• 著者: Zhang SW, Wang H, Xiao Y, Liu LT, Shen M, Wang Z, Zhao S, Ding XH, Wang Y, Zhuang QY, Ni J, Shao ZM, Jiang YZ
  • Corresponding author: Xiao Y, Ni J, Shao ZM, Jiang YZ (Key Laboratory of Breast Cancer in Shanghai, Department of Breast Surgery, Fudan University Shanghai Cancer Center)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41650969

背景

トリプルネガティブ乳がん (TNBC: triple-negative breast cancer) は、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、およびHER2の発現を欠く、最も侵攻性が高く治療抵抗性の高い乳がんサブタイプである (Loibl et al. 2021)。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) を用いた免疫療法がTNBC治療において有望な成果を上げているが (Schmid et al. 2020)、その恩恵を十分に受けられる患者は依然として一部に限られている。この免疫療法抵抗性を生み出す主要な要因として、腫瘍微小環境 (TME: tumor microenvironment) の構造的・免疫学的な無秩序さが挙げられる ([[Nature-2017-Chen-Elements of cancer immunity and the cancer-immune set point|Chen et al. Nature 2017]])。特に、腫瘍組織における線維化の亢進や細胞外マトリックス (ECM: extracellular matrix) の過剰な沈着は、抗腫瘍免疫細胞の浸潤を物理的・化学的に阻害する「免疫排除型」の微小環境を形成する。

一方で、がんにおける神経支配、特に神経周囲浸潤 (PNI: perineural invasion) が腫瘍の進展や転移に関与することは古くから知られていた。しかしながら、TNBCの複雑なエコシステムにおいて、感覚神経がどのようにTMEの再構築や免疫排除に関与しているかについては、これまで詳細な分子メカニズムが 未解明 であった。先行研究では、腫瘍内の細胞構成を同定する試みが行われてきたが ([[NatMethods-2015-Newman-Robust enumeration of cell subsets from tissue expression profiles|Newman et al. NatMethods 2015]])、感覚神経と他の間質細胞、特にがん関連線維芽細胞 (CAF: cancer-associated fibroblast) との相互作用がTMEの物理的バリア形成に果たす役割についての知見は著しく 不足している。感覚神経がTME of PNIを駆動する具体的なシグナルカスケードや、それを標的とした治療戦略の有効性については、依然として大きな gap が残されている。本研究は、この未開拓な領域に焦点を当て、感覚神経による免疫排除環境の制御機構を明らかにすることを試みた。

目的

本研究の目的は、TNBCエコシステムにおける感覚神経の優位性を臨床コホートデータを用いて実証し、感覚神経が密な細胞外マトリックス (ECM) の形成を刺激することで免疫排除型TMEを駆動する詳細な分子機序を解明することである。具体的には、腫瘍細胞から分泌される神経成長因子 (NGF: nerve growth factor) が感覚神経を刺激して neuropeptide であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP: calcitonin gene-related peptide) の分泌を促すプロセス、およびCGRPがCAF上の受容体活性修飾タンパク質1 (RAMP1: receptor activity modifying protein 1) に結合して下流シグナルを活性化する経路を特定する。さらに、感覚神経またはCGRP-RAMP1軸を標的とした治療介入 (CGRP拮抗薬 rimegepant など) が、TMEを再構築し、抗PD-1抗体などのICB療法と相乗効果を示すかどうかを検証し、TNBCに対する新規治療戦略を提示することを目的とする。

結果

感覚神経の優位性とPNIに伴う線維化・免疫排除の誘導: FUSCC-TNBCコホート (n=425 patients) および TCGA-TNBCコホート (n=131 patients) の解析において、PNI陽性患者は陰性患者と比較して無再発生存率が有意に低かった (Fig 1C)。mIF染色による神経サブタイプの定量解析では、TNBC組織内の全神経突起面積の約 70% を感覚神経が占めており、交感神経や副交感神経を大きく上回る支配的な神経種であることが判明した (Fig 1J)。さらに、CTBを用いた逆行性標識実験により、腫瘍内に浸潤する感覚神経が T11 から L4 領域のDRGに由来することが示された。PNI陽性腫瘍では、間質浸潤リンパ球 (sTIL: stromal tumor-infiltrating lymphocyte) や CD4+ T細胞、三次リンパ構造 (TLS: tertiary lymphoid structure) が有意に減少していた一方、間質スコアおよび線維化スコアは有意に高値を示した (Fig 1F-I)。これらの臨床データは、感覚神経の浸潤が線維化を伴う免疫排除型TMEの構築と密接に関連していることを示唆している。

