- 著者: De Caluwé A, et al.
- Corresponding author: Alex De Caluwé (Institut Jules Bordet, Brussels, Belgium)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase 2 Randomized Controlled Trial)
- DOI: 10.1038/s41591-026-04453-z
背景
乳癌は 2022 年に世界で 230 万例以上が診断され、そのうち約 70% が ER+/HER2- サブタイプを占める。このうち高リスク Luminal B-like サブタイプは増殖能・免疫浸潤の低さ・内分泌療法感受性の低下を特徴とし、現行標準治療として NACT (neo-adjuvant chemotherapy; 術前化学療法) → 手術 → 術後放射線 + 内分泌療法 ± CDK4/6 阻害薬 / PARPi を行っても 5 年以内に 40% 以上が局所または遠隔再発する ([Loibl 2024])。
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は三重陰性乳癌 (TNBC) に対してペムブロリズマブ + NACT が pCR を 13.6% 改善し 5 年全生存率を 5.0% 上乗せした (KEYNOTE-522) ものの、高リスク ER+/HER2- 乳癌では CheckMate 7FL (ニボルマブ) と KEYNOTE-756 (ペムブロリズマブ) が抗 PD-(L)1 の NACT 上乗せ効果を pCR +8.710.7% に留め、とりわけ PD-L1 陰性腫瘍ではその上乗せが +3.5%+4.5% と限定的であった ([Loi 2025]; [Cardoso 2025])。この乳癌サブタイプの TME は TIL 密度・PD-L1 発現ともに低く免疫冷却 (immune-cold) 状態にあり、ICI 感受性が低い主要原因と考えられる ([Azizi 2018], Azizi et al. Cell 2018; Savas et al. NatMed 2018)。
放射線療法 (RT) は腫瘍免疫原性を高め ICI の効果を増幅しうる戦略として注目されており、定位放射線治療 (SBRT) を少分割高線量で腫瘍局所に照射する iSBRT は、腫瘍排出リンパ節を温存しながら TME を免疫活性化 (inflammatory) 表現型へ変換することが前臨床で示された。一方で RT は CD73 (ATP → アデノシン変換酵素) の発現を上方制御し、アデノシン経路を介した免疫抑制を誘導しうることも懸念される。これまで iSBRT に ICI ± 抗 CD73 を組み合わせた三者併用の免疫モジュレーション効果は、高リスク ER+/HER2- 乳癌においてランダム化試験で検証されておらず未確立であり、とりわけ「免疫冷却腫瘍を放射線で炎症性表現型へ転換できるか」という問いに直接答える臨床的エビデンスが不足していた ([Zhang 2026], Zhang et al. Cell 2026)。
目的
Phase 2 無作為化多施設試験 Neo-CheckRay (NCT03875573) において、高リスク ER+/HER2- 早期乳癌を対象に、NACT + iSBRT (3×8 Gy) をベースに抗 PD-L1 デュルバルマブ単独または抗 PD-L1 + 抗 CD73 オレクルマブとの三者・四者併用の pCR 率・安全性・早期 TME 動態変化を検証する。
結果
RCB (residual cancer burden) 0/1 率と pCR 率の全体成績:
ITT 集団 (n=147) における一次エンドポイントの RCB (residual cancer burden) 0/1 達成率は No_ICI 35.4%、Single_ICI (デュルバルマブ) 45.1%、Double_ICI (デュルバルマブ + オレクルマブ) 47.9% であり、3 群間で統計学的有意差は認めなかった (P=0.21)。副次の pCR 率は ITT で 16.7% vs 29.4% (No_ICI vs Single_ICI、P=0.059) と有意傾向を示したが統計学的有意差はなく (Fig 2)、per-protocol 集団 (n=131) では 16.3% vs 32.6% (No_ICI vs Single_ICI、P=0.040) と有意差に達した。ICI 2 群を統合した ICI 追加の pCR 上乗せ効果は全体で +14.6% (95% CI, 0.7-28.6) であった。3 年 EFS は No_ICI 90.6%、Single_ICI 100%、Double_ICI 97.9% で追跡期間中央値 34 か月で死亡は認めなかった (Fig 2)。MammaPrint Ultra-High (MP2) や高 Ki67 患者は pCR 率が全体的に高かったが、MammaPrint リスク層別による ICI 上乗せ効果の差異は認められなかった (Fig 3)。
PD-L1 陰性サブグループにおける顕著な ICI 上乗せ効果:
