• 著者: Blew CO, Duggan MR, Tsitsipatis D, Gomez GT, Rodriguez-Hernandez Z, Pilling LC, Chen J, Jacobsen E, Dark HE, Lu Y, Drouin SM, Joynes CM, Yao M, Bilgel M, Moghekar A, Tian Q, Candia J, Kaileh M, Gupta A, Mazan-Mamczarz K, Gorospe M, Lyashkov A, Lukyanenko Y, Kivimaki M, Frank P, Jennings LL, Gudmundsdottir V, Gudnason V, Launer LJ, Kaneko N, Kato S, Furuichi M, Shibayama M, Katsuno M, Hiraga K, Nishita Y, Otsuka R, Pike JR, Rooney MR, Schlosser P, Cui Y, Erus G, Davatzikos C, Gottesman RF, Waga I, Palta P, Ballantyne C, Griswold M, Liu Z, Ferrucci L, Herman AB, Walker KA
  • Corresponding author: Keenan A. Walker (National Institute on Aging, NIH, Baltimore)
  • 雑誌: Sci Adv
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-26
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.1126/sciadv.aec7614

背景

認知症・神経変性疾患の病理変化は症状発現の数十年前から始まる。アルツハイマー病 (Alzheimer’s disease; AD) ではアミロイド-β (Aβ) 蓄積が臨床症状出現に対して 20〜30 年先行し、中年期のプラズマプロテオームの変化が認知症発症 20 年前から検出されることが先行研究では Walker et al. (2023) によるプロテオーム横断的関連解析 (proteome-wide association study) により報告されている。その解析において、GDF15 (growth/differentiation factor-15) が認知症リスクとの最も強い関連を示すタンパク質として同定され、さらに脳脊髄液 (CSF) 中の神経炎症マーカー YKL-40 との相関も確認されていた。GDF15 は transforming growth factor-β (TGF-β) スーパーファミリーに属する分泌型サイトカインであり (Henne et al. TrendsImmunol 2026)、初期に免疫抑制因子として同定されたため MIC-1 (macrophage inhibitory cytokine-1) とも呼ばれる。腎臓・膀胱・脈絡叢などの中枢神経系 (CNS) 外組織で主に発現し、生物学的老化のマーカーとして知られるほか、免疫/炎症応答・エネルギー恒常性・食欲調節・腫瘍形成など幅広い生理機能に関与する。循環 GDF15 高値は全原因死亡から末期腎疾患まで多様な加齢関連疾患と関連することが報告されており、これまでの研究では長期認知症リスクや認知機能低下速度との関連が示されているが機序解明が十分でなかった。すなわち (i) 認知症サブタイプ・人口集団間での予測価値、(ii) GDF15 と認知症リスクを結ぶ機序、(iii) 早期分子変化への治療的介入可能性の 3 点が未解明のままであった。

目的

6 つの独立コホートの高スループットプロテオミクスデータを統合し、血漿 GDF15 と全原因・サブタイプ別認知症発症リスク・神経画像・CSF バイオマーカーの長期関連を明確化すること。さらにメンデルランダム化 (Mendelian randomization; MR) 解析で因果役割を検証し、初代ヒトマクロファージを用いた in vitro 実験で GDF15 が変容させる免疫・代謝経路を同定し、それらと認知症リスクの生物学的連結を確立すること。

