• 著者: Ya-Hsuan Ho, Giacomo Bregni, Marco Stazi, et al.
  • Corresponding author: Leanne Li (Francis Crick Institute, London, UK)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 42161272

背景

固形腫瘍内の TIME (tumor immune microenvironment; 腫瘍免疫微小環境) における TLS (tertiary lymphoid structure; 三次リンパ組織) の形成は、抗腫瘍免疫の質を規定し、ICI (immune checkpoint inhibitor; 免疫チェックポイント阻害薬) への応答性と強く相関することが複数のコホートで報告されてきた (Meylan et al. NatCancer 2022)。TLS の形成は、CXCL13 (C-X-C motif chemokine ligand 13; B 細胞誘引性ケモカイン) 産生線維芽細胞や HEV (high endothelial venule; 高内皮細静脈) を含む LTo (lymphoid tissue organizer; リンパ組織誘導体) と LTi (lymphoid tissue inducer; リンパ組織誘導細胞) の相互作用によって駆動されるが、腫瘍局所でこの過程を抑制する機構は未解明であった。一方、がんと神経系の相互作用 (cancer neuroscience) は急速に注目を集めており、腫瘍内の神経支配が腫瘍増殖・転移・免疫逃避を促進することが報告されている (Zahalka et al. NatRevCancer 2022)。β2 アドレナリン受容体シグナリングが T 細胞機能を抑制することも示されており (Hiam et al. NatMed 2021)、神経-免疫軸の腫瘍促進的役割に関心が高まっていた。しかし、痛覚神経が腫瘍内 TLS 形成に与える影響については、これまで報告されていなかった。また、喫煙は肺がん最大のリスク因子であるが、変異誘発性作用のみならず腫瘍内神経系を介した非変異誘発性免疫抑制という観点からは検討が手薄であった。これらの gap を埋めるため、本研究は LUAD (lung adenocarcinoma; 肺腺がん) における痛覚神経支配と TLS 形成・免疫応答の関係を解明することを目的とした。

目的

LUAD の進行過程における腫瘍内痛覚神経支配の動態を明らかにし、痛覚神経から分泌される神経ペプチドが TLS 形成と抗腫瘍免疫に与える影響を同定するとともに、臨床的に利用可能な CGRP (calcitonin gene-related peptide; カルシトニン遺伝子関連ペプチド) 受容体拮抗薬との免疫療法の組み合わせによる治療可能性を検討する。

結果

LUAD 進行に伴う腫瘍内 Nav1.8+ 痛覚神経支配の増大

KP GEMM モデルにおいて、LUAD の進行とともに腫瘍内 CGRP+ 軸索長が経時的に増大した (12w→16w: p=0.0002、16w→20w: p<0.0001、n=3 マウス/群)。腫瘍組織での CGRP タンパク質発現は正常肺と比較して有意に高く (p=0.0084、n=9 マウス/群)、LUAD 患者腫瘍でも NAT と比較して CGRP 発現の有意な上昇を確認した (p=0.0017、n=9 腫瘍、n=8 患者) (Fig 1)。Nav1.8-RiboTag を用いた軸索特異的 mRNA プロファイリングでは、腫瘍内 Nav1.8+ 神経において CGRP をコードする Calca の転写産物が濃縮されており、腫瘍微小環境が痛覚神経の CGRP 産生を促進することが示された。CSE 投与はさらに Nav1.8+ 神経を活性化し、BALF (bronchoalveolar lavage fluid; 気管支肺胞洗浄液) 中の CGRP 濃度を上昇させ、LUAD の腫瘍結節数を増加させた (p=0.0472)。Nav1.8-Gi-DREADD による痛覚神経抑制は CSE 誘発性の腫瘍促進効果を逆転させ、痛覚神経活性化が腫瘍促進の主因であることを実証した。

