• 著者: C.E. Nwogu, A. Groman, D. Fahey, S. Yendamuri, E. Dexter, T.L. Demmy, A. Miller, M. Reid
  • Corresponding author: C.E. Nwogu (Roswell Park Cancer Institute, Buffalo, NY, USA)
  • 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22440365

背景

肺がんは米国における癌死亡の第1位であり、年間157,000人以上が死亡している。非小細胞肺がん (NSCLC; non-small cell lung cancer) は全肺癌の約80%を占め、外科的切除が可能な局所限局病変は全患者の20%に過ぎない。切除可能患者における最も重要な予後因子はリンパ節 (LN; lymph node) 転移であり、現行の肺癌 TNM 分類では N 分類 (N0〜N2) はリンパ節転移の解剖学的範囲のみによって定義されており (Goldstraw et al. JThoracOncol 2007)、この枠組みがステージング改訂の国際的議論の出発点となっている。

しかし他の固形腫瘍では TNM 分類はすでに改訂されており、乳癌・胃癌・大腸癌においてMLN (metastatic lymph node; 転移リンパ節数) そのものや転移リンパ節数と検索リンパ節総数との LNR (lymph node ratio; 転移リンパ節比率) が採用されている。複数の研究によって、LNR が乳癌・膀胱癌・胃癌・大腸癌・直腸癌において解剖学的転移位置よりも優れた予後指標となることが示されてきた (Peschaud et al. Ann Surg 2008; Marchet et al. Ann Surg 2007; Berger et al. J Clin Oncol 2005)。NSCLC においても Bria ら (Lung Cancer 2009) が LN 数を組み込んだ予後スコアの可能性を示唆していたが、大規模な人口ベースデータによる包括的検証はなされていなかった。

NSCLC の術後生存に対する LNE (lymph nodes examined; 検索リンパ節数) の影響はステージ I を中心に複数報告されており (Sugimura et al. AnnThoracSurg 2007)、外科レジストリ解析でも術後生存との関連が示されてきた (Sawabata et al. JThoracOncol 2011)。しかし 局所病変と所属リンパ節転移病変を包括した全切除可能 NSCLC における LNE と LNR の独立した予後的意義を示す大規模なエビデンスが不足していた (gap in knowledge)。多変量調整下で年齢・性別・腫瘍グレード等の交絡因子を制御した上での両指標の独立した効果が手薄であり、LNE と LNR が既存 N 分類と独立して全生存・疾患特異的生存に寄与するかどうかは未解明であった。将来の NSCLC ステージング改訂を議論するためのエビデンス基盤の構築が求められていた。

目的

米国の人口ベース癌登録 SEER (Surveillance, Epidemiology and End Results; 監視・疫学・エンドポイント調査) データベースを用いて、切除可能 NSCLC 患者における LNE と LNR が年齢・性別・腫瘍サイズ・組織学的グレードを多変量調整した後も、全生存 (OS; overall survival) および DSS (disease-specific survival; 疾患特異的生存) に対して独立した予後的意義を持つかを検証する。

結果

対象集団の概要と基本特性:eligibility 基準を満たした患者は計25,887例であり、局所病変 15,978例 (61.7%)、regional disease 9,909例 (38.3%) であった。年齢は70歳以下 16,080例 (62.1%)、70歳超 9,807例 (37.9%)。性別は男性 13,883例 (53.6%)、女性 12,004例 (46.4%)。組織型は腺癌 11,254例 (43.6%)、扁平上皮癌 7,701例 (29.8%)、細気管支肺胞上皮癌 2,596例 (10.1%)、その他 4,252例 (16.5%)。術式は葉切除 24,521例 (95.1%)、全肺摘除 1,277例 (4.9%)。腫瘍径平均値34mm、追跡期間中央値48ヶ月 (範囲0〜239ヶ月)。LNE 中央値は6個。リンパ節陽性患者の LNR 分布は低値 2,355例 (47.0%)・中値 1,231例 (24.6%)・高値 1,426例 (28.4%) であった (Table 1)。

LNE と全生存・疾患特異的生存の関係 — 局所病変:局所病変患者において LNE が少ないほど予後が不良であることが多変量解析で示された。10個以上群 (基準) vs 1〜3個群で全生存 HR=1.20 (95% CI 1.13-1.27, p≤0.001)、4〜6個群 HR=1.09 (95% CI 1.03-1.16, p=0.004)、7〜9個群 HR=1.06 (95% CI 1.00-1.14, p=0.07) と、LNE 増加に伴い段階的に改善する用量反応関係が認められた (Table 2)。疾患特異的生存でも同様のパターンが確認され、10個以上群 vs 1〜3個群 HR=1.25 (95% CI 1.16-1.35, p≤0.001)、4〜6個群 HR=1.11 (95% CI 1.03-1.20, p=0.01)、7〜9個群 HR=1.10 (95% CI 1.00-1.20, p=0.04) と、いずれも10個以上群に対して有意に不良であった (Table 3)。年齢・性別・腫瘍グレード・腫瘍サイズで多変量調整した後も有意性は保たれた。

