- 著者: Jason Madore, Ricardo E. Vilain, Alexander M. Menzies, Hojabr Kakavand, James S. Wilmott, Jessica Hyman, Jennifer H. Yearley, Richard F. Kefford, John F. Thompson, Georgina V. Long, Peter Hersey, Richard A. Scolyer
- Corresponding author: Richard A. Scolyer (richard.scolyer@melanoma.org.au) (Melanoma Institute Australia; Tissue Pathology and Diagnostic Oncology, Royal Prince Alfred Hospital, Sydney, NSW, Australia)
- 雑誌: Pigment Cell & Melanoma Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2014-12-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 25477049
背景
メラノーマはPD-1/PD-L1阻害療法の主要な適応癌腫であり、nivolumabやpembrolizumabなどの抗PD-1抗体が、高い奏効率と生存期間の延長を示している。PD-L1の腫瘍発現が奏効と相関するという知見も蓄積されていたが (Topalian et al. NEnglJMed 2012やHamid et al. NEnglJMed 2013など)、PD-L1陰性患者でも奏効が見られるため、PD-L1の予測バイオマーカーとしての有用性には疑問が残されていた。PD-L1発現が腫瘍内・腫瘍間でどの程度不均一であるか、病期進行 (原発巣→所属リンパ節転移→遠隔転移) に伴い変動するか、また腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) とどのように関連するかを系統的に評価した縦断研究はこれまで報告されておらず、この点が未解明であった。特に、PD-L1発現の不均一性がPD-1/PD-L1阻害療法の効果予測に与える影響についての包括的な理解が不足しており、このギャップを埋めることが喫緊の課題であった。これらの問いは、PD-1/PD-L1阻害療法の臨床開発とバイオマーカー評価法の確立に直結する重要課題であり、その解明が不足していた。
目的
免疫療法未治療の転移性メラノーマ患者からの縦断的 (原発巣・所属リンパ節転移・遠隔転移) FFPE検体においてPD-L1 IHC (Merck 22C3 mAb) を実施し、(1) 原発巣〜転移巣間の患者内PD-L1発現一致性、(2) PD-L1発現の臨床病理学的・予後的因子との相関、(3) TILグレードとPD-L1の組み合わせによる患者層別化の有用性を解析することを目的とした。
結果
転移性メラノーマ患者の76%がPD-L1陽性、しかし腫瘍内・患者内不一致が著明: 139検体全体の中央PD-L1頻度は1%であった。PD-L1陽性検体のみの中央頻度は8%であった (n=71検体)。検体レベルの陽性率は、原発巣 (PM) で51% (n=43)、所属リンパ節転移 (LR) で57% (n=51)、遠隔転移 (DM) で42% (n=45) であった。患者レベル (少なくとも1検体陽性を陽性と定義) では、46名中35名 (76%) がPD-L1陽性であった。患者内不一致パターンは、heterogeneous (検体によって陽性/陰性) が52% (24/46名)、homogeneously positiveが26% (12/46名)、homogeneously negativeが22% (10/46名) であった。9名の患者 (約20%) は、高TILグレードであっても全ての縦断検体でPD-L1陰性を維持した。PD-L1発現は、腫瘍細胞の細胞膜に強く染色され、一部の腫瘍細胞では弱い細胞質染色も認められたが、核染色は見られなかった (Figure 2)。
原発巣・転移巣間でPD-L1発現に有意な患者内一致性はなし: 原発巣と所属リンパ節転移間のPD-L1発現一致性は有意でなかった (n=31, McNemar’s P=0.75)。同様に、原発巣と遠隔転移間 (n=24, P=1.0)、所属リンパ節転移と遠隔転移間 (n=21, P=0.73) でも統計的に有意な一致性は認められなかった (Table 3)。この結果は、原発巣のPD-L1発現が転移巣のPD-L1状態を予測しないことを示唆する。遠隔転移のPD-L1陽性率は部位によって異なり、脳転移47% (n=19)、皮下転移55% (n=11)、骨転移66% (n=3) に対し、内臓転移では14% (n=7) と低値であったが、症例数が少ないため有意な結論は得られなかった (Table 1)。5名の患者が複数遠隔転移検体を保有しており、うち4名は少なくとも1検体でPD-L1陽性であり、遠隔転移部位間でもPD-L1の不均一性が存在した (Table 2)。
PD-L1発現はTILグレードと有意に相関するが他の臨床病理学的因子とは相関しない: PD-L1発現 (%) とTILグレードの間には有意な相関が認められた (Spearman’s ρ=0.398, P<0.001)。性別とPD-L1患者陽性率の間にも相関が見られ、女性の90% (n=21) がPD-L1陽性であったのに対し、男性は64% (n=25) であった (P=0.045)。Breslow thickness、Clark level、潰瘍形成、リンパ管浸潤、有糸分裂率、AJCC T subgroup、BRAF変異状態 (n=22) はいずれもPD-L1発現と有意な相関を示さなかった (Table 1)。BRAF変異例はPD-L1陰性の原発巣とPD-L1陽性の転移巣を示す傾向があったが、統計的有意差はなかった。所属リンパ節転移のPD-L1陽性は、原発巣の一部の特性 (リンパ管浸潤P=0.02、satellite disease P=0.01、血管浸潤P=0.04) と弱い相関を示した。
