- 著者: E. Podaza, J. Capuano, H.H. Kuo, M. Al Assaad, G. Markowitz, M.V. Revuelta, J. Nguyen, A. Irizarry, H. Ravichandran, S. Ackermann, T. Kane, J. Manohar, A. Duren-Lubanski, M. Sigouros, J. Moyer, B. Bhinder, P. Chandra, M. Malbari, K. Boehnke, J.M. Mosquera, V. Mittal, A. Sboner, H. Gokozan, N. Altorki, O. Elemento, M.L. Martin
- Corresponding author: M. Laura Martin (mlm4001@med.cornell.edu); Caryl and Israel Englander Institute for Precision Medicine, Weill Cornell Medicine
- 雑誌: Cell Reports Methods
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-06-15
- Article種別: Original Article
- PMID: 42134319
背景
非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) は、がん関連死亡の主要な原因であり、その治療戦略は病期や遺伝子変異、PD-L1発現状況に基づいて決定される。近年、患者由来腫瘍オルガノイド (PDTO: patient-derived tumor organoid) は、元の腫瘍のゲノムプロファイルや組織学的特徴を高度に保持する優れた in vitro モデルとして、化学療法や標的治療の感受性予測に広く活用されてきた。これは Tuveson et al. (2019)、Drost et al. (2018)、Vlachogiannis et al. (2018) などの先行研究によって実証されている。しかし、PDTOを免疫療法の評価に応用する試みは、依然として多くの技術的課題に直面している。従来の共培養系は低スループットなものが大半であり、評価対象も主に anti-PD-1 単剤療法に限定されていた。腫瘍免疫微小環境 (TIME: tumor immune microenvironment) の重要な構成要素である腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) や腫瘍関連マクロファージ (TAM: tumor-associated macrophage) を、同一患者のPDTOと同時に再構成して評価する標準化されたプロトコルはこれまで存在しなかった。
NSCLCにおける治療抵抗性は、腫瘍細胞の内因性因子だけでなく、周囲のTIMEを構成する免疫細胞との相互作用からも生じる。TILの量や機能状態は免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) の治療効果を左右し、TAMの存在や空間的分布は抗腫瘍免疫を抑制して治療耐性を誘導することが知られている。しかし、実用的なT細胞ソースとして末梢血単核細胞 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) とTILのどちらを採用すべきかという疑問や、複数のICIの組み合わせ、あるいは標的治療薬とICIの逐次投与戦略をハイスループットに評価する手法は未確立であった。さらに、高分子コラーゲンに富む肺癌の密な間質組織は、TILの単離と上皮細胞(PDTO)の生存維持を両立させることを困難にしており、単一の酵素処理ではどちらか一方の回収効率が著しく低下するという技術的限界が存在していた。このように、個別化医療の推進に向けた高精度かつスケーラブルなTIME再構成モデルの構築には、依然として大きな知識 gap が残されており、技術的不足が課題として残されている。Dijkstra et al. (2018) の先行研究でも、PDTOとTILを用いたTIMEの完全な再現には至っておらず、特に腫瘍関連マクロファージなどの骨髄系細胞を統合した評価系は手薄であった。このため、複数の免疫細胞種を同時に再構成し、治療耐性機序を網羅的に解析するプラットフォームの構築が強く求められていた resistance et al. IO primary。
目的
