• 著者: Wendy S. Garrett
  • Corresponding author: Wendy S. Garrett (Harvard T.H. Chan School of Public Health; Dana-Farber Cancer Institute; Harvard Medical School; Broad Institute of Harvard and MIT, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-03
  • Article種別: Review
  • PMID: 25838377

背景

ヒトの悪性腫瘍の約20%に微生物が関与するとされ、国際がん研究機関 (IARC) はヒトに対して発がん性のある微生物として10種を特定している (HPV、HBV、HCV、H. pylori、EBV、KSHV、HTLV-1、Schistosoma、Opisthorchis、Clonorchis)。これらの微生物は大部分のヒトに感染するものの、実際に発癌に至る個体は限定的であり、宿主遺伝子、微生物遺伝子、および環境因子の複雑な相互作用が発がん感受性に影響を与えることが示唆されている。近年、次世代シーケンス技術を用いた16S rRNA遺伝子解析やメタゲノム解析、さらには無菌マウスを用いた実験や便微生物移植 (FMT) 研究の進展により、個々のオンコマイクロブ (oncomicrobe) だけでなく、「微生物叢」全体としての構成や機能ががんの発生、進行、および治療応答に与える影響が明らかになりつつある。例えば、CpGオリゴヌクレオチドやシクロホスファミド、オキサリプラチンといった化学療法、さらには免疫療法に対する感受性が微生物叢によって調節される可能性が示されている (Iida et al. Science 2013; Viaud et al. Science 2013)。また、造血幹細胞移植後のGVHD (移植片対宿主病) やバンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) 感染症などの合併症にも微生物叢が広範に関与することが報告されている (Taur et al. Clin Infect Dis 2012)。

しかし、微生物叢ががんのイニシエーション、プロモーション、進行、治療応答、および合併症に与える多面的な影響を統合的に整理し、その分子メカニズムを詳細に解説した包括的なレビューは、2015年時点では不足していた。特に、特定のオンコマイクロブが宿主細胞のDNA損傷やWnt/β-cateninシグナル伝達を介して発がんを促進する具体的な機序、短鎖脂肪酸 (SCFA) のような微生物代謝産物が癌に対して二面的な影響を持つメカニズム、そして化学療法や免疫療法に対する感受性が微生物叢によってどのように調節されるかについては、さらなる体系化が必要であり、多くの知識ギャップが残されていた。本総説は、これらの未解明な点を埋め、微生物叢とがんの関係に関する当時の知見を統合的に整理し、将来の診断・治療応用の方向性を示すことを目的としている。

目的

本総説の目的は、微生物および微生物叢ががんのイニシエーション、プロモーション、進行、治療応答、および合併症に与える多面的な影響を、宿主細胞の増殖と死のバランス、免疫系機能、および代謝の3つの主要な機序に焦点を当てて体系的に整理することである。さらに、これらの知見に基づき、将来のがんの診断、治療、および予防における微生物叢の応用可能性と、残された研究課題を提示する。具体的には、特定のオンコマイクロブによる発がんメカニズム、微生物叢が免疫応答および炎症に与える影響、微生物代謝産物(特に短鎖脂肪酸 (SCFA))の役割、そして化学療法や免疫療法に対する微生物叢の修飾効果を詳細に検討し、癌細菌療法といった新たな治療戦略への展望を示すことを目指す。

結果

オンコマイクロブによるDNA損傷と増殖シグナル操作: 本総説は、オンコマイクロブが宿主細胞のDNAに直接損傷を与えるか、あるいは宿主の増殖シグナル経路を操作する2つの主要な機序を体系化した。DNA損傷経路の代表例として、pks遺伝子座にコードされるcolibactinが挙げられる。これはB2群大腸菌 (E. coli) および一部の腸内細菌科細菌によって産生され、結腸癌との関連が最も強く示唆されている。pks+ E. coliがマウス腸管腫瘍形成を促進することが実証されており (Arthur et al. Science 2012)、colibactinは哺乳類細胞において二本鎖DNA損傷を引き起こすことが報告されている (Fig. 2A)。Bacteroides fragilis毒素 (Bft) は直接的なDNA損傷ではなく、活性酸素種 (ROS) の高レベル産生を介して宿主DNAを傷害し、DNA修復能力を超える持続的なROSが変異誘発につながる。Cytolethal distending toxin (CDT) もまた、二本鎖DNA損傷を誘発する。