LNE と全生存の関係 — 所属リンパ節転移例 (regional disease):Regional disease 患者における LNE の影響は局所病変と異なり、有意差は両極端の群間のみで認められた。全生存では1〜3個群 HR=1.08 (95% CI 1.01-1.15, p=0.03) vs 10個以上群で有意差あり、4〜6個群 HR=1.06 (95% CI 0.99-1.13, p=0.08) および7〜9個群 HR=1.03 (95% CI 0.96-1.10, p=0.43) では有意差が認められなかった (Table 2)。疾患特異的生存においては regional disease で LNE の予後的意義はほぼ消失し、いずれの群間比較も有意差を示さなかった (p>0.10、Table 3)。LNE の予後効果が局所病変でより顕著であることは、LNE 増加による予後改善が主として stage migration の抑制、すなわちより多くのリンパ節を検索することで隠れた転移が発見されステージング精度が向上することによって説明されることを示唆する。

LNR と全生存・疾患特異的生存の関係:リンパ節転移を有する regional disease 患者において、LNR は全生存と疾患特異的生存の両エンドポイントに対して強力な独立した予後因子として同定された。全生存では低値 LNR (0.01-24%) vs 高値 LNR (≥50%) の比較で HR=0.51 (95% CI 0.46-0.55, p≤0.001)、中値 LNR (25-49%) vs 高値 LNR で HR=0.68 (95% CI 0.63-0.75, p≤0.001) であった (Table 2)。疾患特異的生存でも低値 LNR vs 高値 LNR で HR=0.47 (95% CI 0.43-0.52, p≤0.001)、中値 LNR vs 高値 LNR で HR=0.67 (95% CI 0.61-0.74, p≤0.001) と、LNR 高値群比で約2倍の生存優位が確認された (Table 3)。非調整 Kaplan-Meier 曲線でも LNR 3群の明確な分離が視覚的に確認された (log-rank p<0.001; Fig 1, Fig 2)。この有意な関連は、各 LNE 群 (1〜3個・4〜6個・7〜9個・10個以上) を別々に解析した場合にも維持された。

AJCC nodal staging サブセットでの LNR の予後的意義:TNM nodal staging 情報が利用可能な3,568例のサブセット (2004年以降診断例、追跡中央値20ヶ月) においては、LNE は全生存・疾患特異的生存のいずれに対しても独立した予後因子として同定されなかった (全 LNE 群間で p>0.10、Table 4)。一方 LNR は N1/N2 患者で引き続き強力な予後因子であり、低値 LNR (0.01-24%) vs 高値 LNR の疾患特異的生存 HR=0.38 (95% CI 0.26-0.56, p≤0.001)、全生存 HR=0.42 (95% CI 0.29-0.60, p≤0.001) と、高値 LNR 群比で約2.5倍の生存優位が認められた (Table 4)。中値 LNR (25-49%) vs 高値 LNR でも疾患特異的生存 HR=0.56 (95% CI 0.38-0.82, p=0.003)、全生存 HR=0.58 (95% CI 0.41-0.82, p=0.002) と有意な予後改善が示された。

その他の予後因子と LNE 増加による陽性リンパ節検出率:多変量調整後に独立した予後不良因子として確認されたのは、高齢 (局所病変:年齢1歳増加毎 HR=1.04、p≤0.001)、男性 (局所病変:女性 vs 男性 HR=0.70, 95% CI 0.67-0.73)、高組織学的グレード (局所病変:Grade III vs Grade I HR=1.57, 95% CI 1.46-1.68)、腫瘍径大であった。人種は一貫した独立した予後因子とはならなかった。また LNE が増えるほど少なくとも1個の陽性 LN が検出される確率も有意に上昇し、n=25,887例の全コホートで1〜3個群を基準として4〜6個群の OR=1.57 (95% CI 1.42-1.73)、7〜9個群の OR=2.02 (95% CI 1.82-2.23)、10個以上群の OR=2.81 (95% CI 2.57-3.07) と、いずれも p<0.001 であった。

考察/結論

本研究は SEER データベースを用いた25,887例の大規模後方視的研究であり、切除可能 NSCLC において LNE と LNR がいずれも年齢・性別・腫瘍グレード・腫瘍サイズ・病期といった既知の予後因子を多変量調整した後も独立した予後的意義を持つことを実証した。SEER 登録機関の症例把握率は97.5%と高く、米国全人口を代表する population-based データとして信頼性が高い。