結果

複数コホートにわたる血漿 GDF15 と長期認知症発症リスクの独立した関連

Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) 研究の老年期コホート (N=4,287、平均年齢 75.2±5 歳、女性 58%、黒人 18%) において、血漿 GDF15 高値は 7 年の全原因認知症 ACD (all-cause dementia) リスクと独立に関連した (HR=1.61; 95% CI 1.36〜1.90)。GDF15 の認知症リスクへの効果量 (β=0.476) は年齢 3.75 年分の上乗せリスクに相当し、高値群 (median split) の 7 年 ACD 発症率は低値群の約 2 倍であった (18.7% vs. 9.5%) (Fig. 2D)。中年期測定コホート (N=11,595、平均年齢 57.1±6 歳、女性 56%) では GDF15 の 2 倍増加あたり 20 年 ACD リスクが 55% 上昇し (HR=1.55; 95% CI 1.32〜1.82)、55 歳未満の早期中年期に限定しても HR=1.57 (95% CI 1.05〜2.34) と再現された (Fig. 2F)。高値群の 20 年 ACD 発症率は低値群の 2 倍であった (7.5% vs. 3.9%) (Fig. 2G)。United Kingdom Biobank (UKB) (N=35,673、平均年齢 60.7±5 歳) での 14 年追跡では HR=1.43 (95% CI 1.29〜1.59)、AGES (Age, Gene/Environment Susceptibility study)-Reykjavik コホート (N=4,757、平均年齢 76±5 歳) での最長 17 年追跡では HR=1.36 (95% CI 1.21〜1.53) であり (Fig. 2I)、3 コホートのメタ解析では GDF15 2 倍増加ごとに ACD リスクが 44〜47% 上昇すると示された。なお GDF15 の予測性能は確立バイオマーカーである neurofilament light chain (NfL; HR≈2.2) や glial fibrillary acidic protein (GFAP; HR≈2.3) より小さく (HR=1.61〜1.82)、また日本人コホート NILS-LSA (National Institute Longitudinal Study of Aging; N=340) では有意な関連は認められなかった (HR=1.19, P=0.24)。

血管型認知症への選択的感受性とメンデルランダム化による因果推論

認知症サブタイプ別解析では、UKB において GDF15 は vascular dementia (VaD) に特に強く関連し (HR=2.01; 95% CI 1.62〜2.48)、AD リスクとの関連は相対的に小さかった (HR=1.20; 95% CI 1.03〜1.41)。AGES-Reykjavik コホートでも同様に VaD HR=2.06 (95% CI 1.40〜3.04) vs. AD HR=1.24 (95% CI 1.04〜1.49) であり (Fig. 2J)、GDF15 と VaD の組み合わせは C 統計量を有意に改善した (UKB: 0.765 対 0.790)。アミロイド PET (ARIC) および Baltimore Longitudinal Study of Aging (BLSA) との関連は認められず、GDF15 はアミロイド非依存的な経路で働くことが示された。因果推論には Mendelian randomization postselection inference (MR-SPI) 法を適用し、ARIC コホート由来の GDF15 の cis-protein quantitative trait loci (cis-pQTLs) を遺伝的操作変数とした two-sample MR 解析において、遺伝的 GDF15 高値が Alzheimer’s disease and related dementias (ADRD) リスク増加・CSF Aβ42 上昇・CSF phosphorylated tau-181 (pTau-181) 上昇と有意に関連し (N=487,511)、アイスランドの deCODE 由来独立 pQTL セットでも ADRD への因果関連が再現された (Fig. 3A)。APOE ε4 非保因者での認知症リスク関連が 3 コホートで共通して強い傾向も観察された。

神経画像・流体バイオマーカーが示す神経変性および脳小血管病変

ARIC 脳画像サブコホート (N=1,345、平均年齢 76.1±5.17 歳) において、GDF15 2 倍増加は大脳皮質厚 -0.27 SD、全脳容積 -0.17 SD、側頭-頭頂メタ ROI 皮質厚 -0.31 SD、white matter hyperintensity (WMH) 容積 +0.18 SD、ラクナ梗塞 ≥1 個の確率 1.40 倍、脳微出血 ≥1 個の確率 1.90 倍と独立に関連した (Fig. 3C)。BLSA 認知正常コホート (N=994、平均年齢 66.0±15 歳) でも同様の ROI 結果が再現され、voxel-based morphometry では視床・扁桃体・下側頭回を中心とする散在性灰白質容積減少が確認された (Fig. 3F)。UKB (N=2,709) でも再現された。流体バイオマーカー面では、ARIC (N=1,411) において GDF15 は血漿 pTau-181 (β=0.32, P<0.001) および NfL (β=0.29, P<0.001) と正相関し、GFAP や血漿 Aβ42/40 比とは相関しなかった (Fig. 3D)。BLSA 認知正常例 (N=690〜1,017) でも pTau-181 β=0.28・NfL β=0.30 と再現され、Johns Hopkins Neurology Clinic (JHNC) コホート (N=193) では CSF pTau-181 との有意な関連も確認された (β=0.43; SE=0.16; P=0.006) (Fig. 3G)。