感覚神経活性化によるmyCAF分化とコラーゲン沈着の増幅: 感覚神経がTMEに与える直接的な影響を検証するため、カプサイシン食を用いた感覚神経活性化モデル (n=8 mice) を構築した。感覚神経の活性化により、腫瘍の増大および線維化領域の割合が有意に促進された (Fig 2B-D)。フローサイトメトリー解析では、活性化群において総CAF中の myCAF (筋線維芽細胞型がん関連線維芽細胞) の割合が有意に増加した一方、白血球 (CD45+)、T細胞、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、および NK 細胞の浸潤が著しく減少した (Fig 2E, F)。対照的に、遺伝的感覚神経除去モデルである Nav1.8-DTA マウス (n=8 mice) では、腫瘍成長が有意に遅延し、myCAFの割合、総コラーゲン量、および I 型コラーゲンの沈着が減少し、腫瘍内への免疫細胞浸潤が回復した (Fig 2H-L)。また、RTXによる化学的除去 (n=6 mice) や、rAAV-DIO-Caspase3 を用いた腫瘍局所での感覚神経除去 (n=8 mice) でも同様の抗腫瘍効果とTME再構築効果が確認された。コラーゲン沈着は2.5-fold increase(p<0.001, n=6 mice)し、CD8+ T細胞浸潤は0.4-fold decrease(p=0.002, n=6 mice)した。

腫瘍由来NGFによる感覚神経刺激とCGRP-RAMP1軸の活性化: 空間トランスクリプトーム解析 (Visium HD) により、腫瘍細胞由来のNGFがPNI領域近傍に高度に濃縮していることが明らかになった (Fig 3A-D)。腫瘍細胞におけるNGF発現は、CAFと比較して約 5-fold 以上高値であった (Fig 3E, F)。AT3腫瘍細胞の条件培地 (CM) で培養した感覚神経 (n=3 replicates) は、CGRPの分泌量が有意に増加し、神経突起の伸長を示したが、NGF中和抗体の投与によりこれらの効果は完全に消失した (Fig 3G)。さらに、単一細胞RNA-seqデータの解析から、CGRP受容体の主要構成要素である RAMP1 がCAF (特にmyCAF) に選択的に高発現していることが判明した (Fig 5C-F)。mIF染色でも、RAMP1と α-SMA の共局在が確認された (Fig 5G)。

CGRP-RAMP1-cAMP/PKA/CREB1シグナルによるECM産生制御: CGRP刺激を受けたCAF (n=3 replicates) では、細胞内cAMPの産生が促進され、PKA および CREB1 のリン酸化レベルが上昇した (Fig 6A, B)。ChIP-qPCR解析により、リン酸化CREB1が Fn1、Acta2、Col1a1、Hspg2、および S100a4 のプロモーター領域に直接結合し、その転写活性を直接制御していることが実証された (Fig 6G, H)。shRamp1 または shCreb1 を導入したCAFを用いた共移植モデル (n=6 mice) では、感覚神経活性化による腫瘍促進効果、線維化、および免疫排除が有意に消失した (Fig 5L, M, Fig 6I-L)。免疫不全マウス (B-NDG) を用いた実験では、shRamp1 CAFによる腫瘍抑制効果が消失したことから、この経路による腫瘍進展促進効果がT細胞依存的な免疫抑制を介していることが示された。

CGRP阻害薬rimegepantと抗PD-1抗体の併用による治療効果: 感覚神経-CAF軸の遮断が免疫療法の感受性を高めるか検証するため、CGRP受容体拮抗薬である rimegepant を用いた治療実験を行った。C57BL/6Jマウスを用いた AT3 腫瘍モデル (n=8 mice) および BALB/cマウスを用いた 4T1 腫瘍モデル (n=8 mice) において、rimegepant と抗PD-1抗体の併用療法は、それぞれの単独療法と比較して腫瘍増殖を有意に抑制した (Fig 7C, E)。この併用療法により、腫瘍内のmyCAFの割合および I 型コラーゲンの沈着が著しく減少し、CD8+ T細胞などの細胞傷害性免疫細胞の浸潤が有意に増加した (Fig 7D, F)。腫瘍内への免疫細胞浸潤は3.0-fold increase(p=0.003, n=8 mice)した。臨床コホートの解析においても、CGRPの高発現はTNBC患者の不良な予後と有意に関連していた (Fig 7G)。さらに、ネオアジュバント免疫療法を受けた患者コホート (FUSCC-ICBコホート) において、CGRP陽性腫瘍は陰性腫瘍と比較して免疫療法の治療効果が低い傾向 (p=0.139) が示された (Fig 7H)。

考察/結論

本研究は、TNBCエコシステムにおける感覚神経とCAFの相互作用が、物理的なコラーゲンバリアの形成を介して免疫排除型TMEを構築する詳細な分子メカニズムを明らかにした。

先行研究との違い: これまでの研究では、腫瘍随伴神経が腫瘍細胞に直接作用して増殖や転移を促進することや、シュワン細胞が膵がんにおいてCAFを iCAF (炎症型がん関連線維芽細胞) へと誘導することが報告されていた。これらと 異なり、本研究は感覚神経が放出するCGRPが、CAF (主にmyCAF) に発現する RAMP1 受容体を介して、myCAFへの分化とコラーゲン産生を選択的に促進するという「神経-線維芽細胞」の直接的なクロストークを解明した。