本研究の目的は、治療前のNSCLC患者から得られた手術切除検体を用いて、同一の組織サンプルからPDTOの樹立とTILの単離・拡大培養を並行して行うためのハイブリッドプロトコルを最適化することである。さらに、この最適化された細胞ソースを基盤として、複数のICIの組み合わせ効果を評価するハイスループットスクリーニング系、標的治療薬とICIの逐次投与効果を検証する評価系、および健康ドナー由来単球からPDTO特異的なTAMを分化・再構成する共培養系を統合した、スケーラブルなTIME-PDTOプラットフォームを構築することを目指す。これにより、患者個別の免疫応答や治療耐性機序をin vitroで忠実に再現し、個別化精密医療および新規治療薬開発に貢献する前臨床モデルを提供することを目的とする。
結果
デュアルコラーゲナーゼ法によるPDTOおよびTILの並行樹立とゲノム一致率の検証: n=17 patients の治療前NSCLC患者(LUAD n=15, LUSC n=1, LCNEC n=1)から、PDTOの樹立成功率は 52.9% (9/17例)、TILの単離・拡大成功率は 41.2% (7/17例) であった (Figure 1, Table 1)。PDTOの成功率は腫瘍サイズと正の相関を示した。コラゲナーゼIはTIL単離に有効だがPDTO樹立には不向きであり、コラゲナーゼIVはPDTO樹立に有効だがTIL単離には不十分という相補的限界があった。WES解析により、腫瘍とPDTOペアにおける予測ネオ抗原変異の一致率は、WCM3410で 88%、WCM2499で 82%、WCM3409で 68% と高度なゲノム concordance を示した (Figure 1D, 1E)。ドライバー遺伝子変異(TP53 33%, KRAS 33%, CDKN2A欠失 50%)の分布もTCGAの既報と一致した。
FluoroSpotによる高感度なIFN-γ分泌測定とT細胞細胞傷害活性の患者間不均一性: n=5 patients において、FSアッセイとICSを比較したところ、FSはICSに比べて約500倍高い感度を示し、低頻度の腫瘍反応性T細胞の検出を可能にした (Figure S2)。FSによるIFN-γ産生評価では、α-PD-1とα-TIM3の併用が多くの症例でIFN-γ分泌の fold change を増加させ、PBMCがTILよりも高い応答を示すなど、顕著な患者間不均一性が観察された (Figure 2A)。12時間の画像ベース細胞傷害アッセイ(E:T比 3:1)では、全例でα-PD-1によるアポトーシス誘導の増強が認められ、α-TIM3は 3/5例 で細胞傷害活性を修飾した (Figure 2C)。また、REP直後の「young TIL」(ex vivo; EV)は、14日間の長期共培養を経たTIL(CC)と比較して有意に高い細胞傷害活性を維持しており、長期共培養がT細胞の機能疲弊を招くことが示された resistance et al. IO acquired。
免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせ効果とPI3K阻害薬前処理による感作作用: WCM2499のTILs EVを用いたICI組み合わせスクリーニングにおいて、α-TIM3(10および20 μg/mL)はα-PD-1によるIFN-γ分泌を相乗的に増強し、α-TIGIT(20 μg/mL)は高用量のα-PD-1(20 μg/mL)と併用した場合にのみPDTOの殺傷効果を有意に高めたが、α-LAG3は効果を示さなかった (Figure 3A) beyond et al. Immune checkpoint。さらに、KRAS G12A変異を有するPDTO(WCM3409およびWCM3407)を用い、23種の標的治療薬の亜致死濃度(EC10, EC20, EC25)で前処理した逐次治療スクリーニングでは、PI3K阻害薬(copanlisib, buparlisib, PI-103)が最も顕著にT細胞介在性殺傷効果を増強し、killingの fold change が2倍以上に達した (Figure 3C)。この機序として、PI3K阻害薬処理後のPDTO上清におけるIL-8やMIFなどの免疫抑制性サイトカインの分泌減少が確認された (Figure 3D)。