痛覚神経 CGRP が Ramp1 高発現マクロファージを介して TLS 形成を阻害する

Nav1.8-DTR/Tom マウスへの DTX 投与による痛覚神経の選択的除神経は、KP GEMM モデルの腫瘍量を有意に減少させ (p=0.0052、n=6 PBS、n=8 DTX)、TLS 数を増加させた (p=0.0363、n=6 PBS、n=7 DTX) (Fig 2)。除神経後の腫瘍では GC (germinal center; 胚中心) B 細胞 (p=0.0187) および TFH (follicular helper T cell; 濾胞ヘルパー T 細胞) (p=0.0002) の頻度が約 2-fold 増加し、カスパーゼ-3 陽性腫瘍細胞 (p<0.0001) および IgG+/カスパーゼ-3+ 二重陽性腫瘍細胞 (p<0.0001) も有意に増加した。一方、Nav1.8-Gq-DREADD による痛覚神経の薬理学的活性化は腫瘍量を増大させた (p=0.0476、n=5/群)。scRNA-seq 解析により、腫瘍内マクロファージのうち Ramp1 高発現サブセットが CGRP シグナリングの主要な受容細胞として同定された。BMDM-40LB 線維芽細胞共培養系において、CGRP 刺激は BMDM の TNFα 産生を抑制し (p=0.0021、p=0.0013、n=7 生物学的反復実験)、CXCL13 産生線維芽細胞の誘導を阻害した。

Ramp1 依存的な TLS 阻害機構の検証

Ramp1-KO 骨髄を野生型マウスへ移植した実験では、Ramp1-KO マクロファージ再構成により腫瘍内 TLS 数 (p=0.0303) および CXCL13+ 線維芽細胞 (p=0.0323) が有意に増加し (n=5-6 マウス)、Ramp1 経由のシグナリングが TLS 阻害に必須であることを証明した (Fig 3)。CSF1R 阻害薬によるマクロファージ除去は TLS 形成を増強し、Ramp1+ マクロファージを起点とするシグナルカスケード (CGRP→Ramp1+ マクロファージ→↓TNFα→↓LTo 活性化→↓CXCL13+ 線維芽細胞→↓TLS) が確立された。マクロファージによる TNFα 抑制は PDPN (podoplanin) 陽性 LTo 線維芽細胞の分化を阻害し、TLS のスキャフォールド構造形成の初期ステップを遮断する機構が示唆された。TCGA LUAD コホートの生存解析では、CD74 高発現 (免疫活性化状態のサロゲートマーカー) は有意に良好な予後と関連した (HR 0.67、p=0.006、Cox 比例ハザードモデル)。

CGRP 受容体拮抗薬と抗 PD-1 の相乗的抗腫瘍効果

CGRP 受容体拮抗薬である OLC (olcegepant; オルセゲパント) 単剤は生存延長を示し (中央値 18 日 vs DMSO 15 日、p=0.0476)、その効果は抗 CD4/CD8 抗体により完全に消失したことから、T 細胞依存性であることが確認された。CSE 暴露 LUAD モデルにおいて、OLC と抗 PD-1 の組み合わせは抗 PD-1 単剤と比較して有意に生存期間を延長した (中央値 32 日 vs 26 日、p=0.0270、log-rank Mantel-Cox、n=9-10 マウス/群) (Fig 5)。この効果は TLS の再形成を伴い、GC B 細胞および TFH の増加が観察された。喫煙歴を持つ患者においてはタバコが直接変異誘発効果に加えて神経介在性免疫抑制を引き起こすという概念的枠組みが構築され、CGRP 遮断が喫煙関連肺がんにおける免疫療法増強の有望な戦略となることが示された。

考察/結論

① 先行研究との違い: 神経とがん免疫の相互作用に関しては、交感神経が免疫抑制に働くことは (Zahalka et al. NatRevCancer 2022) で示されていたが、痛覚神経が腫瘍内 TLS 形成を特異的に阻害するという機構はこれまでの報告と異なる新たな概念である。また喫煙と TLS に関しては、臨床コホートで喫煙者に TLS が多く観察されるという逆説的報告があったが、本研究は CSE が痛覚神経を活性化して CGRP を増加させ TLS を抑制するという機構を示し、この逆説を解消する新たな解釈を提供した点で既存の報告と異なり重要な意義を持つ。

② 新規性: 本研究で初めて、痛覚神経から分泌される CGRP が Ramp1 高発現腫瘍内マクロファージを介して CXCL13+ 線維芽細胞を抑制し TLS 形成を阻害するという神経-免疫-間質相互作用の新規な軸を同定した。この痛覚神経→CGRP→Ramp1+ マクロファージ→↓TNFα→↓LTo 活性化→↓TLS というシグナルカスケードは、神経が腫瘍免疫を制御する新規の機構として位置付けられる。さらに、Nav1.8-RiboTag による軸索特異的 mRNA プロファイリングという革新的手法により、腫瘍微小環境内の神経ペプチド産生ダイナミクスを直接可視化することが新規に可能となった。