これまでの研究との違い:現行 TNM 分類は LN 転移の解剖学的範囲 (N0〜N2) のみを N staging に使用しているが、本研究はその枠組みを超えて LNE と LNR が N 分類と独立した予後因子であることを大規模データで初めて包括的に実証した。これまでの研究 は主にステージ I NSCLC における LNE の影響を報告してきたのと対照的に、本研究は stage I〜III を統合して両指標の独立性を同一コホートで示した。また LNR が TNM nodal staging 情報を保有する N1/N2 サブセットにおいても独立した予後因子であり続けた点は 既報 にはなく、LNR が解剖学的 N 分類を超えた予後情報を提供することを実証する 新規の 大規模エビデンスである。乳癌・大腸癌・胃癌では LNR がすでにステージング因子として組み込まれているが、NSCLC では本研究が初めてそれに相当する大規模な裏付けを提供した点で重要な位置を占める。

LNE の病期依存的な予後効果の意義:局所病変では LNE が顕著な予後因子であったのに対し、regional disease では効果が限定的であったという 新規な 病期依存パターンが観察された。この所見は、局所病変における LNE 増加の予後改善効果が主として stage migration を介したステージング精度の向上に起因し、転移リンパ節が確認されると LNE 増加の相対的重要性が低下することを示唆する。一方で LNR はリンパ節転移例において一貫して予後と関連しており、同一 N 分類内での細やかな予後層別化に貢献する指標として LNE より優れた特性を持つ可能性がある。

臨床応用と外科実践への意義:本研究の 臨床的意義 は、NSCLC 術中のリンパ節郭清の十分な施行を支持するエビデンスとして機能する点にある。より多くの LN を採取・病理検索することでステージングの精度が向上し、術後補助療法の適応判断が改善される。NCCN (National Comprehensive Cancer Network) ガイドラインは N2 ステーションから最低3箇所のサンプリングまたは完全縦隔リンパ節郭清を推奨しており、本研究の知見はその根拠を大規模データで支持している。また LNR が50%以上の高値群は低値群比で約2倍の死亡リスクを有しており、これらの患者に対して積極的な補助療法や密な経過観察を行う 臨床現場 での判断根拠となりうる。なお、ACOSOG (American College of Surgeons Oncology Group) Z0030 試験では系統的サンプリングと完全郭清の間に生存差がなかったが、同試験は N0/非肺門 N1 のリンパ節陰性患者を対象としており、本研究の解析対象集団とは 異なる 集団であるため、不十分なリンパ節評価を正当化する根拠とすることはできない。

残された課題と本研究の limitation:SEER データベースは大規模で population-based な強みを持つ一方、喫煙歴・全身状態 (PS; performance status)・術前 PET (positron emission tomography) ステージング・解剖学的 LN レベル・切除断端 (R0/R1/R2)・リンパ管浸潤・再発パターン・化学療法詳細といった臨床的に重要な情報が記録されないという limitation がある。LN 断片が個別 LN としてカウントされると LNE が過大評価される可能性もある。また TNM nodal staging 情報は全コホートの14%にしか利用できず、このサブセットの追跡中央値は20ヶ月と短かった。今後の検討 として、IASLC (International Association for the Study of Lung Cancer) データベース (Goldstraw et al. JThoracOncol 2007) のような肺癌特異的詳細情報を含む大規模国際前向きデータベースを用いた前向き検証が必要であり、最小必要 LN 検索数の定義化と LNR の NSCLC TNM ステージング改訂への組み込みについて 更なる検討 が求められる。

方法

1988〜2007年の SEER データベース (SEER 9 registry: 1988〜1992年、SEER 13 registry: 1993〜2007年) から、根治的切除 (葉切除・二葉切除・全肺摘除) を受け、かつ少なくとも1個の LN が病理検索された NSCLC 患者を対象とした。小細胞癌を除外し、補助放射線治療を受けた患者も除外した。1988年を開始年としたのは、それ以前の SEER では LN 評価情報が標準化されていなかったためである。

病変の広がりにより2群に分類した: 局所病変 (localized disease; 肺限局単一腫瘍、概ね stage I) n=15,978例と、所属リンパ節転移・周辺臓器浸潤を含む局所進行病変 (regional disease; stage II〜III 相当) n=9,909例。AJCC (American Joint Committee on Cancer) TNM ステージ詳細情報は2004年以降の診断例 (n=3,568) でのみ利用可能であった。

LNE はコホートの四分位に基づき1〜3個・4〜6個・7〜9個・10個以上の4群に分類した。LNR は低値 (0.01〜24%)・中値 (25〜49%)・高値 (50%以上) の3群に層別化した。主要解析は多変量 Cox 比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用い、年齢・人種・性別・腫瘍サイズ・組織学的グレードを共変量として調整した。全生存と疾患特異的生存の両エンドポイントを評価した。非調整 Kaplan-Meier 生存曲線を補足解析として提示し、log-rank 検定で群間差を検定した。また LNE 増加と陽性 LN 検出確率の関係をロジスティック回帰でオッズ比 (OR; odds ratio) として評価した。