新規性: 本研究は、TNBCにおいて感覚神経が支配的な神経タイプであることを臨床データとマウスモデルの両面から実証し、腫瘍細胞由来のNGFが感覚神経を刺激してCGRP分泌を促すシグナルカスケードを 本研究で初めて 明らかにした。さらに、CGRP-RAMP1軸の下流で cAMP/PKA/CREB1 経路が活性化され、転写因子CREB1が Fn1 や Col1a1 などのECM関連遺伝子のプロモーター領域に直接結合して転写を活性化するという詳細な分子メカニズムを 新規 に同定した。

臨床応用: 本研究の知見は、免疫チェックポイント阻害薬の効果が限定的であるTNBC患者に対する新たな治療アプローチとしての 臨床応用 が期待される。特に、CGRP受容体拮抗薬である rimegepant は、すでに片頭痛治療薬としてFDA (Food and Drug Administration) に承認されており、安全性プロファイルが確立している。この既承認薬の再目的化 (drug repurposing) により、rimegepant と抗PD-1抗体の併用療法を 臨床現場 へ迅速に導入できる可能性があり、免疫排除型TMEを「ホット」な免疫浸潤型へと変換する極めて有望な translational な戦略となる。また、CGRP発現量が免疫療法の治療効果や予後の予測バイオマーカーとして機能することも臨床的意義が大きい。

残された課題: 一方で、今後の検討課題 として、本研究で用いた動物モデルが主に早期腫瘍を対象としていたため、進行がんや遠隔転移の微小環境において、この感覚神経-CAF軸がどのように機能しているかについてはさらなる検証が必要である。また、他のがん種においても同様の感覚神経によるECM制御機構が共通して存在するかどうかを明らかにすることが、今後の研究 における重要な limitation の克服につながる。

方法

本研究では、臨床データ解析と複数のマウスモデル、および空間トランスクリプトーム解析を統合した多角的なアプローチを採用した。臨床解析には、復旦大学附属腫瘍病院トリプルネガティブ乳がん (FUSCC-TNBC: Fudan University Shanghai Cancer Center - Triple-Negative Breast Cancer) コホート (n=465) および がんゲノムアトラス (TCGA: The Cancer Genome Atlas) トリプルネガティブ乳がんコホート (n=131) のマルチオミクスデータを使用し、全スライド画像 (WSI: whole-slide image) のH&E染色画像からPNIの有無を評価した。生存分析には log-rank テストを用い、予後因子の同定には Cox regression (コックス比例ハザード回帰分析) を実施した。

腫瘍内神経支配の定量には、多重免疫蛍光 (mIF: multiplex immunofluorescence) 染色を用い、感覚神経、交感神経、副交感神経の分布を評価した。感覚神経の逆行性標識には、コレラタキシンBサブユニット (CTB: cholera toxin subunit beta) を 腺がん移植可能3 (AT3: adenocarcinoma transplantable 3) 腫瘍内に局所注入し、後根神経節 (DRG: dorsal root ganglion) における蛍光シグナルを検出した。

動物実験では、遺伝背景の異なる複数のマウス系統 (C57BL/6J, BALB/c, Nav1.8-Cre, Rosa26-LSL-DTA, Vglut2-Cre, B-NDG) を用いて、感覚神経の活性化および除去モデルを構築した。電位依存性ナトリウムチャネル1.8 (Nav1.8: sodium channel voltage-gated type VIII alpha subunit) と Rosa26-LoxP-Stop-LoxP-ジフテリア毒素A (Rosa26-LSL-DTA: Rosa26-LoxP-Stop-LoxP-Diphtheria Toxin A) の交配による遺伝的感覚神経除去モデル (Nav1.8-DTA マウス) や、レジニフェラトキシン (RTX: resiniferatoxin) 投与による化学的感覚神経除去モデル、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス (rAAV: recombinant adeno-associated virus) を用いた腫瘍局所感覚神経除去モデルを確立した。

細胞株として、マウス乳がん細胞株 4T1 および AT3、ならびにヒト胚性腎細胞株 HEK293T を使用した。CAFの機能解析には、DRGから単離した一次感覚神経の条件培地 (neuron CM) を用いた2Dおよび3D培養系でのコラーゲンゲル収縮アッセイを実施した。CGRP-RAMP1シグナルの下流解析として、輪状アデノシン一リン酸 (cAMP: cyclic adenosine monophosphate) 測定、プロテインキナーゼA (PKA: protein kinase A) および cAMP応答配列結合タンパク質1 (CREB1: cAMP-response element binding protein 1) のリン酸化状態をウエスタンブロッティングで評価した。CREB1のECM関連遺伝子プロモーターへの直接結合は、クロマチン免疫沈降 (ChIP: chromatin immunoprecipitation) およびルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて検証した。統計解析には、主に t検定 および two-way ANOVA を使用した。