• 著者: Sydney R. Gordon, Rachel L. Maute, Ben W. Dulken, Gregor Hutter, Benson M. George, Melissa N. McCracken, Ritu Gupta, Jonathan M. Tsai, Rohit Sinha, Daniel Corey, Aaron M. Ring, Adil Bhatt, Irving L. Weissman
  • Corresponding author: Irving L. Weissman (irv@stanford.edu) (Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28514441

背景

PD-1/PD-L1チェックポイント遮断抗体は、活性化T細胞に発現するPD-1を介して適応免疫を回復させるとして臨床応用されてきた。しかし、MHC-I発現が低くT細胞浸潤に乏しいホジキンリンパ腫でも高い奏効率(約90%)が観察されており、T細胞非依存的な作用機序の存在が示唆されていた Ansell et al. NEnglJMed 2015。腫瘍関連マクロファージ(TAM)は腫瘍免疫微小環境の主要構成細胞であり、がん細胞の食作用(phagocytosis)を担い得るが、腫瘍微小環境で食作用が抑制される機序は未解明であった。PD-1はT細胞・B細胞のチェックポイント受容体として認識されていたが Freeman et al. JExpMed 2000、骨髄系細胞やマクロファージにおける発現と食作用制御における機能的役割はこれまで報告されていなかった。このため、PD-1/PD-L1経路がマクロファージの機能に直接影響を与える可能性については、研究が不足している状況であった。特に、腫瘍微小環境におけるマクロファージのPD-1発現が、その食作用能にどのような影響を与えるのか、またPD-1/PD-L1阻害がT細胞非依存的に抗腫瘍効果を発揮するかどうかについては、詳細な検討が手薄であった。

目的

本研究の目的は、腫瘍浸潤マクロファージ(TAM)におけるPD-1発現の有無および特性を解析し、PD-1/PD-L1シグナルがTAMの腫瘍食作用を抑制するかどうかを明らかにすることである。さらに、免疫不全マウスモデルを使用して、PD-1/PD-L1遮断がT細胞非依存的かつマクロファージ依存的に抗腫瘍効果をもたらすかを検証し、抗CD47(「eat-me」シグナル増強)との組み合わせ効果を評価する。本研究は、PD-1/PD-L1経路がマクロファージの機能を直接的に制御する新規メカニズムの解明を目指す。

結果

腫瘍関連マクロファージの約50%が表面PD-1を発現し、腫瘍依存的に増加する: CT26担持BALB/cマウスのTAMのうち約50%が表面PD-1を発現した。これは末梢血循環単球や脾臓マクロファージでは検出されず、腫瘍微小環境に特異的であった (Fig. 1a)。PD-1発現は腫瘍移植後の経過時間(r=0.97)および腫瘍体積(Extended Data Fig. 2d)と正相関し、大型腫瘍ではPD-1+ TAMの割合が上昇した。PD-1+ TAMは主にM2様表現型(CD206+ MHCIIlow/neg)を示し、「泡沫状(foamy)」形態と豊富なリソソームを持つことが観察された (Fig. 1c, Fig. 2b, c)。骨髄移植実験(RFP+/GFP+ドナー細胞)では、PD-1+ TAMの大多数(92%)がドナー骨髄由来であり、骨髄由来前駆細胞が腫瘍微小環境でPD-1を上方制御することを確認した (Fig. 2a)。ヒトCRC組織においても、PD-1+ TAMは病期の進行に伴って増加し、特にM2サブセットに増加が集中していた (Fig. 1f, g)。n=5 miceで3回の実験繰り返しで確認された。