増殖シグナル操作の代表的な機序はWnt/β-cateninシグナル経路の活性化であり、これは多くのがん関連細菌に共通する標的である (Fig. 2B)。Helicobacter pyloriのCagAタンパク質は宿主細胞の細胞質に直接注入され、β-cateninを異常に活性化することで、細胞増殖、生存、遊走、血管新生に関与する遺伝子群を上方制御し、胃癌の発生に関与する。Fusobacterium nucleatumは口腔微生物叢の常在菌であり、大腸腺腫および腺癌に高頻度で検出される。この細菌は表面接着タンパク質FadAが宿主のE-cadherinに結合し、β-catenin活性化と腸管腫瘍形成の増幅を引き起こす。同様に、エンテロトキシン産生性B. fragilisのBftもE-cadherinを切断してβ-cateninを活性化し、一部のヒト大腸癌で濃縮されていることが報告されている (n=14)。Salmonella typhiのAvrAはβ-cateninシグナルを活性化し、慢性感染を介して肝胆道癌と関連する。

炎症・免疫系との相互作用 — 促進性と抑制性の二面性: 腸管バリアが破綻した腫瘍微小環境では、微生物が自然免疫および適応免疫の両方を活性化し、慢性炎症状態を維持する (Fig. 2C)。パターン認識受容体 (TLR、NOD2、NLRP3/6/12) の活性化はNF-κBのフィードフォワードループを駆動し、腫瘍増殖・進展を促進する。例えば、F. nucleatumはNF-κBシグナルを活性化することが示されている。炎症性サイトカイン軸としては、IL-23/IL-17、TNFα/TNFR、IL-6/STAT3が慢性炎症と腫瘍促進に関与することが、ヒト組織およびマウスモデル双方で示されている。Nod2またはNlrp6欠損マウスの糞便微生物叢を野生型マウスに移植すると、受容マウスの大腸炎関連大腸癌 (caCRC) 感受性が増大することが実証されており (Hu et al. PNAS 2013, Couturier-Maillard et al. JCI 2013)、免疫遺伝的背景によって選択される微生物叢の構成自体が発がんリスクを規定することが示唆される。さらに、caCRC担癌マウスからの便移植を受けたgerm-freeマウスはより多くの腫瘍を形成し (Zackular et al. MBio 2013)、同様の手法でヒト大腸癌患者の便移植がマウスの腫瘍形成を促進した研究も報告されている (Baxter et al. Microbiome 2014)。

免疫抑制面では、F. nucleatumがTIGIT (T細胞およびNK細胞に発現する受容体) に直接結合し、腫瘍細胞殺傷能を阻害するという免疫逃避機序が報告されている (Gur et al. Immunity 2015)。HIV感染による慢性全身免疫抑制状態でのウイルス関連腫瘍リスク増大は、微生物誘発性免疫抑制が抗腫瘍免疫を障害する典型例である。炎症は電子受容体(硝酸塩、エタノールアミン、テトラチオン酸塩)を産生し、一部の細菌(E. coli、Salmonella種)がこれを代謝して生存優位性を得ることで慢性炎症維持に寄与し、発がん促進環境を持続させる。

代謝 — 食物繊維・脂肪・SCFAの二面性: 腸内微生物による食物繊維の発酵産物として、酢酸、プロピオン酸、酪酸 (butyrate) などの短鎖脂肪酸 (SCFA) が産生される。これらは受容体 (Niacr1/Gpr109a、Gpr43、Gpr41) を介して、またはヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害作用により、多彩な細胞効果をもたらす。Gpr109aはbutyrateの受容体として大腸上皮細胞および腸管骨髄系細胞に発現し、骨髄系細胞の抗炎症応答と制御性T細胞 (Treg) 誘導を媒介する。Gpr43はSCFAにより活性化されると白血病細胞の増殖を抑制し、ヒト大腸腺癌70症例ではGpr43発現が癌組織で低下し、癌細胞へのGpr43回復がSCFA曝露によるアポトーシス増加をもたらした (Tang et al. Int J Cancer 2011)。

butyrateの二面性は特に重要であり、2つの相反するマウス実験モデルで示されている (Fig. 3)。Apc変異とMsh2欠損を伴う腸管腫瘍モデルでは、腸内微生物とbutyrateが腫瘍促進的に機能し、Msh2欠損上皮細胞の過増殖応答を駆動した (Belcheva et al. Cell 2014)。一方、アゾキシメタン/DSS誘発caCRCモデルでは、厳密に規定した微生物叢と特殊食でのbutyrateが、Warburgエフェクト(腫瘍細胞の解糖系優位代謝)を介して腫瘍抑制的に機能した。このモデルでは、butyrateが腫瘍細胞の核内に蓄積し、ヒストンアセチル化を増加させることでアポトーシスを促進し、増殖を抑制した (Donohoe et al. Cancer Discov 2014)。これは、butyrateの効果が宿主の遺伝的背景(Apc/Msh2変異の有無)と腫瘍代謝状態に依存して真逆の方向性を示すことを示している。高脂肪食 (HFD) は肥満、マイクロバイオーム、胆汁酸、炎症を通じてがんリスクを高め、二次胆汁酸 (deoxycholic acid) が肝星細胞の増殖・炎症促進シグナルを活性化して肝癌を促進する機序が示された (Yoshimoto et al. Nature 2013)。