③ 臨床応用: CGRP 受容体拮抗薬であるオルセゲパント (OLC) は偏頭痛治療薬として FDA 承認済みであり、抗 PD-1 との組み合わせが CSE 暴露 LUAD モデルで有意な生存延長を示したことは、喫煙関連肺がん患者への臨床応用への橋渡し (translational) となる重要な知見である。特に喫煙歴を持つ LUAD 患者においては、痛覚神経介在性の TLS 抑制が ICI 耐性の原因となっている可能性があり、OLC 等の CGRP 阻害薬が既存免疫療法の効果を増強するアジュバントとして期待される。TCGA LUAD コホートにおける CD74 高発現の良好予後との関連 (HR 0.67、p=0.006) は、神経免疫相互作用のバイオマーカーとして臨床的有用性を検討する根拠を与える。

④ 残された課題: 痛覚神経が腫瘍内でどのようなシグナルにより活性化・増幅されるか (腫瘍細胞由来の神経成長因子や NGF の関与等) については今後の研究が必要である。また、OLC と抗 PD-1 の組み合わせの最適な投与タイミングや患者選択バイオマーカー (CGRP 高発現・Ramp1+ マクロファージ高頻度等) の検討、ヒト臨床試験での有効性確認が今後の方向性として挙げられる。さらに、CSE が腫瘍内神経を活性化する分子機構 (例: TRPV1 や TRPA1 を介した直接活性化等) と、喫煙者の臨床 TLS 増加という逆説的現象の背後にある他の生物学的因子の解明も残された課題である。

方法

動物モデル: KP GEMM (genetically engineered mouse model; 遺伝子操作マウスモデル) は Kras-LSL-G12D/Trp53-fl/fl/Rosa26-LSL-tdTomato を Ad5-Spc-Cre 投与で誘導 (LUAD モデル)。Nav1.8 陽性痛覚神経の除神経には Scn10a-Cre; Rosa26-LSL-DTR/tdTomato (Nav1.8-DTR/Tom) マウスへ DTX (diphtheria toxin; ジフテリア毒素) を投与。神経活性化には Scn10a-cre; LSL-hM3Dq (Nav1.8-Gq-DREADD; designer receptors exclusively activated by designer drugs) を使用し、CNO (clozapine-N-oxide) で薬理学的活性化を実施。抑制には Nav1.8-Gi-DREADD (Scn10a-cre; Rosa26-LSL-hM4Di) を使用。軸索 mRNA プロファイリングには Nav1.8-RiboTag (Scn10a-Cre; Rpl22-HA) を使用。移植実験には KP1233、KP1233-OVA、LLC (Lewis lung carcinoma) 細胞株を用いた。喫煙暴露実験には CSE (cigarette smoke extract; たばこ煙抽出物) を気管内投与し LUAD と組み合わせた。

in vitro: BMDM (bone marrow-derived macrophage; 骨髄由来マクロファージ) と 40LB 線維芽細胞を共培養し、CGRP 刺激下での TNFα 産生および CXCL13 線維芽細胞への影響を評価。CSF1R (colony stimulating factor 1 receptor) 阻害薬 PLX5622 によるマクロファージ除去実験も実施。Ramp1 (receptor activity-modifying protein 1) ノックアウト (KO) BMDM を骨髄移植で再構成する実験を行った。

ヒト検体: LUAD 患者腫瘍組織 (n=9 腫瘍、n=8 患者) および NAT (normal adjacent tissue; 正常隣接組織) の CGRP 発現を免疫組織化学で評価。TCGA LUAD コホートでは CD74 高発現群の Cox 比例ハザードモデルによる予後解析を実施。scRNA-seq データは GEO: GSE302373、WGS データは ENA: PRJEB108886 に登録。

統計: unpaired t-test、Welch’s t-test、一元配置 ANOVA (Bonferroni/Tukey post hoc)、Mann-Whitney 検定、log-rank 検定 (Mantel-Cox)、RNA-seq の Wald 検定、Cox 比例ハザードモデルを使用した。