PD-1+ TAMは食作用能が低下し、腫瘍PD-L1がこの抑制を媒介する: フローサイトメトリーex vivoアッセイでは、PD-1+ TAMがPD-1- TAMと比較してS. aureus食作用能が有意に低下した(p<0.0001) (Extended Data Fig. 3c)。in vivo YFP+ CT26食作用アッセイでは、PD-1+ TAMがPD-1- TAMよりも腫瘍細胞を有意に少なく貪食した (Fig. 3b)。PD-L1過剰発現腫瘍細胞を移植すると、PD-1+ TAMの割合が増加し、TAM全体の食作用能が低下した。逆に、PD-L1 KO腫瘍細胞移植では腫瘍体積が有意に減少し(p<0.05)、TAM食作用能が増加した (Fig. 3c, d)。これらの結果は、「腫瘍PD-L1 → TAM PD-1シグナル → 食作用抑制」という新たな免疫制御経路を確立した。n=11 miceで3回の実験繰り返しで確認された。PD-L1過剰発現群(n=8)とPD-L1 KO群(n=9)の腫瘍体積を比較したところ、KO群で有意な減少が認められた。

免疫不全マウスでPD-1/PD-L1遮断がマクロファージ依存的に抗腫瘍効果を発揮する: Rag2-/-γc-/-またはNSG(T細胞・B細胞・NK細胞欠損)マウスにCT26を移植し、HAC(抗PD-L1小型タンパク質)または抗PD-1抗体を投与すると、腫瘍増殖が有意に抑制され、生存期間も延長した (Fig. 3e)。T細胞・適応免疫が存在しない条件での抗腫瘍効果は完全にT細胞非依存的な機序を示す。NSG-Ccr2-/-マウスに抗CSF1R処置でTAMを枯渇させると(Extended Data Fig. 6bでTAMがほぼ枯渇したことを確認)、HACおよび抗PD-1の腫瘍抑制効果がともに消失し、この効果がマクロファージ(TAM)依存的であることを直接証明した (Fig. 3f)。HACと抗CD47(SIRPαアンタゴニストにより「eat-me」シグナルを強化)の組み合わせ実験では、HAC単独と比較して組み合わせで生存期間が有意に延長した(p<0.05) (Fig. 3h)。PBS群と比較して、HAC単独群、抗CD47単独群、併用療法群のいずれも生存期間が有意に延長し(p<0.01、p<0.001、p<0.0001)、併用療法は単独療法よりも生存期間をさらに延長する傾向を示した(HAC vs 併用療法 p<0.05, 抗CD47 vs 併用療法 p=0.0761)。DLD-tg(PD-L1)-GFP-luc+腫瘍を移植したNSGマウス(n=10 per group)において、PD-1遮断またはPD-L1遮断により腫瘍増殖が有意に抑制された。

PD-1+ TAMはCD4陽性であり、M2様表現型を示す: FACS解析により、PD-1+ TAMとPD-1- TAMはCD11bおよびF4/80の発現レベルは同等であったが、PD-1+ TAMはM2関連スカベンジャー受容体CD206の発現量が多く、MHCクラスIIの発現量が少なく、CD11cの発現量が多いことが示された (Fig. 2d, e)。特に、ほとんど全てのPD-1+ TAMとPD-1- TAMの大部分がCD4を発現していた (Fig. 2d, f)。CD4はT細胞マーカーとして知られるが、マクロファージを含む骨髄系細胞の一部にも発現することが報告されている。免疫蛍光顕微鏡法により、FACS分離されたTAMにおいてCD68とCD4の共発現が確認された (Fig. 2g)。ヒトTAMにおいても、PD-1+ TAMはPD-1- TAMと比較してM1およびM2サブセットの両方でCD4の発現量が高かった (Fig. 2f)。これらの結果は、PD-1+ TAMが特徴的な表現型を持つことを裏付けている。

考察/結論

本論文は、PD-1/PD-L1軸がT細胞のみならず腫瘍関連マクロファージ(TAM)の食作用も制御するという、これまで報告されていない新規の免疫制御機構を発見した画期的な研究である。