所属リンパ節転移のPD-L1陽性が最も強い生存延長と相関し、PD-L1+/TIL+患者が最良予後: Cox比例ハザード解析により、所属リンパ節転移のPD-L1発現が3.5%以上である群は、メラノーマ特異的生存期間 (MSS) の有意な延長と関連した (HR=0.33, 95% CI 0.15-0.74, P=0.004)。所属リンパ節転移のみを対象とした場合も同様に有意な関連が見られた (HR=0.29, 95% CI 0.12-0.72, P=0.004)。いずれかの検体でPD-L1最大値が6.5%以上である群もMSSの延長と関連した (HR=0.36, 95% CI 0.19-0.68, P<0.001)。一方、原発巣のPD-L1発現はMSSと有意な相関を示さず (P=0.38)、遠隔転移では傾向のみであった (P=0.089) (Table 4)。所属リンパ節転移のTILグレードが5以上であることも独立したMSS延長と相関した (HR=0.25, 95% CI 0.1-0.64, P=0.002)。所属リンパ節転移のPD-L1陽性 (≥3.5%) とTIL高グレード (≥5) を組み合わせた患者群 (Group 1, n=10) が最も良好なMSSを示した (log-rank P=0.012) (Figure 3)。PD-L1陽性かつTIL低グレードの患者 (Group 3, n=8) は、PD-L1陰性かつTIL低グレードの患者 (Group 4, n=16) と同等の不良予後を示した。これは、TILが存在しない状況でのPD-L1発現が生存改善と連関しない可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、Scolyer・Long (Melanoma Institute Australia) グループによる初めての縦断的・患者内PD-L1発現比較研究であり、いくつかの新規かつ重要な知見を提示した。
新規性: 本研究で初めて、免疫療法未治療のメラノーマ患者において、PD-L1発現が腫瘍内および患者間で著しい不均一性を示すことを縦断的に評価した。特に、原発巣のPD-L1発現が転移巣のPD-L1状態を予測しないという知見は、これまで報告されていない新規の発見である。
先行研究との違い: これまでの研究が単一検体でのPD-L1発現を報告していたのに対し、本研究は複数検体を用いた縦断的解析により、患者の76%はいずれかの検体でPD-L1陽性であったものの、個々の検体では中央値わずか8% (非ゼロ検体) という低頻度と著明な不均一性が特徴的であることを示した。これは、PD-L1陰性患者でも奏効が見られるという先行研究の報告と対照的であり、PD-L1単独での予測バイオマーカーとしての限定的な価値を説明する。
臨床応用: この著明な不均一性は、生検検体のPD-L1 IHCがPD-1/PD-L1阻害療法の奏効/非奏効を予測できない主要因であると説明できる。臨床的意義として、臨床試験における生検は直近の転移病変から採取するべきであることを示唆する。また、所属リンパ節転移におけるPD-L1陽性かつTIL高グレードの組み合わせが最良の予後と関連したことは、「腫瘍免疫の活性化 (TIL) と腫瘍による適応的免疫抑制 (PD-L1) の同時存在」という、免疫が「活性化されているが阻害されている」状態がPD-1ブロッキング療法の恩恵を受けうる患者を同定するという現在のT細胞炎症型腫瘍微小環境の概念的枠組みを支持する。これは、PD-L1バイオマーカー研究の基盤的文献として広く引用され、その後の複合バイオマーカー (TIL・TMB・MSI等との組み合わせ) 評価の必要性を先取りした重要な研究である。
残された課題: 今後の検討課題として、PD-L1陰性患者が疾患進行を通じてPD-L1陰性を維持するメカニズムや、PD-L1高発現の例外的な病変における分子メカニズムの解明が挙げられる。また、PD-L1発現が予後因子として機能するメカニズムのさらなる詳細な検討も今後の研究課題である。本研究のlimitationとして、対象患者数が限られていることや、免疫療法未治療患者を対象としているため、PD-1/PD-L1阻害療法に対する実際の反応性データとの直接的な比較ができない点が挙げられる。
方法
Melanoma Institute Australia (MIA) データベースから、免疫療法およびBRAF/MEK阻害剤未使用で複数縦断検体が利用可能なステージIV転移性メラノーマ患者58名を選択した (中央年齢61歳、中央追跡期間4.1年)。合計139 FFPE検体 (原発巣43、所属リンパ節転移39・in-transit転移12、遠隔転移45[脳19・皮下11・小腸5・骨3・他臓器7]) をDako autostainerでPD-L1 IHC (22C3クローン、1:500希釈、60分) を実施した。PD-L1陽性定義は、腫瘍細胞膜染色が1%以上とした。TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) グレードは、Azimi et al. (2012) の方法を改変した7段階半定量評価 (密度0-3 × 分布0-3の合計、0–6) を用いた。PD-L1免疫組織化学染色は、3名の観察者 (JM, RV, RAS) のうち少なくとも2名が独立して評価した。統計解析には、Spearman’s rho、McNemar検定、Cox比例ハザードモデル (最適カットオフ値決定)、Kaplan-Meier生存分析を用いた。最適なPD-L1カットオフ値は、最も有意なログランク検定結果を与える連続する2つのPD-L1値の算術平均として決定された。