• 著者: Topalian SL, Hodi FS, Brahmer JR, Gettinger SN, Smith DC, McDermott DF, Powderly JD, Carvajal RD, Sosman JA, Atkins MB, Leming PD, Spigel DR, Antonia SJ, Horn L, Drake CG, Pardoll DM, Chen L, Sharfman WH, Anders RA, Taube JM, McMiller TL, Xu H, Korman AJ, Jure-Kunkel M, Agrawal S, McDonald D, Kollia GD, Gupta A, Wigginton JM, Sznol M
  • Corresponding author: Suzanne L. Topalian, MD (Department of Surgery, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-06-02
  • Article種別: Original Article (Phase 1 dose-escalation and expansion study)
  • PMID: 22658127

背景

PD-1 (Programmed Death 1) はT細胞活性化後に発現する免疫チェックポイント受容体であり、そのリガンドであるPD-L1 (B7-H1) およびPD-L2 (B7-DC) への結合により末梢組織でのT細胞免疫応答を抑制する。PD-L1は腫瘍細胞や間質細胞に発現し、免疫監視から腫瘍が逃避する主要な機序として注目されていた。腫瘍局所でPD-L1が発現することで、活性化T細胞のアポトーシスが誘導され、エフェクター免疫応答が遮断されることが示されている Dong et al. NatMed 2002。このPD-1/PD-L1経路の阻害は、T細胞の抗腫瘍活性を回復させる新たな治療戦略として期待されていた Iwai et al. ProcNatlAcadSciUSA 2002

先行するCTLA-4阻害薬であるイピリムマブ (ipilimumab) は、転移性悪性黒色腫において全生存期間 (OS) の改善を示したが (HR 0.66)、免疫関連有害事象 (irAE) が比較的高率に発生し (Grade 3-4 irAE 10-15%)、治療関連死も報告されていた Hodi et al. NEnglJMed 2010Robert et al. NEnglJMed 2011。PD-1はCTLA-4とは異なる機序、すなわち末梢組織でのエフェクターT細胞相での抑制を介して機能するため、より腫瘍選択的な免疫活性化が期待された Freeman et al. JExpMed 2000。この異なる作用機序により、CTLA-4阻害薬と比較して異なる安全性プロファイルと抗腫瘍活性を示す可能性が示唆されていた。

BMS-936558 (後のニボルマブ、MDX-1106、ONO-4538) は、抗PD-1完全ヒトIgG4ブロッキング単クローン抗体であり、単回投与のPhase 0試験 (n=39) で安全性と初期の抗腫瘍活性が確認されていた Brahmer et al. JClinOncol 2010。しかし、当時、免疫療法抵抗性であると広く認識されていた非小細胞肺癌 (NSCLC) に対するPD-1阻害の有効性は未解明であり、その臨床的意義は不明であった。また、PD-1阻害薬の安全性プロファイル、特に免疫関連有害事象の発生頻度や管理方法についても、より大規模な患者コホートでの評価が不足していた。さらに、PD-1阻害薬の奏効を予測するバイオマーカーの同定は、治療の層別化に不可欠であったが、その知見はまだ確立されていなかった。本Phase 1多施設試験は、これらの知識ギャップを埋めるために設計された。特に、これまで免疫療法への反応性が低いとされてきたNSCLCを含む多様な腫瘍種におけるPD-1阻害の可能性を探ることが重要な目的とされた。