先行研究との違い: 従来、抗PD-1/PD-L1療法の作用機序はもっぱらT細胞を介した細胞傷害性免疫の回復として説明されてきたが Pardoll et al. NatRevCancer 2012、本研究は「TAM PD-1 → 食作用抑制」というT細胞非依存的経路を確立した点で概念的に重要である。この発見は、MHC-I発現が低くTILsのPD-1発現が不均一であるにもかかわらず、抗PD-1療法が約90%の奏効率を示すホジキンリンパ腫の高い治療感受性を、TAM食作用機構で説明できる可能性を提示した点で、これまでのT細胞中心の理解と異なり、新たな視点を提供した。

新規性: 本研究で初めて、PD-1がマクロファージに発現し、その発現が腫瘍微小環境において食作用を直接的に抑制することを明らかにした。この知見は、自然免疫の食作用と適応免疫チェックポイントが単一の分子(PD-1/PD-L1)で統合制御されているという、これまで報告されていないメカニズムを示唆している。さらに、免疫不全マウスモデルを用いたT細胞非依存的な抗腫瘍効果の証明は、PD-1/PD-L1阻害療法の作用機序に関する新たな理解を深めるものであり、その新規性は高い。

臨床応用: 本知見はがん免疫療法の標的として食作用経路を組み込む新たな治療戦略を開拓する。抗CD47(「eat-me」シグナル強化)との組み合わせが相乗的抗腫瘍効果を示したことは、後のCD47/SIRPα抗体(マガロリマブ等)と抗PD-1/L1の組み合わせ臨床試験の科学的根拠を提供した。これにより、既存のPD-1/PD-L1阻害療法がT細胞だけでなくマクロファージを介しても抗腫瘍効果を発揮する可能性が示され、臨床現場での治療選択肢の拡大に繋がる。特に、T細胞応答が不十分な患者や、T細胞浸潤が少ない「コールド」腫瘍に対する治療戦略開発に貢献し得る。

残された課題: 今後の検討課題として、TAMにおけるPD-1誘導の分子機構のさらなる解明、PD-1+ TAMの割合と各がん種での免疫チェックポイント阻害薬(ICB)奏効率との相関検証、ヒト腫瘍でのTAM PD-1とT細胞PD-1の独立した予測マーカーとしての評価、および食作用増強と適応免疫活性化を最適化する組み合わせ戦略の確立が挙げられる。また、PD-1+ TAMの機能的異質性や、PD-1シグナルがマクロファージの他の機能(サイトカイン産生、抗原提示など)に与える影響についても詳細な解析が必要である。

方法

CT26結腸がんマウスモデル(BALB/cマウス)を用いて、フローサイトメトリーによりTAMのPD-1発現を解析し、末梢血単球および脾臓マクロファージと比較した。RFP+/GFP+骨髄移植実験により、PD-1+ TAMの細胞起源を同定した。免疫組織化学を用いて、ヒト大腸がん(CRC)病期別のTAM PD-1発現を評価した。ex vivo S. aureus食作用アッセイおよびin vivo YFP+ CT26食作用アッセイにより、PD-1+/PD-1- TAMの食作用能を比較した。PD-L1過剰発現およびPD-L1 KO腫瘍細胞移植実験を用いて、PD-L1とTAM食作用の因果関係を検討した。免疫不全マウス(Rag2-/-γc-/-またはNSGマウス)モデルにおいて、HAC(高親和性抗PD-L1小型タンパク質)または抗PD-1抗体の投与実験を実施した。NSG-Ccr2-/-マウスに抗CSF1Rを投与してTAMを枯渇させ、抗腫瘍効果がマクロファージ依存的であることを確認した。HAC/抗PD-1と抗CD47の併用効果を腫瘍体積および生存時間で評価した。統計解析には、paired one-way ANOVA with multiple-comparisons correction、paired one-tailed t-test、paired two-way ANOVA with multiple comparisons correction、unpaired one-way ANOVA without multiple comparison correction、one-tailed logrank Mantel-Cox test を用いた。