PDTO特異的TAMの再構成と腫瘍増殖促進およびgemcitabine耐性の誘導: 健康ドナー由来単球からPDTOとの48時間共培養によって誘導されたTAMは、RNA-seq解析においてM2cおよびM2dサブセットに類似した転写プロファイルを示した (Figure 4A)。Phenograph解析により同定された25個のクラスターのうち、クラスター13(CD163陽性かつTREM1陽性を特徴とする)がPDTO共培養TAMで有意に濃縮されていた (Figure 4D)。TAMとPDTOの共培養実験(n=3 replicates)では、可溶性因子を介した66% Matrigel条件および直接接触を許容する20% Matrigel条件のいずれにおいても、TAMの添加によりPDTOの増殖面積が有意に増大した (Figure 5B, 5D)。さらに、化学療法感受性試験において、TAMの存在はpaclitaxelやcarboplatinに対する感受性には影響を与えなかったが、低濃度(0.128 nMおよび0.64 nM)のgemcitabineに対するPDTOの死細胞率を有意に低下させ(0.128 nMで p < 0.0439, 0.64 nMで p < 0.0039)、TAMを介した特異的な薬剤耐性誘導を実証した (Figure 6A, 6B)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究で構築されたTIME-PDTOプラットフォームは、従来のPDTOとT細胞の単純な共培養系(Dijkstra et al. 2018 など)と異なり、同一の患者腫瘍組織からPDTOとTILを並行して高効率に樹立するプロトコルを確立した点で大きく異なる。先行研究では、コラゲナーゼ処理の酵素選択においてPDTO樹立とTIL単離がトレードオフの関係にあり、両者の同時回収は困難であった。本研究は、コラゲナーゼIとIVを使い分けるハイブリッド分割法を導入することでこの技術的限界を克服した。また、従来のモデルが主にanti-PD-1単剤の評価に留まっていたのに対し、本プラットフォームは複数のICI組み合わせや標的治療薬との逐次投与、さらにはTAMの再構成までを統合した多角的な評価が可能である。
新規性: 本研究は、NSCLC患者由来のPDTOを用いて、TILおよびTAMの双方を同時に再構成し、ハイスループットな治療スクリーニングに適用可能なプラットフォームを開発したことを本研究で初めて示した。特に、FSアッセイを導入することで、従来のICSと比較して約500倍高い感度で腫瘍特異的T細胞の反応性を検出できることを実証した。また、外因的な極性化因子を加えることなく、PDTOとの共培養のみで健康ドナー由来単球をTREM1陽性のPDTO特異的TAMへと再プログラムする手法を新規に確立した。
臨床応用: 本プラットフォームの臨床的有用性は極めて高い。例えば、REP直後の「young TIL」(ex vivo)が長期共培養後のTILよりも高い細胞傷害活性を維持しているという知見は、TIL療法における細胞調製プロセスの最適化に直結する。また、KRAS G12A変異を有する難治性NSCLCにおいて、PI3K阻害薬(copanlisibやbuparlisib)の亜致死濃度での前処理が、腫瘍由来の免疫抑制性サイトカイン(IL-8やMIF)の分泌を抑制し、α-PD-1およびα-TIM3に対する感作作用を示すという発見は、臨床現場における新たな併用療法の設計に重要な指針を与える。さらに、TAMがgemcitabineに対する特異的耐性を誘導するというモデルは、TAM標的治療と化学療法の併用効果を予測する translational なツールとして臨床応用に貢献する。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究におけるPDTO樹立成功率(52.9%)およびTIL拡大成功率(41.2%)のさらなる向上が挙げられる。臨床応用を加速するためには、より簡便で標準化されたプロトコルの確立が必要である。また、本研究のコホートはすべて治療前の患者(treatment-naïve)に限定されており、ICI既治療例や化学療法後の再発症例におけるプラットフォームの適用性は未検証である。さらに、TAMの再構成において他家健康ドナー由来の単球を使用しているため、患者固有の免疫背景を完全に再現するには至っておらず、自己単球を用いた再構成系の確立が今後の課題として残されている。
方法
患者サンプルおよび腫瘍組織の処理: 2020年11月から2022年6月までに、Weill Cornell Medicine (WCM) にて治療前(treatment-naïve)のNSCLC手術切除を受けた患者17例 (n=17 patients) を登録した(IRB承認取得済み)。切除された腫瘍組織を2分割し、一方はコラゲナーゼIV(collagenase IV)を用いてPDTO樹立用に処理し、他方はコラゲナーゼI(collagenase I)を用いてTIL単離用に処理するハイブリッド分割アプローチを採用した。