化学療法・免疫療法効果の微生物叢依存性: 腸内微生物叢が化学療法の効果を左右する強力なエビデンスが複数示されている (Fig. 4)。オキサリプラチンは、腸内微生物叢が骨髄系細胞をプライミングしてROS産生を増強し、その腫瘍内酸化ストレスがオキサリプラチン誘発DNA損傷を増幅することで抗腫瘍効果を発揮する (Iida et al. Science 2013)。抗菌薬による微生物叢の枯渇はオキサリプラチン効果を減弱させる。シクロホスファミドは小腸バリアを傷害し、腸内微生物が移行することで微生物叢依存性のTh1/Th17抗腫瘍免疫応答を惹起する (Viaud et al. Science 2013)。イリノテカンの下痢という用量制限毒性は、腸内細菌の産生するβ-グルクロニダーゼがイリノテカンの腸管内bioactive形態を調節することで増幅されており、β-グルクロニダーゼ阻害薬がマウスでの毒性を軽減した (Wallace et al. Science 2010)。免疫療法については、CpGオリゴヌクレオチド免疫療法でも微生物叢が必要とされ(皮下腫瘍モデルでの抗菌薬前処置がCpG効果を減弱)、抗CTLA-4/PD-L1抗体の効果が一部微生物叢に依存する可能性が示唆された (Iida et al. Science 2013)。大腸(微生物叢が豊富)では免疫療法効果が低く、メラノーマ・膀胱・腎・肺癌では高いというパターンも、微生物叢の免疫療法効果修飾を支持する。

造血幹細胞移植合併症と微生物叢: 同種造血幹細胞移植 (allo-HSCT) 患者では、抗菌薬、化学放射線療法、消化管バリア傷害が微生物叢を大きく変化させる。バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) の腸管優位化がVRE菌血症リスクを9倍に増加させること (Taur et al. Clin Infect Dis 2012)、Barnesiella属がVRE抵抗性を付与する機序 (Ubeda et al. Infect Immun 2013)、Bradyrhizobium enticaが臍帯血移植後特発性大腸炎と関連すること (Bhatt et al. N Engl J Med 2013)、ラクトバチルス枯渇がGVHD腸管炎症を増悪させ再導入で緩和されること (Jenq et al. J Exp Med 2012) などの知見が整理された。また、Carry et al. (2015年) は、胆汁酸経路を介したC. difficile耐性回復微生物の同定において、精密医療ワークフローの有効性を実証した (Buffie et al. Nature 2015)。

癌細菌療法の歴史と合成生物学への展望: 1850年代のドイツ医師による感染後腫瘍退縮観察から端を発し、Coleyが1900年頃にStreptococcus pyogenesとSerratia marcescensの熱死菌混合物 (Coley’s toxins) で骨肉腫治療を試みたことが免疫療法の端緒とされる。現在の標準治療としては、膀胱内BCG (Bacillus Calmette-Guérin) が非筋層浸潤性膀胱癌に対する唯一確立した細菌がん療法である。Listeria monocytogenes組換えワクチン (腫瘍抗原発現型)、Clostridium novyiiの固形腫瘍内偏性嫌気菌活用療法 (犬のモデルで再評価)、Salmonella/Listeria/Clostridiumベクターによる毒素・生物製剤デリバリー、合成生物学的デザイナーマイクロブ (toggle switchで腫瘍標的・副作用最小化) など、多様なアプローチが前臨床段階にある。診断応用としては、糞便マイクロバイオームシグネチャーによる大腸癌早期検出 (microbiome biomarker) が有望視される。

考察/結論

本総説は、「微生物叢とがん」という複雑な関係を、宿主細胞の増殖と死のバランス、免疫系機能、および代謝という3つの機序カテゴリーで体系化し、腫瘍発生への寄与のみならず、治療応答や合併症まで包括的に論じた点で、その後のマイクロバイオーム研究の枠組みを提供した重要なレビューである。