目的

本研究の目的は、進行固形腫瘍(悪性黒色腫、非小細胞肺癌 (NSCLC)、腎細胞癌 (RCC)、去勢抵抗性前立腺癌、大腸癌)患者に対し、抗PD-1抗体BMS-936558(ニボルマブ)を0.1〜10 mg/kgの用量で2週間ごとに静脈内投与し、その安全性、抗腫瘍活性、薬物動態 (PK)、およびPD-L1発現と臨床効果との相関を評価することであった。本試験は、多施設共同の非盲検Phase 1用量漸増およびコホート拡大試験として実施された (ClinicalTrials.gov識別子: NCT00730639)。特に、これまで免疫療法への反応性が低いとされてきたNSCLCを含む多様な腫瘍種におけるPD-1阻害の可能性を探ることが重要な目的とされた。先行研究ではCTLA-4阻害薬の有効性は示されていたものの、PD-1阻害薬の多様な固形腫瘍に対する広範な有効性は未確立であった。また、PD-1阻害薬の安全性プロファイルがCTLA-4阻害薬と比較してどのように異なるか、より詳細な評価が求められていた。さらに、PD-L1発現が奏効予測バイオマーカーとして機能する可能性について、探索的な評価を行うことも目的の一つであった。これは、将来的な個別化医療戦略の基盤を築く上で極めて重要であると考えられた。

結果

安全性プロファイル: 全体で296例が治療を受け、Grade 3または4の薬剤関連有害事象は41例 (14%) に発生した (Table 1)。最大耐用量 (MTD) は設定されなかった。治療関連死は3例 (1%) であり、いずれも肺毒性(肺臓炎)によるものであった(NSCLC患者2例、大腸癌患者1例)。相対的用量強度 (relative dose intensity) が90%以上達成された患者は256例 (86%) であり、本薬剤の忍容性が良好であることが示された。免疫関連有害事象 (irAE) としては、肺臓炎が9例 (3%、うちGrade 3-4が3例)、下痢が33例 (11%、うちGrade 3-4が3例)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇が11例 (4%、うちGrade 3-4が2例) などが認められた。これらのirAEの多くはステロイド治療により管理可能であり、可逆的であった。治療関連の有害事象による治療中止は15例 (5%) にとどまり、これも良好な忍容性を示唆する。各種有害事象の発生頻度と重症度は、0.1〜10.0 mg/kgの広い用量範囲で概ね同程度であった。

腫瘍種別客観的奏効率 (ORR): 奏効評価可能であった236例のうち、NSCLC、悪性黒色腫、RCCにおいて客観的奏効が認められた (Table 2)。NSCLCでは76例中14例 (18%、95% CI 11-29%) でORが認められた。組織型別では、扁平上皮癌で18例中6例 (33%)、非扁平上皮癌で56例中7例 (12%) であった。悪性黒色腫では94例中26例 (28%、95% CI 19-38%) でORが認められ、特に3.0 mg/kgの用量では17例中7例 (41%) と高い奏効率を示した。RCCでは33例中9例 (27%、95% CI 13-46%) でORが認められた。一方、去勢抵抗性前立腺癌 (n=17) および大腸癌 (n=19) では、客観的奏効は認められなかった (ORR 0%)。これらの結果は、PD-1阻害が特定の腫瘍種に対して選択的な抗腫瘍活性を持つ可能性を示唆する。

奏効持続性: 奏効例は持続性が高く、1年以上のフォローアップ期間があった奏効例31例のうち、20例 (65%) が1年以上の持続奏効を達成した。悪性黒色腫では、最長で24.9ヶ月以上(継続中)の奏効が認められ、RCCでも複数例で17ヶ月を超える持続奏効が確認された。NSCLCの奏効例14例中、治療開始から24週以上経過した8例で奏効が24週以上持続した。24週時点での無増悪生存率 (PFS rate) は、NSCLCで26% (95% CI 16-36%)、悪性黒色腫で41% (95% CI 30-51%)、RCCで56% (95% CI 39-73%) であった。これらの結果は、従来の化学療法と比較して顕著な奏効の持続性を示唆する (Figure 1)。

PD-L1発現と奏効の相関: 前治療で採取された腫瘍組織検体42例(悪性黒色腫18例、NSCLC10例、大腸癌7例、RCC5例、前立腺癌2例)を対象に、PD-L1発現と臨床効果の関連が探索的に解析された (Figure 2B)。PD-L1陽性(腫瘍細胞表面の染色が5%以上、n=25例)の患者では、9例 (36%) で客観的奏効が認められた。一方、PD-L1陰性(n=17例)の患者では、客観的奏効は1例も認められなかった (0/17例、p=0.006)。この結果は、PD-L1発現が抗PD-1抗体治療の奏効予測バイオマーカーとなる可能性を示唆するが、解析対象の患者数が少なく、無作為化されたサブセットではないため、予備的な知見として慎重な解釈が必要であるとされた。

