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A dietary switch promotes sensory neuron–dependent cancer-associated cachexia

  • 著者: Michael Cross, Stefan Kotschi, Warren Wu, Fedra Luciano-Mateo, Young-Yon Kwon, Ezequiel Dantas, ほか ( Robert C. Froemke, Thales Papagiannakopoulos が共同シニア )
  • Corresponding author: Thales Papagiannakopoulos ( thales.papagiannakopoulos@nyulangone.org, NYU Grossman School of Medicine )
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-02
  • Article種別: Original Research Article ( Research Articles, CANCER METABOLISM )
  • DOI: N/A

背景

CAC (cancer-associated cachexia) は骨格筋量の不随意的な喪失を中核とする傍腫瘍症候群で、しばしば食欲不振 ( anorexia ) を伴い、全身代謝の劇的な再プログラミングを介して癌患者の morbidity と mortality を著しく高める。特に肺癌患者では sickness behavior ( 疾病行動 ) が高頻度にみられ、最大で半数に及ぶとされる。現時点で CAC に有効な治療介入は存在せず、生活の質の低下・治療耐容能の低下・全生存の短縮に直結するため、translationally relevant な動物モデルでの機序解明が急務である。

これまでの研究による CAC 理解は、腫瘍細胞や腫瘍微小環境から放出される多様な循環性因子 ( circulating factors ; IL-6, GDF15 など ) が循環を介して代謝組織に異化作用を及ぼす、あるいは脳へシグナルして anorexia などの神経行動変化を誘導する、という「循環性因子中心」のモデルに支配されてきた。実際、悪液質を全身恒常性の腫瘍駆動性破綻と総括した先行研究 (Zhang et al. CancerCell 2026) や、骨格筋への循環性因子経路を示した既報 (Wang et al. NatMed 2018) も循環性メディエーターを重視してきた。IL-6 や GDF15 の循環レベルは、癌で高頻度に変異する liver kinase B1 ( LKB1/STK11 ) の変異状態と相関することも報告されているが、common mutations が悪液質発症に果たす寄与は十分に理解されていない。一方で感染モデルでは局所産生されたシグナルが感覚神経 ( sensory neurons ) に作用して体重減少や摂食低下を駆動することが示されつつあり、腫瘍-免疫-脳の閉ループを提唱した先行研究 (Richter et al. CancerCell 2026) もあるが、炎症性シグナルの感覚神経による検知が CAC に寄与するかは未解明であった。

もう一つの臨床的難題が食事介入である。悪液質の体重減少は主に不十分な caloric intake による負のエネルギーバランスに起因するため、栄養補給が第一選択治療とされる。しかし一部の患者では十分な栄養補給下でも骨格筋・脂肪組織の喪失が進行し、動物モデルでは食事介入がむしろ悪液質を悪化させることもある。栄養介入が CAC を促進または予防する機序はほとんど不明である。本研究は肺癌の common mutation と食事介入の相互作用に着目し、この空白を埋めることを狙う。

目的

肺腺癌 ( LUAD ) における tumor genotype と食事介入が悪液質発症に及ぼす影響を、autochthonous な genetically engineered mouse models ( GEMMs ) を用いて解明することを目的とした。具体的には ( 1 ) Kras-driven LUAD の主要 3 遺伝子サブタイプ ( Lkb1 (liver kinase B1) 欠失 = KL, Cdkn2a/2b 欠失 = KCC (Kras-Cdkn2a/2b) , P53 欠失 = KP ) のどれが悪液質を促進するか、( 2 ) 高カロリー・高脂質食 ( HFD/ ketogenic diet ) が悪液質を救済するのか悪化させるのか、( 3 ) その駆動因子が循環性因子か局所シグナルか、( 4 ) 腫瘍由来 prostaglandin E2 ( PGE2 ) と肺感覚神経が悪液質に因果的に関与するか、を遺伝学的・食事的・薬理学的操作で検証することを目指した。

結果

Lkb1 欠失が肺癌悪液質を選択的に促進する:CRISPR-Cas9 で作出した KL・KCC・KP の 3 GEMM を腫瘍進展 10 週後に代謝ケージへ移し、同等の腫瘍量 ( tumor area/total lung area, Fig 1B ) のもとで全身生理を比較した。既報どおり KL マウスのみが悪液質の特徴 ( 体重減少・骨格筋量および脂肪量の減少 ) を示し ( Fig 1C, G–I )、さらに摂食量・飲水量・活動量の低下という sickness behavior の典型像を呈した ( Fig 1D–F )。P53 または Cdkn2a/2b 変異腫瘍ではこの cancer-associated sickness はみられず、Lkb1 の特異的喪失が NSCLC で悪液質を促進することが示された ( Fig 1D–F )。