PD-L1 IC スコア < 1% (PD-L1 陰性) 患者 (ITT の 61.9%、n=91) における pCR 率は No_ICI 3.4% / Single_ICI 28.1% / Double_ICI 30.0% であり、ICI 追加による上乗せ効果は +25.6% (95% CI, 12.5-38.7) と顕著であった。per-protocol 集団の PD-L1 陰性サブグループではその上乗せ効果は +30.3% (95% CI, 15.7-44.9) に達した。一方、PD-L1 陽性患者 (IC ≥ 1%) では pCR 率は 36.8% / 31.6% / 38.9% であり ICI 上乗せによる明確な差異は認めなかった (Fig 2)。この傾向は PD-L1 を CPS で評価した探索的解析でも再現された。また、iSBRT の腋窩レベル 1 への平均線量が < 1 Gy の患者 (n=82) では ICI 上乗せによる pCR 改善が +27.1% (95% CI, 9.6-44.5) であったのに対し、≥ 1 Gy 群 (n=63) では改善を認めなかった。ストローマ TIL (sTIL) は pCR 達成患者でベースライン中央値 10%、非達成患者では 1% であり、sTIL 高値 (≥ 1%) と MHC-I 発現低値がともに ICI への感受性と相関した (Fig 3)。
安全性プロファイルと早期腫瘍クリアランス:
治療関連有害事象 (TRAE) の Grade ≥ 3 発現率は No_ICI 29.2%、Single_ICI 64.7%、Double_ICI 70.8% であった (Table 2)。IMAE (immune-mediated adverse events; 免疫関連有害事象) の any grade は 6.3% / 49.0% / 43.7% であり、endocrine 系 IMAE として甲状腺機能亢進症 (Single_ICI 13.7%)・甲状腺炎/機能低下 (Single_ICI 11.8%)、adrenal 不全 (Single_ICI 3.9%)が観察された。Grade 3/4 IMAE は Single_ICI 11.8%、Double_ICI 8.3%、No_ICI 0% であり、iSBRT 関連の放射線皮膚炎・肺炎はごく軽微 (Grade 1-2 のみ) で乳房温存手術の実施可能性に影響しなかった。on-treatment biopsy (iSBRT 後 1 週目、week 6) で腫瘍細胞が検出されなかった割合は ICI 群で高く、week 6 時点で腫瘍なしと判定された症例は pCR との有意な相関を示した (OR 4.25、95% CI, 1.88-9.82) (Fig 4)。これは ICI 追加が早期かつ深い腫瘍クリアランスを誘導しうることを示唆する。
動的 TME 免疫再プログラミングと転写プロファイリング:
PD-L1 IHC の alluvial 解析では、ベースライン PD-L1 陰性腫瘍が week 6 で PD-L1 陽性に転換した割合は iSBRT + ICI 群 55.2% vs iSBRT_only 群 30.0% であった (Fig 4)。バルク RNA シーケンシング (n=75 paired biopsies) では、PD-L1 陰性腫瘍はベースラインで IFN シグネチャー・ケモカイン・TLS シグネチャー・エフェクター T 細胞マーカー・免疫チェックポイント発現がいずれも PD-L1 陽性腫瘍と比較して有意に低く、免疫冷却 TME の転写的実態を裏付けた。iSBRT 後の Single_ICI 群では炎症性応答シグネチャー・CXCL9・CXCL13・CD8+ エフェクター T 細胞・CTLA-4 発現の上昇が確認され、とりわけ PD-L1 陰性腫瘍において IFN 応答の顕著な増強が認められた (Fig 4)。また IHC では week 6 に MHC-I (腫瘍・間質細胞) の発現上昇および間質 CD73 の発現低下が観察され、PD-L1 陰性患者において MHC-I 上昇と pCR との有意な相関が確認された。adenosine シグナリングパスウェイは all 3 群で変動し、Single_ICI 群では増加傾向を示した。
考察/結論
① 先行研究との違い:CheckMate 7FL および KEYNOTE-756 と異なり、Neo-CheckRay では PD-L1 陰性腫瘍が PD-L1 陽性腫瘍よりも ICI 上乗せ効果が大きいという対照的なパターンが観察された。前二試験では PD-L1 陰性サブグループの pCR 上乗せが +3.5% / +4.5% に過ぎなかったのに対し、本試験では +25.6% (全体 ITT) から +30.3% (per-protocol) という顕著な効果が得られた。この差異の主要な説明は iSBRT による免疫コールド TME の再プログラミングであり、NACT 単独では期待できない PD-L1 陰性腫瘍への ICI 感受性誘導が iSBRT との組み合わせにより初めて実現した可能性が高い。同様の知見は NSCLC においても Huang らが 24 Gy / 3 分割の局所 SBRT が PD-L1 陰性腫瘍において ICI + の PFS 改善をもたらすことを報告しており、放射線によるコールド腫瘍の感作という共通メカニズムを支持する。