薬物動態 (PK) および薬力学 (PD): 抗PD-1抗体の血清中ピーク濃度は、注入開始後1〜4時間で到達した。PKは線形性を示し、0.1〜10.0 mg/kgの用量範囲でピーク濃度および曲線下面積 (AUC) が用量に比例して増加することが35例の患者で確認された。PD-1受容体占有率の薬力学的解析は、悪性黒色腫患者65例の末梢血CD3+ T細胞を対象に実施された。抗PD-1抗体によるPD-1受容体占有率は、各用量レベルで中央値64〜70%と、用量によらず飽和に近い高い占有率を示した (Figure 2A)。このことは、比較的低用量でも薬理学的に活性な曝露が得られることを示唆する。

考察/結論

本Phase 1試験は、抗PD-1抗体BMS-936558(ニボルマブ)が、悪性黒色腫 (ORR 28%)、NSCLC (ORR 18%)、およびRCC (ORR 27%) において、有意かつ持続性の抗腫瘍活性を初めて多施設で実証した歴史的な研究である。特に、当時「免疫療法抵抗性」と広く認識されていたNSCLCにおいて、ORR 18%という実質的な応答率を示し、かつその65%が1年以上持続したことは、当時の標準化学療法の奏効持続期間(数ヶ月程度)と根本的に異なるdurabilityパターンを示した点で画期的であった。

先行研究との違い: 先行するCTLA-4阻害薬であるイピリムマブのPhase 3試験では、悪性黒色腫のOS改善が報告されたが Hodi et al. NEnglJMed 2010、Grade 3-4のirAEは10〜15%、治療関連死は2.1%であった。本試験のニボルマブは、Grade 3-4の有害事象が14%、治療関連死が1%と、CTLA-4阻害薬と同程度以下の毒性プロファイルを示しており、安全性において優位性を持つ可能性が示唆された点で、これまでの免疫チェックポイント阻害薬とは対照的な結果であった。また、CTLA-4阻害薬がT細胞活性化の初期段階(リンパ節でのT細胞活性化)に作用するのに対し、PD-1阻害薬は腫瘍局所の末梢エフェクター相で作用するため、より腫瘍選択的な免疫活性化が可能であるという点で作用機序が異なる。去勢抵抗性前立腺癌や大腸癌での無応答は、PD-1軸阻害の腫瘍選択性を示唆し、免疫応答性腫瘍(悪性黒色腫、RCC、NSCLC)に有効な免疫環境が存在することを支持する。

新規性: 本研究で初めて、PD-1軸阻害という全く新しい免疫チェックポイント経路の臨床的有効性が、多種の固形腫瘍で実証された。これは、免疫腫瘍学の分野における新規の治療戦略の確立に大きく貢献する知見である。さらに、PD-L1発現(5%閾値で陽性25例)と奏効の相関(36% vs 0%、p=0.006)という予備的バイオマーカーデータが提示されたことも新規性の一つである。この知見は、後のKEYNOTE-024(NSCLC PD-L1≥50%でペムブロリズマブ単剤承認)やCheckMate 017/057などのバイオマーカー戦略の嚆矢となり、個別化医療の方向性を示唆した。