CSF プロテオーム解析が示す神経免疫活性化と微小グリア移行状態

JHNC コホートの SomaScan v4.1 データにより、血漿 GDF15 と CSF GDF15 の間に強い正相関が認められた (ρ=0.52; P=6.76×10⁻⁵)。血漿 GDF15 は CSF 血管機能不全/炎症マーカー [CDH5 (ρ=0.27)、MMP12 (ρ=0.39)、VCAM1 (ρ=0.26)] および神経免疫活性化マーカー [TNFRSF1B (tumor necrosis factor receptor superfamily, ρ=0.40)、TREM1 (ρ=0.45)、TREM2 (ρ=0.22)] と正相関した (Fig. 4A)。CSF プロテオーム横断解析 (~7,000 タンパク質) では、GDF15 高値例で補体活性化・凝固系・IL-6/JAK/STAT3 シグナリング・感染応答経路が上昇し、神経細胞生存経路が低下するパターンが認められた (Fig. 4D〜E)。ヒト微小グリアの単一細胞 RNA シーケンシングデータとの統合解析では、CSF GDF15 が homeostatic microglia (HM) から damage-associated microglia (DAM) および interferon-response microglia (IRM) への移行状態を反映するタンパク質群と最も強く相関し (Salladay-Perez et al. NatAging 2026)、HM→DAM→IRM 遷移軸に沿った GDF15 の関連が示された (Fig. 4G)。BioFINDER-2 コホート (N=877) での解析では CSF GDF15 は非 AD 型認知症で AD 病理陽性 (A+T+) 例や病理陰性例 (A-T-) と比べて有意に高く、AD 病理ステージ進行とは独立していた (Fig. 4H〜I)。

マクロファージ実験:インターフェロン・ピルビン酸代謝・ヘム捕捉の 3 経路が認知症リスクを媒介する

immuno-phenome-wide association study (IPheWAS) により遺伝的 GDF15 高値と単球数低下 (Z=-6.78; P=1.14×10⁻¹¹) および単球比率低下 (Z=-5.17; P=2.37×10⁻⁷) の因果関係が確認された (Fig. 5A)。6 人の健常提供者 (平均年齢 66.3±5 歳、女性 50%) の peripheral blood mononuclear cells (PBMCs) から分化させたヒト初代マクロファージを recombinant human GDF15 (rhGDF15; 0.5 μg/ml) で 24 時間処理し、TMT16plex 標識タンデム質量分析 (Orbitrap Ascend Tribrid) でプロテオーム解析を行った (Fig. 5B)。計 610 タンパク質が有意に変動し (P<0.05)、病原体暴露・mTORC1 シグナリング・解糖系が上昇し、インターフェロン応答・鉄輸送経路が低下した (Fig. 5C)。性別別解析では女性でインターフェロンシグナルの低下が、男性で代謝経路の増幅がより顕著であった。rhGDF15 変動タンパク質のうち 29 種が ARIC での認知症リスクと関連し、そのうち HERC5・CD300A を含む 6 タンパク質が CSF/血漿両バイオフルイドで GDF15 と相関した (Fig. 5F)。ARIC プロテオミクスデータで再現可能な 120 の経路のうち、false discovery rate (FDR) <0.05 で認知症リスクに関連した上位 3 経路が同定された:インターフェロンシグナリング (媒介率 6.6%)・ピルビン酸代謝 (4.9%)・血漿からのヘム捕捉 (4.7%) (Fig. 5G)。HERC5 (インターフェロン誘導型 E3 ユビキチンリガーゼ) は中年期 GDF15→20 年認知症リスクの 4% を、CD300A (cluster differentiation antigen 300A; 骨髄系/リンパ系抑制性免疫受容体) は老年期 GDF15→7 年認知症リスクの 6% を担うことが媒介分析で示された (Table S22)。ヘム捕捉系の低下は APOL1 タンパク質の抑制を通じた遊離ヘム増加→活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS) 産生→神経血管障害というカスケードを介すると提唱された (Fig. 6)。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまでの研究では単一コホートや限られた追跡期間で GDF15 と認知症リスクの関連を報告していたが、本研究は 6 コホート横断・最大 25 年という規模で再現性を確立し、これまでの先行研究と異なり 55 歳未満の早期中年期での予測可能性を初めて明示した。また GDF15 が VaD (HR≈2.0) と AD (HR≈1.2) で対照的に異なる関連強度を持つこと、さらにアミロイド PET・血漿 Aβ42/40 との無相関はアミロイドカスケード外の機序を示唆するという統合的証拠は先行研究にはなかった (Liu et al. Neuron 2025)。