高脂肪食が Lkb1 変異腫瘍の悪液質を逆説的に悪化させる:摂食低下が体重減少の主因との仮説のもと、腫瘍進展 4 週後に HFD・ketogenic diet ( KD )・chow へ振り分けた。KCC・KP は予想どおり HFD で体重増加したのに対し、KL マウスは HFD で著明な体重減少を示し ( Fig 2B )、HFD/KD 下で全生存が劇的に短縮した ( Fig 2C, 雌雄とも fig S2D–E )。この生存差は腫瘍量の差では説明できず ( fig S3G )、systemic effect と結論された。代謝ケージで chow 維持後 HFD へ swap すると、KL は 2 日以内に摂食・飲水・活動が低下し ( Fig 2G–I )、エネルギー消費は不変 ( fig S4A )。摂食を制御する脳幹の area postrema ( AP ) と NTS (nucleus tractus solitarii) で早期活性化マーカー cFos ( FOS ) が HFD で顕著に増加した ( Fig 2J )。LKB1 下流の salt-inducible kinases ( SIK1/3 ) 変異腫瘍も同様の加速性悪液質を再現した ( fig S2F–G )。組織学的には HFD で iWAT 量とアディポサイト径が減少する一方、gastrocnemius の筋量・筋線維径は不変であり ( fig S4D–I )、脂肪喪失が除脂肪量喪失に先行することが示唆された。

循環性因子 ( IL-6/GDF15 ) は HFD 誘導 sickness に不要である:cachexia 関連サイトカインを網羅的にプロファイルすると、KL GEMM で IL-6 ( fig S5A ) と GDF15 ( fig S5E ) の循環レベルが上昇していた。しかし中和 IL-6 抗体投与は HFD 下 KL の悪液質を救済できず ( fig S5B–D )、Gdf15 (growth/differentiation factor 15) 全身欠失マウスでも加速性悪液質は残存した ( fig S5G–J )。LIF (leukemia inhibitory factor)・IL-1α/β・TNF-α・IFN-γ は有意に変化せず、副甲状腺ホルモン関連ペプチドと lipocalin 2 (LCN2) は食事非依存的に上昇していた。したがって従来の循環性因子は本モデルの diet-induced cachexia を駆動しないと結論された。

腫瘍局所の PGE2 が悪液質を駆動し、Ptges 欠失で救済される:気管支肺胞洗浄液 ( BALF ) の 44 サイトカイン Luminex 解析で、cachexia 関連因子のうち有意上昇は IL-6 のみだったがその中和は無効だった ( fig S7A )。局所脂質メディエーターに着目し ELISA で測定すると、HFD 下 KL 腫瘍でのみ PGE2 が有意に増加した ( KP/KCC は不変, Fig 3A )。ヒトでも >5% ( または BMI≤20 で >2% ) の体重減少を来した NSCLC 患者の BALF で PGE2 が weight-stable 患者より有意に高く ( n=24 cachectic vs n=10 noncachectic, Fig 3B )、prostaglandin シグナル経路が転写レベルでも亢進していた ( fig S8B )。機序として PGE2 合成酵素 microsomal prostaglandin E synthase ( Ptges ) が Lkb1 欠失で上昇し HFD でさらに増加した ( Fig 3C–F )。腫瘍特異的に sgLkb1/sgPtges で Ptges を欠失させると BALF の PGE2 産生が消失し ( Fig 3I )、腫瘍量に影響せず ( fig S9B ) 体重減少・生存・摂食飲水活動が改善した ( Fig 3J–K )。C26 大腸癌モデルでも Ptgs2 ( COX-2 ) 欠失が PGE2 を低下させ体重・摂食・筋力を救済し ( fig S9K–S )、腫瘍種を超えた役割が示された。NSAID ( aspirin/ibuprofen ) 投与も肺 PGE2 を下げ摂食飲水を改善した ( fig S10A–F )。加えて HFD 下 KL では omega-3 eicosanoid ( PGE3, PGD3, LTB5, RvD1 ) が減少しており、魚油由来の等カロリー HFD ( EPA (eicosapentaenoic acid) と DHA (docosahexaenoic acid) 富化 ) は PGE2 を上げずに体重と生存を有意に改善した ( Fig 3N–O )。これらは COX-2 阻害と omega-3 補充の translational な治療可能性を示す。

肺感覚神経が悪液質性 sickness を媒介する:PGE2 は血中では検出されず局所シグナルに限局すると推定された。肺は迷走神経 ( vagus nerve ) の感覚神経終末で密に支配され、AP/NTS へ局所シグナルを伝達する。腫瘍進展 3 週後に右迷走神経を片側頸部切断すると HFD 下 KL の摂食飲水が改善した ( Fig 4B–C )。さらに神経特異的プロモーター ( synaptophysin ) 下で人工設計受容体 DREADD の抑制型 hM4Di を発現させる逆行性 AAV を気管内投与し、CNO (clozapine N-oxide) で肺感覚神経を化学遺伝学的に抑制すると、HFD 下 KL の摂食飲水低下が救済された ( Fig 4E–F )。局所シグナルの感覚神経による検知が CAC の摂食低下を駆動することが実証された。