臨床応用: 本試験の結果を受けて、ニボルマブは急速な第3相開発が行われ、2015年にはNSCLC(CheckMate 017/057)、悪性黒色腫、RCCで承認された。PD-1受容体占有率が64〜70%と用量によらず高いことは、後に250mg固定用量 (FD) への切り替えを科学的に支持するものであった。本研究は、これまで治療困難とされてきた進行固形腫瘍患者に対する新たな治療選択肢を提供し、臨床現場に大きな影響を与えた。これらの知見は、免疫チェックポイント阻害薬が幅広い癌種において有効な治療法となり得ることを示し、癌治療のパラダイムシフトを牽引する重要な translational research の成果である。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) PD-L1バイオマーカーの評価は非無作為サブセット (n=42) での探索的解析にとどまっており、閾値、抗体、スコアリング法の最適化が残されている。(2) NSCLCサブタイプ別応答(扁平上皮癌33% vs 非扁平上皮癌12%)の差異の生物学的説明が不足しており、さらなる研究が必要である。(3) PD-L1陰性腫瘍での0%奏効という知見は、後に「PD-L1陰性でも一部は奏効する」という後続試験結果と矛盾し、バイオマーカー論争の原点となった。これらのlimitationは、PD-1阻害薬の最適な使用戦略を確立するための今後の研究の方向性を示唆する。本論文は、免疫腫瘍学の新時代を開いた2012年の3本のNEJM論文(本論文、Brahmer et al. NEnglJMed 2012、Wolchok et al. ipilimumab+nivolumab)の一つとして位置付けられ、その後10年間の免疫療法標準化の礎を築いた。

方法

本研究は、多施設共同の非盲検Phase 1用量漸増およびコホート拡大試験として実施された。対象患者は、進行固形腫瘍(悪性黒色腫、NSCLC、RCC、去勢抵抗性前立腺癌、大腸癌)を有し、1〜5次までの前治療歴があり、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) 0〜2の患者であった。2008年10月から2012年2月24日までに合計296例が登録された(悪性黒色腫 n=104、NSCLC n=122、RCC n=34、去勢抵抗性前立腺癌 n=17、大腸癌 n=19)。奏効評価可能例は、2011年7月1日以前に治療を開始した236例であった。患者の大部分は高度に前治療されており、47%の患者が少なくとも3レジメン以上の前治療を受けていた。

BMS-936558は、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0 mg/kgの用量で2週間ごとに静脈内投与された。治療は8週を1サイクルとし、最大12サイクル、または完全奏効 (CR) が確認されるまで継続された。臨床的に安定している患者では、提唱された免疫関連奏効基準 Wolchok et al. ClinCancerRes 2009 に基づき、最初の病勢進行後も治療を継続することが可能であった。NSCLCの拡大コホートでは、扁平上皮癌と非扁平上皮癌の患者が、1.0、3.0、10.0 mg/kgのいずれかの用量に無作為に割り付けられた。

奏効評価は、修正RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.0に基づき、各8週間の治療サイクル後に実施された。客観的奏効 (OR) は、少なくとも1回の確認スキャンによって確認される必要があった。安全性評価は、National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v3.0に従って行われた。有害事象はMedical Dictionary for Regulatory Activities (MedDRA) v14.1を用いてコード化された。

PD-L1発現の評価は、前治療で採取された腫瘍組織検体 (n=42) を用いて免疫組織化学 (IHC) 法により実施された。PD-L1発現の検出には、マウス抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体5H1が使用され、腫瘍細胞表面の染色が5%以上の細胞で認められた場合にPD-L1陽性と定義された。この解析は、無作為化されていないサブセットの患者から得られた生検組織に基づいていた。

薬物動態 (PK) 解析では、血清中の抗PD-1抗体濃度が酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA) により定量された。薬力学 (PD) 解析では、末梢血単核細胞 (PBMC) 中のCD3+ T細胞上のPD-1受容体占有率がフローサイトメトリーによって測定された。

統計解析には、ベースライン特性と有害事象の要約、薬物動態および分子マーカー解析が含まれた。有効性解析は、奏効評価可能であった236例を対象とした。PD-L1発現と客観的奏効との関連は、フィッシャーの正確確率検定 (Fisher’s exact test) を用いて評価された。統計的仮説検定は事前に規定されていなかったため、これらの予備的結果は慎重に解釈する必要があるとされた。