A 低下を用量依存的に阻止し、TGFBR2 または Smad4 ( Smad family member 4、共役転写因子 ) の siRNA ノックダウンも TGF-β1 の抑制効果を消失させた ( Fig 4G-4I )。ChIP-qPCR では TGF-β1 が MFSD2A プロモーター近位領域 ( −6〜+121 bp ) への Smad2/3 結合を誘導し、dual-luciferase レポーターアッセイで TGF-β1 は MFSD2A プロモーター活性を低下させ、これは LY2109761 前処理で消失した ( Fig 4K, 4L )。機能面では TGF-β1 は hCMEC/D3 の caveolae 形成を増加させ、蛍光 NBD-LPC ( nitrobenzoxadiazole-labeled lysophosphatidylcholine ) 取り込みを減少・CTB ( cholera toxin B subunit ) カーゴ取り込みを促進し、これらは Mfsd2a 過剰発現で消失した ( Fig 4M-4R )。

脳・血中 TGF-β1 の上昇が in vivo で BBB を破綻させる:young マウスへの recombinant TGF-β1 の脳室内 ( i.c.v. ) 投与は脳 TGF-β1・p-Smad2 を増加させ Mfsd2a を低下、albumin・IgG 漏出を増加させたが TJ は破壊せず HRP 充填小胞のみを有意に増やした ( Fig 5B-5G )。この BBB 障害は AAV-BI30-Mfsd2a による Mfsd2a 復元でほぼ完全に阻止された ( Fig 5J-5N )。脳 TGF-β1 タンパクは 6-8 ヶ月から有意に増加し 10-12 ヶ月で 2-fold 超に達したが、脳 Tgfb1 mRNA は 6-8 ヶ月で不変・後にわずか ( <1.5-fold ) 上昇にとどまり ( Fig 6A-6C )、single-cell 解析でも加齢脳のいずれの細胞集団でも Tgfb1 mRNA は増加せず、血中など脳外由来を示唆した。血清 total・active TGF-β1 は加齢早期から上昇し ( Fig 6G )、young マウスへの Ad-TGF-β1 ( adenovirus 発現 TGF-β1 ベクター ) 静注は血中 active TGF-β1 を投与 3 日後に急増させ、7 日後に脳 TGF-β1・p-Smad2 上昇・Mfsd2a 低下・IgG 増加・HRP 充填小胞の劇的増加という aged BBB 表現型を再現した ( Fig 6I-6L )。

Tgfbr2 内皮欠失と LY2109761 が BBB と認知機能を回復させる:誘導性内皮特異的 Tgfbr2 ノックアウト ECKO ( endothelial cell-specific knockout ) マウスでは aged 内皮の p-Smad2 が young WT 並みに低下し、Mfsd2a 発現が保たれ、HRP 充填小胞・HRP 血管外漏出・血管外 IgG 沈着が aged WT に比べ著明に軽減した ( Fig 7B-7I )。薬理学的には aged マウスへの LY2109761 7 日間投与が内皮 p-Smad2 を脳 TGF-β1 に影響せず低下させ、海馬・皮質の Mfsd2a を増加、albumin・IgG 漏出と caveolar transcytosis を減少させた ( Fig 8B-8J )。神経行動学的には open field で中心滞在時間が延長 ( 不安低下 )、Y-maze で自発交替が増加 ( 空間作業記憶改善 )、novel object recognition で新規物体探索時間が増加 ( 認知改善 ) した ( Fig 8K-8M )。すなわち過活性化した TGF-β1 シグナルの短期阻害で BBB 完全性と神経機能の双方が改善する。