PDTOおよびTILsの培養: PDTOの培養は、Matrigelドーム(66%濃度)内でNSCLC腫瘍細胞を拡大維持し、組織学的およびゲノム的特徴を確認した。TILsの単離においては、コラゲナーゼIによる消化後、IL-2(3,000 UI/mL)およびα-CD3抗体(0.5 μg/mL)を添加したT細胞培養液で約7日間培養し、T細胞クラスターの形成を確認した後に、放射線照射済みの他家PBMCをフィーダー細胞として用いた急速拡大プロトコル (REP: rapid expansion protocol) を実施した。自己PBMCは、手術時に採取した末梢血からフィコール密度勾配遠心法により分離し、凍結保存した。
T細胞機能アッセイ: IFN-γ分泌能の評価には、細胞内サイトカイン染色 (ICS: intracellular cytokine staining) と FluoroSpot (FS: フルオロスポット) アッセイを比較検証した。細胞傷害活性アッセイでは、CellTrace Far Redで染色したPDTO(3〜5 × 10⁴ cells)とT細胞をE:T比 3:1で共培養し、アポトーシス検出試薬であるNucView488 Caspase-3基質を添加して、Incucyte S3を用いて12時間にわたりリアルタイム撮像(1ウェルあたり3視野)を行った。ICI組み合わせスクリーニングでは、α-PD-1(10および20 μg/mL)とα-TIM3、α-TIGIT、またはα-LAG3(5, 10, 20 μg/mL)のマトリックス評価を行った。標的治療薬との組み合わせスクリーニングでは、EGFR、PI3K、mTOR、ERK、Raf、Ras、MEKを標的とする計23種の阻害薬を用い、事前に算出した亜致死濃度である 10%効果濃度 (EC10: 10% effective concentration)、20%効果濃度 (EC20: 20% effective concentration)、25%効果濃度 (EC25: 25% effective concentration) でPDTOを前処理した後、T細胞およびICIを逐次投与した。PI3K阻害薬処理後のPDTO培養上清を用いて、Proteome Profiler Human XL Cytokine Arrayによるサイトカインプロファイリングを実施した。また、他家T細胞株のモデルとして、NY-ESO-1特異的TCRを発現するLy95 T細胞と、NY-ESO-1およびHLA-A2を発現するように遺伝子改変された肺癌細胞株 A549 を用いた共培養系も参照モデルとして用いた。
TAMの再構成と共培養: 健康ドナーのleukopakから磁気ビーズ法(CD14 Microbeads)により単離した単球を、マクロファージコロニー刺激因子 (M-CSF: macrophage colony-stimulating factor) または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF: granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) 存在下で5日間培養してM0マクロファージに分化させた。その後、PDTOと48時間共培養(マクロファージ:腫瘍細胞 = 1:10)することで、外因的な極性化刺激を加えることなくPDTO特異的なTAMへと分化させた。分化後のTAMはCD45陽性細胞として磁気分離し、バルクRNA-seqおよびフローサイトメトリー(CD206, CD163, MerTK, CD80, HLA-DR, TREM1, MARCO, CD24, CD66e, CD66c)により発現解析を行った。発現変動遺伝子 (DEG: differentially expressed gene) の解析では、M0マクロファージを基準とした log2 fold change (log2FC) を算出した。フローサイトメトリーデータは、t-SNEによる次元削減とPhenographアルゴリズムを用いたクラスタリング解析に供した。TAMとPDTOの共培養実験では、可溶性因子のみの影響を評価する66% Matrigelドーム条件、または細胞外基質 (ECM: extracellular matrix) 濃度を調整して直接的な細胞接触を許容する20%〜30% Matrigel条件を用い、12日間の培養におけるPDTOの増殖面積変化を定量した。さらに、共培養下での化学療法剤(gemcitabine, paclitaxel, carboplatin)に対する感受性を、CellTox Greenを用いた蛍光測定法およびNucGreenを用いた画像解析法により評価した。
統計解析: データの統計学的有意差の判定には、GraphPad Prismを用い、2群間比較には Mann-Whitney U test を、多群間比較にはKruskal-Wallis検定およびDunnの多重比較ポストテストを適用した。有意水準は p < 0.05 とした。