② 新規性:本研究で新規に示されたのは、iSBRT が 1 週間以内という早期の時間軸で PD-L1 陰性乳癌の TME を転写レベルで免疫炎症性表現型へ再プログラムし、MHC-I 発現上昇・PD-L1 変換・CXCL9/CXCL13 産生増加を伴うことである。これらの動態変化は paired on-treatment biopsy という試験デザイン上の強みにより直接的に捉えられ、iSBRT が「免疫プライミング戦略」として機能しうることを prospective RCT で初めて示した。また腋窩照射線量 < 1 Gy での ICI 上乗せ効果の保存 (vs ≥ 1 Gy では消失) という知見は、放射線照射野設計が免疫療法効果に直接影響するという新規の臨床的洞察を提供する。
③ 臨床応用:臨床応用の観点から、iSBRT を NACT + 抗 PD-L1 に組み合わせることで、従来 ICI の恩恵を受けにくかった PD-L1 陰性 ER+/HER2- 乳癌患者に対して high pCR 率をもたらす可能性が示された。PD-L1 陰性 + sTIL 低値 + MHC-I 低値という複合バイオマーカーは将来的な患者選択ツールとなりうる。一方、iSBRT 関連 IMAE (Grade 3/4 IMAE: 約 8~12%) の管理プロトコルと、腋窩非照射という照射野設計の最適化が実臨床への移行において重要となる。今後は代替シーケンシング戦略 (SBRT を全身療法開始前に実施する試験等) の比較も待たれる。
④ 今後の課題:今後の研究として、第一に pCR の EFS・OS への転換を検証するための長期フォローアップが不可欠であり、5 年予後データが本試験から得られる予定である。第二に、オレクルマブ (抗 CD73) の上乗せ効果がデュルバルマブ単独との比較で認められなかったことから、adenosine 経路阻害の最適な timing・患者選択・投与スケジュールを再考する必要がある。第三に、本試験は 3 群すべてに iSBRT を使用したため、RT 単独・ICI 単独・その相乗効果を個別に評価する設計とはなっておらず、Phase 3 試験では iSBRT の有無を交叉因子とした 2×2 デザインや非 iSBRT 対照群の設定が求められる。さらに week 6 biopsy で腫瘍細胞が消失した症例が paired transcriptomic 解析から除外されざるを得ないことによる選択バイアスも limitation であり、早期腫瘍クリアランス患者の免疫応答プロファイルを捉えるための blood-based biomarker 解析が今後の課題である。
方法
試験デザイン: Phase 2、無作為化、非盲検、多施設試験。ベルギー・フランスの 7 施設。無作為化比 1:1:1。層別因子: cT (cT1c-T2 vs cT3)、cN (cN0 vs cN+)、PD-L1 IC スコア (< 1% vs ≥ 1%)。
対象: 18 歳以上の女性、ER+/HER2- 早期乳癌、高リスク (MammaPrint High Risk, MP1 または MP2)、手術適応あり。2021 年 6 月 15 日~2024 年 3 月 11 日に 200 例をスクリーニング、147 例を無作為化。
介入:
- No_ICI (n=48): NACT (パクリタキセル週 1 回 12 週→ 用量密度 AC [ddAC] 4 サイクル) + iSBRT (24 Gy / 3 分割、3 × 8 Gy)
- Single_ICI (n=51): 上記 + デュルバルマブ 1,500 mg (4 週毎 × 6 サイクル)
- Double_ICI (n=48): 上記 + デュルバルマブ + オレクルマブ 3,000 mg (4 週毎 × 6 サイクル)
- iSBRT は腫瘍原発巣のみに照射 (腋窩リンパ節は意図的に照射回避)。NACT 開始 5 週後、デュルバルマブ初回投与の 4 週後かつ第 2 サイクル直前に施行。
エンドポイント: 一次 = RCB 0/1 率 (ITT)、副次 = pCR 率、3 年 EFS、安全性、探索的 = PD-L1/sTIL 動態・RNA シーケンシング・MHC-I・CD73 IHC。
統計: カイ二乗検定 (3 群比較)、未プール Wald 95% CI (2 群比較)、ロジスティック回帰 (転写指標と pCR の相関)、Wilcoxon 符号順位検定 (paired biopsy 比較)。Benjamini-Hochberg 法で多重比較補正 (FDR)。有意水準 α = 0.05。
バイオマーカー: PD-L1 IHC: VENTANA SP263 IHC アッセイ (IC スコア・CPS 両評価)。バルク RNA シーケンシング: baseline and week 6 paired biopsies。Immune signature: MSigDB Hallmarks v7.0 (IFNγ/IFNα/Inflammatory)、TLS シグネチャー (Wang ら)、エフェクター T 細胞/DC/Mast cell (CIBERSORT)、TRM (Lee ら)、adenosine pathway (Sidders ら)。MammaPrint: 全ゲノムマイクロアレイ遺伝子発現解析。
NCT 番号: NCT03875573。データベースロック: 2025 年 12 月 4 日。