考察/結論

本研究は加齢性 BBB 漏出が中年期に始まり、脳 EC における TJ 劣化ではなく caveolar transcytosis の亢進が主因であること、そしてその上流に脳・血中由来 TGF-β1 による Tgfbr2-Smad2/4 経路を介した Mfsd2a 転写抑制があることを示した。先行研究との違い:これまで加齢性 BBB 破綻の主たる焦点であった TJ タンパク減少に関して、本研究は claudin-5・occludin・ZO-1 のいずれにも <18 ヶ月では顕著な減少を認めず、TJ 破壊は 26-27 ヶ月の ultra-aged でのみ生じた点で、22 ヶ月超のより高齢マウスを用いた従来報告と対照的である。この相違は使用マウスの若齢さで説明され、機能的 TJ 障害は進行した高齢でのみ出現すると再解釈できる。新規性:TGF-β1 が Mfsd2a 転写を直接抑制して内皮 transcytosis を駆動するという因果連関を本研究で初めて in vivo・in vitro で確立した点は novel であり、TGF-β1 が BBB 発生・完全性には必須である一方、過剰量では Smad シグナルを過活性化し NVU を傷害するという濃度依存的二相性の detrimental な側面を新規に位置づけた。血中 TGF-β1 が脳 Tgfb1 mRNA 増加を伴わずに aged BBB 表現型を再現した知見は、脳外 ( 血小板を含む循環 ) 由来 TGF-β1 の寄与を強く示唆する。臨床応用:加齢早期から作動する TGF-β1-Tgfbr2-Smad2/4-Mfsd2a 軸は CSVD や VCI に直接的な意義を持ち、LY2109761 のような TGFBR1/2 阻害薬の短期投与が BBB 完全性と認知機能を回復させたことは、加齢性神経血管障害に対する translational な治療標的としての有用性を示す。残された課題:limitation として、BBB 漏出と NVU 変化の評価が限られた時点に限定され逐次的順序を厳密に決定できないこと、加齢時の循環 TGF-β1 上昇源 ( 特に血小板由来か ) が未確定であること、pericyte 喪失の寄与機序と pericyte における TGF-β シグナルの役割が未解明であることが挙げられ、これらは今後の検討課題である。総じて本研究は加齢性 BBB 漏出の機序を照らし、過剰 TGF-β1 誘導性内皮 transcytosis を治療標的として提示した。

方法

実験モデルは C57BL/6J マウス ( young 2-4 ヶ月〜ultra-aged 26-27 ヶ月 ) と、誘導性内皮特異的 Tgfbr2 ノックアウト ( Tgfbr2 ECKO ) マウス ( tamoxifen 経口投与で Cre 介在性 Tgfbr2 欠失を誘導 ) を用い、雌雄をほぼ等比で組み入れた。細胞株はヒト脳微小血管内皮細胞 hCMEC/D3 とマウス初代脳内皮細胞 ( mPBEC ) を使用した。in vivo 遺伝子操作は内皮向性 AAV9 shCav1 ( Cav-1 ノックダウン )・脳内皮特異的 AAV-BI30-Mfsd2a ( Mfsd2a 過剰発現 )・Ad-TGF-β1 静注 ( 血中 TGF-β1 上昇 )・recombinant TGF-β1 の脳室内 ( i.c.v. ) 投与で行った。BBB 透過性は 3-kDa dextran・albumin・IgG の血管外漏出、HRP 灌流後の TEM・DAB 染色、免疫金 EM ( Cav-1 陽性小胞 ) で評価した。分子機序は RT-qPCR・Western blot・siRNA ノックダウン ( TGFBR2, Smad4 )・ChIP-qPCR ( Smad2/3 のプロモーター結合 )・dual-luciferase レポーターアッセイ・NBD-LPC 取り込み / CTB カーゴ取り込みアッセイで解析し、TGFBR1/2 阻害薬 LY2109761 を in vitro・in vivo で用いた。細胞ソース同定には young ( 2-3 ヶ月 ) と aged ( 21-23 ヶ月 ) マウス脳の公開 single-cell transcriptomics データベースを再解析した。統計は多群比較に one-way ANOVA with Holm-Sidak’s multiple comparison test、2 群比較に unpaired Student’s t 検定、血清 TGF-β1 の加齢推移に simple linear regression を用い、データは mean ± SEM で示し、n = 4-6 匹/群 ( 行動試験は 7-9 匹/群 ) を基本とした。