② 新規性: 本研究で初めて MR-SPI 法によるメンデルランダム化解析が遺伝的 GDF15 高値と ADRD・CSF Aβ42・CSF pTau-181 の因果関係を支持した。また初代ヒトマクロファージを用いた in vitro 実験において GDF15 がインターフェロン応答・ピルビン酸代謝・ヘム捕捉経路を変容させ、それらが認知症リスクを媒介することを新規に実証した。特に HERC5 と CD300A がそれぞれ中年期・老年期 GDF15-認知症関連の独立した媒介因子として新規に同定された。

③ 臨床応用: 血漿 GDF15 は臨床に実装可能な血液バイオマーカーとして中年期 (感度 38.9%、特異度 84.0%) および老年期 (感度 28.3%、特異度 82.0%) の認知症予測に利用可能であり、特に VaD の早期検出や APOE ε4 非保因者の層別化に臨床的意義を持つ。インターフェロン応答・ヘム捕捉系を標的とした介入が GDF15 関連認知症促進機序の治療候補となりうる翻訳的意義も有する。

④ 残された課題: 大規模コホートでの CSF GDF15 の長期予測力が未検証であり、CNS 内在性免疫細胞である微小グリアへの直接作用が未確認である。また APOE ε4 が in vitro マクロファージ実験の免疫・代謝応答を交絡しうる点、プロテオミクスプラットフォーム間差 (質量分析 vs. SomaScan)、東アジア系集団 (NILS-LSA) での非再現性の機序解明など、今後の研究課題が残されている。

方法

多コホート前向き観察研究と初代ヒトマクロファージ in vitro 実験を統合したデザイン。主要コホート: ARIC (N=4,287〜11,595; SomaScan v4.0; 7〜20 年追跡; 認知症診断は National Institute on Aging (NIA)/アルツハイマー協会基準・Diagnostic and Statistical Manual (DSM-5) による専門委員会判定)、UKB (N=35,673; Olink Explore 3072; 14 年追跡; ICD-10 コード)、AGES-Reykjavik コホート (N=4,757; SomaScan v4.1; 最長 17 年追跡; DSM-IV (Diagnostic and Statistical Manual 4th edition))、BLSA (N=994〜1,313; SomaScan v4.1)、JHNC (N=193; SomaScan v4.1 血漿+CSF)、NILS-LSA (N=340; 日本人高齢者)。神経画像: 3T MRI による T1 強調画像 (magnetization-prepared rapid acquisition gradient echo 法) と T2 強調 fluid-attenuated inversion recovery 法による WMH 定量。アミロイド PET は 18F-florbetapir (ARIC) および 11C-PiB (BLSA) を実施。機械学習由来脳萎縮パターン指数として SPARE-AD (Spatial Pattern Atrophy Recognition Early Disease) および SPARE-BA (Spatial Pattern Atrophy Recognition Early Brain Aging) を算出。遺伝解析: MR-SPI 法による two-sample MR (ARIC/deCODE cis-pQTL → European Alzheimer’s Disease Biobank (EADB) ADRD [N=487,511]・Finnish Independent National Biobank (FINBB) ACD/AD GWAS)、および IPheWAS (133 免疫形質)。in vitro 実験: PBMCs から granulocyte-macrophage colony-stimulating factor (GM-CSF; 50 ng/ml) による 7 日間分化後、rhGDF15 (0.5 μg/ml) を 24 時間処理し、TMT16plex 標識+Orbitrap Ascend Tribrid 質量分析によるタンデム質量タグ定量プロテオーム解析 (SwissProt Human sequences v2023、20,300 配列)。経路解析は Enrichr (GO/KEGG/MSigDB/Reactome/WikiPathways)、媒介分析は主成分分析スコアを用いた Cox 比例ハザードモデル。測定再現性検証: SomaScan vs. Olink (r=0.79, P<0.0001, N=427)、Roche ELISA (r=0.92, N=110)、Luminex (r=0.83, N=110)。解析ソフトウェアは R v4.2.3〜4.4.3 および Stata v17。