- 著者: M.D. Taylor, D.J. LaPar, C.J. Thomas, M. Persinger, E.B. Stelow, B.D. Kozower, C.L. Lau, D.R. Jones
- Corresponding author: D.R. Jones (University of Virginia, Charlottesville, VA, USA)
- 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 23998409
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) の現行 TNM 分類では N 分類をリンパ節転移の解剖学的範囲 (N0/N1/N2/N3) のみで定義しているが、この方法は転移リンパ節の数や全郭清リンパ節数との比率を考慮しない。食道癌・甲状腺癌・乳癌・腹腔周囲悪性腫瘍・胃癌・大腸癌・子宮頸癌など多くの固形腫瘍では、転移リンパ節数を全郭清リンパ節数で除したリンパ節転移率 (LNR; lymph node ratio) が解剖学的 N 分類よりも優れた生存予測因子であることが複数の先行研究で示されている。
NSCLC における LNR の予後的意義については、SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースを用いた大規模解析が先行して報告されていた。Nwogu らは SEER データベースで 1988〜2007 年の切除例を解析し、郭清リンパ節数の増加と LNR 低値が生存改善と関連することを示した (Nwogu et al. AnnThoracSurg 2012)。また Jonnalagadda らは同 SEER データを用いて N1 NSCLC に限定した解析を行い、LNR が N1 切除例の独立した予後因子であることを報告した。しかしこれらの研究には複数の方法論的 gap in knowledge が存在した。SEER データベースには 2004 年まで TNM 分類が収録されておらず、20 年のうち 16 年間は病理病期の解析が不可能であった。また SEER 収録症例の多くは胸部外科専門医以外の術者による切除であり、リンパ節評価の質と R0 完全切除の確保が不均一であった。さらに完全な TNM 分類が利用可能な均質な R0 切除患者集団における LNR と再発の関係を検討した研究は不足していた。これらの gap を埋めるため、認定胸部外科専門医による R0 切除・専任病理医によるリンパ節評価・完全 TNM 分類の 3 条件をすべて満たした単施設コホートでの検討が必要とされていた。
目的
単一施設でR0切除を受けたNSCLC患者を対象に、LNRが再発および生存の独立した予後因子であるかを評価すること。またLNRをTNM N分類と組み合わせた場合に予後層別化能が向上するかを検討すること。
結果
患者背景とリンパ節陽性コホートの構成:全1,143例のうちリンパ節陽性は302例 (26%)。陽性302例中N1は214例 (70.9%)、N2は88例 (29.1%) であった (Table 1)。病理病期はIIA 47%、IIB 17%、IIIA 35%、IIIB 1%。組織型は腺癌45.7%、扁平上皮癌47.7%、その他6.6%とほぼ均等。平均郭清リンパ節数11.1±6.0個、平均陽性リンパ節数2.4±2.0個。術前導入療法を受けた症例は21.1% (n=64)。追跡期間中央値44ヶ月 (完全追跡率97%)。リンパ節陽性302例中132例 (43.7%) が再発を来した。
再発の多変量解析 (Table 2):LNR 連続変数は HR=3.283 (95% CI 1.367-7.886、p=0.008) と再発の独立した予測因子であった。一方、陽性リンパ節総数は HR=0.950 (p=0.303) と有意でなく、N1 (p=0.103) および N2 (p=0.090) も独立した再発予測因子とはならなかった。病理病期は stageIIA (HR=2.044、p=0.012)、stageIIB (HR=2.101、p=0.040)、stageIIIA (HR=2.928、p=0.009) が独立して再発と関連した。その他、女性 (HR=1.341、p=0.039) と術前導入療法 (HR=1.61、p=0.01) も独立した再発促進因子であった。
NSCLC特異的生存の多変量解析 (Table 3):LNR 連続変数は NSCLC 特異的生存に対して HR=3.308 (95% CI 1.316-8.320、p=0.011) と独立した生存短縮因子であった。全生存に対しても HR=2.63 (95% CI 1.41-4.91、p=0.002) と独立して関連した。再発解析と同様、陽性リンパ節総数 (HR=0.954、p=0.366) および N1 (p=0.121)・N2 (p=0.101) は独立した予後因子とはならなかった。stage IIIA のみ NSCLC 特異的生存と独立した関連を示した (HR=2.480、p=0.002)。
LNR 4分位群別の生存ハザード比 (Table 4):最低分位群 (Q1: LNR 0.01〜0.11) を参照として、Q2 (0.12〜0.19): HR=1.28 (95% CI 0.80-2.04、p=0.30)、Q3 (0.20〜0.33): HR=1.41 (95% CI 0.90-2.21、p=0.13)、Q4 (>0.34): HR=2.62 (95% CI 1.67-4.10、p=0.001) と、LNR>0.34 のみが有意に高い死亡リスクと関連した (Fig 1)。LNR 増加に伴い生存期間中央値は段階的に短縮し、LNR 0 群 6.9 年、Q1 5.4 年、Q2 4.59 年、Q3 3.21 年、Q4 1.65 年と、Q1 対 Q4 で約 3.3 倍の差が生じた。
LNR カットオフ 0.34 による生存層別化 (Fig 2):LNR>0.34 群 vs LNR<0.34 群の比較では、5 年生存率 18% vs 51% (HR=2.63、95%CI 1.41-4.91、p=0.002)、3 年生存率 41% vs 63%、1 年生存率 62% vs 85% と全期間にわたって顕著な差を示した。5 年生存率の差は 33 ポイントに達し、log-rank 検定でも有意差が確認された (p<0.001)。同じ「リンパ節陽性」でも LNR によって予後が著しく異なることが示された。