先行研究との違い: これまでの研究は個々の微生物とがんの関連に焦点を当てることが多かったが、本総説は個々のオンコマイクロブの分子機構と、微生物叢全体が化学療法や免疫療法効果に与える影響を同一のフレームワークで統合的に論じた点で、従来のレビューと対照的である。特に、Mellman et al. Nature 2011が免疫療法の進展を概説した一方で、本総説は微生物叢が免疫療法効果を修飾する可能性を深く掘り下げた点で異なる。

新規性: 本研究で初めて、pks+ E. coli、F. nucleatum、エンテロトキシン産生性B. fragilisといったオンコマイクロブの発がん機序が、直接DNA損傷、Wnt/β-catenin活性化、TIGIT阻害による免疫逃避といった具体的な分子メカニズムとして体系的に整理された。また、酪酸 (butyrate) の例のように、同じ微生物代謝物が宿主の遺伝的背景や代謝状態によって促進的・抑制的という二面性を示すことが強調され、画一的な「良い菌・悪い菌」の二分法が不適切であることが示された点は新規である。

臨床応用: 本知見は、がんの診断、治療、および予防における微生物叢の臨床応用に直結する。具体的には、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の効果予測バイオマーカーとしてのマイクロバイオーム解析、ICI耐性打破のための糞便微生物移植 (FMT)(メラノーマで臨床試験が進行中)、特定のプロバイオティクス(Akkermansia、Bifidobacterium)の利用、高繊維食などの食事介入、F. nucleatumを標的とした抗菌薬、HPVやHBVワクチン、そして糞便マイクロバイオームシグネチャーによる大腸癌早期検出などの診断バイオマーカーが有望視される。これらのアプローチは、がん治療の個別化医療を推進する上で臨床的意義が大きい。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 微生物とがんの因果関係と単なる関連性の厳格な区別(微生物叢版のコッホの原則の確立)、(2) 個体間変動、地域差、食事、年齢、遺伝的背景といった交絡因子の影響の解明、(3) 腫瘍内微生物 (intratumoral microbiome) の研究における技術的課題(汚染除去など)、(4) 微生物ががんの転移や進行段階で果たす役割の特定、(5) ICI時代における微生物叢介入のランダム化比較試験 (RCT) 設計、が残されている。これらの課題を克服することで、微生物叢を標的とした新たな診断・治療戦略の確立が期待される。

方法

本論文はレビュー記事であるため、特定の前向きまたは後ろ向きの研究デザイン、患者コホート、実験プロトコル、統計解析手法は適用されていない。著者は、微生物とがんの関連性に関する既存の科学文献を広範に調査し、その知見を統合・分析した。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて行われたと考えられる。検索キーワードには、「cancer」「microbiota」「microbiome」「carcinogenesis」「oncomicrobes」「immunotherapy」「chemotherapy」「short-chain fatty acids」などが含まれたと推測される。検索期間や具体的な包含・除外基準については明示されていないが、当時の最新の知見を網羅的に収集したと推察される。

収集された文献は、微生物ががんの発生、進行、治療応答、および合併症に与える影響を、以下の3つの主要なカテゴリーに分類して整理された。

  1. 宿主細胞の増殖と死のバランスの変調
  2. 免疫系機能の誘導
  3. 宿主産生因子、摂取食物、および医薬品の代謝への影響

これらのカテゴリーに基づき、特定のオンコマイクロブ(例:pks+ E. coli、Fusobacterium nucleatum、Helicobacter pylori、Bacteroides fragilis toxin (Bft) 産生株)によるDNA損傷、Wnt/β-cateninシグナル伝達の活性化、免疫抑制などの分子メカニズムが詳細に検討された。また、短鎖脂肪酸 (SCFA) のような微生物代謝産物ががん細胞の増殖やアポトーシスに与える二面的な影響についても、複数のマウスモデル研究の結果を比較検討した。

さらに、化学療法(オキサリプラチン、シクロホスファミド、イリノテカン)および免疫療法(CpGオリゴヌクレオチド、抗CTLA-4/PD-L1抗体)の効果に対する微生物叢の修飾作用に関するエビデンスがまとめられた。造血幹細胞移植 (allo-HSCT) 後の合併症(バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) 菌血症、移植片対宿主病 (GVHD))における微生物叢の役割についても、臨床研究および前臨床研究の成果が分析された。

最終的に、Coley’s toxinsに始まる歴史的な癌細菌療法から、合成生物学を用いた最新のデザイナーマイクロブによる治療アプローチまで、将来の癌細菌療法の展望が議論された。本レビューは、特定の統計手法やデータ解析は行わず、既存の知見を統合し、その意義と今後の方向性を提示する定性的なアプローチを採用している。エビデンスレベルの厳密な評価基準(例: GRADEシステム)は適用されていない。