考察/結論

本研究は、LKB1/STK11 変異 ( LUAD の約 20% に生じる ) が脂質富化食への maladaptive な応答を促し悪液質を悪化させることを、autochthonous GEMM で示した。循環性因子中心であった先行研究とは対照的に、本研究は腫瘍局所で産生される PGE2 が主要駆動因子であり循環性因子 ( IL-6/GDF15 ) がむしろ不要である点を明確にした。既報の transplant モデルで GDF15 が悪液質メディエーターとして注目されてきたが、本研究では autochthonous モデルの循環 GDF15 が published data より有意に低く、中和抗体や遺伝子欠失の無効性を説明する。すなわち transplant 系と生理学的により妥当な GEMM では駆動因子が相違する。

新規性として、本研究で初めて末梢神経系 ( peripheral nervous system ) の感覚神経が cancer cachexia の食欲不振を能動的に媒介することを、迷走神経切断と DREADD 抑制という 2 つの独立した神経操作で因果的に証明した。局所腫瘍由来シグナルが感覚神経に作用するという novel な軸は、感染モデル ( influenza の EP3+ 舌咽神経, 細菌性肺炎の TRPV1+ 迷走神経 ) との類似性を癌に拡張するものである。加えて食事の脂質種 ( omega-6 vs omega-3 ) が悪液質の増悪・軽減を規定するという食事-変異相互作用も新たに位置づけた。

臨床応用の観点では、COX-2 阻害 ( NSAID ) と omega-3 脂肪酸 ( 魚油 ) 補充がいずれも本モデルで sickness と悪液質を軽減したことは、既存薬・食事介入による translational な治療戦略を直接示唆する。臨床的意義として、LKB1/STK11 変異が悪液質のバイオマーカーとなりうること、高脂肪・高エネルギー食が LKB1 変異 LUAD では逆説的に有害となりうることは、栄養介入の個別化に関わる。

残された課題も明確である。PGE2 が迷走神経に直接結合するのか、他の炎症因子を介して間接的に作用するのかは active inquiry のままである。魚油 HFD は悪液質の発症を遅延させるが chow レベルまでは完全に回復させず、COX-2 阻害も感覚神経操作も caloric intake を完全には restore しないことから、悪液質は multifactorial で提唱経路は単一構成要素にすぎない。今後の課題として、複数シグナル経路の収束機構と、膵・胃食道・頭頸部など迷走神経支配を受ける他の高悪液質頻度癌種への一般化可能性の検証が挙げられる。

方法

肺癌 GEMM は Cre 誘導性 Kras G12D と Cas9 ノックインを持つ系統マウスに、Cre recombinase と sgRNA ( sgLkb1 または sgCdkn2a/b ) を発現するレンチウイルスを気管内投与して KL・KCC 腫瘍を作出し、KP は Kras G12D ; P53 flox 系統に non-targeting sgRNA で作出した。腫瘍特異的 Ptges 欠失は sgLkb1/sgPtges、対照は sgLkb1/sgNeo を用いた。SIK1/3 変異腫瘍、全身 Gdf15 ノックアウト、C57BL/6 背景の C26 (CT26) 大腸癌 syngeneic モデル ( Ptgs2 欠失 ) も使用。全身生理は代謝ケージ ( 最初の 2 日は環境順化のため除外 )、体組成は DEXA (dual-energy X-ray absorptiometry) scan で評価した。PGE2 は BALF の ELISA、prostaglandin 合成酵素発現は免疫染色 ( H-score ) と qPCR ( Actb 正規化 )、脂質メディエーターは多価不飽和脂肪酸 metabolomics で定量した。感覚神経操作は片側頸部迷走神経切断と、synaptophysin プロモーター下で抑制性受容体 hM4Di および mCherry を発現する逆行性アデノ随伴ウイルスを気管内投与した上で CNO ( 1 mg/kg 腹腔内 + 飲水 5 μg/ml ) を投与する化学遺伝学的抑制を用いた。ヒト BALF は cachectic ( n=24 ) と noncachectic ( n=10 ) NSCLC 患者から採取。統計は生存曲線に Log-rank ( Mantel-Cox ) 検定、3 群比較に one-way ANOVA + Tukey 多重比較検定、2 群比較に two-tailed unpaired t 検定を用い、値は mean ± SEM、有意水準は *P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001, ****P<0.0001 とした。