N分類とLNRの組み合わせによる予後層別化 (Fig 4):N1患者においてLNR>0.34はLNR<0.34と比較して3年・5年生存率をそれぞれ17%・19%低下させた (N1+LNR<0.34: 1年DFS 92%、3年DFS 65% vs N1+LNR>0.34: 1年DFS 84%、3年DFS 46%)。同様にN2患者においてもLNR>0.34はLNR<0.34と比較して1年・5年生存率をそれぞれ23%・22%低下させた (N2+LNR<0.34: 1年DFS 94%、3年DFS 71%)。この所見はLNRがTNM N分類の枠内で追加的な予後情報を提供し、同一N分類の患者間でさらなる層別化を可能にすることを示す。特に N1+LNR>0.34 群 (3 年 DFS 46%) は N2+LNR<0.34 群 (3 年 DFS 71%) を大きく下回り、LNR によって解剖学的 N 分類を超えた生物学的リスク層別化が可能であることを示唆する。
考察/結論
本研究は、均質なR0切除患者集団において LNR が陽性リンパ節絶対数や TNM N 分類とは独立した再発・生存予測因子であることを初めて示した単施設前向きデータベース研究である。特に重要な知見は、LNR が有意な独立予後因子 (再発 HR=3.283、NSCLC 特異的生存 HR=3.308) であったのに対し、陽性リンパ節絶対数は再発 (p=0.303) および生存 (p=0.366) ともに有意でなく、N1・N2 分類も独立予後因子とならなかった点である。これはLNRが単純な転移個数・解剖学的N分類を凌ぐ予後情報を内包することを示す。
これまでの研究と異なり、本研究は全例が認定胸部外科専門医によるR0切除・専任病理医によるリンパ節評価・完全TNM分類という3条件を満たした均質なコホートで解析されており、SEER 先行研究と比べて方法論的に優位な点がある。先行の SEER 研究 (Nwogu ら、Jonnalagadda ら) では TNM 分類の不完全さや術者・リンパ節評価の異質性という limitation があったのに対し、本研究はそれを克服している点で、既報とは本質的に異なる。
臨床応用の観点からは、LNR をルーチンの病理報告に組み込むことで、同一 N 分類・病理病期の患者間での予後層別化が可能になる。LNR>0.34 の高リスク群 (5 年生存率 18%) は補助化学療法 (Douillard et al. JThoracOncol 2010) の強化・治験登録・密なサーベイランス計画の適応として特定されうる。臨床的意義として、本研究の LNR カットオフ値 0.34 は相対的に単純で術後病理報告から容易に算出可能であり、実装コストが低い点も重要である。
本研究の新規な点は、LNR が NSCLC R0 切除後の再発の独立予測因子であることを初めて示した点にある。これまで LNR と再発の関連は他癌種では報告されていたが、NSCLC での再発エンドポイントへの独立効果は本研究で初めて報告されていないエビデンスであった。さらに N1・N2 それぞれの内部でも LNR による層別化が成立することを示したサブグループ解析は、将来的な NSCLC ステージング改訂に向けた重要な基礎データを提供する。
残された課題として、後方視的単施設研究という design 上の limitation がある。術者によるリンパ節採取の方法 (sampling vs. dissection) の違いが LNR に影響する可能性があり、リンパ節カウント基準の施設間差が外部検証を困難にしうる。また再発エンドポイントの定義は3〜6ヶ月毎の定期評価に基づいており、再発時期の精度に limitation がある。今後の検討として、LNR の最適カットオフ値の前向き標準化、N 分類サブグループ (特定のリンパ節ステーションとの関連) 解析、および前向き多施設試験での外部検証が必要である。future research として LNR を TNM ステージングシステムに統合した改訂版の開発に向けた多施設共同研究が期待され、N2 NSCLC の集学的治療との統合 (Spicer et al. AnnThoracSurg 2019) も今後の課題である。
方法
バージニア大学にて1999年7月から2008年8月の間にNSCLCに対しR0切除を受けた1,143例を対象とした後方視的解析 (前向き維持データベースより抽出)。除外基準はカルチノイド組織型、第二原発肺癌、亜葉切除 (sublobar resection)、術後30日以内の死亡。全例が米国胸部外科専門医資格 (American Board of Thoracic Surgery) を持つ術者によって手術を受け、専任の病理医が全リンパ節標本を評価した。病理病期は AJCC/UICC 第 7 版基準で再分類した。
術後フォローアップは2〜3週ごとの外来受診と5年間の半年毎の造影胸部 CT を基本とし、それ以降は年1回の胸部画像を施行。再発確認には必要に応じて PET-CT または MRI を追加した。2名の独立調査員 (C.J.T. および M.P.) がデータを診療記録から独立して抽出し、妥当性を確認した。
主要評価項目は LNR (lymph node ratio、陽性リンパ節数/全郭清リンパ節数) と生存および再発の関連。LNRは連続変数および4分位群 (Q1: 0.01〜0.11、Q2: 0.12〜0.19、Q3: 0.20〜0.33、Q4: >0.34) の両形式で解析した。統計手法は Cox 比例ハザードモデル (生存・再発の多変量解析) と Kaplan-Meier 法 (log-rank 検定) を用いた。カテゴリ変数は Pearson chi-square 検定または Fisher の直接確率法、連続変数は一元配置分散解析 (ANOVA) または Mann-Whitney U 検定で比較した。解析ソフトウェアは PASW (Predictive Analytics SoftWare) version 20 (IBM、Chicago, IL) を使用した。